第六十八話「衝撃の発表」
「……!」
相手の攻撃に混じって、聞こえてきた大きな音。
この方角……たぶん、あの建物が壊れたのだろう。
あとは戦いを続けながら、ジェイドたちが合流するのを待つだけ。
飛んできた弾幕を刀で弾き、その爆発に身を隠し、リングの外に立っているクリスの元へ動く。
「……クリス」
「うん……もうちょっと、だね」
クリスはそう言って、憂いを孕んだような表情で俯いた。
■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■
……にしても、妹かぁ。
「私には特に縁のないもんだな……。 羨ましい」
走って闘技場に向かいながら、私はポツリと呟いてみた。
「いきなり何を言い出す」
「――いや、妹の話。 たぶん私に妹とか弟とかは居なかったと思うんだよね」
「ふん……」
え、何ジェイド君。 その反応なぁに。
勝手に話に入ってきたくせに、その『ふん……』って何。 ひどいよ。
もうちょっと話を広げる努力をしてよ。
「……俺は居たぞ。 昔の話だが」
「へ?」
「まあ、実物はそんなに可愛い物でも無い。 同じ妹にも天と地ほどの差がある事は覚えておけ」
ふーん……。
っていうかお前、やっぱり妹さんいたのね。 そりゃそうだよね。 主役だもんね。
主役ってだいたい妹居るものだもんね。
――と、そんな話をしているうちに、目の前にはもう闘技場の門が。
「……行くぞ」
「おう、解ってる!」
固く閉ざされた、柵みたいな作りになってる門を、
走ってる勢いに任せて、軽々と飛び越える。
……というのが理想だったんだけど、私にそんな芸当できるわけもなく、
門の真ん中らへんに飛びついて、そこからは無理矢理よじ上って、
若干テンポを悪くしながら、私は闘技場へと降り立った。
それと同時に観客の一部が、辛辣な目で私のことを見詰める。
酷いよ。 なんでにらむの。
「アリア――」
でも、ちゃんと睨まずに見てくれる人もいる。 絶賛戦闘中のライズの事である。
「お待たせライズ! あ、前から弾飛んできてるけど大丈夫なの?」
「え」
私の言葉を理解する前に、ライズの姿は炎に包まれ、キノコから粉塵が舞ってくる。
一応生きてはいたみたいだけど、髪とか服が一部黒くなって……。
その、大声では言えないけど、
「……マヌケだなぁ」
「聞こえてるわよ」
……あっ。
「……ジェイド、アリア。 ありがと、後はボクが何とかするから」
クリスちゃんがこちらに駆け寄って来て、小声でそう呟いた。
「ああ……頑張れ」
「うんうん、クリスちゃんファイトー」
でも、一体何をするんだろう。
あの建物壊したまでは良いけど……素手で。
壊したってだけで、国全体が変わるもんなのだろうか?
司会のクソジジイの元に赴き、
「……貸して」
「あ、はい――」
マイクを強奪するクリスちゃん。
大きく息を吸い込んで、
「……この国の人たちに告げるっ!」
ハウリングが心配になるような大声で、マイクに向かってそう叫んだ。
途端に観客の関心が、戦いからクリスちゃんの言葉に移り変わる。
そして、それを確認すると彼女は続けた。
「聞いて。 ボク、神なんて崇められたくない……だけど、この国は変わらなきゃいけない。
ううん――誰かが変えなきゃいけない。」
「クリスティア……何を?」
演説中のクリスちゃんに、思わず兄も疑問を呈する。
シード枠で戦う回数少なかった兄が。 眉毛濃いゴリマッチョな兄が。
「国王は神様じゃないよ。 ただの人間でしかない……なのに、国民のこと人間としてすら扱ってない。」
「……」
「もうこんな事、ボクが終わらせる。 ……あの建物、壊してきました」
そう宣言した途端に、コロシアムがものすごいざわめきに包まれた。
いや、もうざわめきなんてレベルじゃなく。 歓声というか、悲鳴というか……とにかくうるさい。
喜ぶ人が半分で、
戸惑う人と『まぢやばくね?』みたいな雰囲気で雑談を始める人が、のこりの四分の一ずつ。
――ええ、私が間違っていました。
あの建物凄かったんだね。 そんなものを殴って壊そうとしてたのか……私。
傍らでは兵士たちが、
『壊された……だと!?』
『くっ――確認してまいれ!』
『ははーっ』
みたいな会話を繰り広げ、あわただしく闘技場を出ていき、
眉毛なクリスちゃんの兄貴は、
信じられないといった表情で、その場に内股で座り込み――。
――あ、兵士が武器持ってクリスちゃんのほうに向かってきてる。
危ない……と思ったら、いつぞやのイケメンおねーちゃんが指先一つでダウンさせた。
強い。 クリスちゃんの肉親だけあってめっちゃ強い。
「続けなさい、クリス」
「おねーちゃん……」
クリスちゃんは決意を固めた様子で頷くと、再びマイクを前に、大きく息を吸った。




