1-8 無情の炎
長すぎた1話ラストです
「死んだゴミが束になってもよォッ!」
「俺に勝てる訳ねェんだよォッ!」
ヴォアが踏み込むと体育館の地面がえぐれる。
軽く蹴り上げただけで…。
「た…助けてぇぇ!」
前言撤回だ。鬼の様にダサい。
あんなイケメンフェイスがすぐに崩れて涙が噴き出している。
「た…頼む…死にたく無い…」
それは勇も同じことだった…。残念イケメンの二人には無情にもヴォアのイかれた顔面が近付いてくる。
拳を振り上げついに霊愛の鼻先に届く…!
その時ッ!その腕が黒い影に取り巻かれ、引き剥がされる。
「ングゥッ!?」
その黒い影は用具室の中から出てきていた。
正体は運動会でしか使わない大縄だった。
「離しやがれェッ!」
ヴォアは片腕だけで暴れるものの、その大縄は千切れることは無かった。ただ張るだけで、ヴォアはユラユラと揺られる。
むしろ強度は増している様にも見えた。
「…チャンスだ…!」
「霊愛!どこに行くんだ!」
突然ヴォアに向かって走り出した霊愛。
今度は本当に頭がイカれたのかも知れない。
それに何か秘策がある様でもない。手ぶらだ。
刀も通用しない相手に無謀としか言えない。
だが追うことはできない…。
特に理由はない。ただ死にたく無いから。
霊愛はヴォアの前にまで行くと飛び上がる。
「た…確かこうだった様な…」
「ラル・フーッ!」
某ロックバンドの様な名前を叫びヴォアに突撃していく霊愛。
あの刀を出した時の様に何か出るのか!?と厨二病の勇はもちろん期待した。
だが何も出る様子は無く…。
「近づくんじャァねェッ!」
大縄に縛られていない方の腕で殴られた。
霊愛は最も容易く体育館の壁に吹き飛ばされ、霊愛の体の型そっくりになる。ギャグアニメの様だ。
「な…何してんだ?」
「確か火を使えたと思うんだけど…」
「授業中寝てて呪文も覚えてない…」
「ちょ!今大チャンスなんだから!早く思い出せよ!」
「なんとか・フーみたいなやつなんだよ!」
「カン・フーとかだろ!」
「フーフーとかだった気がする…」
「…ふざけんな」
「は…はい」
「おォい…」
一番聞きたく無い掠れた声。
先ほどまでの焦ったヴォアの声とは全く違う、余裕に満ちた声。見なくてもわかる。
絶対にあの大縄から抜け出してる。
「ど…どうすんだよ!」
「まかせろ…俺はこれでも神の使いだ…」
凄みが増した気がする。
「何すんだ…?」
ヴォアを目の前にして手を合わせる。
何か大技が来るのかも知れない。
最近アニメで見た某忍者漫画のオレンジ髪の奴の鬼かっこいい技を使うのかも知れない。
ここで使うのはできればやめて欲しいが…。
「はぁぁぁッ!」
「な…なんだこの凄み…!?」
「神様助けてぇぇぇ…!」
本当に情けない…。神を信じてる人に霊愛を見せたら普通にそっぽを向きそうだ。認めたくないだろう。
神の使いが神と言って良いのか分からないが…。
「神なんていねェんだよォッ!」
「目ェ醒させてやらァッ!」
ヴォアは拳を振りかぶり襲いかかる。
また同じことの繰り返し…。
誰もがそう思っていた。多分霊愛も思っていた事だろう。
だが…
バシンッ…!
縄がしなる音が聞こえる。
…それと同じ様なタイミングで…
ドンッ…!
