第七十一話「今度の移動は汽車だよ」
移動中。
ある時は親の実家に、ある時は旅行に、ある時は親戚の家に、そして結婚式とかそういうのに。
人生には、長距離の移動というものが付き物である。
長距離の移動には、必ず暇がくっ付いてくる。
最初はみんなで話していようが、いつかは話すネタが尽きて、結局は窓の外を眺めながら、
その長い長い時間を過ごす事になる。
……でも、ここは異世界!
日本じゃないなら、別に暇にはならないかもしれない。
◆
「……期待した私が間違ってた」
「いきなり何言い出すのよ」
「暇だ……どこの世でも移動って暇な物なんだな」
現在、わたくしは海の上を走っております。
汽車っぽい乗り物の、回転式クロスシートに座って。
暇すぎてシート回したくなる。
「――な、ライズ」
「今度は何?」
「シート回して良い?」
「後ろ向くだけなら良いわ」
――くそっ。
でも回しちゃう。 一回だけだけど。
レバーを引いて、席をグルっと回して、
すっかり眠ってるクリスちゃんと、死んだような目でただ座っているジェイドと向かい合わせになる。
「……生きてる?」
「ああ。 暇なら昔話でもしてやろうか」
「むかしばなし。」
唐突にそう切り出したジェイド。
うんうん、わかるよ。 自分語りって楽しいもんね。
小さい頃の自分を語るのとかさ、めっちゃ楽しそうに話すタイプだもんね。 お前は。
「……昔、その少年は三階建ての家で暮らしていてな。 三階建てにこだわり過ぎて、肝心の居住スペースは殆どなかったが」
あれ? 『その少年』って、自分の話じゃないの??
……っていうか、この話長くなりそう。
「アリアが既に飽きてきているようだし、早めに言ってやろう。 その少年はトラッ……大きな乗り物に轢かれて死んだ」
「いま『トラッ』って」
「気のせいだ」
トラックに轢かれて死ぬとか、テンプレ中のテンプレにも程があるだろ。
……あ、なるほど。
自分が体験した事として話しちゃったら、この辺の死んだ件に説明つかないもんな。
なっとくー。 まじなっとくなんですけど。
「――それから少年は女神に出会った。 そして、世界を救え――そう言われ、この地に降り立った」
「……」
「そして、生まれ変わって、少しだけ成長したころ。
元いた世界の現状を、その女神に教えてもらったのだが――」
「だが?」
「……妹が死んだらしい。 魂も行方不明になったらしく、女神としてこれでは困る――と」
「……え、女神ちゃん無能じゃない?」
あ、思わず口に出た。
「まあな――。 すべての世界の生き物を統括している神が、こんなもので良いのかとは俺も思う」
うんうん。 それは解るよ。
でもさ、もう隠す気なくない? 完璧に自分の事として話してるよね。
ま、ライズは気付かなさそうだし大丈夫だけど。
「で、女神曰くこの世界の何処かに居るのは確定だと。 俺が探すのが一番手っ取り早いらしい」
俺って言っちゃったね。
「……まあ、そういう事だ。 神の失敗は俺が背負うんだと」
「へえ――大変ね」
やっぱりライズは何の違和感も抱いてないみたいだ。
え、あれだけモロに『俺』って言ってたのに?
そもそも『異世界転生』っていう概念がないから、こんな風に華麗にスルーできるんだろうか。
ふしぎ。
「……っていうかさ、妹に会えたとして、それが妹だって特定できるもんなの?」
「できないな。 魔力のパターンが異常に似る、とは聞いたことがあるが……」
「好きな人にも似ていく、って言われてるしね――。 まあ、アリアは解らないから良いけど」
「……そうだね」
そうだね。 私は魔力とか一切わかんないもんね。
自分で作ろうとしたら死んで、他所から借りようとしたら酔って、
なんで私は魔術師なんだろう。
魔術なんて使えないぞ。
使えるけど、デメリットのほうがはるかに大きいぞ。
――と、そんなこんなで。
『えー、城下町ぃ~城下町ぃ~』
どうやら到着したみたいなので、この話はここでおしまい。
アレルギーって辛いね。




