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ANCIENT   作者: 美朱太
月面の太陽
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90/96

16-6 Forever

 「ど…どうゆうことだ君…!」

 「この子を返すだけでいいって…!」

 「それって警察を呼ばないって事なんじゃないのか…!?」

 「俺もそのつもりだったんだけど…」

 「…ま…まぁ今回は仕方がないと諦めてもらって…」

 「…分かりました」

 「元子…!」

 「でも貴一さんだけは…貴一さんだけは…」

 「そんな元子は…」

 「私はこんなですから…」

さっきとは違い穏やかな口調になった元子。

あまりにも悲しいが…車椅子では逃げ切ることはできないのは事実だ。

逃げたとしても…容姿に特徴がありすぎて、指名手配されてしまったら終わりだろう。

こんなの誰でも分かる様なことだ。

 「…よ〜し決めた」

 「貴一さんだっけ」

 「あ…あぁうん」

 「元子さんのことをおぶれない?」

 「出来るけど…」

 「よし…!じゃあ作戦開始だ!」

 「作戦…?」

 「秘技偽造作戦…!」

 「アンタたちは逃げる準備でもしててくれ」

 「俺は嘘はつくけど…約束は守る男」

 「きっと警察くらい騙して追い返してみせるから安心して待っててくれ」

 「…でもそんなことしたら…アナタは犯罪に片足を…」

勇は何かを準備しながら二人に笑いかける。

その笑顔はまだ何も知らない無垢な少年よ様な表情をしていて…どこか危なっかしさと安心感を与えてくれる。

 「俺はまだ…子供だから」

 「ちょっとくらいの危険なら味わって生きていたいんだよ」

 「誰かが笑顔になれるんならさ…」

あまりにも格好いいセリフに…

舞の写真を見ていた風華たちは思わず勇を見る。

多分本当に本人なの?って疑問に感じたんだろうが…ちゃんと本人だ。AIじゃなかった。

でも当の本人の勇は見られている理由を分かっていなさそうに、鼻の上の方を掻いている。

 「…?」

 「その秘技偽造作戦っての内容教えてくれない?」

 「敵を騙すにはまずは味方から…」

 「つまり…?」

 「風華…今から一緒に考えようぜ」

 「…えぇあんなにカッコつけてたのに…」

 「仕方ないだろ…!ドーパミンが溢れちゃってたんだから」

 「本物のドパガキじゃん」

 「…ウチ捕まりたくないんだけど!」

 「私も捕まっちゃったらママに怒れるんだけど…!」

それはどこの家もおんなじだ。

捕まって褒められる家なんてないと思う…

 「勇くんっ!」

 「え?」

 「私にはいい考えがあるの!」

ドヤ顔で勇に近づいてきている舞。

…まぁでもパツパツの赤ちゃん服を着ているんだもん。…胸がすごく…なんというかすごく主張されている。風華には悪いが…少々男というものを思い出してしまう。

 「多分ねっ!私のお父さんがここに来てると思うの!」

わぁ…大きなメロンが揺れてるぞ…

なんて考えがバレたら舞に殺されそうだから舞の顔面に集中する!…でもしかしぷるんぷるんだ。

 「私がお父さんを説得してくる!」

 「でも舞のお父さんって結構重要人物的な人なんでしょ?」

 「そうだよっ!舞が一人で行っちゃったら危ないんじゃないの?何があるか分からないよ?」

 「しかもその…え…えちぃな格好で…」

警察のところに行くのに危ないというのはなかなかにおかしいのだが…ここは神奈川の警察ってことで許してほしい。

みんなの心配をよそに舞は自信満々だ。

舞の視線の先には目を覆っている風華がいる。

舞の赤ちゃん姿に照れてるんだろう。なんか分かっちゃう。

 「私には可愛い可愛いボディガードがいるんですっ!」

 「…誰?」

 「?風華くんだよ?」

 「でも…今の風華は完全なる男だけど…?」

