第二十九話「ゆかたびじん」
夏祭りといえば、浴衣。 浴衣といえば、浴衣美人っ!!
宿をちょっと離れた道端で、私は――もちろん心の中で――そう叫んだ。
でも、この世界に浴衣ってあるんだろうか?
何せ和服だし。 ここ異世界だし。 剣と魔法の、むっちゃ洋風な世界だし。
――と、そんな愚問を抱いた私はバカでござんした。
「あ、そういえばアリア知ってるー?」
「……ん?」
クリスちゃんが放った、殺傷力ばつぐんの甘々ロリボイスに答える私。
表情は一応平静を保っているけれども、油断したら鼻の下が伸びていくような気がした。
「ゆかた? とかー、にもの……とか言う服。 ジェイドがちっちゃいときに考えたんだってさ」
――で、そんなロリボイスから紡がれた言葉は、やっぱり主人公マンセーのあれだった。
「あ、あぁ――そうなんだ」 苦笑する私。
浴衣が存在した喜びと、ジェイドに「SUGEEE!!」ってされた悔しさが入り混じって、心中がめんどくさい事になっている。
「……まあ、考えてはないんだけどな」 ぼそっと独り言をつぶやくジェイド。 そして、
「煮物……?」 なぜか、そこについて本気で悩むライズ。 いや、ただの言い間違いだから。 気にしないでいいから。
にしても。
「……え? まさかのそういうパターンなの、おまえ」
「そういう、とはどういうパターンなのか、さすがの俺でも説明無しでは解りかねるな」
さすがの俺。 さすがの。 さすが……?
――ついでに言っておくと、『そういうパターン』とはあれだ。
元々の世界にあったものを、こっちでも作って大儲けするというか……俺すげぇえぇぇぇ、ってするみたいなあれ。
この世界では、肉の両面焼きとか……そういうのは、さすがに出来てるから大丈夫だけど。
もしかして、それもこいつが流通させたやつだったり?
「まあ良いや。 私は浴衣の美人さんが見たいだけだから……」
「――そうか、浴衣か」 私がつぶやくと、待ってましたとばかりに、ジェイドが素早い反応を見せた。
そして――。
「よしっ、じゃあ早速買いにいくぞ!」
「おーっ!」 「おー」 「……えっ」
三人はそう叫ぶと、どこかに向かって一直線に走り出した。
ポカーンとしながら、立ち尽くすばかりの私を気持ちいいほどにガン無視して。
「…………あれ?」
吹いて来た爽やかな海風は、この自慢の青髪をさらさらと揺らして、瞬く間にひゅーっと去っていった。
その姿が、これまた爽やかに私を置いていった三人と重なってしまったらしく、
またもや私は、とてつもない寂しさと悔しさと虚しさと、あと愛しさと切なさと心強さに襲われることとなった――。




