17-1 ESCAPE
かなり面白い気がする
場所は打って変わって天界での話。
コロッセオの様な大きな場所で、大勢の天使たちがガヤガヤと話している。種族はいろんなもので、めちゃくちゃな美人もいるし…顔はオオカミ体はチンパンジーみたいな化け物もいる。
ちなみにロリ系の美少女天使も存在するぞ。
…ここで行われるのはファッションショーなんかではない。
紅恋や有楽などの特定堕落者の裁判だ。
多分それ相応の罰が与えられるんだろう。
ていうかコロッセオで裁判なんて…古代ローマでしか見たことがない。
天界で一躍時の人となった霊愛は、罪人がよく見える特等席に座らせられている。
まぁ紅恋と有楽の特定堕落者の中でもトップの実力の者を捕まえたんだから…これくらいの待遇は当たり前だ!
なんて言ってみても…今現在霊愛は借りてきた猫状態だ。座っているのに肩が上がっている。
そりゃそのはずで…霊愛は始業式とかで発表ができないタイプの人側…じゃなくて天使だ。沢山の人の目が怖い。
でもたまに聞こえる「霊愛様かっこいいっ!」とか「あの人クール〜!」って声が聞こえるたびに背筋を伸ばしてしまう。
できるだけ早く裁判が始まって欲しい…
でも紅恋も有楽も無罪放免にされて欲しい…
そんなこと考えていると…ドンドンとガベルってやつを叩く。日本にはこれがないらしい
「静粛に…ッ!」
…これも日本では言わないらしい。
アニメとかではあるが…
この言葉を言った人物は大神官様だ。
つまり今の神様の叔父様だ。名前は恐悔様だ。
恐悔とは書かれているが…その[きょう]の字にら諸説がある。恐、狂、怯、驚etc…いっぱい名前があるらしいが、少なくともプラスの意味のものはなかったと思う。
ちなみに霊愛の"愛"は割り振られた役職の名前なので本名ではない。ちなみに本名は霊麟だ。姉の紅恋は霊蘭。多分弟か妹がいたら、霊るんになってたのかなぁ…
「今から特定堕落者二人の裁判を始める…!」
恐悔はかなりの老人だから言葉が遅い。
「その罪状を読み上げよ」
「楽才」
楽才…と言うのはこの恐悔の隣で立っている男だ。真っ白な仮面と黒い服コートを着ていて一見怖いが…話してみると結構面白い人だ。
現在は死体収容所という人間界でいう安置所の様なところのリーダーをやっている。
そこに一度死んだヴォアの死体を保管していたのだが…なんか生きてたみたいで逃げ出した。
まぁ多分重要な人物ではないから…覚えなくてもいいと思う。
「一人目…有楽」
「アナタは神の代行の地位にありながら…神の座を狙った罪です」
「いわゆる…神取り罪ですね」
「…」
「そして紅恋…」
「アナタは天界の重要拠点を攻撃し…」
「そして脱獄をした挙句…人間界を混乱に陥れ数々の人間の命を奪った」
「叛逆虐殺罪ですね」
「…」
自分が言ったら絶対噛むが…そんなことより、自分の姉の罪があまりにも重すぎるが…
その全てが事実だ。
「有楽さんの罪の平均の罰は…禁錮1億年に加えてコミュニケーションの禁止…でしたかね」
「え〜次に紅恋さんの罪の平均は…」
「処刑…そして蘇生に処刑…そしてまた蘇生」
「それを数億年続ける…いわゆる無限地獄の刑ですね!」
無限地獄の刑というのは…その名前から分かる通りこの天界で一番重い罰だ。天使は死んでも意識だけはその場に残り続ける。
天使というのは一度死んだら数千年が経ったら復活するのだが、この蘇生があることによってその復活の期間がまた戻される。
これが無限地獄の刑なのだ。
「…」
「ワシは両者とも法に則りその罪を課せるべきだと心得る」
「…!」
「ウォォォッ!」
騒ぎ立つ会場…
だがその中で霊愛だけは暗い顔をしている。
なぜなら…っていうか…それは有楽そして紅恋は昔っから知る人たち。紅恋に至っては実の姉だ。
はっきり言ってかなり嫌だ。
…しかしこんな騒ぎたってるところに「待った!」なんて言えるはずがない。
