第四十三話「わたし」
走る衝撃波。 立ち昇る煙の間から、微かに見えるジェイドのドヤ顔。
『……やったか!?』
――うん、やっぱり奴にはこういうのが似合う。
私には出番の一つもくれず、たまーにライズやクリスに活躍させながら、良いところは掻っ攫っていき、そして自分でも見せ場を引き寄せる……っていうヤツが。
……でも、ドヤ顔を崩す時ってのは一番興奮するもんだ!
別にリョナラーとかドSとか、そんな属性は持ち合わせていないけども。 興奮っても、そっちの意味じゃないんだよ。
それに、こういうフラグは回収してやらねば、彼にも主人公らしさが無くなってしまうだろう。
「ムハハハハ、残念だったなジェイドとやら――」
『何ッ――!?』
今の私は、気分だけだが物凄く強い魔王。 だから、私は一回くらいはヤツに敗北を味わわせてやる。
「さあ、全力で掛かって来るが良いぞッ!!」
『くっ……』
両手を広げて、カッコ良く高笑いする私。
そして目を開けると――。
「……あれ?」
目の前に、もうジェイドが居なかった。 うわッ、ものすごい既視感とデジャヴが……。
でも、同じ手が二度通じると思うか。
ここは私の夢の中、何度も確認しておいた事だろう。
「――上かッ!?」
そうやって叫んで見上げてみれば、ほら。
『――!』
しまった、みたいな顔をするジェイドが居る。 あははは、こういうのもたまには気持ち良いもんだな。
……で、まあ色々と戦いは続くわけだ。
進も退も全く無い、凄いようで退屈な展開が延々と……。
あのー……竜玉漫画であるじゃん、ヤ○チャ視点。
そんな感じのシュパパパパパーが、それはそれは終わりの予兆をも感じさせないくらいに続くんだ。
途中からは、夢の中なのに眠たくなってくる。
『…………』
――と思っていたら、ジェイドがふと攻撃の手を止めた。
すっかり機械的に反撃していた私は、それにも気が付かずに一回殴り掛かった……が避けられる。
「……ん?」
『――俺は所詮、片手間に拳を交わせる程度の相手だと云うのか……』
……あ、めんどくさい事になっちゃった? ここは素直に謝っておこう。
「……ごめん、考え事してた」
『良いだろう――』
何がいいんだろう?
『――俺は、貴様如きが舐めた口を利ける相手で無いと思い知れ。 格の違いってもんを教えてやる』
「――――」
……うん。
何だかとっても、面倒なことになりそうです。
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「あっ、アリアおはよーっ!」
「……ようやく目覚めたか」
薄く開いたその瞳を擦りながら、ゆっくりと半身を起こすアリア。
そんな、妙に既視感も覚えるような、だらしなく頼り無い姿は、普段の彼女そのものであったのだが――。
「――! これはこれは、クリスティア殿」
「……どのー?」
一言でも話して見れば、彼女はアリアであって、アリアでは無かった。
◆
「……そうか。 貴殿がジェイド・アラバスター。
話には聞いていたが、中々どうして腕の立つ戦士だそうだな」
まるで天高く伸びた竹のように背筋を伸ばして、宿に置かれた座布団に座っているアリア。
先ほど、俺やクリス、そして寿命を縮めそうな体制で眠っているライズについて、
名前や職、そして疑問などをひとしきり質問した後だ。
この不可解なロボット――アルロッタ君、だったか――はともかく、クリスやライズは今日や昨日に出会ったばかりでは無かろうに。
「――あ、あぁ……どうしたアリア? 今日はやけに表情が締まっているが」
おまけに、非常に不可解なこと、奴が真面目な顔をしている。
正直、初めて出会ってから、このような表情は全く見たことがなかった。
まあ数回程度ならば、一応見たことはあったのだが――。
何と言えばいいのだろうか。 性根がもうすっかり腐りきっているのか、心の底から偽りもなく真面目な表情である――とは、とても言い難かったのだ。
「――?」
だが、彼女自身には、全くその自覚が無いようで。
『嘘偽り無く心当たりがない』とでも言いたげに、そのイメージに似つかわしくない生真面目な顔を、軽く右向きに傾ける。
「……おー、アリアなんとなくかっこいいっ♪」
「か、かっこ……っ」
それに加えて、少し褒めた程度では調子に乗らない。 むしろ褒められる事が苦手かとでも思わせるように、耳まで真っ赤にして、聞き取りにくい早口の言葉で反論してくる。
「――あ、ありがとう……っ」
そして、最後は一応褒め言葉を認めて――認めたのかは知らないが、折れる。
こんな状況の中で、俺の心は一つだけ。
「……どうしてこうなった」
と言うよりも、お前は誰だ。 誰なんだ。
疑問の数々は、彼女に届くことも無く砕け散っていった。




