第八十二話「 」
「――ッ、ぅ……」
それでもどうにか体勢を保って突っ込んでみたはいいけど、
流石に向こうもそこまで馬鹿じゃなかったみたいで、
(やば――)
腹部に感じた鈍い衝撃に、
顔を歪めて地面に叩きつけられる。
「――が、ぐ……ッ!?」
ほんとにヤバい。
「……っ、あ、ぅ――」
ナメて掛かりすぎたかな、って後悔すら出来ないくらい素早く、
何かに呑み込まれて行くのを感じた。
確かに聞こえている仲間の声も、言葉に組み立てられる前に、
なんの引っ掛かりもないまま脳を通り過ぎて、
ただ腹の中を食いちぎられたような、強烈な不快感だけが、
頭の中をぐるぐると回り続ける。
――こんな感じで、あいつも。
どうにも理解できなかったものを、無理矢理頭に叩き込まれたような感じ。
「ァ、あ、ぁあ、ァ、ぁ、あア、ァア、ア――ッ」
――あれ。
なんのために、わたし……?
◆
『…………』
「――、あ……れ」
長く眠りすぎた後のような気怠さと一緒に、
私はふと目を覚ました。
青白い光。
あのファンタジックな世界においても、なかなか見られないような、
厳かで神秘的な雰囲気に包まれて、
ただ水の流れる音だけが、冷たい空気の中に響く。
「……わた、し――」
一瞬死んだのか、なんて思って、それから目の前の何かに気付いて、
声も出ないくらい驚いたせいで、石製の細かい模様のついた床にへたり込む。
『――初めまして、』
「え、え――」
『……高菜田和葉さん。 私はアリア・ローズブレイド。
知っての通り、キミの身体の元の持ち主だ』
そう言って微笑む彼女は、
私の知っている私の姿より、ずっと凛々しく可憐で華奢で、
どこかに抱えた信念が、その姿をもっと強く飾っていて、
「は、はじめ、まして――」
思わず圧されてしまうような気品、だった。
青色の長い髪。
見事に曲がったアホ毛に、私の知っているものより少し青みがかった緑色の瞳。
ピンと伸びた背筋と、少しだけ内側に向けられた長い脚。
姫騎士と呼ぶに相応しい整った顔には、
同性だろうがなんだろうが見惚れるのも仕方ないだろう。
『そう緊張しないでくれ、私がやり辛くなる』
「は、はい――」
『……遅くなって済まないね。 本当はもっと早くに話したかったんだけど』
丁度私もあんな感じになっていてね、と、
指さしたのは今のジェイドの姿。
『身体は早々に解放されてはいたのだけど――魂のほうがすっかり悪霊みたいになってて』
「悪霊……」
『さっきの頭痛もそれが原因、だと思う。
同じ身体に魂がふたつ、なんてこと普通なら有り得ないから』
「そ、そうっすよね……」
魔力がダメだったのもその副作用じゃないかな、とアリア様。
……ちょっとややこしいな。
『キミが力を使えば使うほど、この身体に力も戻って行って。
それと同時に私の呪縛も薄らいでいったから、それで色々バグが起こってたのかもね』
「呪縛、って――」
『私もね、もともとはキミやあの子と同じ』
「……兄貴のことですか?」
『そう。 ……あっちの世界で命を落として、
そのままこちらの世界に連れてこられた人間』
「……」
『生まれた国を守るため、って、
私なりに仲間と協力とかしてみたんだけど――駄目だった』
「仲間、ってあの――」
『……知ってるのか?
今は代理で女神なんてやってるな。 ……私たちの時に神が滅びたから』
「神が――」
『ずっと会ってないけど……今頃泣いてないかな。
――あ、話が反れたか。 率直に言うといまキミは死んでいる』
「へ――」
死んでいる……?
『』
「正気に、正気に戻れよクソ兄貴!!
――そんな顔似合わないんだよ、……!」
「――……ッ」
「クソ……! ねえッ、
答えてよ!お兄ちゃん……!!」




