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ANCIENT   作者: 美朱太
月面の太陽
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92/95

17-2 ロード・アイ・ミス・ユー

 「よいしょっと…」

天道で降り立ったのは勝俣家の玄関前。

結構立派な家に勇は住んでいる様だ。

ちなみに霊愛が住んでる天界のアパートは、リビングだけがある風呂トイレおんなじの部屋に住んでる。結構寂しい。

 「インタホーン押すらしいな…」


 ピンポーン


甲高い音が玄関先に響き渡る。

…だがしばらく待っても勇は出てこない。

 「おーい!」

 「出てこーい!」

 「包囲されてるぞ〜!勝俣勇〜!」

表札ってやつには負俣(おいまた)って書かれてる。しばらく見ない間に改名したのかもしれない。

 「早く出てこーい!」

あまりにも出てこないからドンドンと扉を叩く。良い子は絶対にやっちゃいけないゾ!

…これでも出てこないのか…

霊愛は長ズボンを捲り上げる。…すね毛は金髪ではないみたいだ。

 「仕方ない…」

 「扉を蹴り破るしかないかぁ…」

少し後ろに下がって前のめりに体を出す。

ドダドタと腕を振りまくって…今すぐにでも飛び立ち蹴破る準備をする。

 「ちょ待てよ!」


…キムタクでもいるのかと振り返ると…

そこにはキムタクにも似ても似つかない勇がいた。…な〜んだ外に出ていたからいなかったのか…

 「それ俺ん家じゃないから!」

 「俺ん家こっちだから!」

おっと…某じゃがいも小僧みたいな間違え方をしていたみたいだ。

それはそうと…この放出されたアドレナリン。

扉を蹴り破りたい気持ちは止められない。

 「すまん!勇ッ!私の代わりに弁償してくれッ!」

 「や!やめろー!」


 ビュンッ!


あの後…普通に黒縄で足を捕まれて…

負俣さんの家には何も被害が出ることはなかった。

その足を捕まれたまんま勝俣家に運ばれたのはちょっとだけ恥ずかしかった。

そうして勇の部屋に来た霊愛はちょこんと座っている。

 「…」

 「…」

なんだろう。仲はいいけど…二人っきりの場所にいると喋ることができないのは何故だろう。

この現象をアフリカの大学の教授は「コミュ挟(きょう)」と名付けたそうな…知らんけど…

霊愛は渋い顔をしながら人差し指を立てる。

 「勇のお母さん優しい人だったな」

 「俺の母さんはかなりの面食いだからな」

 「…二郎とかよく行くのか?」

 「ん?」

 「…あ〜いや俺の父ちゃんは長男だぞ」

 「超ナン…すごい麺だな」

 「まぁ確かに…面はいいかもな」

中身のないしょぼい会話をしていると…

霊愛の後ろの襖がガラッと開く。

…後ろを振り向いて見ると、すごい美人なパジャマ姿の女の人がいた。

 「あ…この前のイケメンな人」

…そう言えば霊愛と杏は自己紹介をしてなかった気がする。な〜んかたまに顔を合わせるけど名前もあやふやな知人みたいな…そんな立ち位置なんだろう。

でも第一印象イケメンで覚えられてる奴なんて…人間でもまずない事だろう。でもまぁ本当にそれ以上の取り柄があったとしても、顔面の良さが上回ってしまうのが霊愛だ。

 「あ…勇と仲良くなりました霊麟…通称霊愛です」

 「あ…勇の家に居候させてもらってます川本杏です…」

よそよそしく二人は正座をして頭を下げている。日本人のわびさびの心が染み付きすぎている。

…やっぱり美男美女が揃うと華があるなぁ。

なんて思うと共に杏が霊愛のビジュに引き込まれてしまっているのがわかる。恋ではないと知っていても、それは無性に腹が立つものだ。

霊愛と杏を引き剥がして霊愛と向き合う。真顔ですらこいつはイケメンなのか!?

 「…んで霊愛…今日は何の用できたんだ?」

 「ん?あ〜笑伝様が勇が悲しそうだから!ってこっちに寄越してきたんだけど…」

 「なんで?」

 「…いや別になんでもないけど」

 「面倒臭い彼女みたいだな…」

 「うるさいな…」

頬を膨らませて霊愛から目を逸らす。

このままそんな目で見られたらなんでも話してしまいそうなんだから…これは仕方がない。

そんなことをしていると、杏はちょこちょこと霊愛の隣に座る。…クソ!悔しいッ!