激しい音と共にヴォアは吹き飛ばされ、壁に突き刺さる。
「ングゥッ!!」
全身に針を刺され押し込まれたような痛みが全身を駆ける。応えようもない痛みに血を吹き出す。
霊愛を守ったのは先ほどの大縄だった。
「な…なんなんだあの縄は…」
「…まさか」
「心当たりがあるのか…?」
「お前が言ってた通り…死んだ奴の霊があの大縄に取り憑いてるんだ…」
「俺の考えが当たってたら…」
「霊愛…お前は火の呪文を思い出しておけ」
「お…おぅ…なんかかっこいいな…」
「ふっ…そうだろ?」
「お前は…?」
「時間稼いでやるよ…!」
あれほど無謀だと思っていた。手ぶらでヴォアに立ち向かっていく…。
だが不思議と自信があった。
なぜかは分からないが、実家のような安心感が心と体を包み込んでいた。
…何かが近くにいる様な…。
「行くぞヴォアッ!」
「グゥァ…」
全身に舞う痛みに堪えながらヴォアは立ち上がる。
眼前には手ぶらで走り向かう勇…。
「人間がァ!俺を舐めんじャァねェぞォッ!」
「バカが…!」
「お前が人間を舐めんじゃねぇッ!」
「グッ!」
ヴォアご自慢の拳を突き出す。
勇もその少し後に何も持っていない拳を突き出す。…なのに何故か自慢気。
「ふッ…!」
同じ様な行動をしてもリーチが違いすぎる。
まるで子供と大人だ。
大人が届くものも子供では不可能に近い。
「いるんだろ…?」
「風華…ッ!」
微かに勇の背後が光った。
それは太陽の光でもなんでも無かった…。
ビュンッ…!
目にも止まらない速さで勇の視界の端を大縄が過ぎて行く。ヴォアの拳に勝る圧倒的なリーチ。
天は完全にこちらの味方をしているみたいだ。
大縄はヴォアの体の後ろに回ると、突き出した拳と共に体を縛り上げる。
「グゥッ!」
「お前は…恨みを買い過ぎたッ!」
「ハ…ハハァッ!」
「風華つッたなァ…ウグッ!」
縄に縛られ苦しい中ヴォアは笑みを浮かべる。
嫌なほどに不気味で釣られ笑いも起きない。
「この前…お前ェくらいのガキを…殺したぜェ…」
…風華のことだとすぐにわかった。
「体も細くてエロい顔してんのによォッ」
「俺のアキレス腱切ったり…杏を逃したり…」
「歯向かってきやがったんだ…ングッッ!」
自然と大縄を縛る力が徐々に強くなる…。
「俺はァ…女に舐められるのが一番嫌ェなんでよォ…」
「腹を中心に殴り殺してやったんだァ…」
「そんでよォッ…ウグッ…」
嫌でも思い出してしまう。
あの風華の痛ぶられた後の姿…。
自分がこんなに怒りっぽいとは分からなかった…。怒りと殺意に頭が支配される。
歯が擦り切れそうだ…。
「ふざけんじゃねぇッ!」
「ハ…ハハァ…ッ!」
「バ…カがァッ!」
「んグッ!?」
突然、体が宙に浮き上がる。
ブゥンッ!ブゥンッ!
「調子に乗るんじャァねェ…!ハッハァッ!」
薄れていく視界の中。
その中でヴォアが片手で勇の握る大縄を振り回している姿が見えた。…それも軽々と。
「死ねェェッ!」
ヴォアは最も容易くその大縄を打ち付ける。
…バギンッ!
体育館の床は簡単に砕け散る。
木の破片が体中に突き刺さり血が溢れる。
背中には例えようの無い痛み。
「グフゥ…ッ!」
「まず俺に勝とうと思ッてるのが間違いなんだよォッ…」
「絶対的な力に勝てる訳が無いのによォッ…」
ヴォアの大袈裟な足音と不快な声が近づいてきている。怒りと恐怖で心臓の鼓動が早くなる。
それと同時にヴォアの矛盾に気づき、小さな笑い声がこぼれ落ちる。
「何がおかしいィ…?」
「絶対的な力って…後付けでも出来るんだなぁってよ…」
「あァ?何が言いてェ…」
「自分でもその力がただの運だって気付いてるんだろ?」
「だからそんなに暴れたがるんだろ?」
「自分が弱い時のことを知っているからよ…上に立ちたいんだろ?結局さ…」
安過ぎる挑発。
だがそれはヴォアの胸に深く突き刺さっていた。
「…雑魚のくせによォッ!」
「調子に乗ッてんじャァねェ!」
咆哮ともとれる様な怒声。
それと共にヴォアの大きな足が視界を覆う。
まさに絶体絶命…。霊愛など頼りにならない…。
「はぁ…はぁ…」
「死ぬべきなのはお前だ…!ヴォアッ!」
「な…!?ングゥッ!」
しかし…ヴォアの足は勇に当たることは無かった。
それどころか徐々に上へと昇っていた。
「はぁ…はぁ…た…助かったぁ…」
「な…なんだァ!?」
体育館の入り組んだ天井にいつの間にか大縄は掛けられていて、ヴォアは両腕ごと体が縛りつけられていた。まさにポルターガイスト。
ヴォアは文字通り足掻くことしか出来ない。
「今だッ!行けッ!霊愛ッ!」
勇の張った声が崩れた床の下から体育館に響く。
霊愛は焦っていた。そりゃとんでもなく。
ヴォアは足掻くことしか出来なくて、圧倒的に有利!だと思うだろうが…。
一番大事な火の呪文が思い出せない。
まさか「火ッ!」と言うだけで出てくる訳が無い。もっと厨二クサくてかっこよかった。
「ま…!まだか!?霊愛!」
「あ…!あとちょっと〜!」
遅刻しそうな時に大便をしている様な口ぶり。
ちょっと…とは言っているがまだ全然なのも同じだ。
「カンフー!…違うか…」
「そ…そういえば…スパム食いたいなぁ」
「あぁダメだダメだ…!また沖縄出身って勘違いされてしまう」
「これはブラフってことで…ん!?」
霊愛は何か思いついた様に口角が緩む。
あんな無理があるセリフの連続で一体何を思い出したのだろうか…。
「そうか…そうだったのか!」
某名探偵の"ピロリンシーン"の様なセリフ。
だがそんな大した事は思いついていないのは確か!