「やばいどうしよ…」
「紅恋姉ちゃん…」
どうやら紅恋も有楽も抵抗する様子はない。
…もうかなり反省している様子だから罰を受け入れるつもりなんだろう。
「あーこういう時に勇がいたら…」
「あ…それはさらに荒れちゃうな…」
「あー…」
自身の金髪を掻きむしる霊愛。
ストレスからか…ちょっと髪の毛が抜けてしまっている。…そろそろハゲてしまうかもしれない。
「どーか神様〜」
「ん?なんじゃ?」
「わッ!びびった…」
「笑伝様…」
急に後ろに現れた本物の神様。
多分ハワイに行っていたんだろう。服装がハワイアンだ。しかもちょっと体が横に揺れてるから…フラダンスを極めてきたところだろう。
「現神様が裁判なんて…珍しいですね」
「暇じゃったから…」
「な〜んだ」
「嘘じゃ」
「え」
「今日はワシを裁いてもらおうと思っての」
「神様を裁く…?」
「そうじゃ」
「んじゃそういう事で…」
それだけ言うと…笑伝は客席から飛び降りる。
普通の老人なら足腰が悪いからボキッといっちゃうが、この老人は神様だから容易く降りれる。
笑伝は背中に手を回してゆっくりと歩き出す。
コロッセオの観客たちは…その神様の姿を見て目を丸くする。
なぜなら天界の歴史上…神様がコロッセオの砂を踏む事はなかったのだから…
「そう騒いじゃ喉が乾いてしまうじょ」
驚きで誰も騒いでいない。
身体にはガタはきていないが耳だけはやられているんだろうか…
「笑伝…」
大神官の恐悔様だけは神様を呼び捨てできる。…まぁ一応人間の勇は呼び捨てしているが、あれは普通にやばいやつだからしょうがない。
「恐悔叔父よ」
「紅恋と有楽の罪を裁く前に…」
「このワシの罪を裁いてはくれないか?」
「笑伝の罪…?」
「そうじゃ」
「…」
「お主ら天使どもも薄々勘付いておろうが…」
ゴクリ…観客そして大神官は唾を飲み込む。
有楽も言っていたあの件について…笑伝は話すつもりなんだろう。
「ワシは本物の神様なんかじゃないのじゃ」
…神様を騙ることはどんな罪よりも重い罪だ。
しかも四界大戦が終わって以来…ずっと神を騙っていたと言う事なのだから、その罪はさらに重くなってしまう。
この罪をした者は天界の歴史上誰もいない。
…つまり無限地獄の刑よりもさらに上の罰が…新たにできてしまうと言う事。
「…やはりか」
…今まで付き従ってきた神様は偽物だった。
その事実に観客たちには衝撃が走る。
次第にそれは怒りに変わり…「不正神!」や「贋作神」と暴言を吐き、ゴミを投げつける者まで現れない。
まさに天界とは名ばかりの地獄でしかなかった。
だが…あの笑伝がただ天界に混乱をもたらす様なことを言う訳がない…
そう考える人が霊愛の他にも大勢いて…暴言を吐く人は次第に影を薄くしていく。
これは例え嘘をついていたのが事実だとしても、笑伝が間違いなく天界のことを第一に考えていることの証明でもあった。
暴言を吐いていた人の声が完全に静まり…恐悔と笑伝の間では謎の時間が流れる。
…その時間をどう思ったのか知らないが、笑伝の口角が少し上がるのが分かる。
「これで有楽の神取り罪は無罪放免ということじゃな」
「ワシ神じゃないし」
「…!」
「…笑伝様…?」
あんなに笑伝嫌いだった有楽も、ついつい「様」とつけてしまうほどのオーラが今の笑伝にはある。
「…じゃが問題は紅恋じゃな」
「紅恋は人間殺しに…人間界の混乱…もうこれはどうしようもない罪じゃなぁ…」
笑伝は顎の白い髭を撫でながら目を瞑る。
ハゲているのにめちゃくちゃイケメンに見えてしまう。反町隆史と竹野内豊の融合バージョン!…このバチクソイケメンたちは勇に教えてもらった。
「あ!そうじゃ!」
どんな神の一手を打つんだろう!今回の笑伝には期待が高まるばかりだ!って!神の一手って神なんだからそりゃなんでも神の一手になるか!例えばトイレットペーパー取る時とかも!
