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ANCIENT   作者: 美朱太
月面の太陽
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81/95

15-5 BURN

 「なぁ炎尾…」

 「…?なんだこん?」

 「いや…!炎尾さんッ!」

 「どうやったら変身できるんですか!」

 「…こん?」

少年の様に目を輝かせている勇。…それを蔑んだ様な目で見ている杏。

もう本当に心底呆れている様で…あんなに大きな目を細めている。

 「妾はちょっと特殊なんだこん」

 「まず普通の人間では無理だこんね」

…炎尾は自認人間なのかも知れない。

でも勇に聞かれたのが嬉しい様で結構テンションが高そうだ。

勇は本当に無意識に人の懐に入るのが上手い。

 「胸の辺りに手を当てるんだこん」

話した言葉の通りに胸の辺りに手を当てている。ここの部分単体で切り抜いて見たら…なんか毛虫みたいで気持ち悪い。そのくらいにオレンジ色の毛が生え揃っている。

 「そして…」

 「地獄羅神門(じこくらしんもん)…」

 「解…ッ!」

率直な感想は、珍しくバトル系っぽい厨二病の名前が出てきたと思った。

…目の前の炎尾は赤黒い炎に包まれていく。

勇は険しい顔をしながらその炎を凝視する。

そしてその炎が風に乗って消えたと思い…少し目から力を抜くと…

 「ほら!これで変身できるんだこん!」

胸を張っているバブバブなキツネ。あの可愛いキツネに戻っちゃった。

第三形態を期待していた勇は内心がっかりする。いや…その内心のがっかりが体の隅々に勝手に伝令を出していた。

杏は衝撃な光景を目の当たりにする。

それはグロい…とかじゃなくて意味不明な衝撃さだ。

 「…?」

 「何してるの?」

 「…蹴飛ばそうと…」

ラグビーの五郎丸の様に膝を曲げ浣腸の様な手をする勇。勇の目の前には黒縄に縛り付けられている炎尾がいる。なんと言う早技で黒縄を巻きつけたんだろう。

手足を縛られた炎尾は激しく首を振る。

二頭身だからか…なんか可愛い。


 バシュッ!


地面を蹴って勇は走り出す。

サッカーもラグビーもアンチな勇にとって…!これは屈辱なはず…!だが勇の顔には笑みが浮かんでいる。

勇は炎尾まで充分に近づくと思い切り足を振り上げる。

…絶体絶命のはずの炎尾。

だがその表情はイヤな笑みを浮かべていた。

大きすぎるお目目が完全なる糸目に…!

 「地獄羅神門…!解だこん!」

勇のつま先が炎尾に当たるその直前ッ!

炎尾の体はまた赤黒い炎に包まれる。

 「勇っ!危ないよ!」

杏の声で我に帰った勇は直前で足を止める。

…だが燃え盛る炎の勢いは誰にも止められず…!勇の靴先に火が燃え移る。

 「あちょ!あちょい!」

 「勇っ!」


 ブシュゥゥゥッ!


爆音と共に白い煙が放たれる。

炎尾は余裕そうな表情でそれを見るが…

煙が風に飛ばされ去っていくとその表情も消え失せる。…表情も風に乗って飛ばされたのかな…?