 「ふっふっふっ…」

 「風華くんっ!ストレートロングのウィッグを能力で出して!あとねっ!チアガールの服!」

 「あと…この風華くんに見られるの恥ずかしいから…ワンピースも出して…!」

舞は多分上司になったら無意識にこき使うタイプだ。…でも容姿も雰囲気も可愛いからパワハラなんて言われず許される。

風華もその部下とおんなじで犬の様にそれに従う。まぁ多分同じ状況だったら自分も従う。

そして一通り舞に言われたものを[SOZO]で作り出した風華。ちなみに舞はトイレの中でワンピースに着替えた。

 「え…えと舞さんこれをどうすれば?」

 「え?風華くんが着るに決まってるじゃんっ!」

 「せ…せっかくみんなに男として見た目を褒められるようになったのに…」

 「…!風華くんはえっちだから!今度から学校でもこのウィッグ付けて!」

 「え…えぇ…なんでぇ…」

 「むぅ…そうしないと学校で舞と喋ってくれないじゃん…っ!」

 「他の女の子とばっかりイチャイチャして…!」

可愛い。

でも風華と舞が両思いなのが確定してから…この二人の恋愛関係の話はありきたりすぎて面白くはない。でもほんわかはする。

まぁかなりの頻度で、喧嘩をしているのたが…

舞のかわかわなわがままに男の尊厳を失った風華は、一瞬にしてウィッグを付けチアガールの格好をする。

 「ど…どぉ…?」

約1ヶ月ぶりくらいに風華のロングを見たが…

やっぱりロングにはロングの良さがある。

はっきり言って女優とかより全然可愛いのに…こんな腹だしのチアガールの服着てるなんて、眼福でしかない。

しかも風華にはすね毛とかがないからめっちゃ似合う。

 「きゃわ〜風華ちゃんきゃわ〜」

 「きゃわ…」

 「…はっ!」

完全に我を忘れてしまっていた舞。

だが理性を取り戻すプク顔に眉顰めを繰り出す。これもなかなかに可愛い。

 「わ…!私の作戦としてはね!」

 「風華ちゃん…じゃなくって風華くんが先陣を切って色仕掛けを仕掛けるの!」

 「それで私がパパに話をつける!」

 「…お…俺である理由は…」

 「そ…それは…」

 「女の子の風華くんが見たかったの…」

 「それだけ…?」

 「にゅ〜っ!」

やっぱり攻撃は最大の防御らしい。

舞のあざとボイスで風華はノックアウト。

やる気を出して外に出る準備をしている。舞はしめしめ…!と口に手を当てて笑ってる。なんて娘ッ!

 「よし舞さん!行こうね!」

 「うゆっ!」

二人は仲良さそうに外へと出ていく。

なんかカップルってより兄妹に見えた。


 「どう…?うまくいくと思う?」

 「いや…無理でしょ」

 「えぇっ!?なんで止めなかったの!?」

 「えぇ…なんとなく?」

 「じゃあどうするの!?」

 「まぁ落ち着きなはれ杏さん」

 「最後の手段はまだ残されてるんです」

 「えぇ…!?本当っ!?」

 「俺にしかできない高等技術…!」

 「な…なんてオーラなの!?」

 「杏と玲那はあの夫婦のところに行っててくれ」

 「分かった」


一方その頃、外に出て行った二人は…

 「わぁー!こっち来るなー!」

慌ただしく逃げ惑う風華、その後ろからは無数の警察官が追いかけてきている。しかもこれは悪いことをしたからじゃなくって、ただただ可愛いから追っかけている。

舞はというと…

 「パパ〜!許して〜!」

 「あー!大丈夫だったか!舞〜!」

舞を抱き上げて頬をすりすりしてる舞パピー。

舞は子猫ちゃんの様になっている。

 「許してよ〜!」

 「あ〜本当に俺の娘は可愛いなぁ…」

 「全然話聞いてくれないよ〜!」

可愛いが、あまりにもカオスな現場。

…その様子を見ていた勇はついに動き出す。


玄関の扉が開き…見通しの良くなった玄関先からは舞パピーの姿が見える。

風華が他の警察を引き寄せているから、多分重要な人物の舞パピーのお膝元はガラ空き!

勇はまさかの本陣斬り込みを結構するッ!

