17-3 ロマンス
9月14日(月曜日)
もう9月中旬だというのにクソ暑い日。
だが学生の授業は一切止まることはない。
幸いにも教室にエアコンが付いている。…自分の部屋にはエアコンは付いてないっていうのに…最近の学校は素晴らしい。みんな学校に行こう。
「19日に授業参観があるから親に伝えといてね〜」
うちのクラスの担任は結構やばい奴だ。
普通は授業参観の紙は3週間前くらいには渡すはずだけど…この人は1週間くらい前に渡してくる。
でも不満はなんでか出てこない。
まぁそれはこの担任の先生がめちゃくちゃにセクシーで美人で天然で…それでいて、おぼこい気娘だからだ。正直言ってかなり好き。
男はなんでも綺麗なもんが好きだ。
「19日か…」
「…まぁ月曜日が振替休日だからいいか」
「そっか…もうそんな時期かぁ…」
「…杏はどうするんだ?」
「う〜んウチはいつも通り休もうかなぁ…」
「そっか…」
多分杏は母親がいた中学時代…いや小学一年生以来授業参観というものを経験していないんだと思う。
もうそれが慣れてしまったのか…悲しそうな表情もしていない。
「杏も休むの?」
ちょこちょこと歩いてきた女の子の様な風華。
舞に言われた通りにロングヘアのウィッグをつけている。…女の子みたいな見た目になると中身まで女の子に近くなるのか…!
「じゃあさ!じゃあさ!」
「その日に一緒に最近できたカフェに行こうよ!」
ナチュラルにお遊びに誘っている風華。
多分風華は杏のことを完全に友達だと思ってるんだろう。杏も風華のことを完全に女友達だと思ってる。
「良いよ〜」
舞が怒っちゃうぞ〜なんて思って舞を見ると…
全く怒っている様子がなく、友達に髪の毛をチビツインテールにされてホワホワしている。
…多分舞は杏と風華が話してるのは許せるんだろう。
そうして…放課後になった。
「みんな〜雨降ってきちゃったから気をつけてね〜」
「あ…傘忘れちゃった…」
「あ〜風華ちゃん忘れちゃったの〜?」
「送ってあげようか〜?」
風華はこの美人な担任に気に入られている。
もうイケない関係になっちゃってるの…!?って思っちゃうくらいだが、どうやら同じアパートのお隣さんらしい。…なんかエロ漫画とかでありそう。いやまぁ知らないけど。
ちなみにこの担任の名前は真里ちゃん。この学校で唯一舞に胸のサイズで勝てる女だ!
「うわ…今日めちゃくちゃ雨じゃん」
「ウチ傘持ってきてるよ?」
「えと…そ…それはどうゆう…?」
「ぷふっ!」
「さぁ〜?」
舞と風華のデートを見に行って…杏と仲直りできてからいつもこうして揶揄われている。
でもその杏の表情が可愛すぎるのだよ。
ニヤニヤとドヤドヤの中間の表情でいっつも見てくる。頬杖をつきながらもうアニメのヒロインじゃんッ!
「あ〜ウチ今日商店街に新しく出来たラーメン屋に行きたかったのに〜」
…この街はなんなんだ。
カフェも新しく出来たし…ラーメン屋も出来たし…ここはそんなに都会ってわけじゃないのに、なんでこんなに新しく店が出てくるんだろう。
「でも一人だと恥ずかしいな〜」
「傘はあるから一緒に行ってくれる人いないかなぁ〜?」
…ずるすぎる。こんなの行くしかないやん。
遥真と本屋行く予定なんてキャンセルするしかないじゃん!自分悪くないですやん。
「…い…行く?」
「…ふふっ!じゃあ行こっか!」
「お…おうよ」
勇は忘れてしまっていた。
…杏に借金をしていることを…
前だったら絶望フェイスをしているが…今日の勇は一味違う。…なぜならお金があるから。
…まぁお金がある理由は、母親に借金をして借りたからで…杏の借金を返せても次は母親の借金…。これは母親からの借金なら踏み倒せるかも…!?っていう神の一手だ。実質マラドーナ。
雨の街に繰り出した二人。
お互いが制服で…制服に雨がつかない様に肩を寄せながら一つの傘に入っている。
…あんなに余裕そうだった杏も、その相合傘を始めてからは一言も発してない。
こっちからしたら女の子らしい呼吸音が紫の屋根に反響してより大きく聞こえるから話していてほしい。
…ちなみにこちとらは鼻息を抑えるのに必死だ。
「…」
「…わぁ〜!」
「雨の中イチャイチャしてるアベックだ〜」
買い物帰りの親子の子供の方の声。
こんのクソガキが…誰にアベックって教えてもらったんだろう。…お母さんは秘書とかやってそうなくらいに清楚系の人間だ。最近のネットっていうのは怖い。
斜め下で歩いている杏は、濁った雨の色とは反対に…綺麗な茜色の様にも見えた。
