15-4 SPARK
「はむ…はむ…おいちぃ…」
「ま…舞さんまだ食べるの?」
「え?まだ全然食べてないよ?」
嘘だ。舞はもう2時間くらい食べている。
でも安心して欲しいのは、ちゃんと舞が食べる分は舞自身がお金を払っている。風華は大体サラダを頼んでそれを食べている。
飲食店ハシゴをしている二人…
だがそれは舞と風華を追いかけてきている杏と勇もおんなじで…財布を見ながら飲食店の机に突っ伏す。
「ま…舞ちゃむ…食べ過ぎじゃない…?」
「…うん」
杏はそう言っているものの…杏も結構食べている事は黙っておこうと思う。
今現在杏は『でかきも!』のコラボメニューの『カチワレダイコンサラダ』を食べている。あの人気アニメの『でかきも!』だ!だがもうコラボ期間ギリギリで30分待ちで食べられた。早い。
もちろんそのアニメを見ていない勇は、このただの大根でそのカチワレってキャラが描かれてるサラダのなんの価値があるか分からない。
しかも本当に大根なんだ。
それ以外に何があるわけでもない。
勇はチューチューとコラボメニューの『カメロンソーダ』を飲んでいる。これで500円!これは杏の奢りだ。味は…正直普通のメロンソーダとは分からない。でもあの大根サラダよりは絶対にうまい。
「なんかいつもと変わらないね…」
コラボ商品を食べてから…杏は上機嫌。
だからこうして普通に話しかけてくれている。
勇はそれが嬉しくてしょうがなくって…心の中でバイラリンケラムブジグレフショーキス…つまり心が躍っている。二つの意味で踊っている。
「風華もあーんくらいすれば良いのに…」
「アイツ…臆病もんだしな…」
「ん…っ」
「…?」
勇の目の前で、両手で頬杖をついて目を閉じ口を開いている杏。サングラスをおでこの方まであげているから…ちゃんと杏の顔面見える。…久々にこんな近い距離で杏の顔を見た…だからか余計にバチクソ綺麗に見える。薄いメイクがばっちぐー!
…は!完全に理性が吹っ飛んでいた。
「あ〜」
杏は口を大きく開いている。
片手でひょいひょいとスプーンを指差している。多分…勇にあーんをさせようとしてるんだろう。
勇の手はプルプルとしながらそのスプーンへと向かう。決してアルコールを摂取してはいない。まだ未成年だ。
…だが勇の手はスプーンには向かわずに…テーブルナプキンへと向かう。
普段は口元についたものは腕で吹き払うくらいのわんぱくな勇だが…ここは人目についてしまうから…お上品に口を拭く。
それに気づいた杏は目を開く。
…あまりにも綺麗な目をしているから…勇は慌てながら目線を逸らす。
「勇の方が臆病もんじゃん…」
杏はジト目に口を尖らせてキョドる勇を見る。
…なんか本当に杏のビジュアルが良すぎる。
こんな薄メイクなのに…流石顔面のレベルが他の同年代とはおんなじだ。
「お…臆病もんって…!臆病もん…?」
「お…俺臆病もん…」
「でも風華って優しい感じのイケメンじゃん?」
「…まぁうん」
悔しいが認めるしかない。
認めなくっても…世間が認めている。
「だから少しの臆病もんでも許されるんだよ」
「でも勇ってそっち系じゃないじゃん?」
「竹野内豊系統の顔をしてるじゃん?」
「お…おぉ…そう?」
心の中でキメ顔をしている勇。
…杏が蔑んだ様な目をしているから…
多分現実でもキメ顔をしてしまっているんだろう。
しかも竹野内豊系統って言われてるだけだから…別に竹野内豊に似てるなんて言われてない。ていうかあんなガチガチのイケメンがチラホラ歩いていたら…日本は顔面だけで世界をとれる。
「勇の顔面のタイプはもっとグイグイ女の子と話さなきゃいけないんだよね」
「な…なるほど…!」
「…」
「ウチで試してみる…?」
「…ッ!?」
こ…!こんなのたまに見てる…そ…そっち系のビデオでしか聞いたことのない言葉!ちなみにちゃんと買って見ている。
杏はそーゆーの見たことないだろうから…本当に純粋に尋ねているんだろうが…
不純な勇からしたら…そりゃもうたまらん。
「…お…おう…」
「んじゃ…今日いい天気ですね」
「…え?そりゃまじ?」
「て!定番だろ!?」
「ダメ〜」
指でバッテンを作りそれを口元に持っていく杏。…舞もあざといと言われているが、杏も大概あざといと思う。
だから同類同士仲良くなってるんだろう。
「…じゃあ最近暑いですね」
「お…終わってる…こりゃモテない訳だ…」
「い…言い過ぎじゃないか!?」
「普通の女の子なら絶対にこりゃダメだ…ってすぐ醒めちゃうよ」
「…はい」
「だから勇はもうちょっとね〜」
…あれから何十分経ったのだろう。
めちゃくちゃに正論という名の暴言を言われまくっている。しかも結構声が大きい。
…でも正論というのはなんかちゃんと自分を見てくれているって感じがして…嬉しい。だが決してドMではない。
「…あ…あの…杏さん」
「…?なに?」
「舞と風華どっか行ったんだけど…」
「え?」
「どんくらい前に…?」
「15分くらい前に…」
「…!それ早く言ってよ!」
「二人見失ったらウチら来た意味ないじゃん!」
「…い…いや俺は別に…もう風華たち追わなくっていいと思うんだけど…」
「そ…それじゃあ…」
「ウチら…完全にデートになるじゃん….」
「グフッ!?」
勇…ノックアウト!
