16-2 轍
「あーもうなんも分からん…」
「勇…おばかじゃん…」
「つまり…俺は犬系男子だから外でおしっこするし…裸でうろつくんだよ」
「ぐごぉ…むにゃ…」
風華の大きな目が半分になってしまっている。
風華は眠い時は本当に顔に出てしまうから…この状態はかなりまずい状態だ。
コツっ…と勇の肩に頭を置いている風華。
寝顔はいつも通りあざとい…普段なら頭をヨシヨシしてしまうが、今の風華はたんなるイケメン。嫉妬心と共に風華の頭を机に移す。
外を見るともう21時…すっかり夜になってしまっている。…風華はまだ資料も数枚しかめくってないが…ドパガキなので仕方ない。
「今わかった事といえば…」
「誘拐の誘は言葉で人を導くという意味で…」
「誘拐の拐は曲がりくねった不正な方法で騙し取る!って悪い意味らしい!」
「だからこの誘拐って漢字は非常に合理的なんですよねぇ〜」
「ふぁ〜い」
あまりにも適当な返事。
勇もふざけるのがやっとで…口が半開きだ。
もうあそこの窓から飛び降りて逃げてしまいたい…だがここは確か23階。風華は飛べるから良いが、こちとら降りてしもうたら死んでまうがな。
「頼むから俺を世界に羽ばたかせてくれ」
「何を言ってんの…」
「やばい…脳みそが溶けてるんだけど…」
「全部この資料があるせいだ…」
「もう紙を滅ぼすしか…ないのか…?」
葛藤の果ての苦悩…
パンケーキの前にホットケーキ…
似ているようで似ていない類語。
瞼がピクピクとして脳みそが体に直接限界を伝えようとしている。
もう無理…!寝てしまえ…!
そう悪魔の囁きが聞こえる前に机に突っ伏してしまう。なぜなら明日は普通に学校なのだもん。
「グン…」
がくん…と机に頭をぶつけると…
がチャっと音を立てながら入り口の扉が開く。
勇は三角形の視界でその入り口の方を見てみると…肩で息をしている舞パピーがいた。
だいぶ急いでいるようだ。
「ぜぇぜぇ…」
「お前ら何か分かったか?」
「…いやなんも」
「…実は行方不明の人たちが見つかったんだ」
「俺らのここでの時間は無駄だったのか…!?」
「いや全く無駄じゃない」
「なぜなら…」
「その行方不明の人たちが…」
「赤子の姿に変わっていたからだ…」
「へ?」
「今ニュースをやってるはずだ」
ピッ
舞パピーは手元のリモコンでテレビを付ける。
斜め上の方にテレビがあるから…眠たい状態だとそのテレビを見るのがキッツい。
「昨夜…成人連続誘拐事件の行方不明者の人たちが近所の保育園で発見されました」
「へ?」
どうやらこれはドッキリ番組でもなさそうだ。
たまに見ているニュース番組とタイトルも時間も一緒だ。これがドッキリなわけが無い。
勇は全く状況が理解できないが…
とにかく行方不明者が見つかったことと、その人たちが何故か子供にされてしまっている事だけは分かった。
…人間には理解不能だが、勇にはよくわかる。
この時間は能力者の仕業なんだと…
「とりあえずお前たち二人は今日は帰れ」
「いいんですか!?」
「あぁちなみに送りは無いから歩いて帰れ」
「…俺眠いんだけど」
「お…俺も眠いですぅ…」
「…早く帰らないと補導されるぞ」
「…」
この後普通に警察署から追い出された二人。
ちょっとでも近くに行こうと電車に乗った二人が、寝過ごしてしまって帰るのに1時間掛かったのは…まぁ関係ないから黙っておこう。
そしてあまり寝れないまま次の日になった。
現在朝学活が終わって…15分休み。
勇は机に突っ伏して眠ろうとしている。
だが…眠ろうとしているだけで、寝れないのには理由があった。
「えぇ〜!風華〜!」
女子高校生が出せる精一杯の色気声。
…この風華って名前はみんなが想像する風華だ。…髪の毛を切ってイケメン…まぁアイドルよりかっこいいくらいに留めておくが、そんくらいにカッコよくて女子の目はハートになってる。
