第三十八話「侵略!くろずくめ」
「……え、ええと」
妙に既視感の漂うカエル君……じゃなくて、確か……えーと、
アルロッタ君二号は、主であるライズ・アルロッタの睡眠を妨げないための、会話代弁ロボットらしい。
無駄にハイスペックな技術。 全部が魔法に頼られてそうな異世界で、当たり前のようにこんな機械を作って……。
……あ、全部寝たいがための努力か。
とりあえず、コイツに聞いてみれば良いんだよな……?
私はアルロッタ君二号……以下煩わしいから二号に、ちょっぴり顔を近付けて話しかけた。
「ライズって、確かエルフだった……よな?」
「ギーギーギー。 ソウデスガ、何カゴ用デショウカ」
ギー音がちょっとやかましい二号。
ずっと話してるのもアレだし、さっさと聞いてしまおうか。
「じゃあ、率直に聞こう。 魔王とかも召喚できるのか?」
「今ノサイズノ魔王デアレバ、恐ラク可能デス」
「よっしゃ勝利」
思わずガッツポーズを決める私。 ……が、問題はその後の言葉だった。
「デスガ、安全ナ施行ノ為ニハ、コノママ三日程度睡眠ヲ取ル必要ガアリマス……ギーギーギー」
「…………ん?」
私の呟きは無視し、二号は主と同じく眠りについてしまって……。
「……聞いたか、今の」
雰囲気に合わせて、全力でカッコ良く言う私。
「あぁ……だが、たった三日程度だ。 問題ない」
正直、あの異様に寝相が悪い睡眠にそんな意味があったとは思わなかった。 っていうか、昔『寝相が悪いのは睡眠環境が悪いから……』とか聞いた気がするんだけど――。
もうちょっと安眠すれば、三日もかからないんじゃないかと思わないこともない。
「うん! ヤード姉ちゃんは、ボクがなんとか説得してみせるよ〜」
そっちの方は、まるっきりジェイドに任せたほうが早い気がするけど。
――そんな感じで、世界にもちょっと光が見えてきたとき。
「――――っ!?」
「……、…………!」
「――……!」
宿の外から聞こえてきたのは、まるで自殺現場でも見てしまったかのような、
ヤバい感じの、しかもけっこうな人数の絶叫だった。
「……え」
「ッ――。 ちょっと行ってくる!」
と、真っ先に駆け出したのはジェイド。 荷物の上に置いてあった、でっかい中二デザインの斧を持って――それ重くないの?
「あ……。 ――アリア、ボクたちも」
さっきまでの嬉しそうな顔とは一転、真面目な表情とトーンでクリスちゃんが提案する。
「クリスちゃんがそう言うなら――」
……ええ、もちろん地獄の果てへだって着いていくとも。
こんな感じで、ジェイドの無双オレカッケーショーへのチケット・特等席を、
私はどういうわけか獲得してしまったのだった。
◆
――事件の現場に近づくにつれて、あの叫び声は、段々ちゃんとした言葉に聞こえてきた。
「いやーっ!! 海賊がやって来たよーっ!」
「逃げるんだ!」
「おい……人が捕まっているぞ!」
「違う――あれは!」
やけに芝居がかった口調は、洋画とかそういうのの吹き替えバージョンを思わせる……ってのはどうでも良いとして、
私は彼らが騒いでいる『捕まってる人じゃないもの』のほうを向いてみる。
「……ええと、あれが海賊団?」
でっかいドクロマークの旗を掲げて、でっかい大砲も設置されて、お宝っぽい輝きがキラキラと眩しい……あの船か。
見ればすぐ解るくらいには、見事なほどテンプレ通りだな。
その船首像……某海賊漫画では麦わら帽子でゴム人間の奴が良く座ってるような所に、妙に威張り散らして胡坐をかいている、
黒い布を頭からすっぽい被った、ちっちゃい奴がいた。
「で、あれが船長だと。 ……ちっちゃいな」
……と、多分相手も気にしてるだろう事をつぶやいてみた時。
「アリア!! あれっ、ボク知ってるよ!」
何やら興奮――いや、慌てた感じのクリスちゃんが、ちっちゃい奴を指さしてそう言った。
……いや、ちっちゃい奴じゃない。
クリスちゃんが見ていたのは、そいつの前に居る、
縛られて吊るされたM気性の緊縛フェチ……じゃなくて、多分さっきの人じゃない捕虜。
「Oh! Mermaid!?」
「……でも、ジェイドならきっと――」
メインヒロインみたいな感じで、クリスは祈るようにそう呟く。
ジェイドに多大なる信頼を寄せているのが見てとれるけど……なんか、なんかなぁ。
「おい! そいつを放せ!」
「…………」
と、そんなヒロインの期待も虚しく、ガン無視されているジェイド。
放せと要求された彼の黒ずくめさんの視線は、
ジェイドじゃなくもっと向こう側にあるようで………………。
……あれ、また時間が。
「……へっ、無視すると言うならこちらにも考えがある」
「…………」
短絡的すぎないかな。 一回呼び掛けただけじゃん。
――かくして、
正々堂々と勝負をしない事に定評のあるジェイド君対黒ずくめさんとの闘いは始まったのだった。
……あれっ、これって闘いと言うんだろうか。




