16-5 HERO
「ここが…俺と元子の家だ…」
あの大通りから約15分。
ようやく辿り着いたその家は、大変立派な木製の一軒家だった。
ちなみにモブ男たちはあそこに置いてきた。
「モブ男たちはオレがおいてきた」
「ついてきたがってたがハッキリいってこの戦いにはついていけない…」
「ああそのほうがいい」
勇は有名漫画のハゲの三つ目の真似をする。
風華はそのネタを知ってるからちゃんと答えれている。
普通に着いてきていた杏と玲那は首を傾げている。…これが正常な反応だ。
ちなみに置いてきたのは事実。だが理由は普通に何があるか分からないからだ。
杏と玲那は補正が掛かっているから危なくないらしく…普通に着いてこさせられている。
「…アンタはなんか仕事してるのか?」
「前までは仕事していたんだけど…元子がおかしくなってからは…」
「なるほど…」
「それじゃあドアを開けるよ」
そう言うと男…じゃなくって貴一は、扉に鍵を差し込んでその扉を開ける。
…見た目は立派だが、相当古いらしく音を立てながらその扉は開く。…多分この家はどちらかの実家なのだろう。
「うわ…」
ハッキリ言って…その中は人が住んでるとは到底思えなかった。廊下にはゴミが溜まっていて…どこからかネズミの声も聞こえる。
生ゴミの臭いまで充満していて…失礼だとは分かっているが、鼻を摘んで進まなければ鼻が死んでしまう。
どうやら貴一もそれはおんなじようだ。
そして何か話し声が聞こえる少し奥の部屋へと…足を運んでいく。
少し近づくと…
優しそうな大人の女性の声と、ろりろりボイスの子供みたいな声…つまり舞の声が聞こえてくる。
「…元子が暴れることも考えられる」
「準備はいいかい…?」
「ちょ…ちょっとセリフ考えとかないと…」
「え」
「よし…よし…よし…」
スマホを取り出しなんか呟いている勇。
多分スマホのメモアプリを見返しているんだろう。勇はいいと思った言葉を残しているみたいだ。
でも大抵どこかの受け売り。
…この前なんてこれいいでしょ!って言われて調べたらアニメのパクリだった。
「…よしもう行ける」
「それは誰の意見?…よしよし」
こんなのどこで使えるんだろうか。
…聞いたことないけど…多分論破系の人の言葉だろうって感じがする。表情がうざいもん。
…そして貴一を先頭に扉を開く。
どんだけの地獄絵図が待ち侘びているんだろうか…そんな警戒心と共にその中を除く。
「ほら…赤ちゃんミルク…」
「ぶえ…」
「あらあら…こぼしちゃって…」
車椅子に包帯ぐるぐる巻きの女。そしてその人に膝枕されている舞。寝転がっているからぷにぷにのお腹が見えてしまっている。…お腹まで純白。腹黒いとは無縁な子。
「ばぶ…」
「…」
「あら…貴一さん」
「その子が新しい赤ちゃんになる子…?」
「…っ!風華くん…!」
舞は慌ただしく起き上がりお腹を隠す。
…流石に風華は優しいから目を瞑ってあげていたみたい…。風華はまつ毛が長いからこんなこともできるんだ。
「ダメでしょバブちゃん」
かなり異様な光景…
だが女…多分こいつが元子ってやつなんだろうが、元子はそれが当たり前かのように冷静だ。
…たまたま元子と目があってしまったが、その優しすぎる目が逆に恐怖心を作り上げる。
「…元子違うんだよ」
「この人たちは…その子の友達なんだよ」
「…何を言ってるの?貴一さん」
「この子はまだ赤ちゃんなの…」
「まだ誰も近づけちゃダメなんですよ…?」
元子は鋭い目つきで勇を睨みつけてくる。…あんなに優しそうな目をしていたのに…まるでメスのライオンの様な雰囲気だ。
勇の背筋はびゅっと跳ね上がる。
「…勇!ビシッと言っちゃって!」
「そうだよ!頑張っ!勇っ!」
「ウチらは関係ないから…っ!」
男一人…女二人に背中を押されては勝てない…!どうにか後ろに下がろうとするが普通に押し負けてしまって…元子の目の前に立ってしまう。
…こんなこと言っていいのか分からないが、某幕末の生き残り剣士の包帯巻きの男に似てる。つまりかっこいいと言うことだ。
だが生で包帯巻きの人を見るのはなかなかにショッキングで…意識せずとも目を逸らしてしまう。
「…やっぱりアナタは赤ちゃんには向いてないわ」
「…その人を見た目で判断する心…」
「もう既に大人に片足を突っ込んでしまっている…」
「なんだか母さんに説教されてる気分…」
「まぁでも母さんは"早く大人になりなさい!"って真逆なこと言ってくるけど…」
「なんかアンタはお母さんに向いてる気がする…」
「まぁけど…人の子を誘拐するのは許容できないけど…」
「…っ!」
…多分元子はこの事に目を瞑っていたんだろう。…いや自分の好きな物を得るために目を瞑らざる負えなかった事実…
それを突きつけられた元子は、手に持っていた哺乳瓶を勇に向かって投げつける。
パリーンッ!