 「勇は元子さんと貴一さんって言う人を助けられなくって…最近ずっとしょんぼりしてるんですよ」

 「もうかれこれ10日間くらいこんな感じで…」

 「うわ…!面倒くさ…」

 「ウチらが励ましても…全然効果がなくって…」

 「仕方ない…」

 「川本杏…その話を詳しく聞かせてくれ」

 「あ…はい」

多分杏は呼び捨てにするんかい!と苗字と名前一緒に呼ぶタイプなんかいっ!ってつっこんでいると思う。口に出てはないが顔に出ている。

そうして杏は事細かく…この前の赤熊元子と貴一の話をする。あの元子の過去と…何故そんなことをしてしまう様になったのかも…全て…

 「う〜ん…それはあれだな」

 「仕方ないけど…悔しいと思うのは分かる…」

やっぱり霊愛はいいやつ。

 「でも…いつまでしょんぼりしてるつもりだ?」

 「そんな状態じゃ…お前は単なるアホな能力持ちの一般人だぞ?」

…最近慰めるつもりでdisってくんのが流行ってんだろうか…この前風華にも同じ風にdisられた。…まぁいやあれは無意識なんだろうが…

 「でもどうしろって…」

 「とりあえず…俺もその二人に会ってみたいし…面会にでも行くか」

 「ほれ行くぞ…勇に川本杏」

 「え?今からですかっ!?」

 「善は急げって言うんだろう?」

 「パジャマから着替えて…髪セットして…メイクしなきゃ…」

 「何言ってるんだ?」

 「お前は今のままでも星の様に綺麗だぞ」

 「あ…ありがとうございます…」

こんな人の容姿をさらっと褒める事ができるから霊愛はモテるんだろうなぁ。…いやまぁ霊愛が人の容姿を褒めてるのなんて初めてみたけど。

まぁいいや…と勇も早くしなきゃな…と思いながら立ち上がる。

 「あお前はちゃんと顔洗ってからこいよ」

…朝起きてすぐに顔を洗ったって言うのに…なんでこいつの性格は終わってるんだろう。


そうして3人は面会所にたどり着く。

多分だけど舞パピーの配慮なんだろう。…元子と貴一は拘置所が同室の様だ。

だからこうして…一気に二人と面会ができる。

 「…久しぶりですね」

車椅子に乗りながら登場した元子。

車椅子を運転しているのはその旦那の貴一だ。

…この二人の様子を普通の家で見えていたらなんて幸せだったんだろう。

 「…そちらの人は?」

 「ただの天使だ」

 「…天使…天使ですか」

 「なんだ?驚かないのか?」

 「私は神も天使も存在していると思っています」

 「失礼だが…お前のその人生でなぜ神を信じられるんだ?普通ならむしろ…神などいないと切り捨てると思うが…」

 「…逆ですよ」

 「私みたいな人生でも…綺麗な出会いがあるんです」

 「それって…神様がいるって事じゃないですか?」

貴一と元子は顔を合わせて笑い合っている。

どんなに劣悪な関係でも…気づいた愛情というのは廃れる事は無いのかもしれない。

霊愛はその元子の姿を見て難しい顔をする。

 「…?どうしたんだ?」

 「天界では郷に入っては郷に従えのルールを採用している」

 「だから…この国の法律から外れた事はできないのだ」

 「私一人だけがここから出したいと思っていても…それはできない事なのだ」

珍しく悔しそうな表情をしている霊愛。

正直に言ってこんな霊愛なんて見た事がない。…相当考え込んでいる事が分かる。

 「あなたはまだそんな事を考えていたんですか?」

 「え?」

 「私たちは自分でこの選択をしたんです」

 「あなたは自分の必要以上の悲しみを背負う必要は無いんですよ」

 「…そうか」

 「…アンタも必要以上の罪を被る必要はないからな」

 「え…?」

 「舞パピーから聞いたんだけど…」

 「アンタの旦那はんが狙ってたのは舞以外自殺志願者だったんだよ」

 「でもアンタの能力で子供にさせられて戻ったあとは優しさに触れた事が微かに記憶に残ってて…」

 「また生きようって思てたらしいぞ」

 「だからアンタは間接的に人を救ってたんだよ」

 「やり方は間違っていたけど…やった事は間違ってないからな」

 「…そうですか」

 「まぁじゃあそういう事で…」

 「あ…はい…」

勇はトコトコと歩いて帰っていく。

拘置所に入るのはやっぱり初めてだからか…ちょっと歩きづらそう。意味不明なんだけど…

杏もその後ろをついて行って面会室の扉を閉める。

…霊愛もついてこようとしてたのに…

 「ねぇ勇?」

 「さっきの全員自殺志願者って本当なの…?」

 「…分かんない」

 「えっ!?」

 「それじゃあ嘘ってこと…?」

 「…嘘とも言えるし…嘘じゃないとも言える」

 「いや嘘じゃん…!」

 「いいの?そんな嘘ついちゃって…」

 「…嘘だと知らなければ嘘じゃないのだよ」

 「そんなものなのかなぁ…」

 「でも…やっぱり勇は優しいんだね…」

 「あと…元子さんと貴一さん夫婦も…」

 「な〜んか家族って…いいね…」

杏は寂しそうにして前を見つめて勇の少し先を歩く。…その姿を見ると杏には家族が死んだ悲しい過去があるのが分かる。

普段は堂々としているが…こんな時だけ抱きしめたくなるほど、悲しい表情をしている。

 「…そっか」

そうしてまだ面会室に取り残されてる霊愛。

扉を閉められたから…少し扉の前でウロウロしてからまた椅子に座る。

人間でいう信号がチカチカしてる時に渡ろうとして、赤になっちゃったから「俺渡ろうとしてないですよ〜の舞」なんだろう。

 「…あの面会時間そろそろなんですけど」

 「ちょっと最後に聞きたい事があって…」

 「お前のその能力誰からももらったものなんだ…?」

 「名前は聞いてないんですけど…」

 「地獄からの使者って…確か言ってた気がします」

 「地獄か…そうかありがとう…」

それだけ言い残して霊愛はドアノブに手をかける。


 ガゴンッ!


…鉄の扉の鍵が閉まっている様だ。

つまりもうここから出れないという事。

霊愛はあまりの恥ずかしさからか頭を掻く。

あの夫婦も少し笑っている様だ…

次の投稿は水曜日です

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