第三十七話「早寝早起き世界滅亡」
「……一秒たりとも無駄にするわけにはいかない」
異常に格好付けたジェイドの声が、宿の一室に響き渡る。
私の横には、雰囲気に合わせて神妙な顔をしているクリスちゃん……と、
怖いくらいに悪い寝相のせいでボサボサになった髪を、虚ろな半目のまま、手で梳かしているライズの姿があった。
……いつの間にか、ジェイドの某カカロット風ヘアーは直っているようで残念。
「だから……、単刀直入に言おう」
彼はキメ顔でそう言った。 いや、ほんと無駄に格好付けすぎだって。
何かヤバいもんでもキメてんのかと、そう疑いたくなるくらいには。
「――あと少しすれば、この町の付近に魔王がやって来るらしい」
「え……」
ライズは寝起きで、私はこの通り。
とっても可哀想なことに、ジェイドの話にリアクションを取ってくれるのはクリスちゃんだけだったらしい。
――て言うか、魔王って。 魔王って……ぷぐぐぐぐっ。
やばい。 モノローグでさえ笑いが抑えられない。
いやいやいや、まさか町が二つ目……あ、最初の含めたら三つめか。 とにかく、その位にしてラスボス戦に突入しそうになるとは思ってもみなかったぞ。
でも、前に宣伝のやつ発見した大会とか、さっきクリスちゃんが見せた、とっても深そうな闇だとか、あとはちょっと前の花火で見た夢っぽいロリアリアちゃんだとか、
私を置いてまで追いかけて行った人魚とか……いや、ここらで止めとこう。
……ってな感じで、まだまだ回収してない伏線っぽいものはいっぱいあるじゃん。
だったらそういう視点で考えても、ここで死ぬわけないし大丈夫だ……。
「このままだと――っ」
「……そう、だね。 ねえ、アリア! ライズ!」
メタな考えを展開していた意識の片隅で、ちょっと切羽詰まったクリスちゃんの声が聞こえた。
「あ……え、あぁ。 何だ?」
にしても、ライズがまだ覚醒してない。 この様子だと、午前中はずっとこの抜け殻状態が続きそうで心配になるな。
「あのさっ、さっきジェイド……魔王が来るとか言ったよね?」
「……おう、そんな言葉を聞いた気になってきたぞ」
「おい待てアリア」
素早い突っ込みが私に突き刺さる。 そんな事言ってるこいつも、今更常識人を気取ろうったって……そうは問屋が卸さないと思うんだけどな。
……と、そんな事思ってるとき。
「でもでもでも、ボク良いこと知ってるんだ〜っ♪」
クリスちゃんが右手をピシッとあげて、とってもご機嫌にそう言った。 かわいい。
「……いいこと?」
寝癖をなんとか直して、そこで限界が来たのか、
こっちに勢い良く倒れてきたライズを受け止めながら、私は聞いてみる。
おい、さすがに寝起き悪すぎるだろ。
「その〜……魔王ってね。 長い年月をかけて復活するんだけど、実はすっごく強くなるのは、最後の一週間くらいなんだ」
「……ほうほう」 「続けてくれ、クリス」
ジェイドの言葉に小さく頷いて、クリスちゃんは再び口を開いた。
「だからすぐ召喚して、スパっと倒しちゃえば良いんだよ♪」
「……なるほど」
「………………ん?」
サラっと納得するジェイド。 何とか再び意識を取り戻したライズ。 素晴らしい笑顔で、これまたサラっと言うクリス……。
あれ、これってそんなに危機じゃなかったわけ?
ナルシ臭漂うジェイドのくせにけっこう慌ててたから、てっきりチート有りでも倒せないくらいの強敵なのかと……。 あれ? ラスボスは?
「――でも、どうやって魔王の召喚を……。 俺でも無理な力技だが」
「お・れ・で・も……?」
ちょっとイラっときて、私はジェイドの言葉を繰り返す。
「うん……たしかに、人間にはもう使えない技だってきいたよー」
……でもまあ、そういうのに詳しそうな子がここにいるじゃないか。 人外っていうのが、今まであんまり役立ったことのない彼女が――。
「ライズ。 起きろ、世界の危機だって! お前が寝てたら、地球滅亡するぞ!!」
「……ちきゅうー?」
「あっ……」
咄嗟にジェイドをチラ見してみるが、別に何にも聞いてないようだった。
うんうん、どうして隠してるのかは自分でもわかんないけど、大丈夫大丈夫……。
「…………ん〜」
「ライズっ!!」
うっすらとその目が開く。 ライズは謎の寄声をあげて、『もうちょっと寝かせて』とでもアピールしているようだった……が、
ここで寝かせるもんか。
「……おおい、人類滅亡だぞー」
「……ん」
お、ライズの手がちょっとだけ動いた!
……で、その手は便利グッズがたくさん入ってるだろうポケットに移動して……、
そして何やら、一つのカエルっぽいロボットを取り出した。
「…………」
それにバトンタッチするかのように、再び熟睡するライズ。
「……おう、ジェイド諦めろ」
ちょっと絶望しながら、私がそう言ってみると。
「ちょっと待ってアリア! それ、しゃべって……」
「……ん?」
「……ギーギーギー。 ワガハイ、スイミン用ロボット・アルロッタ君二号デアル」
どっかで見たことがあるような、ありふれた睡眠用ロボットがしゃべり出したのだった。




