第七十八話「あいあむありあ」
「え、――じゃ、あ、」
『ん~……どっから話せばいいんだろ?
えっとね……君ら、ジェイドくんがこの世界の人間じゃないのは知ってる?』
「それは――。 ……はい、なんとなく」
「ボクたちの知らないこといっぱい知ってて――なのに、知ってることは全然知らなかった。
たまに変なこといっぱい言うし、ちょっとノリ寒かったりしたし」
お、おう――結構ボロクソ言ってる。
まぁいいんだけど。 言っちゃえ言っちゃえ、私が許すから。
『で、えっとー……。 ジェイドくんが元々居た世界の話なんだけどね、
そこの妹ちゃんがひっどい引きこもりで』
「ひどくて悪かったな」
色々あったんだよ。
切っ掛けはただの寝坊だったんだけど、
チキンハートすぎてそれから教室入れなくなったの。
色々あって不登校になって、そっから同級生に会いたくなかったから外にも出なくなったってやつ。
ぜんぶチキンハートが原因。
でもこっちの世界で色々あったし――まぁ改善されてんじゃないかなって。
希望的観測だけど。
『でさ、ある日ジェイドくんが死ぬ番になってさ。
あっちの世界もこの女神ちゃんがその時担当してたから、とりあえずでかいトラックを突っ込ませようとしたんだけどね』
「担当とかあるんだ――」
『ちゃんと一定数殺して一定数生まれさせなきゃなの。 けっこー大変なんだよ??
それに死亡予定者リストくん、結構無慈悲だしねぇ……』
「――そう、ですか」
一瞬だけライズの顔が曇ったように見えた。
はー……まだ何にもこいつのこと知らないんだよな、私。 ちょっと今更だけど。
『間違えて変な方向に曲がらせちゃってさ、
トラックはついさっき家を出たとこだったジェイドくんの真横を通り過ぎて、』
「――アリアのほう、に?」
『そーそー。 しかもさ、そのミスが原因でさ、
本来ならちゃんと転生するはずだった妹ちゃんの魂は行方不明になっちゃって』
「けっこうなミスよね」
「ほんとほんと、もしそのまんま消滅してたらどうするつもりだったんだよ」
『消滅してたほうが隠ぺいはし易いんだけどね~……人道的にムリムリだったっていうか。
まー女神ちゃん、人じゃなくて神様なんだけどね。人道っていうか神道? あはっ、宗教みたーい!』
イラつきのあまり、反射的に飛び出していった拳は、
彼女の丸い瞳と白い肌をすり抜けて、虚空に効きもしない打撃を与えた。
『でー、まぁ色々あってさー。
たぶんこの世界に妹ちゃんが居るってわかって、そしたらジェイドくんが探しにいくー!って』
「探しに……」
『本人的にはアタシのノルマのために、仕方なぁ~くめんどくさい異世界に来てやった……みたいなつもりなんだろうけど。
ほんっと名采配だったよね、結果この世界のピンチも割と救ってくれたし』
若干どころじゃなく無責任。
そのスタイルは、いくつもの世界を束ねる女神様――というよりは、
少しの期間だけ、『お試し』で女神の役割を任された、ちょっとへなちょこな一般人ってほうがしっくりくる。
『てっきり浮遊霊的な感じになってると思ったんだけど……。
まさかまさかのまさか、アリアの身体に入ってるとは思いもしなかったよ』
『アリアの』身体に。
このアリア、が指すのは、私じゃなくて。
えーと、えーと。
「――アリア・ローズブレイドのことですか?」
「あっそう、それだよナイスライズちゃん!!」
「うるさい」
前言撤回、
別にデレてはなかったかも。
『そーそー。
――アタシが人間だったときさぁ、そこそこ仲良かったんだよね。 自分で思ってただけだけど』
一方通行、かぁ――。
もうローズブレイド?のほうのアリアちゃんにはそうそう会えるもんじゃないし、
けっこう悲しいな、それ――。
『好き、だったんだよねぇ……これでもさ』
えっっっ。
えっ今好きって。えっどういう意味ですか、え、え、
『さてと!! シンミリした話はこれくらいにして。
えっとねえっとね、ジェイドくんの元々の目的はね、あの例の魔王を倒すことで』
「魔王、って――あれか」
「見た目がえぐかったのは覚えてるよー」
「アリアには見えてなかったのよね――ホント、羨ましいわ」
「そんなにグロかったのか??」
「グロ、ってものじゃないわよ。 そんなレベルじゃないくらいのグロ」
結局グロじゃねえかよ。
『で、その魔王を倒しちゃったから、お疲れ様で~す!ってことで。
元の世界に帰らなきゃいけなくなって。でも妹ちゃんが全然見つかってなかったから』
「……じゃあ、アイツは今――」
『そー。 ニホン?だっけ、あそこに魂の八割くらいは持ってかれてる』
「――」
要するに、帰っただけ――ってこと。
心配かけさせんなよ、って思ったりもしたけど、
『問題は残りの二割。 ヤツの密かなるシスコン力は凄まじくてね、
半ば悪霊っていうか地縛霊と化してこの世界に憑りついてるわけなの』
「悪霊――」
「じゃ、祓ってくれば解決なわけ?」
『あー、まぁ言っちゃえばそうだけど……強いよ?』
「大丈夫!!」
謎の自信の根拠も、今ならちゃんとわかる。
だって私、
「アリアちゃんが、ついてるからっ!!」
我ながらちょっとクサイこと言ったなぁ~と、
叫んだあとには少しの後悔が残った。
『あ、あとついでに言っとくと――』
『妹ちゃんの魂も、そろそろヤバげなとこまできてるから』




