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チョロイン☆デビュー!  作者:
海辺の町
36/83

第三十五話「待ってくれ女神様」

「こういうのは接客が大事なの。 良い? 挨拶はきちんとしてね」

「らじゃ〜っ!」 「了解」

良く考えてみれば、まだ研修やら何やらもやってなかった私ら。


ジェイドとライズは寝てるので、まだまだド素人の状態だが……。 私とクリスちゃんは、これから一段階くらい上になるッ!

開店……というか、朝飯の時間はもうちょっと後。

それまでに色々叩き込んで、しっかり働いてもらう予定だ――とか何とか、先ほど思いっきりチョロい部分を曝け出した宿子ちゃんは言っていた。


「じゃあ……。 いらっしゃいませー」

「「いらっしゃいませー」」 多分『真似しろ』ってことだろうから、とりあえず宿子ちゃんの言葉を繰り返す私。


「いらっしゃいませー!」

「「いらっしゃいませー!」」

「いらっしゃいませェー!!」

「「いらっしゃいませェー!!」」

「いらっっっしゃいやせェェェェーーーッッッ!!!」

「「いらっっっしゃいやせェェェェーーーッッッ!!!」」


「……ふう、これくらいで充分でしょ」

――うん。 なんかこれ、どっかで見たことある気がするんだけど……。


「じゃあ、早速準備に取り掛かりましょう! 私に着いてきて」

「わかったー」 「ワカッタァー」 暇だったので、クリスちゃんの物真似に勤しむ私。

でもあんまり似てないしちょっと気色悪いし……朝からこんな事するんじゃなかった。



――で、言われた通りに着いて行って、歩くこと約一分……。

我々はついに、この宿の二階へと足を踏み入れることに成功した! ヤッター。


ここは非常にリゾートバイトっぽい場所なんだけど、別に二階には何もなかった。

爪が落ちてたり、残飯がいっぱいあったりする事もなく――。 うーん、ちょっと期待してたりはしたんだけどねぇ。


「でね……ここでは皆、この二階に来て三食をとる」

「ほうほう」

どうでもいい話だけど……そういえば私、日本で生きてる間にホテルとか行ったこと、ほんとに全然無かったなぁ。


「早い話がバイキング形式よ。 だから、あなた達二人は料理を並べて、あとテーブルも拭いておいて欲しいの」

「了解!」 意気揚々と返事をする私。

だって、こういう所ってあれだろ? 何かの切っ掛けで、合法的につまみ食いが出来るという可能性高いじゃん。


「そう……じゃあアリア様、クリスちゃんは任せたよ〜」

「おうとも、任された!」

なんか任せたと言われたので、ここは任されてやろうじゃないか。

さあ、美味しいご飯よッ! 我が胃袋に、いつでも飛び込んで来るが良いぞッッ!!


「ようしクリスちゃん! やってやる……」 意気揚々と、私は後ろを振り向いた。


「…………ぞ」 ――が、いつの間にか時間が止まっててね。 クリスちゃんはおろか、宿子ちゃんも、その辺にいるモブキャラも、全員がピタッと動かなくなってたのである。



■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■-□-■



――久方振りに目にした、雪のように真っ白な長い髪。 整った顔立ちと、どうにも『うざい』とか『腐れ外道』とかの表現が似合う、難有りの性格……。


「ヤッホー☆ 女神ちゃんだよ〜っ」

「帰れ」

俺……ジェイド・アラバスターは、そう言って彼女の顔面をベシリと掴んだ。

「ぐ〜っ、むぐぐぐっ……」

「あぁ? 聞こえないな」 何やら言いたげなので、取り敢えずこの右手を放してやる。


「うぅ……ぷはぁ〜っ。 何なの腐れ外道、アンタを生かしてやってんのは、この女神ちゃんの名采配の賜物だって言うのにさ」

「名采配? ノルマが何たらかんたらとか言ってたから、仕方無く転生してやったの言うのに……」

やれやれ、とでも言うようにため息をつきながら、俺は頭を掻き毟った。


「それで、女神サマ? わざわざ時間止めてまで来たんだから、それなりの要件があるんだろうな」

この女神とやらが俺に会いにきた時には、外の世界の時間は止まっている。


一分か二分程度の短いものなら、それでも良いのだが――。 何という事か、奴の話は無駄に長い。

平気で一時間や二時間、はたまた長い時には半日を越えるほどに、

その口を止める事なく、ペラペラペラペラと喋り続けるから、鬱陶しい事この上ないのだ。


「そうそう、魔王出現のお知らせに来たんだけどぉ〜」

「なっ……」 どうせまた、どうでも良い事だろう……そう高をくくっていた俺。

放たれた予想外の言葉に、思わず口をぽかんと開けてしまう。


「でもぉ〜、ジェイドってば、この女神ちゃんの話が『鬱陶しい事この上ない』らしいよねぇ……」

「お、おい! もうちょっと詳しく……」

天上へと去っていく女神に、手を伸ばしたときにはもう遅かった。


「じゃあネ〜っ☆ うっと〜し〜女神ちゃんは、ここらで消えちゃうよ!

 ねえ嬉しい? そ・れ・と・もぉ……もしかしてっ、悲しかったりする??」

まくし立てるように話しながら、性根の腐った笑みを浮かべる女神。


……こんな性格の奴が、女神などと崇められていて良いのだろうか?


「ちょっと、待て! おい!」

「ばいなら、ならいば〜っ! 魔王に殺されても、アタシのせいにはしないでよね〜っ」

そんな捨て台詞を残して、女神は消えていった。


「…………」

もう一度時は動き出し、だが俺は一人、取り残されたような気分になっていた――。


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