第三十話「奢りという概念自体が無くなればこの世はどれだけの喜びと希望に満ち溢れるのだろうか」
「はあ……はあ……」
息を切らして、先に行ってしまった三人を追いかけて……、
到着した先は、大きな木造りの店だった。
看板には『たなか』とか『すずき』とか、そういう感じのありふれた苗字が書かれてて、店の見た目はさながら日本住宅。
何となく懐かしくなるようなここに揃えてあったのは――。
たぶん着物とか浴衣とか、その辺だろうね。
「もう、アリアおそーい!」 とクリスちゃん。
「あ、最下位のやつはスイーツ奢るって約束だからな」 と、クソ生意気な殴りたくなるような面で言い放つジェイド。
……最下位? 奢る?
この守銭奴と名高い私が、そんなチャンスを逃していたと――……え?
「――そう。 さっき、ここに向かって走り出したでしょ?」
そんな時には、頼りになるライズが説明してくれる。
この場にいる面々の中では、間違いなく一番の常識人なのだ。 童貞くさいけど。
「その途中に、何やら競争っぽくなって」
「ふむふむ」
「そうしたらクリスが『本気じゃない人がいる!』って」
「ふむふむ」
「で、色々あって『最下位にはペナルティを付けよう』と」
「ふむ……」
「まあ最後に到着したのは私だったんだけど。
それで『スイーツでも奢る』って話になってたら、その……」
ライズの言葉が、そこでピタっと止まった。
「――だいたい分かった。 私のこと忘れてたんだろ?」
ちょっと気まずそうに、苦笑いしながら頷くライズ。 しかし、スピード対決でライズが負けるとは意外だな――。
というか、まあ本気じゃなかったんだろうな。 時間止めたりミサイル乗ったりして、ガチンコで対決しようとする二人の姿は想像するに容易いし。
……あ、オチ○コじゃなくてガチンコだよ。 私、こういう下ネタ言わなきゃ気が済まない性格なんだ。
◆
――で、浴衣のほうはパパっと買っちゃったんだけどね。
問題はこれ。
「いっただっきまーすっ!!」
甲高いクリスちゃんのロリボイスが、蒸し暑い空に響く。 ……こんなに晴れる必要ないのに、本当に雲ひとつない快晴の空である。
「財布が……」 ちょっと涙目になりながら、私はつぶやいた。
このスイーツ……『なんちゃら・ザ・なんちゃらかんちゃら』とかいう長ったらしい名前だったんだけど、見た目はかき氷とほとんど変わりない。
そのわりには、ものすごく高い。
これはあれなんだってさ、あのー……。
上級魔術師の魔法で作られた、スペシャルな氷を、これまた上級の剣士が、ふわっふわに切り刻んでできたもの。
シロップについては、とくにすごいものじゃないらしい。
「――お前、高くつきやがって……」
「ほらアリア、食べ物に対して悪態付いてちゃ仕方ないじゃないの」 確かにそうだけどさ。
だって、ためしに一口食べてみてもさ、
どう考えたって普通のかき氷に銀貨十枚ってやばく……。
「……うまっ」 「でしょ?」
――値段に相当するお味でした。 うん。
……っと、花火大会まで、気づけばあと三時間。
私はだんだん暗くなってきた空を見つめながら、記憶の端に微かに残る『花火大会』のことを思い出していたのだった。
ネット復活の記念に投稿……。
流行りの長文タイトルです。 ほんと奢りとかいう言葉きらい。