霊愛は突然走り出す。右手を前に突き出しながら…。
「フレアッ!フレアだッ!」
ボォォゥッ!
体育館の真ん中に小さな赤い光が灯る。
その赤い光は数秒の時の中で徐々に大きくなっていく…!
「あちょッ!あちょい!」
な…情けない…。
あまりの熱に霊愛は走り回る。
「は!早くヴォアに火をつけろ!」
「届かない!」
「バカ!飛べよ!」
「はッ…!その手があったか…!」
霊愛は火のついている右手を抑えて飛び上がる。申し訳ないが、その垂直に昇っていく姿はエレベーターみたい…と思ってしまった。
ヴォアの眼前に現れる霊愛。
「なァ…!何するつもりだァ…」
「え…えへへ冗談ですやん!」
「早くやれッ!」
「はッ!いつもの癖で…ッ!」
霊愛はゆっくりと右手をヴォアの大縄に近づける。それに対して何も出来ないヴォアは大きな顔で鬼の形相を浮かべる。それなのに霊愛は怖がっている…。
「…大人しく死ねッ!」
ブォッッ!
音を立てて激しく燃え盛る炎。
その勢いは止まる事を知らずに火の粉はそこら中に飛び散り、辺りは焦げる。
火が怖い二人は体育館の入り口に立ち、燃え上がるヴォアを見上げる。原始人なのか?
「…なんだか可哀想だな」
「まぁ同情は出来ない」
「それはそうだな…」
あれほど人を殺し、家庭を壊した怪物の最期。
それは無情の炎で焼ける事だった…。
炎はヴォアの皮膚を食い破り、その下には焼け焦げた血が少量落ちる。蛇口を閉めた後の水のように…。
「あ…あぁ…」
「あ…の方に…」
「お…ぼ…え…て…」
「い…ろ…」
ヴォアの発した呪いの様な言葉…。
「あ…あの方?」
「な…菜の花の聞き間違い…だろ?」
「そ…そうだよな!!はははッ!」
笑っている二人は震えている。
ヴォアの体重と炎の火力に耐えていた大縄は遂に千切れ、ヴォアの亡骸は床に落ちる。
ヴォアの亡骸はカラスの様に真っ黒になっていて白目を剥いていた。
「これ…どうするの?」
「その点は任せておけこいつは私が連れていく」
「は…恥ずかしいけどありがとな」
「いや…お前がいたから助かった」
「俺なんてただ、いただけだ」
「お前がチャンスをくれなかったら…まず勝てなかったぞ」
男二人の気持ち悪い友情展開。
「それは…多分…」
「大丈夫だ分かっているよ」
「…じゃあ私はそろそろ行くぞ」
「気をつけろよ」
「お前も怪我を早く治すんだぞ」
「おうよ」
霊愛はヴォアの亡骸を空中に浮かべる。
こう言うことが出来るのは本当に凄い。
…あからさまにドヤ顔なのは癪だが。
「お前とはまたどこかで会える気がする」
「…俺もそう思ってた」
「またお前と会う時は少しくらい強くなっているよ」
「ふっ…頑張れよ」
「あぁ…」
「じゃあな…」
「じゃあな玄米…」
「れいあ…」
言葉は途切れ虹色の粒になって消えていった…。
体育館に一人、取り残された勇に悲しみが襲ってくる。
だがその悲しみはすぐに薄れていく…。
「こ…この体育館どうしよ…」
壊れた側面入口の鉄扉。
割れたギャラリーの窓ガラス。
クレーターの様に穴の空いた床。
大縄は縮子鞠子、縮こまっている。
そして至る所が焦げた体育館。
しかも今は休校中。…冷や汗が落ちる。
「霊愛ぃ…これくらい直していってくれよぉ…」
勇には分かっている。霊愛にこれを元通りにする能力は備わっていないことを…。
「し…仕方ないよな…俺悪くないし…」
勇は荒れた体育館を後にする。
流石にこんな事で時間を使っている暇はない。
フラフラのまま…校門に向かう。
「い…痛…」
めのまえがまっくらになった!
