第十四話「夢が壊れるその瞬間」
「――リア、アリア! おきてー、朝だよっ。 買い物いこーよーっ」
「ん……? あ、クリス……おはよぉ」
クリスに身体を揺さぶられて、私は眠りから目を覚ました。
瞼は半分閉ざしたままに、起き上って布団をたたみ、そして眠気に耐え切れず完全に目を閉じる。
「もー! 起きてよアリア、氷魔法かけるよー?」
「魔法……かけてみて、気になるから」
クリスの声に、私はだいぶ適当に答えた。
――すると、次の瞬間、身体にひやっとした感覚がはしり、心臓が跳ね上がったような気がする。
「うぎゃっ!?」 「あ、起きたーっ」
私が冷たさに耐えかね、眼を見開いて飛び上がると、クリスは嬉しそうに、持っていた杖を離した。
一瞬だけ、雪のようなものが私の身体の上につもっていたような気がする。
「買い物いこーよアリア、ジェイドもライズも寝ぼすけさんだしさっ」
「うぅ……今何時?」
「六時五十二分だよーっ、早く着替えてっ!」
「クリスも着替えてきて……話はそれから」
と、もう一度眠ろうとした私だったが、とある事に気付いて話を続けた。
「ってそーだ、着替えって何着りゃいいんだ?」
いっつも籠手とか鎧とか付けたまんまじゃ重いし。 こう見えて私は魔術師なんですから。
「もっちろん――って、アリアさ、魔法使えるっけ?」
魔法……? 使おうと思えば使える気がするけど。
「あのねっ、とりあえず着たい服をイメージして……」
クリスの指示通りに、私は適当なファンタジー服をイメージしてみようとする。
うーん、ワンピースでいっか。 鉄壁スカートで……あっ、マントも良さげだな!
「おけおけ、できたできた」
「……桶? それはそーと、できたんならね……」
クリスは眼を閉じた。
両手を身体の前に伸ばし、組み合わせると、まばゆい光が放たれる。
まるで、手の中に発光体があるように、指の隙間から漏れている光――。
「……これが魔力、か?」
「そう……こうやってね、えいっ!」
組んだ手を離して、すぐに発光している元をパチリと叩き潰すクリス。
するとその輝きは大きくなって、身体の全体を包み込んだ。
「ね、見てっ! すごいでしょーっ」
瞬く間に、着ていた寝巻が、豪華なローブへと変わっていく。
「おぉ……っ」
「へへーんっ、さっ!アリアもやってー」 急かすクリス。
――そこにあったのは、夜空を思わせる神秘的な衣装と、それを身に纏いし幼女。
まるで伝説のようなその光景に、私はすっかり目を奪われてしまった。
私の持つ語彙では説明しきれないので、とりあえず特徴だけは描写してみよう。
全体的に衣服は紺色。 腰の大きなリボンは水色で、帽子に結ばれたリボンも同じく水色。
で、所々に金色の飾りが散りばめられているのが、これまた夜を駆ける魔女姫を思わせている。
ちなみに、その形はスカート部分が少しだけふんわりとしたロングドレスだ。
「肩出し&萌え袖……いいね、ふわっとしてて……ちっちゃくなって、袖から中に入り込んでみたい形状」
ぼそっと言った怪しく聞こえる呟きは、クリスには聞こえてないみたいだ。 よかったー。
「……魔力って、どうやれば出てくるの?」
「本気で『私はできる、光れーッ!!』って思ってみてよ! そしたら出てくるはずだよ」
アドバイスに従って、前世での常識たるものを全て排除しようと心がける。
そして自分自身を洗脳するッ! 洗脳も何も、ここは異世界なんだし……前世の常識はここでの非常識だ。
(私はできる、やればできる、僕も君もみんなできる、諦めなければできる……)
「いけッ、ワンピース&マントーーッ!!!」
勢いに任せて、私は叫んだ。 ここまでしても、ジェイドにライズは起きる気配がない。けっこううるさかったと思うんだけど、なぁ……。
――と、そんなことを考えていると。
「うわっ!? これこれ、成功なのかっ!?」 さっきのクリスみたいに、身体が光りだした。
「おーっ、アリアできてる! すごいじゃーんっ♪」
楽しそうに拍手している、そんなクリスの反応を見たところ、一応成功はしたようだ。
感覚もつかめた気がする。 いけるぞ、殴って魔法が使える魔術師デビュー!
それにそれに、想像通りのものが出来るんだったら……くぅ、イケてるじゃん(我ながら)あのデザインっ。
◆
……とまぁ、期待した私が全て間違ってましたわな。
結果はみごとに、色もぐちゃぐちゃ。
髪色に合わせて水色とか、紺色とか想像してたんだけど……これまた綺麗な黄色に仕上がりましたよ。
「……めちゃくちゃ明るいな」
「かわいーっ! やっぱりすごいよアリア、初めてでそんなにいくなんて!」
でも、クリスはこれが想像通りだと思ってるみたいだし、一応綺麗だし、これで成功にしとこう。
細かいことはまあ後から学べばいいっしょ。
私だったら、別にファッションとかあんまり興味ないしさ。
――にしても。
私、日本にいた時は魔法使いとかすっごい憧れてたんだけど……新鮮さが無くなってきちゃったなぁ……。




