17-6 花
…そしてついにヴェール族の夫婦と会う日になった。今日はあいにくにも大雨で、この後の展開がなんだか真っ暗に思えてしまう。
雨の染みたコンクリートが街灯に照らされる。
決して綺麗だ…!なんて事は言えないが、普段の何もない熱気だけを放つコンクリートよりはマシだ。
…普通の部活動のない学生なら大体16時くらいには学校が終わる。
だが今現在の時刻は18時。
…テスト期間前だから図書館で勉強をしていた…!決してそんなわけがない。勇はテスト前に勉強しても点数が上がらないから、逆転の発想として勉強しないことにしたらしい。
なぜ学校に留まっていたかというと…
「あ…きたきた」
「もちもち」
眠気のあまりに「もしもし」が可愛くなってしまった。あざといポイントプラス8くらいはされているんだろう。
「うわきしょ」
そんな事はなかった様だ。
「も!もうすぐヴェール族の夫婦と会うぞ!」
「これから言うことが最後の言葉になるかも知れない…!よく聞いてくれ」
「…お…おう!」
「…紅芋タルト…胃もたれと…」
「…は?」
「ま!マズイ!多分来た!」
霊愛は通話からビデオ通話へと切り替える。
相当焦っているんだろう。スマホの画面が動きまくっていて、普通に気持ち悪くなってしまうほどだ
霊愛は向かってきているヴェール族にスマホを向ける。
「めちゃくちゃに緑色だし…!筋肉ムッキムキ…服装はかなり普通の服だ!」
「女の方は…?」
「女の方もムッキムキ…ムッキムキが二人手を繋いでこっちに向かってきてる!」
「しかも結構怖い顔してるし…!」
「…それマズイんじゃないのか!?」
「今どこ!?」
「今は!神有街のビルがいっぱいあるところ!」
「そ!そこここら辺でも有数なビル街だろ!」
「それだけじゃ分からないって!」
「うるせぇ!行こう!」
「いや来てッ!だろ!」
「うわぁぁぁ!早く来てくれぇぇッ!」
「あ!あそこに看板がある!」
「神有街焼肉来来2駅前店…ッ!」
「頼むぞ!」
「…」
完璧に勇に情報を伝えられた!
普通だったら喜びの顔をみせてもいい頃だが…霊愛の表情は複雑そうな顔をしていた。体にピースの割合をミスった時みたいな顔。
それはなぜか!
…スマホの充電が無くなってスマホが真っ暗になっていたからだ!
しかもいつから真っ暗になっていたか分からないから…希望なんて簡単に持てやしない。
慌てている霊愛を他所にヴェール族は鬼の形相で近寄ってくる。
霊愛は一口だけ生唾を飲む。
味などしないが痺れなんて…緊張が体中に走る。
「…し…仕方ない…」
「あちらから攻撃されてやられるくらいなら…」
「こちらからやるしかない…!」
「光蓮…!」
そう唱えると霊愛の真ん前には光蓮が現れる。
忘れた人のために言っておくが、光蓮とは金箔をつけただけの普通の刀だ。特別硬いと言うわけがなく…普通に側面を本気で殴られたら割れてしまう。
「うぉぉぉッ!」
情けない声とともの霊愛は突っ走る。
ヴェール族の夫婦もそれと共に足が速くなる。多分100mは5秒くらいの速さがあると思う。
「つにゃぁぁッ!」
霊愛は飛び上がって刀を振り下ろす。
ヴェール族の夫婦はそんな霊愛を見て目を丸くし、その場に立ち止まる。…なんだろう…こっちだけ真剣になってるみたいで恥ずかしい。
…だがそれはただの好機でしかない!
霊愛の光蓮はヴェール族の…多分女の方の首を捉えるッ!
カンッ…!
およそ生物の首からはならない音が鳴る。
多分現役のプロ野球選手でも拍手してしまうほどの綺麗な音がヴェール族の女の方から鳴っている。もう怖い…!
幸いにも…光蓮は砕け散ってはいない。
つまりまだ戦の光は砕け散ってはないと言うこと!
「し!死んでたまるかぁぁッ!」
「うぉぉっ!」
剣道の切り返しの様に滑らかに刀を反対方向の首元に刀を繰り出すッ!
…大体結末など予想はできている!
バッキンッ!ガムッ!
首元に当たると共に、光蓮は綺麗に真っ二つに折れて霊愛の頬らへんを横切る。
少し頬から真っ赤の血が流れるが気にしている暇はない、…だって今すっごいピンチなんだもん。
刀もねぇ…力もねぇ…それほど努力もしてねぇや!なんもねぇ…銃もねぇ!人生これきり一度きり!
