第八十話「決戦の朝」
「――ア」
「――リアっ、アリア!」
少しだけ痺れた頬を、硬い床から引き剥がして、
眠い目を擦りながら、ぼんやり光るカーテンを見つめた。
「……あれ、もうみんな起きてるんだな」
「当ったり前だよっ!」
「そうやって吞気に寝てられるのも才能かもね」
「お前にだけは言われたくねえよ」
他人事みたいに、変に冷静なライズのことを見て、
クリスちゃんのちょっと固い表情も解けて、いつものように笑う。
やっぱ可愛いなぁ――。
「さ、行きましょ」
「え――」
「……はやくない?」
クリスちゃんの呟きに、無言だけど全力の肯定をしてから、
「まぁいいや――。 行こ、クリスちゃん」
「うん」
彼女の背中に手を回して、仕方なく一緒にライズの背を追う。
まだ中途半端に残る眠気。
現実味を伴わないままでも、展開は私をひとり置いて、どんどん先へ進んでいく。
――でも、少しだけ、
今の状況を夢みたいに感じているのは、良かったのかもしれない――とも思った。
だって、逃げ出していたかもしれないから。
目の前に迫る大きな課題と、正面から向き合ってしまったら。
「……結局どこに居るんだよ、あいつ」
「もうちょっとだってさー」
「ふーん……」
はぁ、と小さく溜息をついて、
前に大きく足を踏み出した。
焦りっていうか、不安っていうか――。
今までそんなに無かったんだよなぁ、って、改めて考えなおしてみる。
他三人はよくやってると思うよ?
でも、たぶん私はこれが初めてだ。
人の命とか、そういう重くてめんどくさい物に向かい合うの――。
◆
「……来るわよ」
その歩みを止めるよりも早く、ライズがポツリと呟いた。
「う、うん……っ!」
「――」
それを合図に、久々に剣やら杖やらを構えて、
――あ、私は何にも持ってないけど――一気に緊張感が走るのが肌で感じられる。
視認できないほど薄っすらとした弱々しいそれが、
濃く黒い霧に変わったとき、
「…………兄、貴――」
緑色の光とともに、敵は現れた。