いつもなら風華を赤ちゃんと同じ扱いしていたのに…今は真逆に色目を使っている。
「風華くんってこんなイケメンだったんだ〜」
この女子ども…普段を風華って呼び捨てにしているくせに、本当はイケメンだって知った瞬間にくん付けをしている。
…全く女の子ってのは欲に従順だな…
「えぇ〜風華くんって彼女とかいるの〜?」
「いないですけど…」
見た目は悔しくもイケメンでも、中身は風華となんら変わらないようで…かなりのインキャだ。
「じゃあLINU交換しようよ〜!」
「えあはい…」
なんなんこいつ。
無自覚イケメン系のラノベ主人公じゃん。本当に気持ち悪すぎる…ひいちゃうわ〜
そんなこと女子が怖くて言えるわけが無いから心の中でそれを押し殺す。
風華はスマホを机に置くと、女子どもはその出されたQRコードを順々に読み取っている。
まるでパンに群がる鯉の群れのようだ。
「きゃ〜今度遊びに行こ!」
「えあうん…」
勢いに負かされた風華はあっさり了承した。
まぁ別に風華が女の子と仲良くしてもどうでも良いのだが…そうとは言えない理由があった。
なぜなら、勇の二個前の席のにゃん子が燃え尽きていたからだ。
「あ舞ちゃむ完全に萎えてるね」
同じように突っ伏していた杏の声。
杏は完全に机に突っ伏しているから、これが大六感とか言うやつなんだろう。
「まぁそうよね〜」
「自分が勇気出してデート誘ったのに」
「普通に他の女の子とのデートが決まっちゃったんだもんね〜」
「可哀想だけど可愛い…!」
「でも舞ちゃむはこんなところでは終わらない!」
杏はバッと勢いよく椅子から飛び上がると、ぼーっと風華を見つめている舞の元へ走る。
そうして舞に抱きついた杏。
女子の視線は風華に行きっきりだが、男子の視線は美少女二人に向いている。
そりゃそうだ。アニメから出てきたのかと疑うほどの女の子が二人もいるんだもん。
「舞ちゃむ!」
「な…何…杏ちゃん…」
文字通り燃え尽きてしまっている舞ちゃむ。
ぷっくらとしたほっぺが余計に目立つが、悲しそうな顔をしているからか…ほっぺも下がっているような気がする。
でも…こんな可哀想な舞でも杏の力があれば簡単に元通りになるんだろう。
「よし…じゃあ舞ちゃむ!」
「風華は諦めちゃおうね!」
「へ…?」
まさかの提案。舞も素っ頓狂な声を出してる。
「だって舞ちゃむがこんなに思ってるのに…」
「風華は女の子と仲良くしちゃってるんだよ?」
「むっ!確かに…!」
「舞ちゃむはもっとぷりぷりにならなきゃはんだよ!」
「ぷりぷりっ!」
「きゃわ…っ!」
勇は気づいてしまった。
杏は舞を救うためにやっている訳ではなくって…ただ可愛いベイビーを見たいだけなんだと…
「だから他の男の子と話してみよ!」
「うんっ!」
「風華くんなんて嫌いなんだもんっ!」
「きゃ〜!頑張ってね〜!」
「うんっ!」
舞はぷりぷりしながら周りの男の子に話しかけに行って…杏はぴょこぴょこと席に戻ってくる。
「…え?なんであんなこと言ったのよ」
「え〜?」
「だって舞ちゃむが他の男の子と話すじゃん?」
「そして風華嫉妬するじゃん?」
「風華がウチに相談してくるじゃん?」
「そしたら可愛いがいっぱいだよ?」
「えぇ….」
「まぁ真面目に答えると」
「二人にはもっと二人の大切さに気づいてもらいたいのよん」
「…なるほどね」
「カップルっていうのは二人いらないと成り立たないからねっ!」
「…意外と考えてたんだな」
「ウチは二人の恋のキューピッドになるの!」
「二人の親友だしね〜!」
「…良いやつ」
「ありがと〜」
あれからと言うもの…
舞は他の男子と話し…風華は他の女子に話しかけられ…逆に仲が悪くなったような気もするが…モテる杏が言うんだから正しいんだろう。
…だが舞はまだ風華を諦め切れないんだろうか…移動教室の時は風華の後ろをついて行ってた。しかもかなり怒ったような顔をしながら。