そりゃ自分が意識してたことをはっきりと言われるし…!あまりにも杏がかわいいし…!
勇は血を吹き出しながら机に突っ伏す。
「…!」
「ちょっと!ちょっとっ!」
「勇他の人も見てるから!」
あれから何分が経ったのだろうか…
勇はいつの間にか硬い椅子の上にいた。駅の待合室くらいこの椅子硬い。赤ちゃんが寝たら頭が平べったくなっちゃうゾ。
…顔を僅かに動かすと時計が見える。
その時間は14時30分を指している。
…あれから1時間くらい寝ていたみたいだ。
ここは休憩スペースの様で…今も親子連れがよく遊んでいる。
恥ずかしくなった勇は、勢いよく上半身を起き上がらせる。
「…はッ!」
その声でか分からないが…人々の注目は一気に勇の元へ向く。
「…しー!」
隣の席でスマホをぽちぽちしていた杏は、口元で人差し指を立てて勇を黙らせる。
杏は他人の面をしながらまたぽちぽちとスマホをいじりだす。
「あ…杏がここまで運んでくれたのか…?」
「うん」
「勇って案外軽いんだね」
「食べても食べても太らない体質で…」
杏はその言葉を聞いて目を大きくして口を開く。こんなふざけた様な表情だが…元のビジュアルが良いからただの美人フェイスだ。
だが次第に頬を膨らまして…頬杖をつく杏。
「それ女子に言ったら嫌われちゃうぞ」
「え」
「女の子はいっぱい食べてるように見えて…!結構裏で頑張って痩せてるんだよ!」
「ま…舞も…?」
「舞ちゃむは別なの…!あの子は食べたらその分おっぱいに行くから」
「…あ…杏は…?」
「せ…!セクハラなんだけどっ!?」
「…今の時代こんな事も聞いちゃダメなのか…!」
「それは今も昔もアウトでしょ!?」
こんなくだらない話をしている時間。
…杏にとってはなんでもないんだろうが、勇にとっては大変に貴重な時間だ。
一生こうやって話していたいと…心の奥で…心の浅瀬のところで思っているが、こんな声大きくして話してるんだから…追い出されるのは必然。
従業員の人にやさ〜しく諭されて追い出された。
今は14時30分だから…遊園地は多分稼ぎ時なんだろう。めちゃくちゃ人がいる。
これじゃあ風華と舞を探せる訳がない…
「はぁ〜」
「舞ちゃむと風華のイチャイチャ見たかったなぁ…」
「普段充分見れるじゃんか…」
「確かに…!それもそっか…!」
「うんうん…」
「じゃあどこ行く?」
「…え?」
意識外の言葉に思わず問い返してしまう。
だが杏は平然とした表情をしている。
「だって…ウチと勇のデートでしょ?」
「グ…!」
勇はその場にフラフラとする。立ちくらみだ。
流石杏は男と戦うのがうますぎる!
この女慣れした勇ですら勝つことができない!…と思ったが勇の初恋は杏だったから…女慣れしてる訳がない。
「…ウチジェットコースター乗りたい」
「…え?また…?」
「ジェットコースターは何回乗ってもいいの!」
勇は杏に手を掴まれながらジェットコースターの元に連れ去られる。杏の手は薄いが暖かく…勇は幸せを感じ取る。
それと共に杏とは性格があんまり合わないと思い知らされる。なぜなら勇はジェットコースター冷笑系だから。
そして3種類くらいのジェットコースターを2周した勇。…もうボロボロな勇だが…杏は無邪気な笑みを見せてまだ勇の手を引く。
地獄の3周目が始まってしまうのか…!?
勇はそれだけでも顔が青ざめていく。
財布を見てしまうともっと青ざめてしまう。
「…ねぇ勇?」
「ん?」
「なんかあっちの方騒がしくない…?」
「…確かに」
杏はヘトヘトな勇を差し置いて先に突っ走る。
勇はその後ろを独特なステップで走って向かう。一見するとふざけている様に見えるだろうか…本人はかなりの真剣さだ。だって顔を見ればガチなんだもん。
クスクスと笑う子供がに…!憎い…!
そうして辿り着いた場所は先ほどのお化け屋敷だった。…だが一目だけ見れば…お化け屋敷とは思えなかった。
なぜならあのお化け屋敷が…大炎上していたのだから…
「な…なんじゃこりゃ…」
火事を見に来た人々の話を聞くと…
どうやら怪我人こそいなかったらしいが…
中から突然火が燃え上がって消火が難しいみたいだ。
今消防を呼んだみたいだが、全焼は必然だそう。
「誰がこんな火を…」
困惑する人々の前に…火の中から一人の細身の男が現れる。
いや…良く姿が完全に見えると…一人というより一匹っていう方が適してると分かった。
だって…完全に顔がキツネなんだもん。
いや体もキツネだ。だってデカい尻尾が九本ある。ていうか尻尾というより炎の尻尾と言った方が正しそうだ。
…しょ…正直に言ってしまうと…かっこいい。
「妾は…炎尾だこん…」
この甲高い声に勇は気づいた。
コイツはさっきの可愛かったキツネなんだと…
そして勇は同時にまた格好いいと感じる。
…だって第二形態は反則だろ!格好いい…!
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