元子にはあまり力がないのだろう…
勇に当たる前に、哺乳瓶は地面に叩きつけられ音を立てて…ヒビが入って割れる。哺乳瓶は粉々に割れてしまっている…
「…私は赤ちゃんも奪われて…」
「こんな見た目になって…街に行けば不気味がられ…」
「小中高生にはゴミを投げられる…」
「でも赤ちゃんだけは…私をみても無邪気に笑ってくれる…」
「こんな不幸な私に無邪気に笑ってくれるの…っ!」
「だから…私は赤ちゃんが大好きなの…!」
元子は優しさと不気味さの揃った声で叫び散らす。
…これまでの元子の人生なんてわかりもしない。だが今までの人生観から…見た目で苦労をしてしまうのは嫌でも分かる。
勇にも分かるところがある。
「…見た目とかで苦労したのは十分に分かるよ」
「でもだからって不幸ばっか数えるのは…なんか違うんじゃないか?」
「私には…幸福なんて…っ!」
「あー本当おばか」
「…っ!?」
「まぁ当たり前の事には気づかないこととかよくあるか…じゃあバカは言いすぎだなごめん」
「当たり前のこと…?」
「ほらアンタがどんな見た目になっても…どんだけおかしくなっても支えてくれていた人がいるじゃろ?」
「…っ」
「支え方は間違っていたとしても…その想いは本物だとは思うけど」
「…」
元子は貴一の方を向いて押し黙る。
…なんとなくでも伝わってくれたらいいなって思ってたけど…こんなすんなり伝わるとは…
「まぁなんでもいいけど…早く舞を返してくれない?」
「俺実はおしっこ行きたくって…」
「…確かに貴一さんは…私のことを支えてくれていたけど…」
「でも…それでも私は赤ちゃんが好きなの」
「だからこの赤ちゃんは渡すわけにはいかないの…!」
「邪魔するなら…!あなたには…!」
またまた鋭い目つきでこちらをみてくる元子。
…どうやら根本的には何も変わらない様だ…
勇は仕方がない…と腹と膀胱を括り風華と目を合わせる。
だが風華は玲那と杏とスマホを見ている。
風華が興奮していることから多分舞の赤ちゃんお腹を見ているんだろう。
…全く当てにならないなぁと思って元子に視線を移すと、元子はいつの間にか包丁を持っていた。
どこから取ってきたのかは分からないが…これはかなりのピンチだ。
元子の手元には舞がいる。下手に何かをしたら…舞が危ないことは確実だ。
「…ど…どうしよ」
焦る勇だが…なぜか舞には焦る様子は見えない。むしろ安心して、今にも眠りそうな顔をしている。にゃんにゃんだ。
「…えと…えと」
「この子の全部は私のもの…」
焦りまくっている勇。
誰か救いの手はないのか…!と辺りを見渡していると、貴一が一歩足を前に出す。
「…ねぇ元子」
「もうやめにしないか?」
「…俺も…俺も…辛いんだよ」
「え…?」
「元子が喜ぶ顔を見るのは嬉しいけど…」
「でも…人を誘拐する時のあの悲しい声が…脳内に充満して…眠りたくても寝れないんだ」
「だから…もう終わりにしてくれないかな…」
「でも…」
「…元子さんよ」
「大好きなものばっか追いかけすぎて…」
「大切なものを見失ってないか?」
「…っ」
元子は目を細めて…そしてなぜか貴一も目を細めて元子と目を合わせている。
…どうやらパッと思いついたやつが思ったより刺さったようだ。こんなのメモ帳にも載ってない。
「わ…私は…私は…」
「…大丈夫…大丈夫」
元子は包丁を落として…貴一が元子を抱きしめる。舞はホワホワしながらそれを見ている。
これにて一件落着だなぁ…と安心する。
…すると何か音が聞こえてくる。
プゥープゥー
…これは誰かがかましてるわけではない。
多分置いてきたメンツが警察を呼んだんだろう。パトカーの音が鳴っている。
「こりゃまずいですな…」
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