「…な…なぁ杏のお父さんとお母さんってどんな人だったんだ!?」
…恥ずかしさのあまり言葉を紡いだが、それはまさかの杏からしたら終わっている話題。
自分でもモテない理由が自ずと分かってしまう。
杏は勇の言葉を聞くと…少し戸惑った様な顔を見せるが…すぐにいつもの可愛らしい笑みに戻る。
「あおッ!ごめん…!変なこと聞いちゃって」
「ううん!大丈夫だからっ!」
「お父さんは…たまに変なところがあるけど…」
「いつもウチを守ってくれるの…!」
「お母さんは…もう誰よりも優しいの」
「いっつもウチのわがままを聞いてくれるの…!」
嬉しそうに家族のことを話している。
今の杏はいつもの様な大人っぽさなどはなく…ただ友達を自慢する幼な子の様なあどけなさが漂っている。
「…大好きなんだな」
「うん…!大好きっ!」
失くしたものは忘れるに限ると思っていた。
…だがこうして好きなものとして残して置くのも…また良いのかもしれない。
二人はそれ以降の会話がないまま、その目的のラーメン屋へと辿り着く。
「あ…」
「あ…」
そこにいたのはまさかの霊愛。
昨日元子と面会した後について来てないなぁ…って思っていたが、まさかこんな所でラーメン屋を開店してるとは…
ていうかなんでこの短い期間で店開けてるんだ?
「あ…イケメンさんじゃなくって…霊愛さん」
「ここで何してるんですか?」
「見ての通りラーメン屋だが…?」
「えあはい…」
「まぁとりあえずカウンター席に座っておいてくれ」
「はい」
今が16時30分だからか…客が自分たち以外にいない。
「何にする?」
「何にするって言っても…」
メニュー表を見て目を丸めている杏。
それもそのはずで…広辞苑の様に分厚いメニュー表には一種類のラーメンしかない。
しかもその写真は画角を変えただけ!でも値段は950円と比較的良心的な値段だ。
「じゃあこの霊系ラーメンで…」
「俺も」
ずるる…ずるる…
速攻で届いたラーメンを早速啜っていく。
…まぁ可もなく不可もなく…霊系ラーメンと言っているが、普通の太麺の味噌ラーメンだ。
「いや…最近また役職が一からに戻ったから…こっちでも仕事しなきゃやってられないんだよなぁ…」
「なかなかに大変なんですねぇ…」
「…もしかして霊愛一人でこの店やってるのか?」
「その通りだ」
「…ここでバイトしようかな」
「奴隷?」
「バイト!」
「ウチ24時間営業だけど…大丈夫か?」
「ラーメン屋で24時間営業なんてあんま聞いたことないけどな…」
「ていうかワンオペで24時間営業って…どうゆうことだ?」
「まぁ来ても私がいないことは多々ある」
「終わってる…」
「まぁとりあえず採用で…」
「今週の土曜日から入れるか?」
「いや今週の土曜は…授業参観があって無理だな…」
「なんじゃそれ」
クソガキが…日本に来たならちゃんと調べておくんだな。…まぁもうこれからバイトのオーナーになるってことだからそんなことは言わずに事細かく説明する。
「ふ〜ん授業を親が見るってことか」
「まぁでも授業参観なんかよりお金を稼ぐことのほうが大事っしょ!俺やっぱいけるわ!」
「いや…大丈夫だ」
「しっかり授業を親に見せてこい」
「…分かった」
そういえば霊愛も姉以外の家族を失っていたことを思い出した。杏も霊愛も風華も…いつも楽しそうに過ごしているから…たまに忘れてしまう。
「…霊愛さんも親がいないんですか?」
「うむ…だいぶ昔だが…正直に言ってめちゃくちゃ悲しいぞ」
「おんなじですね…」
「川本杏お前はすごいな…」
「私なんかより全然人生経験が少ないというのに…」
「私なんかより堂々としていて…正直かっこいいぞ」
「そんな…」
「ウチはたまに…勇とかの家族を見ると…自分にないものをもっている勇が羨ましくなっちゃうよ」
「…ふむふむ」
「仕方ないな…」
「へ?」
「私が川本杏のために養父…養母になってくれる人を探してあげようじゃないか」
「え?なんで…?」
「私みたいに悲しい思いをする人が少なくなってほしいから…かな…?」
なんだこのイケメンは…
杏も霊愛を尊敬の眼差しで見ていて…
その目は完全に推しを見ている様な目だ。
勇はラーメンを頬張ることしかできない。
完全に主人公の座を奪われてしまっているのに…なんて呑気なんだろう。
…いや呑気なんかじゃなかった!
バチクソに焦っている。…少しこの味噌ラーメンがしょっぱいくらいに汗が流れている。
「…杏が取られてしまう…!」
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