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ANCIENT   作者: 美朱太
月面の太陽
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82/95

15-6 陽だまり

めぞん一刻だいちゅき

 「那砲炎(だほうえん)…」

技名に那覇の那がついているのなんて…見たことがない。…だが何かまずい予感を肌で感じ取り…勇は体を丸める。


 ビュンッ…!


勇は風を切る音が通り過ぎたのが分かると…思わず違和感を感じる頭頂部を触る。

その違和感の正体に気づいてしまった勇は思わず冷や汗が流れ出す。

 「…ちょ…ちょい待て…」

勇は慌てながらポケットからスマホを取り出す。それを頭の方に持っていって…パシャリ…と一枚の現状の絵を撮った音が響く。

炎尾はその間…何か本当にマズイことをした様に気まずそうにしている。あれだ完全に女の子泣かせちゃった時のクラスの空気だ。

勇はその自分で撮った写真を見る。

静かに見ている…その沈黙が炎尾には痛かった。何をされるよりも痛く感じた。

 「…ちょっと」

 「ちょっと焦げて禿げてる…」

これは絶対に笑ってはいけない所だ。

…勇があまりにも不憫でならなくて、炎尾は笑うことはせずにただこの先のことを考える。

多分…勇はキレるよりも悲しさ…そして自分の不憫さを嘆いていることだろう。

 「ご…ごめんこん…」

 「…本当に来なければよかった」

 「靴も燃やされて…せっかくかっこよくセットしたのに…頭頂部の髪も燃やされて…」

 「いやもう…いやもうさぁ…」

 「本当に萎えた…」

ちなみに本当にうっすらと禿げている。

電車道の様に真っ直ぐに…あの那砲炎が通った道がはっきりと分かる。

まだ未来のある高校生には苦でしかないだろう。…40代の大人ですら…それは死でしかない。いやまぁそれは髪が生える事がもうないからか…

そんな事どうでも良くって…

スマホを持っている勇の手は震えている。

 「…え?」

だがその震えは驚きによって止まっていく…

別の違和感がやってきた頭頂部を触る…すると何かムカデの様なものが這っているのが分かる。いやこれボケとかでもなくて本当に…そう感じて鳥肌が立つ。

 「…何これ」

勇は勇気を出してそれを触ってみると、何か触った事がある様な感覚がして…その鳥肌はすぐに引っ込んでいく。実家の様な安心感がある。おばあちゃんの料理くらいだ。

…勇は思い切って…その這っているものを引っ張る。

 「…」

一瞬それを見ても何か分からなかった…

見た目はあんまり普通の髪の毛と大差がなかったから仕方がない。…だが数秒もあったらその正体にすぐ気づく。

 「…黒縄」

 「もしかしてお前…俺の髪の毛を作ってくれようと…」

頭から出てきた黒縄は頷く様にブンブンと縄を振っている。…髪の毛を作っている時は一回で出せる量は増えるみたいだ。ていうかちまちました作業には量が増える様だ。その代わりに細長い…多分その分重量には耐えれないんだろう。

