第四十六話「『見える』という幸せ」
「……いくわよ。 皆、準備はいいわね?」
「うん――」
「ああ」
「……おう」
ライズの問いかけに、クリス、ジェイド、そして私の三人が、
こくりと頷きながらそう声を発す。
『何もないから』との理由で、召喚場所に選んだこの砂浜。
美しい海は少し干上がっていて、少しだけ――本当に破滅が近付いているような気分にさせられた。
小さなさざ波の音に、ふと誘拐犯な海賊娘のことを思い出す。
それにつられて、最近見ていない人魚のことも。 ……あ、なんか残念がられた記憶も思い出したわ。
まあ、そんな私の一人ごとは置いておいて。
「……半径50m以内に結界を展開」
ライズがぼそっと口ずさむと、辺りがいきなり赤色の光に包まれた。 夜の闇と相まって、浜は地獄のような雰囲気に塗り替わる。
――結界と展開をかけたのか……と、そんなことを思ってるのは私一人だけだろう。 クリスちゃんとジェイドの二人を見てみても、その表情は真剣そのものだった。
「魔方陣の形成、別次元へのアクセス開始」
詠唱はまだまだ続き、今度は光がだんだん魔方陣っぽい形を成していく。
こういう……なんていうか、実況的な詠唱かっこいいよね。 『○○を開始しています……』みたいな、ちょっと機械的なやつ。
「アクセス完了……転送開始ッ!!」
そして決め台詞っ! くぅ、痺れるぅ……。
赤色の魔方陣はより一層強く輝きだし、だんだんとその中から、外の景色が見えないようになっていって――。
「……あれ、こっちが転送されるのか?」
「向こうの心臓まで乗り込むんだと。 それに、この世界に召喚したら、万が一の時に大変だろう?」
――そんなジェイドの言葉を聞いていると、がらりと魔方陣の中の雰囲気が変わった。
立っているだけで気分が悪くなるような、ちょっと汚染されてそうな空気に……。
と、そのとき。
「――ッ!?」
「……! アリアっ!?」
唐突に襲い掛かってきた、喉の奥を食い破るような激痛に、
私は思わず地面に両の膝を付けた。
「ぁ……っ、ゔ――」
痛くて、苦しくて、だけどこれは……、
どこかで体験したような感覚。
この世界に来てから何度か味わったことのあった、妙な既視感が、今そこにある。
『――果たしてくれ。 その姿で、我が民の仇を……』
苦しみの最中、私の目の前には、
少し悲しそうな微笑みを浮かべた『私』の姿が浮かんでいた――ような気がした。
そして、痛みがゆっくりと引いていくと。
「……っ、ふぅ――」
辺りには、禍々しい色をした、
何もない……少なくとも、私にはそう見える空間が広がっていた。
「……あそこの繭の中、か」
「――なんだか、今さら怖くなってきちゃったかも」
えっちょっと待って、みんな何が見えてるっていうの?
「……いくわよ。 ジェイド!」
「OKッ!」
出張ることと目立つことが大好きなジェイドくん、
そのバカみたいにデカい斧を引っ提げて――。
「おらぁッ!!」
なんにもない空中に、全力らしき攻撃を仕掛けた。
……なんなの、ついに頭が可笑しくなっちゃったの?
「……くるよっ、二人とも!」
えっちょっとまって! まって!!
そして、何もないところから大きな砂煙が舞う。
この風景は、まさしく――。
「――魔王降臨、といったところだな」
……あ、うん。
「……なあライズ」
「どうしたのアリア?」
ちょっと緊迫した声で返答するライズ。
……やっぱりここには何かが居るんだな。 ただただ私が見えていないだけで。
「……魔王って、どこにいるんだよ――」
顔文字にある『しょぼーん』みたいな顔で、私は必死に問いかけた。
だけど。
「――っ」
ライズの表情がいきなり変わって――きっと何かの攻撃を避けたのだろうか。
危なそうだったので私も場所を変えたその途端、
「うわっ……」
引くくらいには大きなクレーターが、さっきまで立っていた位置に、
一瞬で作られる。
――えっ、嘘だ。 ほんとに何かいるじゃん。
もしかしてアレ? 『アリアは置いてきた。 はっきり言ってこの戦いには着いてこれそうもない』ってやつなの??
「……確かに一筋縄ではいかない相手、ね」
「ああ――だが、俺たち四人で勝てない相手では無いだろう」
うんそうだね。 だって、
かっこいいほうのアリアちゃんでも勝てなかった相手だからね。
いくら最終形態より前だからって、雑魚なわけなかったんだよね。
だけどね。
「……ねえ」
そこに居るはずの魔王に向かって、私は臆することなく一歩足を踏み出した。
……いや、そもそも臆す対象が捉えられてないんだけどね。
「何にも、見えないんですけどっぉおおぉおおぉぉぉぉおっ……」
異様にビブラートを聞かせた声で、そう叫んでみる。
ごめんよ私……。
我が民の敵、討てないかもしれない……。
記念すべき四十六話




