第六十七話「テロでリストなクリスちゃん」
――王位戦の決勝が始まった。 たぶん。
私はその会場に居ないから解らないけど、この歓声と……あと、いつもは賑わっている町に、人間が一人も居ないし、
今頃はクリスちゃんとライズが、会場で何とか戦ってる頃だろう。
……肝心な決勝戦に参加してない私とジェイドのこと、観客はどう思ってるんだ――?
そんな不安がふと頭をよぎったけど、そんな小さい事気にしていても仕方ない。
だって私は……。
「そう、実行犯なのだから! あーっはっはっはっはっは!!」
「うるさい」
「……はい」
誰も居ない町。 人々はあの会場に赴き、まるで猿の如くにキャーキャー言っている最中。
少しくらい騒いでも大丈夫かと思ったんだけどな……。
隣にジェイドがいる事、完璧に忘れてた。
この神経質くそお化けめ――。
「……で、作戦は覚えてるか?」
これは本気で言っているのだろうか?
「私が覚えているとでも思ったか?」
「思ってないからこうして聞いている」
全く思われていなかった。
ええ、でもね。 私だって、こんな国の運命を変えるような一大事――。
ちゃんと覚えてますよ?
だってテロ的な何かを行うんだもの。 人生で一回あるかどうか、そんな貴重な体験だよ? 国を敵に回すなんて……。
「大丈夫! お前がストップ・ザ・タイムして、手作業であの建物壊すんだろ?」
「……やれやれ、覚えているならそれで良い。 お前にしては上出来だ」
『おまえにしては』――?
なんだこいつ。 自分だけが主人公だと思うんじゃねえぞ。
言っとくけどな、私も一応転生者なんだし、体質的に私のほうが主人公っぽい気がするし……。
「行くぞ」
「えっ、待って」
なんだこいつ。
愚痴すら言わせてくれないのか。
いや、さっきのは言葉に出してる訳でもないし、思わせてすらくれないんだ。
……やれやれ。
◆
「……着いたぞ」
そうしてジェイドが指をパチーンと鳴らすと、いつものように時間が止まった。
ここからは時間との闘いである。
――あ、時間は止まってるから関係ないんだった。
「……うぃっす」
いかにも無気力な感じに返事をして、早速このでかい建物によじ登っていく。
『手作業』という三文字からして、この作戦がどれほど取り急ぎで建てられたかは察して頂けるだろう。
しかも、実行するのが魔力も武器も使えない、この私。
地道にこのクソでかい、無駄にでかい、しかも硬い建物を、
チマチマ殴って壊していかなければならないのである。
くそ。
……しかもこれ、全然削れない。
始まってからかれこれ三時間くらい経ってる気がするけど、削れてるのはたったの一立方センチメートル程度――。
駄目だこれ、素手じゃ。
しかも私の職業は魔術師。 いちばん非力で魔力攻撃に特化した職。
解るか?
私の体質が、どれほどこの職業に向いていないか――。
「……なぁ、ジェイド」
「どうした」
「これ絶対終わらないやつだから……その馬鹿みたいにでかい斧でさ、チャチャっとバーン!ってやってよ」
「――――」
無視かよ。
そう思ったら、あいつも建物の出っ張りに手足を引っ掛けて、ちょっと大変そうな顔して登り出した。
……聞いてたんだ。
そのまま頂上まで登り詰め、斧を握りしめた……と思えば、(たぶん)指先を通して斧に魔力を送り、巨大化させ、一気にドーン!……といく。
粉々になったバカでかい建物――じゃなくて、建物だった瓦礫が、頭上からパラパラと降ってきた。
これ、異常なほど命中率が高いんだよ。
よりにもよって大きいサイズの、痛そうな瓦礫だけ、私の頭にボツボツ落ちてくる。
……あれ? 斧でこれ一発。
つまり、私がチマチマ殴り続けた三時間は無駄だったのだろうか。
籠手を持ってくるの忘れたし、
素手でコツコツ頑張って殴ってたんだけど……。
ほら見ろ、この手。
めっちゃ血が滲んで痛そう。
ま、実際痛いからね! あははははははははははは!!
一人で笑っていると、急に空気が動き出したような違和感が、不意に身体を襲う。
時間が動き出したのだ。
……そう気が付くまでには、およそ三分と三十秒くらい掛かった。
とにかく、これで建物を崩すのは完了。
あとはクリスちゃんがどうするつもりなのか……。
それだけが、今の私の悩みの種である。




