第四十一話「決闘を申し込む!」
――あ、これ夢だ。
そう理解するまでには、それ程時間もかからなかった。 なんか、夢特有の雰囲気というか……そんな感じのものが、ぷんぷんと漂っていたから。
ええと……身体は、まあ自由に動く。 明晰夢ってやつか。
で、そんな事を考えてたら、目の前に一人の人物が、なんとも気品溢れる姿で歩いてきた。
『――ええと、あなたがアリア・ユリシフタさんかしら?』
「……アリアで良い。 長いだろ?」
桃色の長い髪。 二つに結われて、風になびくそれ。
人間にしては、妙に長くて尖ってるような気もする耳。 聞き慣れた、落ち着いた様子の声に、まだ常識人としてのポジションを保っている雰囲気――。
間違い無い。 この人は――。
『解ったわ。 私はライズ――ライズ・アルロッタ』
「……ライズ?」
『ええ、どうとでも呼んで。 出来れば呼び捨てで……』
そう。 まだまともだった頃のライズである。
◆
――と、ここまでのあらすじを、私が解る範囲でご説明致しましょう。
ライズにつられて、宿で熟睡していた私は、
酒場でみんなと会う前後くらいの時期にあった事を、そのまま夢に見ていた。
身体は自由に動くし、意思だってこの通りちゃんとある。
……まあ、つまりだ。 一回くらい、好き放題やってみろって事だな。
魔法使ったり、事件起こしたり、挙句の果てには死んだりしたって、
ここは夢の中だしノーカウントなんだ。
「……よし、じゃあ何か楽しくなってきたぞ」
『……どうしたのよ? 楽しくなってきた、って』
にしても、まともなライズは正真正銘の普通な美少女だな。 ずっとこのままだったら、どんなに良かったことか……。
でも、人には個性ってもんがあるのだ。 あるのだ……あるのっだ……あるろった……ふひひひひひひっ。
ネタキャラ化は進んでくだろうけど、まあ彼女を良く知らない人間からは、ただの美少女に見えるってのは忘れんでおこう。
「……じゃあ、まず何をしようか」
『何、って――? もう身体のほうは良いの?』
「おうとも、ダイジョブだって……、ん?」
そう言われて、私は初めて回りの景色を見渡してみた。
クールジャパンっぽくないセンスに、ダサいシャンデリアに、鱗みたいな素材のカーテンに、変てこな木……それに、私が着てるのは、何か入院患者みたいな服。
そんなに大昔じゃないはずなのに、ものすごく懐かしいこの風景は――。
そう。 この夢の舞台は、我が始まりの地だ。
「……なるへそ。 なあライズ、武器屋とか防具屋とかってどこにあるんだ?」
『え……? 欲しいの?』
確か、我が愛用――といってもあんまり使用機会はないが――の籠手は、城下町に行ってから購入したもの。 この時点での私は、普通に丸腰の雑魚に過ぎないはずだ。
「ああ。 ちょっと戦ってみたくて、さ」
『……遠いから、私も着いて行くわ。 その様子だと、あんな大怪我したのに、もうすっかり平気みたいだしね』
お、話がわかるライズさんだ。
「あ、ありがとう……じゃあよろしく頼む」
どうせ夢だ。 ここでよそよそしく遠慮しても、別に私の株が上がるなんてことは無いだろうし、図々しくいかせてもらおう。
◆
さあ、恒例となってきた唐突な場面切り替えは放っておいて……。
色々ありまして、私は無事に武装を整えることに成功しました。
これで色んなものと対峙してみれば、まあ無双現場を眺めて逃げ出すよりは面白いことになりそうだなー……とか考えてもいます。
だって、魔王戦までの準備期間的なものが三日間……。
普通なら特訓とかする為の期間なんだろうけど、生憎私には友情も努力も勝利もできないんでね。 王道なんてクソ食らえで突き進んでやる。
ってことで、そのー……『特訓』とかいう見せ場が無い以上は、
ここで代替として、なんかやっとかなくちゃ。 ついでに多少は強くなっとかなくちゃ。
……よし。
「よし特訓だ!! 誰でも良いから、私を殺さないくらいには手加減して掛かってこいッ!!!」
大きく息を吸い込んで、これまた意気揚々と私は叫んでやった。
近くでぽかーんとしながら、私を眺めるライズの表情は、まるで『うわ……なにこの人?』とでも言いたげで、何とも心に刺さる。
で、まわりの村人さんたちも、『ハァン?』みたいな顔。 挙句の果てには、某クラフト世界の村人みたいな声を出してる奴さえも居た。
でも、私には出番と見せ場が必要なんだ。
主人公になれないなんて、そんな悲しいこと言っちゃいけないんだ。
そう。 きっとこれは、私がいつかハーレムでチヤホヤされる立派な強い主人公になっていく、下剋上の物語なんだ。
こうやって底辺時代を演出することで、恐ろしい視聴者のみなさんから『なにこいつ』って思われないための……うん。 自分でも、言ってて段々寒く、悲しくなってきた。
まあとにかく。
『……はーい♪』
『――――』
高い空に向けて挙げられたのは、二つの、ちょっと見覚えがある手――。
「……ん?」
『挑戦するっ!! 空飛ぶお姉ちゃん、つよいのー?』
『…………もしも俺を破れると云う自信が有るのならば、俺はその根拠無き思いを叩き潰すまでだ』
……お、中二病だ。 けっこう尖ってるし中二な事言うけど、エロいことにだけはテンション上がっちゃうジェイドくんだ。
で、こっちも懐かしのお姉ちゃん呼びクリスちゃん。
「…………あ、わりと強い人来た」
でも、けっこう昔だしね。 しかも、ここは私の夢の中。
自分の夢でくらい、主人公補正がかかってくれる事を信じよう――。
「――ふっ、絶対一人ずつ、ちゃんと休憩できる時間を取ってくれることを約束して掛かってこい」
どんなときでも、そういう保険を掛けることは忘れない。
「いざ……参る!」
武士っとした口調で、私はキリっとカッコいい表情を作った。