「…んここは?」
白い天井に例えようのない臭いとも言えない匂い。
「あっ!勇…!」
久しぶりに聴いた様な声がする…。
この声は杏だ…。
「俺…いつ病院に来たんだっけ…」
「違うよ!」
「校門で倒れてたのを近所の人が救急車呼んでくれたんだよ!」
「そ…そっか…」
杏から聴いた話…。背中や擦り傷を含めて全治二週間の怪我を負ったそうだ。
どーりで痛いと思った。
「…ありがとう」
「え?」
「アイツとの事だよ!勇がここにいるってことは…」
「あぁ…もう杏を襲ってくる事はない…」
「…凄い…勇一人で…」
「いや…あれは色々あってね…」
「俺はほとんどなんも出来てなかったんだけどね…」
「ううん…!ウチ勇に勇気もらっちゃったよ」
「え…なんで?」
本当に疑問だ。カッコつけて闇雲に突っ込んで、結局最後は助けてもらうしか出来なかったのに…。
「なんでって言われても…」
「とにかく嬉しかったんだよ!」
「それだけだよ!」
「それだけ…って…」
物語としては理由を言わないのは良くない。
…がこの少しズレたとこほが杏の良いところだ。
「と!とりあえず…!ありがとうね!」
「まぁ…うん…」
結局勇気をあげた理由はわからない。
だが何も知らずして感謝される…
これほど嬉しい事は無かった。
「…勇!ウチの事情のことは秘密だよ!」
「分かってるよ」
「てか…学校は…?」
起きたばかりの時スマホを見たのだが、ヴォアと戦った時からもう一週間が経っていた。
友人からの連絡ではヴォアと戦った翌日には休校は解除されていた。
「あ!そうそう!」
「なんか体育館が大荒れしてたんだけど…」
「え…えとどんなふうに…」
「なんか全体的に焦げてて…ガラスも扉も壊れてて…ボコボコになってた」
「…ヤバい奴もいるんだなぁ」
「それなぁ!ヤバい奴もいるんだねぇ…局所的放火魔」
「あ!それより!」
杏は体を乗り出す。そこにはちょうど股間があって…なかなかに痛い…。
「学校中風華の話ばっかなんだよね…」
風華はあれだから中々に人気がある。特に熱烈な男子から。
「大半の先生も風華が死んじゃった事知らないみたいだし…」
「風華には可哀想だけど…パニックにならない為にも話さない方が得策だよね…」
「うん…」
例えヴォアを倒したとしても…
風華や杏の家族が死んでしまった事は事実で…過去を変える事は出来ない。
大事なのはこれからどう歩くか…。
なんてカッコつけてみたり…。
しばらくすると杏は学校に向かった。
…普通こう言うのは放課後にくるものだと思っていたが…それはアニメや漫画だけの話だったのだろう。
大きな白い部屋に一人、ベッドに横たわる。
「はぁ…」
「ヴォアの奴…たしか"あの方"って…」
「気のせいだったんだ…忘れてた…」
「早く寝よ…!」
あれだけ寝ていたと言うのに急に眠くなった。
いや…現実から目を逸らせるから寝たい…と言った方が正しいのかもしれない。
そんなことを考えていたら…すぐに…意識は薄れていく…気絶した時の様に…。
長すぎた1話のラストです。
2話はもう少し短くなる予定です。
次からは月,水,金に投稿する予定です。
時間は19時の予定。
いつも通りくだらないけど見てほしいです。
ブックマークしてくれたら嬉しいなぁ〜




