良い思い出、苦い記憶
翌週、私はその店での仕事を始めた。横浜の賑やかなエリアにあり、白と青の外壁が目を引く店だった。入る前に、手のひらが汗ばみ、少し震えているのを感じた。ごくりと息を飲んで、中へ足を踏み入れた。
店内は比較的広く、ボールやスニーカー、Tシャツなど、様々なスポーツ用品が並んでいた。そこで店主と対面した。白髪交じりの中年男性で、知的でどこか皮肉な表情を浮かべている。
「おや」彼は私を見て言った。「君が山田さんだね。高嶺から聞いているよ」
「はい、私です」私は丁寧にお辞儀をした。「店主さんでいらっしゃいますか?」
「そうだよ。私は池田浩司という」
握手を交わし、彼は店内を案内しながら、商品の説明や私が行う仕事について教えてくれた。
「やってもらうことは簡単だ」彼は言った。「接客、棚卸し、在庫整理。難しいことは何もない。ただ、信頼できる人間が欲しかったんだ」
「俺は……」「私は」少し気弱に呟いた。「私は信頼できます。約束します」
「そうだといいがね。さあ、始めようか」
そして仕事が始まった。驚いたことに、何一つうまくいかないことはなかった。段ボールが倒れることも、商品が壊れることもなく、お客様も皆親切にしてくれた。高齢の女性がスニーカー選びを手伝ってほしいと言ってきた時は、笑顔で店を後にしてくれた。
一日の終わりには、私はへとへとだったが、幸せだった。誰かにとっては、ただの何気ない一日だろう。私にとっては? それは歴史に刻まれる瞬間で、私は笑みが止まらなかった。池田が近づいてきて、口元に笑みを浮かべた。
「ねえ、山田さん」彼は言った。「初日で何も落とさなかったのは、君が初めてだよ」
「たまたま……」「運が良かったんだと思います」私は控えめに呟いた。「運が良かったんでしょう」
「その調子なら、ここでやっていけるよ」
店が閉まると、街はすっかり夜の闇に包まれていた。笑顔のまま家路を歩いた。団地に着くと、郵便受けに何か入っていないか確かめた。
請求書の他に、小さなチラシも見つけた。そこにはこう書かれていた。
「バレーボール選手募集!
バレーを趣味で楽しんでいる方、または競技経験者の方、チャンスです!
対象年齢:17歳以上
実力不問。全てのレベルを受け入れます。
この機会をお見逃しなく。あなたの参加をお待ちしています!」
私はその文章を目にして、固まってしまった。これは本当なのか? まさか?
その瞬間、選手だった頃の記憶が蘇ってきた。サーブ、アタック、ブロック、メダル……すべてが私の口元に小さな笑みを浮かばせた。
しかし同時に、成功より失敗の方が多かったことも思い出した。ネットにかかるサーブ、タイミングを外すアタック、腕の間をすり抜けるレシーブ。その記憶が、笑みを消し去った。
チラシを折りたたみ、ポケットにしまった。自分がそれに備えられているのか、正直なところ分からなかった。そして、もう一度挑戦したいのかも分からなかった。
また失敗するかもしれないじゃないか?
またベンチに座らされるだけかもしれない?
11歳の子供にだって負けるんだ! 自分が一番よく分かってる!
……
はっ。運が良くても、結局俺は野良犬以下の価値しかないってことか。
階段を上がり始めると、騒がしくてうるさい隣人たちの声が聞こえてきた。チラシがポケットの中で重く、そして熱く感じられ、コートでの苦い記憶が混ざり合う。そこではいつも、私が最初にミスをし、最後に選ばれる存在だった。
家に入ると、心が温かくなる光景が目に飛び込んできた。エアリとハルカがテーブルに座り、エアリが何かクレヨンで描いているところだった。
「パパ!」彼女は叫び、椅子から飛び降りて私のところに駆け寄った。「帰ってきたんだね!」
彼女はものすごい力で私に抱きつき、私はよろめきそうになった。私も彼女を抱きしめ、ハルカが後ろから近づいてきて、いつものように私の心を溶かすような笑顔を見せた。
「どうだった?」彼女は首をかしげて尋ねた。「初出勤の感想は?」
「うーん……」「まあ……変わってたかな」私はうなじをかきながら白状した。「でも、楽しかったよ」
「パパ! 見て!」エアリがテーブルに走り寄り、紙を手に取った。「絵を描いたんだ!」
私はその紙を受け取った。そこには三体の棒人間が描かれていた。一人は背が高く茶色い髪、一人は中くらいの背丈で黒く長い髪、そしてもう一人は小さな赤い髪の人物が、ひまわり畑に立っている。そして隅には、幼い文字で「わたしの かぞく」と書かれていた。
目の奥が熱くなるのを感じた。その絵はとてもシンプルで、子供じみていたけれど、私にとっては世界で一番美しいものだった。エアリを見つめ、全身で彼女を抱きしめた。
「すごく素敵だよ、エアリちゃん」私は声を詰まらせて囁いた。「世界で一番素敵だ」
彼女を放し、頬にキスをした。
「冷蔵庫に貼ろうか?」
「うん!」エアリはその場でぴょんぴょん跳ねながら叫んだ。
キッチンへ行き、冷蔵庫のマグネットを取って、絵を貼り付けた。ハルカが後ろに現れ、絵を見てから言った。
「大丈夫? なんか変な顔してるよ」
「大丈夫だよ」私は嘘をつくのがいつも下手だった。
「大丈夫じゃないね。何があったの?」
目をそらした。彼女に隠し通せるはずもなかった。だからポケットからチラシを取り出し、彼女に見せた。彼女がそれを読むと、目が輝いた。
「和希くん! チャンスじゃない!」彼女は大きな笑顔で叫んだ。
「どうかな……」「分からないよ、ハルカさん……」私は囁いた。「もし失敗したらどうする?」
「しないよ! もしそうなっても……大丈夫。少なくとも挑戦したんだから」
うつむいた。まだ迷っていたし、正直なところ、自信があるとは言えなかった。
「考えるよ」それだけ言った。
ハルカは微笑んだ。その笑顔……見ているだけで心が温かくなる。
毎日見ていたいと思った。
一時間後、私とハルカとエアリはテレビで映画を観ていた。小さなエアリは私たちの間に座っていた。そして、彼女は尋ねた。
「パパ。ママとはどうやって出会ったの?」
私は驚いて瞬きをした。無邪気な質問だったけれど、なぜか答えに躊躇してしまった。特にハルカが隣にいるのに。なぜだろう? 自分でも分からなかった。
「ママに聞かせてもらおうか」私はようやく言った。
ハルカは驚いたようだったが、すぐに微笑んだ。彼女はエアリの髪を優しく撫でながら言った。
「そうね……ちょっと長い話になるんだけど。本当に聞きたい?」
「聞きたい!」エアリは目を輝かせて叫んだ。
「分かった。どこから話そうかな……。そうだな」