これは能力説明サイトでもない情報だ。書き足しておこう。

 「ちょっと待っててくれ…」

 「流石に…髪の毛がない状態は嫌だ」

 「分かったこん…」


そして数分が経った。

もうすでに勇の禿げた頭には黒縄で作られた模擬髪の毛が生えている。よーく目を凝らしてみると髪質がちょっと悪い。

 「事故を防ぐためにもう那砲炎は使わないこん」

 「うんありがとう」

 「黒縄…出てきてくれたついでに言うんだけどさ」

 「黒縄燃えるじゃん?確定で不利じゃん?」

黒縄はコクコクと頭を振っている様に見える。

勇はそれを見て安心した様な顔をする。

 「かと言って…消防が来るまで炎尾から逃げまくることも出来なさそうじゃん?炎尾は優しいけど中々に強そうだし…」

 「だから…俺らだけで決着をつけるしかないと思うんだよ」

黒縄はブンブンと頭を振っている。これは様…ではなくって確実だ。絶対に「無理!」って言っている。

これでも勇は黒縄と3ヶ月以上人生を共にしている。

 「いや…俺に良い作戦があるから」

 「とりあえず俺に任せておいてほしい!」

黒縄がかなり険しい顔をしている気がする。

3ヶ月いたら多少の信頼関係ができるもんだと思うが…どうやら黒縄はかなりのお嬢様育ち、自認女の子の黒縄は多分ガードが堅い女の子だ。

 「頼む…!」

 「後で飲み物奢ってあげるから!」

…勇はお金もないくせによく奢るという。

ちなみに黒縄はご飯食べれないが…飲み物は飲める様だ。ちなみにコーラが好きらしい。

大抵の物は濡れたら渇く…だが実はその物自体の水分補給と考えたら面白いだろう。

いやまぁそんな訳がなくて、黒縄が特殊なだけだけど。

 「さっき飲んだカメロンソーダ…」

 「飲ませてあげるから」

黒縄はビュンビュンと飛び回る。

…やっぱ黒縄はかなりちょろい子だ。

黒縄が人間になったら…好きなお菓子を渡されて天使の様に走り回る幼女だろう。

 「じゃあ黒縄ちゃん…」

黒縄はかなり張り切っている様だ!

その一人と一本の様子が変わったのを見た炎尾は、自分の体の火力を強火にする。炎尾自身は言っていないが身体が少し青くなっていたから強火になったと分かった。

 「よし…黒縄ちゃん…!」

 「一旦逃げるぞよッ!」

 「とりあえず疾怒の舞ッ!」


 ビュンッ!


勇はいきなり黒縄を手首あたりから発射する。

黒縄も知らなかったみたいで…普段よりは威力は劣っている。

こんなんで炎尾は貫ける訳がない…!

黒縄は圧倒的に無駄な犠牲じゃんっ!と言ってるみたいで、ちょっと振り返って来ているが…

勇の狙いはまず炎尾ではなかった。


 バンッ!


それは炎尾の真ん前のコンクリートの地面にぶつかり…面白いくらいに破片が飛び散る。

炎尾はそのコンクリの破片が目に入らないために腕を使ってそれを妨げる。…炎尾くらいの高火力なら不燃物の石くらい消し炭にできそうだが…最近生物で習った反射ってやつだろう。