そうして放課後になった。
風華は他の女の子と一緒に帰った見たい。
…まぁ半ば強引にだけど。
放課後の教室にはぷんぷんの舞が勉強をしていて…話しかけたくても何も話しかけられない。怖い。
だが、二人の友人としてここは動くしかあるまい。
「…あ…あのぉ舞さん」
「何ぃ?ぐすん…」
「あ可愛い」
赤ちゃんのように泣きまくっている舞。
でもノートには『風華くんのおばか!』っていっぱい書いてある。最初は可愛いと思ったけど、徐々に字も汚くなっていって…呪いの文のようになっている。ちなみに普段の舞の文字はめちゃ綺麗だ。
「風華くん嫌いだもん…っ!」
「私がこんなに好きなのに…風華くんは他の女の子の事が大好きなんだもん…!」
「どーどー」
「せっかく一昨日風華くんと仲良くなれたと思ったのにね…?私風華くんの顔思い出して夜寝れなかったのに…!」
「…」
「…!慰めてよっ!」
「女の子が悲しんでるんだよっ!」
「いやぁ…舞と風華って似てるよなぁ」
「私は一途だもん…っ!」
「そう一途なところもめっちゃ似てる」
「…風華くんは浮気ものだし…っ!」
「よし!じゃあとりあえずカラオケ行くか」
…風華とおんなじだから舞もこれでいける。
…そう思っていたのだが、舞は戸惑ったような表情…そしてその次にはいつものあざと萌顔。
多分何か誤解されてると気づいた…
「えっ!?勇くんは杏ちゃんが好きなんでしょ!?」
「わ…私なんかでもいいの!?」
「杏ちゃんと違って私スタイル悪いし…!」
「…なんかそーゆー勘違いするところも風華みたい」
「…え!?勘違いなの!?」
「うわ…今のすごい風華っぽい…」
「えぇ!?なんでなんでー!」
その後勇と舞は二人っきりでカラオケにいった。…まぁデートって感じは全くしなかった。
なぜなら舞がずっとぷりぷりしているからで…微塵も下心という下心が湧かなかった。
カラオケに来たが最初の15分くらいは色々と質問攻めされていた。小学校とか幼稚園の頃の風華の写真を要求されたが、今現在のツーショットすら無いんだから持ってるわけが無い。
あと舞のカラオケの点数は85点くらいをウロウロとしてて、決してめっちゃうまいってわけじゃなかったが…可愛い声をしていたからAIですらヘニョヘニョにさせていた。
そして20:00くらいになって夜の街に駆け出す二人。夜の街といっても変なものはない。
舞は満足しているのかニコニコしてる。もうこの笑顔だけでモテる理由がわかる。
「今日はありがとうねっ!」
「ストレス解消になったよっ!」
「そりゃ良かったな」
「えへへっ」
「今度は風華と行くんだぞ」
「うっ!うんっ!」
「えっちなポーズの方がいいかな…」
グラドルみたいなポーズをする舞。
…胸が大きいこともあってこりゃあ刺激が強すぎる気がする。
勇も少し頬を照らしながらそっぽを向く。
「それは絶対ダメだ」
「そうだよねっ!まだ早いもんねっ!」
「まだ…」
正直風華が羨ましいと思った。
うちの好きな子の杏ちゃんなんて、胸はそこまで大きく無いからこんなことしてもらえない可能性がある。
いやまず付き合える可能性の方が低いんだが…そこは人間なんだから、大きく出た方がいいと思う。
「あっ!パパ…じゃなくってお父さんからLINU来ちゃった」
「早く帰ってこいかぁ…」
「じゃあ私帰るねっ!」
「気をつけて…」
これイケメンなら「送ってくよ」くらい言えるが、これは家に帰った後の方が怖すぎる。
舞パピーに何をされるか分からない。
だから今日は手を振るだけに留める。
そして舞は一人暗い道をスキップで帰る。
…トコトコと一人分の足音と、なぜかもう一つの足音が聞こえる。
舞の心臓の鼓動は徐々に早くなっていく。
それは紛れもなく恐怖からだった。
次の投稿は金曜日です