吉幾三リスペクトで脳内おふざけをかましているところだが、ピンチなことにはなんも変わりはない。
だって今普通にヴェール族の女と体が密着しているんだもん。
「あ…あの…ごめんなさい…」
もう諦めの笑みを見せている霊愛。
ヴェール族の二人は愛も変わらずに怖い表情のままだ。もうこの表情にも慣れてしまった。
むしろ一種の愛情さえも芽生えてしまっている。
この綺麗なツノ…そして尖りすぎてるツメ…極めつけの剣の様に先の尖るキバ。
やっぱりヴォアもこいつもヴェール族なんだなぁと納得する。
「…とりあえず私の体から降りなさい」
「話はそこから聞こうと思います」
あは外見からは想像できないほどの優しい声。俗に言うママボというやつなんだろうか…目を瞑っていたらASMRとかにも合いそうだ。
霊愛は大人しくその女の体から飛び降りる。
「す…すいやせん…」
「…謝る時はすみませんですよ」
「あ…はい…すみませんでした」
「…まぁまぁいいじゃないかヴォレン」
…優しそうな笑みを見せながら二人の間に入ってくるヴェール族の男の方。
…そしてこの女の方の名前は多分ヴォレンなんだろう。…こうなると男の方の名前も気になる。
「…えとそちらの方の名前は」
「あぁどうも自己紹介が遅れましたね…僕の名前はヴァロです」
なんとなく傾向が掴めてきた気がする。
多分ヴェール族の名前の最初には"ヴ"がつき、男は三文字女は四文字だと決まっていそうだ。
こんなの関係あるかは知らないが…
「とりあえず…君は誰なんだい?」
「君は男の子みたいだし…」
「川本杏ちゃんとは違うみたいだから…」
「…お前たちの思っている通り私は川本杏ではない…!」
霊愛はつけていた金髪のカツラを取る。
金髪を取ったら少し薄い金髪の地毛霊愛が…!
頭を揺らしてファサファサと少し長い髪が靡く。あんまりにもイケメンフェイス。
「…!杏ちゃんはどうしたんだい?」
「まさか…!あなた杏ちゃんを誘拐したんじゃ…!」
ムキムキ…!と目の前の二人?の体が張り上がっていくのがわかる。体のサイズが1.5倍くらいになっていて…大変にお怒りに鳴っている様だ。
「違う違う!私は川本杏の代わりにここにきたんだ!」
「…どうゆうことだい?」
「いや実はとある理由で川本杏はヴェール族を嫌っていてね…」
「とある理由…?」
「川本杏の両親はヴェール族のヴォアに殺されていてね…」
「…すごいわねあなた全部言うんだね」
「それはそうとあのヴォア君がね…」
「じゃあ私たちは杏ちゃんには会えないと言うこと…?」
「わざわざ来てもらって悪いがそう言うことになるな…」
「…そう」
ヴェール族の夫妻は体が徐々に縮まってくる。
おそらく完全にしょんぼりしてしまったんだろう。
「…杏ちゃんには悪いことをしてしまったね」
「事情も知らないで…トラウマを蘇られる様なことをして…」
「…私は別にお前らが悪いやつだとは思ってない」
「むしろ今のその表情と言葉でいい奴だとも思ってきている」
「…アナタがそう思っていても…仕方ないんだ」
「アナタはとても優しい人だってすぐにわかりましたよ…教えてくれてありがとう」
…霊愛はその言葉ではっきりと気づいてしまった。このヴェール族の人たちのこと大好きだって!
「…私たちは私たちの星に帰るとします」
「杏ちゃんには私たちと会うことはなかったと…伝えてください」
「…なんでだ?誤解を解こうと思わないのか?」
「すぐにヴェール族について忘れて欲しいんです」
「彼女には目の前にある幸せのために生きてほしいんです」
「…分かった」
「それじゃあ…わざわざここまで来てくれてありがとう」
「名も知らぬ綺麗な男の子」
ヴェール族の夫妻は悲しげな後ろ姿を見せながらその場所から去っていく。
霊愛はその後ろ姿を見送ることしかできない。
遠く離れていくのに…温かい存在感がそこにはあった。
「…〜い!」
「お〜い!」
「大丈夫か〜?」
勇の馬鹿げた…いや無邪気と言っておこうか、そんな声が響き渡る。制服姿の勇が手を振ってきている。恥ずかしいからやめてほしい。
「…あれ?ヴェール族は?」
「すべて説明したら…星に帰って行った」
「そっか」
「なぁ勇…」
「川本杏は少し勘違いをしていた様だ」
「…あの夫婦は悪い奴なんかじゃなさそうだ」
「…そうか」
いつにも増して真面目な霊愛に、そんな端的な言葉しか返すことができない。
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