第四十話「寝ます」
――海を眺めてると、時折懐かしい感覚に襲われる。
でも、それは決して『安心する』とか、そんなのじゃなくて……。
もっと恐ろしくて、もっと深くて暗い、言葉では言い表せないような感覚。
前世の死因が海に関する事だったのかなー、とか、最初は考えてたよ。
でも、絶対にそれじゃないと言い切れる。 理由は分からないし、多分そんな感じの死因だった気もするけど、何でかそんな気がするんだ。
「…………例えモテなくたって、めげない! しょげない! ……どらげない!」
誰も居ない浜辺で、誰に話しかける訳でもなく、私はそう呟いてみた。 もしも聞こえてたらすごく恥ずかしい。
そんなとき、どうにもモテない私に追い打ちをかけるかの如く、ふとジェイドたちの居るほうから、大きな黄色い歓声が聞こえてきた。
とりあえずは耳を塞ぎながら、ライズがすごい格好で寝ているだろう宿へ急ぐ――。
――にしても、魔王出現まで三日程度か。
短いようで、案外長くも感じられて、もしストップ・ザ・タイム状態にでもなったら、すごく長いだろうその時間。
それまでに、私に出来ることは何かあるのだろうか?
さっきみたいに時間が止まってしまえば、多分相手が魔王だろうがジェイドが無双しちゃうんだろうけど、
万が一のことを考えて、の話だ。
ちょっと記憶が薄れて来たけど、次の町に行けば否が応でも個人戦――つまりは武闘大会があるわけだし。
もっともこの身体自体がステータス高い状態だから、
何にもしなかろうが、普通なら優勝なんて楽々レベルなんだろうけど……。
でも、恐らくはライズにクリスにジェイドの三人だって出場はするだろう。
そしたら私、天下一武闘会に悟空たちが出場したときのMr.サタンみたいな感じで、
『強いんだけどこいつらには敵わない』って状態になりそうなんだよなぁ。
じゃあ、前にこの三人と戦ってみたときからヒントを得てみよう! それこそ優勝への近道である。
というかもう魔王戦なんて、設定やら展開やらからしても、ジェイドが倒してワーワー言われる感じしかしないじゃん。 無視でいいよな無視で!
丸投げだなんて人聞きの悪い……、華を持たせてあげるんだよ。
◆
「ただいま帰りまし……あれ?」
人の気配が全くしない宿。 ただこれだけ聞こえてくるのは、アルロッタ君二号のギーギー音と、何故か布団が吹っ飛んで、天井や床にぶつかる音だけ……。
いや、もしかしてこれ――ライズの寝相が悪すぎるから、とかそんなんじゃないよな?
……お願い誰か否定して。 こんな子が居てる部屋に入るのなんて、勇気が要りすぎて、少なくとも私には無理だ!
――否、ここでためらってちゃあキャーキャー言われる事など到底不可能。
いざアリア・ユリシフタ、愛と勇気と誇りを持って――。
「突入っ!!!」
ドアノブに手をかけ、少しだけ開けてみて、隙間から怪獣の様子を伺ってみる。
……うん、今なら大丈夫そうだな。
さっとドアを開けて、入って、閉めて、部屋の外の被害を最小限に抑えて。
そして危険地帯であるライズの近くから離れると、私は安堵してその場にへろへろと座り込んだ。
「……あー、なんか疲れた」
そう。 本当に謎の倦怠感である。
私は何もしていないというのに、どうしてこんなにだるいんだろうか……。
――あ、なるへそ。 納得した。
いっつもは何も起きない日常でふらふらしてるのに、いきなり魔王やら海賊やらの敵がバンバン出てきすぎなんだ。
いろいろあった。 だから疲れる。
まあつまり、このクソみたいな怠さは自然の摂理である。 いや知らないけどね。
「――――」
暇だから、ライズの暴れっぷりを見つめる私。
「――――」
やっぱり恐ろしい子だったライズ。
――何と言うか、寝てる人を見つめてたら、私まで眠たくなってくるような……。
丁度いいや。 宿子ちゃんも、お客さんも今は居ないし、みんなが帰ってくるまでは、ちょっと眠っておこう。
そう、これは決してサボりなどではなく、
来たる決戦に備えて、ライズみたいな感じで魔力を貯蔵するためのものなんだ。
「……よし、言い訳の準備はOK」
丁度ライズが蹴とばしてきた布団を掴む私。
それにササっと包まると、そのまま眠気に流されて目を閉じた――。