 「た…助かった…ありがとな」

 「うんっ!」

靴についた火も消してくれて…こんな笑顔を見せてくれて…杏かわええ…

そう思うと共に火が消えた靴を見る。

 「あぁぁぁッ!」

 「ふ…ふッ!だこん!」

 「そんな煙じゃ妾の炎なんて消えないこん!」

自信満々に腕組みをしている炎尾。

…しかし勇が叫んだ理由は他にありそうだった。

勇は足ごと燃えた靴を持ち上げる。

 「あ…穴空いちゃった…」

 「あ…穴ァッ…」

情けない声を出している勇。

杏はその靴を見やすい所に移動してみると…

 「ぷふっ!」

思わず吹き出してしまう。

なぜなら…綺麗に靴のつま先の部分が無くなっていたんだもん。どうゆう現象か分からないが…靴下とかは綺麗に残っているのが尚更面白い。

勇の目からは大粒の涙が流れ落ちる。

杏はそんな勇の姿を見て笑い転げている。

こんな笑い転げているのには理由があった…


----

1週間前の金曜日の話。

…隣の部屋からコソコソ小さい声が聞こえる。

別にいやらしい動画見ている訳ではなさそうで…喜んでいる言葉が聞こえる。

少し襖の隙間から隣の部屋を見てみる。

良くないことだとは分かっているが…杏の好奇心は小学三年生並みだから仕方がない。

 「…」

杏はジーッと隙間から勇を見ている。

勇は杏に気づかないで何か箱を開けている。

変なものかも…!?と少し目線を逸らそうとするが、結局その箱の正体が気になってまた勇を見る。

勇は箱から靴を出して小声でめっちゃ喜んでいる。なんかあんま高校生が履かない様なオシャレな靴だ。

でも杏には正直に言って価値がわからない。

無地の白い靴で…多分その靴のブランドってやつなのだろうロゴが付いている。

勇は杏に気づかないで一人でポツポツと口を動かす。

 「2万3000円…!」

 「こりゃお値段以上だな…」

…勇のお小遣いは月に1万円。だから2ヶ月とちょっとお金を貯めたんだろう。勇はバイトもしてないから結構大変だっただろうに…

ちなみに杏は飲食店でバイトしている。圧倒的に顔採用で…バイト先ではかなり可愛がられている。

 「そうだ…!風華に自慢しよ!」

 「風華はおしゃれのセンス無いからなぁ…」

風華におしゃれのセンスが無いのは同意だ。

あの子普通に遊びに来る時もジャージとかパジャマで来る。…でも女装とかする時の風華はセンス抜群だ。


 「あ!風華これ見て」

うっすらと見えるけど…スマホをその靴に近づけて見せている。おそらくビデオ通話をしているんだろう。

 「ん〜すごいすごい」

風華はおねむな様で…反応が適当だ。

だが興奮状態の勇は止まることを知らない。

 「ほれ!ここの部分!」

 「ここがいいんだよ!」

 「うにゅ〜」

 「な!そうだろ!」

勇には何が聞こえているんだろう。

今風華はあざとく唸っているだけなのに…

よくこんな趣味が合わないのに仲良くなれたなぁ…って勇と風華が話しているのを聞くと毎回思ってしまう。

…まぁでも持ちつ持たれつって言葉が二人に一番合っているんだろう。

 「こ…これ学校に履いてけば女子にモテモテ間違いなし…!」

 「…うにゅ〜」

杏は手に持っていたスクイーズを握りしめる。相当力が入っているみたいで…キャラクターのスクイーズがえげつないほど変形している。

…今時スクイーズを集めているのは杏だけだろう。

 「…杏はいいの〜?」

 「…もう杏は怖いからいいんだよ」

 「めちゃくちゃ理不尽にキレてきて怖いし…」


 ぶちぶち…


スクイーズが涙を流している様に見える。

…と思っていたらスクイーズが破裂して中から液体が溢れているだけだった。

 「…でも杏が怒ってる理由は勇が他の人とキスしたからって言ってたよ?」

 「…いやあれは事故だから許してくれるだろ!」

 「まぁ杏にはこの靴の良さが分かるまい…」

 「この靴の良さが分かる人は大体優しいし可愛い」

…本当に勇はおばかなんだと思う。

隣の部屋にいて…まぁまぁな声を出しているんだから隣の杏に聞こえるのは当たり前だ。

----


そんな事があったから…その靴にはちょっと恨みがあった。だから杏は必要以上に笑っている。

勇は泣きながら奥歯を噛み締めている。

 「ぐ…ぐぬぬ…」

 「でも…なんか…」

 「これも…おしゃれなのか…?」

絶対そんなことはない。

勇はまだ笑い続けている杏を見つめる。

いつもの美人笑いじゃなくってゲラな人の釣られそうになる笑い方だ。…杏のこんな笑い方初めて見た。

…可愛い!

