第五十一話「時間は非情よね」
夜空にはやけにでっかい月が光り、少しだけ視力が落ちたように感じるこの目には、落ちてくる花びらがひらひらと映ってはフェードアウトしていく。
地面は謎のキノコ素材。
橋の端っこに車椅子(っぽい何か)を移動させて、私はそこによっこらしょっと腰掛けながら、
「……で、えっと――今どうなってるんだ?」
全く理解できていないそれを、ライズにそのまま聞いてみた。
夜風がやけに気持ち良い――けど寒い。 ふと近くを見回すと、そこには美しく大きな川が流れていて、何となくマイナスイオンを感じるような気がしないでもない。
「あぁ――そうね。 ここなら魔力の回復も早いだろうし、ちょっと話し込んでも良いかもしれない」
「ほう……魔力の回復が?」
マイナスイオン恐るべし。 いや、キノコの効果かもしれないけど。
「――フォーサイスに来れば、貴女の意識も戻るんじゃないかって思ってたの。 ここは魔術師の集う場所……あの戦いから、どれくらい経ったと思う?」
あの戦い。 たぶんライズが聞いているのは、例の魔王戦のことだと思う。
「えーと……二週間くらい?」
感覚的には五日くらいだが、ここは敢えて誇大して言ってみた。
それに、多分そのくらいで正解だろうしな――、
「残念。 ほんとは二年間」
――あ?
に、二年間……?
「待って」
「どうしたの?」
「頭が追い付かない」
「……そう」
そうだろうな、とでも言いたげな顔で、ライズは悲しげに微笑み、視線を空高くの月へと向けた。
というか待って欲しい。
ほんとに待って。 話の展開にも、時の流れにも、彼女の心情にも、全く着いて行けない。 行けるわけがない。
あれから二年間経ってる?
だったら365×2で……え、でもうるう年だったかも知れないな。 っていうかこの世界の暦はどうだったっけ。 私の知ってる数え方で良いんだっけ。
「う、ううぅぅ……」
脳みそがオーバーヒートしそうなので、考えるのを止めて、頭を抱えてうずくまってみる。
さあ冷却されろ、私の頭よ……。 ちょうど涼しそうな髪色してるじゃん。 それ冷却材みたいな効果ないの? 無いか。
で、じっとしながら悶えること、多分五分間くらい。
「うぅ……ふぅ」
ようやく私がちょっとは落ち着いたのを見て、ライズがもう一度口を開いた。
「……大丈夫? 質問があったら何でも答えるわ。 私が解る範囲内でなら」
「じゃあ、今ほんとに二年後なの?」
「そうね」
「ごふっ……」
知らない間に年を取っているショック。
というか、たぶん他のメンバーは二年分修行して強くなってるわけで。 それに、それだけ時間があったら、魔王討伐後の英雄扱いだって、そろそろちょっと昔のことになってるんでしょ。
「魔王は? ちゃんと討伐できたのか?」
「……ええ。 だけどそれは、貴女の力があったからこそ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないのよ」
ちょっと感情が高ぶったせいで、オカマみたいな口調がポロっと飛び出してくる。
「私たちはそうやって主張してたけどね」
「けど……?」
嫌な予感がした。
っていうか嫌な予感しかしない。
「残念ながら、あれを倒してすぐの貴女は、本当に生きるか死ぬかの重体でね」
「――」
「人々の目に触れることも無かったから、詳しい人たち以外には、その名前くらいしか知られてないわ」
「うげろっぱ」
「それでさえ、もう印象はよほど薄くなっているでしょうけど」
「げちろっぺ」
私は 50000000 のダメージ を 受けた!
「ぐはっ」
私は やられた!
酷いじゃないの……あれか、踏み台になった人たちは注目されないっていうアレか!
でもクリスちゃんがモテモテになって幸せになれるならそれでも良いや。 クリスちゃんのファンとして冥利に尽きるってやつである。
「あ――アリア、大丈夫?」
「お、おう……続けて質問良い?」
ショックなのは死ぬほどショックだけど、また二年間寝込んじゃいそうなくらいにはショックだけど、
今大事なのは現状の把握だろう。
たぶん。
「ここはどこなのさ」
キノコ橋と、マイナスイオンと、花粉。
さっき『何とかに来れば、貴女の意識も~』って言ってたような気がするけども、それは全く覚えてないので。 すまないライズ。
「ここ? ここは花の都ことフォーサイスの城下町。 さっきも言ったように、魔術師の集う場所でもあり――」
「あり――?」
「クリスティア・フォーサイスの、生まれ故郷でもある場所よ」
「え……」
クリスティアちゃん。
そういえば、フォーサイスってどっかで聞いたことあると思ってたけど……。
「ええええええぇ……」
クリスちゃん? クリスちゃんちの庭みたいなモノなの? ここ……。
またもや状況が飲み込めてないけれど、時間の都合により、私たちはひとまず宿に帰ることとなった。




