第六十六話「人間は人間なんです!」
「……でさ、アリア」
クリスちゃんの表情がちょっと曇ったのを見れば、さすがにこの私だって、ヤバい事を言われる可能性があることくらい理解できる。
――ってわけで、賢い私は瞬時にそういう心構えをして、
「どうした?」
とカッコよく返したわけです。
くぅ、一瞬でここまで考えてるなんて痺れるぅ。 他の人がやってても凄くは感じないけど、やっぱり自分がそういう事やってる……ってのが一番大切なんだよな。
自分がやれてれば、凄いことに感じる。 これすっごくお得。
「……その、決勝のことなんだけど」
「うん」
少しの間を置いて、クリスちゃんが口を開く。
「……ボク、テロでも起こそうと思っててさ」
「えっ」
やべえ、声出た。
「……えーと、なんで?」
さっきの『えっ』が聞こえていないことを祈りながら、とりあえず私はそう聞いてみる。
まあ、クリスちゃんがそうしたいなら、私は止めないけど――。
もしかしたら、の場合もあるしな。 例えば操られてたり、なんか後ろでヤバい組織が動いてたりとか。
「ごめん、今更変なこと言って……。」
何度も『ごめん』を繰り返すクリスちゃん。
私が励まそうとしたら、
「――大丈夫よ、続けて」
横からライズの声が聞こえてきた。 ……あぁ、ライズもクリスちゃんの話聞いてたのね。
両手に持っていた、週刊誌的な何かの本を閉じながら、椅子をクリスのほうに回す。
回る椅子って便利だね。
「……前も言ったと思うけど、さ。 ボクはこの国が大嫌い」
「うん」
聞いた覚えがない。 私が眠ってた二年の間、いったい何があったんだろう。
「弱者を切り捨てて、誰かに変な重圧かけて、人と人との争いを見るのが大好きで」
「……」
「王位戦の決勝なら、みんなが見に来てるはず――。 だから、きっと外で何かやっててもバレない」
外で……。 え? 何するの?
身体が震えるのを感じた。 でも、あの良い子ちゃんがこんな事を言い出すくらいだし、きっとこの国は相当ヤバいのだろう。
「だから、あの無駄に大きい建物を壊してやろうと思う……」
「へ? こわす?」
「……そう。 あそこの――」
窓の外に向けられた指。
その先から直線状に視線を動かし、とある建物に目を付け……。
ん……?
「……あれ? あの白いやつ?」
「うん。 国王は神なんかじゃないって、ボクが証明してやるんだ――」
……神?
そうか。 人間から神になる為の戦いだから、あんなに皆が興奮してたんだ。
なるほど……。
「あの建物はね、五十年前に建てられたもの」
「うん」
「……国王への信仰の象徴なんだって」
こう語るクリスちゃんの表情は暗い。
そりゃそうだ。 国王って言えば、クリスちゃんのお父さんでしょ?
生まれた時からそういう考えを植え付けられてきたなら、反旗を翻すのにも相当の覚悟が必要になるだろう。
それでもクリスちゃんがそうしたいと言うんなら、
私は喜んで協力してやろうじゃないか。
――操られてる訳ではないみたいだし。
「国に逆らった人は、あそこにある国王の台座の前で首を切られる」
「え……だったらクリスちゃんも」
もしも失敗したら……。
不安がふと胸をよぎり、私は思わずそう呟いた。
「大丈夫よ」
その時、後ろから肩に手が置かれた。 同時に優しげな声も聞こえてきた。
「――ライズ」
「あの魔王だってどうにか出来たんだから。 きっと打開策はいくらでもある」
「みんな、手伝ってくれる……?」
申し訳なさそうな顔をして、私たちに問い掛けるクリスちゃん。
ああ――アナタの為なら、処刑されようが構わないとも。 そもそも私、一回死んでるしね。
「わかった。 私も一緒にどうにかしてやろう」
「ええ――。 後はジェイドだけど」
「勿論。 俺は構わない」
くそっ、美味しいところ持っていきやがって!
……っていうか、ジェイド、ちゃんと話聞いてたんだ。
まあとにかく、これで四人ともオッケーなわけだな。
あとは試合中にアレをぶっ壊してやるだけだ。 配役はどうするか知らないけど……。