かつて大坂の陣で徳川家康の本隊に真田信繁が斬り込んだやつがあったと思うが…多分その時の真田とは話が合うと思う。

 「うおぉぉ!」

情けない声を出しながら走り出した勇。

その弱々しい声に誰も反応することはなく…普通に舞パピーの目の前までたどり着く。

あんな声出したのが恥ずかしくて仕方がない…

 「…」

 「…?」

 「どうもすみませんでしたぁぁッ!」

あまりにも綺麗な土下座。orz。

激動の昭和時代を潜り抜けきた社会人でも、これにはスタンディングオベーション。

 「…?」

しかし…舞のパピーは口をポカンも開けていて…土下座する勇を見下げている。

 「…何を急に謝ってるんだ?」

 「舞も無事に帰ってこれたし…謝る理由がないだろう?」

 「は…!それもそうだ…!」

何事もなかったかの様に立ち上がると…舞パピーは余計に口が開いてしまう。多分今なら口にくさや突っ込める。

 「…あのお宅の娘さん助けたので…俺の願い聞いてもらえますかね」

 「まぁ…」

 「じゃ…じゃあ舞ちゃんを攫った人たちを逃すことって可能ですかね…?」

 「…は?」

 「や…やっぱりムリですよね!冗談です!」

 「ちょっと勇くんっ!」

絵に描いたようなプク顔を披露する舞。

にゃにゃにゃっ!と動き回って舞パピーの腕の中から脱出すると、腰に手を当ててこっちを見てくる。…たかが知人Bに向けられたお顔なのだから…恐ろしいくらいだ。

 「あの二人を助けるんじゃ無いのっ!?」

 「そのつもりだったんだけど…」

 「流石に無理そうなんだよ…!」

 「普通に舞パピーの圧がすごくて…今も自然に土下座しちゃいそうになるんだよな…」

 「むぅ…!情けないよっ!」

 「じゃあ舞…お願いしていいか…?」

 「わたちバブバブだからわがままも言えないんだバブー!」

 「こ…こいつ…!」

舞はほっぺを膨らませて目を細くしている。

…その後ろでブチギレている舞のパピー…もう警察官とかじゃなくて喧嘩最強のチンピラにしか見えない。

舞に怒りが湧いたが…舞パピーの顔を見たら引き攣った笑顔しか出なくなる。

 「…頼りになるのは…誰もいないなぁ…」

風華は走り回ってるし…舞はバブバブだし…

杏と玲那は多分舞の赤ちゃん写真を見てるし…

まさに万策尽きた…

そう思っていた時…背後の玄関の扉が開く音がする。やっぱり立て付けが悪いのか音を鳴らしている。

小径タイヤがガラガラ回る音と…スニーカーがコンクリートを踏む音…

おそらく元子と貴一の夫婦が出てきてしまったんだろう。

…どうやらまた失敗してしまったようだ。

舞が誘拐された時と同じで…自分の使えなさに心底呆れてしまう。

 「あなたは本当に優しい子なんですね…」

元子の優しい声が背後から聞こえる。

舞パピーの視線が後ろに行き…その瞳孔が大きく開いているのがわかる。おそらく元子の姿を見たんだろう。

 「私はただの犯罪者…助けてくれる必要なんてないのに…」

 「でもありがとうございます…」

…元子の優しい声が胸に深く刺さる。

タイヤが回る音が取ると…足音が続いて聞こえる。

 「…元子と改めて話してみたんだけど」

 「やっぱり俺たちがやったことは犯罪…」

 「罪を背負って隠れて生きていくのなんてできる気がしないんだ」

 「ごめんね…」

貴一の男らしくない様な…優しい声だ。

…はっきり言って辛かった。

 「…私が赤ちゃんにしてしまった人たちは数日で元に戻ります」

 「赤ちゃんになっていた時の記憶はないですが…その前の記憶は忘れることはありません」

 「数日で…元の家に戻れると思います」

 「…その言葉信じておく」

舞パピーの付近にいた警官が元子と貴一に手錠を掛ける。そのカチ…という音が耳にこびりついてしまう。

貴一はパトカーに乗り込み…元子は車椅子から下ろされ、貴一とは別のパトカーに座らせられる。これから二人が会うことはあるのだろうか…それを考えると今日は夜も眠れなさそうだ。

二人は感謝の言葉を述べていたが…それをどうも信じることができない。あんなにまっすぐで優しい二人だったのに…


 プゥー!


パトカーは音を立てながら去っていく。

またしても何もできなかった。

舞のパピーはただ佇む勇の肩を叩く。

その手は自然に暖かかった。

 「俺は俺の仕事を真っ当しなければならない」

 「被害者が出れば…その容疑者を逮捕する」

 「それが警察というものだ」

 「…」

 「だが…お前がそんなに悲しい表情をしてるということは…」

 「まぁそれ相応の何かがあるんだろうな」

 「…」

舞パピーは見た目とは全く違い…優しい声で勇に話しかけてくれている。

だが…それに答えようとしても声が出せない。

その様子を見た舞パピーは静かに去っていく。

それに呼応するように、風華を追いかけていた警官たちも去っていく。

 「…」

 「勇くん…」

 「…」

舞の顔が見えないが、きっと優しい顔をしてるはずだ。

家の中にいた杏と玲那も、走り疲れた風華も勇の近くに走り寄ってくる。

きっとみんな同様に優しい顔をしている。

 「俺たちは高校生なんだから…流石に限界があるよ」

 「…今はあの人たちが早く出てこれる事を願っておこうよ」

みんな自分とは真逆に優しい。

その優しさには…どうやら答えることができないみたいだ。

 「…ごめん」

勇は寂しそうな背中をして歩き去っていく。

その背中は残された四人は何故か追うことができない。

次の投稿は金曜日です

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