第三十二話「花火・前編」
バリッ……ゴリッ……。
「はぁ……やっぱり、祭りといえばこれよね」
「キエエエエエエエエエッ!!」
「あら……」
「……いや、『あら〜』とか言ってる場合じゃねえよ」
「ああ、絵面がやばいことになってるな」
何話か前に言った、『ライズは比較的常識人』だとかそういう発言――。
取り消していいっすか?
だって、この地獄絵図。 断末魔が響く中で、可憐なハーフエルフのツインテ少女がそれをグチャっと食っていく――。
しかも、ここは屋台の前。 丁度買って、食べて……ってしてる人たちもたくさんいて、
もう悲鳴がやばいことやばいこと……。
近所の人とかからの苦情がやばそうなんだけど、
クリスちゃんも他の人もぜんぜん平気そうだし、もう慣れたのか?
それとも、普通に聞こえてないのか――。
「ねえアリア、そんなところで突っ立ってないでさー」
「あ…………え? お、おうクリス。 ひさしぶりだな!」
背後から寄ってくるクリスちゃんの気配に、まったく気が付かなかっただなんて……口が裂けても言えない。 冒険者失格である。
「さっきから会ってるけど……。 それでね、金魚すくいやらない?」
「金魚……」
至極、まっとうな申し出である。 祭りといえば金魚すくい。
だけどね、さっきライズがとんでもない事しでかしてくれたから……。
「――金魚って、普通の金魚だよな? モンスターじゃないよな?」
「え、うん。 ふつうの金魚」
「ならよかった」
とりあえず、この地獄から脱出せねば。 その一心で、私はほぼ無意識にそれをOKした。
「じゃあ私もやろう。 屋台はどこに……」
「こっちだ」 と、ここにきてやっとジェイドが役立った。
「お、そっちか…………」 あははははー、とか苦しい笑い声をあげながら、
私は吸い込まれてるような足取りでそっち側へと向かう。
――その姿はまるで、恐ろしいライズから逃げているようにも見えたらしい。
そうだろうね。 自分でもそう思ってたしね。
◆
――ってなわけで、まずは金魚すくい。
「ようしっ、やってやるぞ!!」とか意気込んだのはいいものの、
結果は惨敗で0匹。 あの……1匹も取れなかったらさ、店の人がすくって渡してくれるじゃん。 あの時が一番こたえるのよ。
で、次がヨーヨーすくい。 またもや惨敗。 詳しい様子については……うっ、頭が。
その次は射的で、その次が型抜き――……。
型抜きとか、良くマンガやアニメで見るけど……実際にやったのは、正直これが初めてだった。 意外と難しいもんだな。
で、この型抜きをやってる最中にライズが合流してきて、
ほんと格好良くシュパっと型を抜いて、まわりが拍手喝采で……。
まあ、そういう事になったのも一応理由がある。
ライズが挑戦してたの、実はすっごい難易度が高い『人魚』とやらなんだ。 鱗の一つひとつ、長い髪の毛の光沢やらツヤやら一本一本、丁寧にやらないといけないやつ。
それをしゅぱぱぱぱーっとやっちゃったもんだから、もうそれはそれはすごかったよ。
「……っと、気付けばもう夜か」
空を見上げれば、いつの間にか薄暗くなっていた。
「花火が八時半……今は八時二十五分……。 来るぞゆう――アリアッ!」 とりあえず、こんな事言ってるバカは置いといて――。 って言うかお前、今『ゆう』って言いかけたよな?
「……そろそろ、場所でも取りに行きましょうか」
「りょーかいっ! ボクいい所知ってるよー」 ……と、ちょっと常識人疑惑が浮上してきているクリスちゃんが手を挙げる。
彼女が言うには、この会場の裏の土手――そこの突き当りら辺が、ちょうど人も居ないし綺麗に見える特等席なんだと。
「ほう……じゃあ、そこ行くか」
「おっけ〜、ボクに着いてきてっ!」
そう言うとクリスは、華麗な身のこなしでクルっと進行方向を変えると、
素早くタタターっと走り出した。