炎尾が目を腕で隠している間に…

勇はバチクソに逃げていた。

そして何も知らない炎尾は腕を下ろす。

絶対に勇がいなくなってマジックじゃんと驚くだろうが…炎尾は後ろ姿を見せて逃げる勇を余裕の表情で見ていた。

その顔は獲物を狙う本物のキツネの様だ。

 「妾の嗅覚を舐めているこんね」

 「どれだけ離れていても…地の果て…いや地獄の果てまで追いかけるこん…」

 「…地獄の果てまで追ったら帰省だこんね」

 「天国の果てまで追いかけるこん…!」


一方その頃…

炎尾より500メートルくらいの先の所にいる勇はと言うと…

 「ぜぇぜぇ…」

未だに逃げていた。

しかもゼェゼェなんて言っているが、遊園地の街灯を黒縄で伝っているだけで本人は走ってすらいない。

黒縄は少し不満そうに勇を運んでいる。

ちなみにかなり早い。普通に遊園地で遊んでいる人はイケメンな猿が遊んでいると思っていることだろう。

黒縄はかなり不服そうだ。


 「いや…遊園地全力で走ったらめっちゃ迷惑じゃん?」

 「だからこうして…黒縄ちゃんに運んでもらってるのよ」

 「…」

 「ごめん」

ごめん…と言いながら辞める気はなさそうだ。

黒縄はブチギレながら勇を運んでいく。

目的地は…黒縄は分かっていなさそうだが、勇にはちゃんと目的地がありそうだ。

 「きっとあの炎尾は嗅覚を頼りに俺を追いかけてきているはずだ」

 「アイツの火力を抑えられるか分からないけど…」

 「あの噴水の方に向かってくれ」

 「あのでっけぇ所」

勇が指を刺したところは…カップルの溜まり場とも言われている憩い(良い恋)の噴水。

…黒縄は心底呆れてしまっているのだろう。あからさまに進むスピードが遅くなっている。

 「いやいや違うからな!」

 「確かにあそこでイチャイチャするカップルはめちゃくちゃいるって見たけど!」

 「黒縄と一緒に見てめっちゃぐちぐち言っちゃってたけど!」

 「流石にカップルを殺そうだなんて思ってないぞ!」

黒縄は疑いの目?を勇に向けている。

目もないし…喋れないのに黒縄が疑ってきていることとか、めちゃくちゃにわかる様になってしまった。

でもそんなところがちょっと可愛い黒縄。

 「俺もいつカップルになるのか分からないしな…」

うおっw…と冷笑系の黒縄。

勇は怒ろうにも確証がないから怒れない。

 「あの水の量なら炎尾も倒せると思うんだよ」

 「流石に手で水をかけてちゃ間に合わないじゃん?…俺が灰になっちゃうじゃん?」

黒縄は何かを察した様にその場に止まる。

勇は急に止まったことにやってブランコの様に、その場でブラブラして…客に見られて結構恥ずい。

 「…大丈夫大丈夫!」

 「黒縄ちゃんにはその噴水に連れてってもらうだけでいいから!」

 「ほんと!」

珍しい勇の真剣な眼差しに黒縄は心が動かされ…ついには黒縄は動き出し、勇を噴水へと運んでいく。

 「しかし…なんで俺はこんな狙われるんだろうなぁ…」

 「能力もバチクソに弱いし…」

 「別に敵の親方を殺しちゃった訳じゃないのに…」

 「なんでか分かるか?」

 「…ふむふむ」

 「…ふむふむ」

 「なんも分からないけど…多分世界平和目指してるからだな」

黒縄は嬉しそうにブンブンと縄を振っている。

嬉しそうで可愛いから言えないのだが…ブンブンと縄を振られると吊り下げられている勇も揺れるから、かなり気持ち悪そう。


そうして…目的地の噴水近くにたどり着いた勇。…やっぱりカップルがかなり多くて…このままいるとストレスが溜まりそうだ。

…ストレスが溜まっているのは勇だけではなさそうで…黒縄もプルプルと震えている。

 「黒縄…ちょっと手伝ってくれない?」

黒縄はブンブンと縄を振っている。

やっぱり黒縄は愛嬌はあるけど、恋愛はしたことがないみたいだ。もういっそ黒縄と付き合っても良いかもしれない。良くはないか…

勇は地面に着地して地面に手を置く。

側から見たら小銭を落とした人。

だが勇の顔には恥ずかしさはなさそうで、かなり真剣な顔をしていた。

 「よし行ってこい…!」


ビュンッ!


黒縄は地面を進んで…その噴水の近くへ近づいていく。土竜の様に地面を削りながら…

抱き合ったり…手を繋いで座っているカップルの近くに近づく…


 ビュス…


コンクリートを突き破った黒縄…

それは一気にカップルの元に近づいていく!

しかも今の黒縄は勇の髪の毛を作った時の様に細長い感じて…パッと見完全に黒い蛇だ。

 「ひょえッ!?」

信じられないかもしれないがこれは男の声だ。

男は素っ頓狂な声を出して女に抱きつく。

女は満更でもなさそうだ。多分付き合って1ヶ月も経ってない。相手の欠点ですら可愛く思えてしまう頃だ。

 「…クソ!」

勇はめちゃくちゃ変な叫び声出して逃げるとか…彼女置いて逃げるとか思っていたのに、彼氏はちゃんと彼女と一緒に逃げていた。

日本の未来は明るいと思う。…それとともにカップルいいなぁって正直に思っちゃう。

そして誰もいなくなった憩いの噴水。

そこに勇は立っている。…なぜか憩いの噴水の中に入っている。

 「さあって…炎尾が来るまで待つか…」

勇は長ズボンを捲っている。勇は結構すね毛が生えているみたいだ。

黒縄は仲間がいっぱい!と嬉しそう。

次の投稿は水曜日です

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