 「…これで2万3000円…安いな」

 「ふッ…そうだこん…?」

完全に忘れ去られていた炎尾は勇の前に立つ。

偶然を装った様に立っているが…注目されたいのか炎尾はかなり胸を張っている。

 「…でも!許せん!」

 「杏は…!その…!」

 「笑顔が良いから許すしかないけど!」

 「炎尾…!炎尾お前は許さないッ!」

 「お前は…!遊園地を燃やした…!」

 「いやそんなことどうでも良い…!」

 「俺のお気に入りの新品の靴も燃やしやがった…!」

 「それが一番許せない…!」

状況が状況だと言うのに、何も変わらないなぁ…と内心杏は安堵する。

これで「お前は人に迷惑をかけたから倒す!」とか言われたらドン引きだ。意識高すぎる。

 「俺のこの漆黒の黒縄で…!」

 「炎尾お前をぶっ飛ばす…!」

 「噂に違わぬ阿呆の子だこん…」

 「う…噂…?」

 「お前ら人間の能力者だこん」

 「え…えぇ…」

 「え…えぇ…!!」

 「マジかぁ…」

…なんだか心なしか嬉しそうにしている勇。

漏れそうな人みたいに体をクネクネと動かしていて…なんだか気色悪い。

炎尾も大分キモいと思ってる様で…若干後ろに下がっていっている。

 「…べ…別にサイン書いてもいいけど?」

 「あ…全然いらないこん」

 「勇…」

 「じゃあどこで俺が有名なのかは教えてくれる?」

 「地獄の最下層の永炎地獄(えいえんじこく)だこん」

 「じ…地獄…」

 「宇宙とか天国とかでもう既に面倒臭いのに…さらに地獄かぁ…」

 「…えぇ」

今度は本当にめんどくさそうに指をいじくり回している勇。

周りには不思議そうな顔をしながら勇と炎尾を視界に収めている遊園地の客がいる。

そして勇は決心した様に鼻息を漏らす。

 「…周りの目もあるから…好感度上げで戦うか」

 「じゃなくって…俺が絶対に全員守るッ!」

 「…やっとやる気になったようだこんね」

 「なら…妾ももっと火力を上げて応じるこん」

 「地獄黒炎羅(じこくこくえんら)…」

 「解…ッ!」

…勇は思わず顔を覆ってしまい。

なぜなら…炎尾の体を真っ黒な炎が包む。

それはかなりの高熱の様で、数メートル離れている勇にさえ熱が伝わってくる。

空気さえ焦げていて…額からは大量の汗が流れる。

 「杏…周りの人を非難させてくれ」

 「あと…消防を呼んでほしい」

 「わ…分かった!」

杏は勇に言われた通り周りの客の所に行く。その勇の表情を見た杏は嬉しそうだ。

客は何かパレードが始まったのかと思っていたらしいが…その状況を見て走り叫び去っていく。


 「ただのお気楽野郎ではなさそうだこんね」

気づいた時には炎尾の体の黒い炎は収束していた。その黒炎は胸の辺りからクロス状に広がっていて…収束したと言っても炎はかなりの大きさだ。

…正直に言ってなかなかに厨二心をくすぐられる。キツネの顔と体に黒い炎…そして九本の炎の尻尾。クソかっこいい。

 「絶対に炎尾…お前を倒して…」

 「そのかっこよさの秘訣を聞き出してやる…」

 「それくらいなら教えてやるこん…」

 「ただの生まれつきだこん」

 「…やっぱ正直言って産まれた時にこの世の絶対って決まるんだよなぁ」

 「人間界も世知辛い世の中なんだこんね」

 「うん…地獄も?」

 「最近物価高で…稼いでも稼いでもダメだこん」

 「でも政治のせいにするだけで逃げようとするのはダメだよね」

 「そうだこんね」

くだらない話をしている二人。

 「…とりあえず最大火力で行くこんね」

 「かかってこい…!」

次の投稿は月曜日です

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