…な〜んてふざけた事を考えていると、笑伝は考えついたのかウンウンとかなり連続で頷く。
「なんだろなんだろ!」
思わず声が漏れ出てしまう。
「そうじゃな!」
「霊愛の地位を一からにするから紅恋を許してやってくれないかのぉ?」
このクソハゲ野郎。
地位の剥奪はかなりの重い罰として分類される。なぜなら地位が高いとまた下積みからやらなきゃいけない。…しかも霊愛くらいの無能になると、下積み時代が何千年と続く。
頑張ってあげてきた地位が崩れ去ってしまう…。…しかも笑伝は有楽と紅恋を捕まえた報酬として、神武官見習いにすると言ってきていた。これは中級での第一歩で、大手のサラリーマンくらいの年収を持てる。
「ちょ!ちょっと待ってください!」
驚きのあまりコロッセオから体を乗り出してしまう。
「笑伝様!それは流石に許されないですよ!」
「私…お金たくさんもらえるって思ってAmazonesでたくさん買い物したんですから!」
天界にもAmazonesは通じている。
流石世界のAmazones。
「…これくらいしかお主の姉を救える方法はないのじゃ…」
「そ…そんなぁ…」
「…な…なぜそんなにこの者たちを助ける様な事を…」
「そんなのただ一つしかないであろう…?」
「今は身内同士で争う時ではないのじゃ!」
「聞けば…人間に能力を渡した地獄側のならず者がいると聞く」
「そして宇宙側も地球を密かに狙っている」
「…四界大戦を止めるためには人間と協力することしかないのじゃ!」
笑伝の聞いたことのない激しい声。
ツバを飛ばして…激しい口調だ。およそ老人とは思えない。
「それに…恐悔叔父よ」
「お主としても紅恋や有楽を失いたくはないはずじゃ」
「…!」
多分二人の間には何かがあるのだろう…
笑伝は下衆い笑みを浮かべていて、恐悔は笑伝から視線を外し目を鋭くさせている。
「まぁよい…」
「それも四界大戦を止める為にお主らが勝手にやったことだ…目を瞑っておく…」
「じゃが人間界に手出しをすることはこのワシが許さぬッ!」
「人間界には希望が溢れておる…!」
「四界大戦の地獄をもう一度味わいたくないのなら!その希望に縋りつくしかないのじゃッ!」
こんな笑伝様は見たことがない。
今にも血を吐いてしまいそうな叫び声。
観客たちは静かにその言葉を飲み込む。
恐悔も…何も言うことができずにただ笑伝の瞳を見ている。
「…この裁判はこれにて終いとさせていただきます」
…裁判を進めるはずの楽才が終わりの音頭を取る。…楽才はかなりやる奴の様だ。
「ふぉッふぉッ!」
「全員が不問…それで良いのじゃ!」
「全員が不問…っじゃ」
ビュンッ!
笑伝は足に力を入れて飛び上がると、霊愛の隣に着地する。その表情は満足そうだった。
「…良かったのぉ」
「…ありがとうございます笑伝様」
「…ふッ良いのじゃ」
「それより霊愛…お主にはやってもらいたいことがある」
「え?」
「地球にいる勇くんの元へ向かうのじゃ」
「なんで…」
「希望の花が萎れてしまいそうなんじゃ」
「また咲かしてきて見せよ」
「へ…?」
なんかめちゃくちゃイキリ出している。
カッコつけているが、多分勇が悲しい気持ちだから励ましてこいよ!ってことなんだろう。
…まぁそれはいいとして霊愛には気になることがあった。
「…ていうか笑伝様…」
「本物の神様じゃないって…あれ本当ですよね?」
「なんか大神官様も分かってそうだったし…」
「おぉッ!?」
「…!?」
「久しぶりのお通じじゃ!」
「三年ぶりじゃ!」
それだけ言って笑伝は走り去っていく。
「あ…触れちゃいけなさそう」
さっき全員不問を強調していたのは…多分そう言うことなんだろうなぁ…
なんて思いながら霊愛は地球への天道を開く。
次の投稿は日曜日の予定です




