第三十四話「『ちょっと待って』は魔法の言葉」
なんかシリアスっぽくなってますが、多分そっち系の展開にはなりません。
「……ふぁあぁっ、おはようクリスちゃん」
「――ん、アリア起きたのー? おはよ〜っ」
いつかの朝を思い起こさせるような日差し。 ただ一つ違うのは、ここのカーテンの遮光性がヤバいということ。
……あと、ちょっとくらいは朝に耐性もついてきたかな。
「にしても……クリスって、いっつも朝早いよな」
寝覚めが爽快なのも、けっこう久しぶりな気がする。 ベッドから降りながら、私はクリスに話しかけた。
「うん。 昔は生活りずむとか……けっこー、ガミガミ言われてたんだ〜」
「へえ……それ、実家とかの話なのか?」
クリスちゃんの実家……。 フォーサイス家の――私にとっては未知なる世界の話である。
ふと思ったんだけど、私ってそういう話振られたら対応できないよな。 一人だけ話さずに相槌打ってるってのも良いけど、いつか困るときが来るかも……。
「そうだよ〜。 みんな、ボクじゃなくってフォーサイスの名前ばっかり見てたから」
「うん」
「ボクも、あんまりボクらしく生きてけなかったの。 ……だから逃げ出した」
クリスちゃんのクリクリした瞳が、少し輝きを無くした。 その視線は白い床に落とされて、何もない場所をただ見つめている――。
「……あっ、変な話しちゃってごめん! ただ――」
「――ただ?」
聞き返す私。 ……心のどこかでは、何かをちょっと期待していた。
「……アリアなら、怒ったりせずに聞いてくれると思ったんだ〜」
悲しげな中で、ちょっぴり笑みを浮かべてつぶやくクリスちゃん。 かわいい。
もうその可愛さといったら、クリス『ちゃん』というかクリス『たん』とでも呼んだほうが良いんじゃないかってくらい。
でも『たん』とか『きゅん』とか現実世界で言い出したら、人生が終わってしまう気がしたので止めた。 ほんとに私の人生、一回死んで終わってるもんね。
――でも、なんか心配だ。 つらい事やら苦しい事やら、意外と人に言えずに抱え込んでるタイプなのかも……。
過去の経験から言わせてもらうと、そういう系の子は爆発したらとっても面倒くさい。
だが、クリスちゃんはとてつもなく良い子だから、
面倒くさいというよりも、危ないことになる可能性のほうが高い……。
ううん……ほんと、どうにかしてやりたいんだけど。
――ちなみに、ライズはとんでもない寝相で、寝癖もとんでもない感じで眠っていた。 ジェイドはまあ、没個性らしく普通に寝てた。
◆
「さあっ、今日から仕事よ! ジェイドくん、ライズちゃんも起きてっ!」
「うぅうぅぅううぅう……」 宿子ちゃんに起こされて、この世のものとは思えないようなうめき声をあげるライズ。 やっぱりあなた、けっこうネタ要素濃いよ。
で、こっちのイケメンカッコワライ男は……。
「うぅうぅぅううぅう――あとちょっと、ちょっとだけ……ッ」
何故か無駄に格好付けた口調で、『うぅうぅぅううぅう』とか唸る。
そして宿子ちゃんの足首を掴むと、何やら未練たらたらの言葉を吐いて、再び間抜けに眠り始めた。
ちょっと待って、って……。 それ、絶対起きてこないパターンの言葉でしょうに。
でも、やっぱりジェイドあるところにチョロインあり。 ちょっと頬を赤らめた宿子ちゃんは――。
「……もう、しょうがないねぇ――。 じゃあクリスちゃんとアリア様!」
「はいっ!」 「あ、私だけ様付けなの?」 どうしてだろう。
そんなこんなで、今日の労働ライフは始まったのであった。
……てめえジェイド、人魚追っ掛けたり眠ったりと良いご身分だな。




