第五十四話「除草剤系女子」
久々にとる(らしい)睡眠はけっこう気持ち良いもので、
それがどの位かと言えば、布団から出る瞬間の心の葛藤が、いつもより五分ほど長引いた程度。
でも、今日はもっとヤバいニュースがあった。
「ん……アリア。 おはよ――え?」
いつもの三つ編みを下ろしたクリスちゃんはとっても可愛らしくて、
以前より伸びたように見える、少しウェーブのかかった後ろ髪は、それこそ人間国宝に指定されても良いくらいには尊いものである。
えーと……ギルドの面接前に、もうじき11になるって言ってたから――。
たぶん今は十二か十三歳だ。 あぁ、いちばん女の子が美味しくなるオトシゴロ……うふふふ。
あっ。
いけない、私に変態みたいなイメージが付くところだった。
でも、可愛い子にならゴミを見るみたいな目つきで『きもちわるい』って言われたっていいなぁ……。
――あっ。
「……でさ、クリスちゃん久しぶり」
「――い、生きてる……夢じゃなかったんだ」
……あ、私のほうはすっかり通常運転だったんだけどな。
私が生きてて動いてること、そんなに皆にとってはショッキングだったの?
「……アリア。 試しにボクのこと殴ってみてよ」
「この後に及んで……」
そんなに私が動いてたら、みんな夢扱いしたいのか。
でもクリスちゃんが言うんだから正しいんだよね。 ちょっとこの展開飽きてきたけど。
◆
――色々あって、
まあ結構なあいだ、押し問答が続きに続いて、
「……でさ、ちょっと聞いてもらいたいことがあるんだ」
「何?」
もう夢と疑われないレベルにまでは、私とクリスちゃんの関係も修復できた。
自然な表情で笑うクリスちゃんはもうほんとに、『天使に触れたよ!』って叫びたいくらいには可愛らしくて――。
「アリア、昨日ライズから聞いた? この国のこと――フォーサイスの話」
「うん――クリス、意外に実家大きかったんだなーって」
まあ、そういう話で言えば私の(この身体の)実家もそこそこ大きそうだけどね。 だけどもう滅びてそう。
「……そっか。 ごめん」
「――なにが?」
「言い出せなかったこと……」
クリスちゃんは気まずそうにそう言って、身体を窓のほうにくるりと回転させた。
「――この国の中央にはね、おっきな一本の木があるんだ」
「木……」
「うん。 毎年、キレイな花が咲くらしいんだけど――ボクはそれ、一回も見たことない」
「――え」
自分ちの花を見たことない、と。
まあ多分大丈夫だよ。
昔はね、私が近寄ったらその年に花が咲かなくなると噂された桜の木だってあったもの……。
あれ――何でだろう、前世のこと考えたら、こういうどうでも良い情報ばっかり覚えてるのは。
「ボクがここに居なくなったとたん、きれーな花が咲くんだってさ。 みんな見たがってるって、母様からそうやって聞いた」
「……仲間がいた」
スケールは向こうのほうが大きいけど。
「だから、ホントはここにボクが居ないほうが良いのかもしれないけど……」
「クリスちゃんが嫌いな人間なんていません! 少なくとも私は大好きだもの」
「……そうなのー? ありがとう」
良かった、ちょっとクリスちゃんの表情が緩くなった。
でも、わざわざ私たち連れて帰省してるってことは、それなりの理由が――。
「跡継ぎが誰かを巡って戦う。 そのためにボクは呼び戻されたんだ」
――あっ、考察する間もなく言ってくれるのね。
にしても、王位争奪戦かぁ……。
……ぁ?
「……え、バトル?」
「うん――兄様が2人と、姉様2人と、あとおねえちゃんと弟」
多いな。 クリスちゃん含めて7人?
あと、おねえちゃんと姉様は別カウントなのね。
「うん――詳しい話は後でする。 ごめんね」
「そんなに謝ることないって、クリスのためなら私は死ねるよ」
奇跡始めれるくらいの自信はあるから、心配しないで。
金魚を吐いたり蝋燭消したりコウモリ吹いたりペンキで塗ったりできるよ。
「……じゃあ、ちょっと呼ばれてるから行かなきゃ。 アリアはここにいて」
腰かけていたベッドから立ち上がり、扉のほうに直進しながら、クリスちゃんはそう言った。
「あ、わかった。 気を付けてな」
「うん」
そうやって、ぎぎっと扉が閉まっていくのを、私はじっと見つめていた――。




