15-3 love love show
どうやら風華と舞はもう先に行っているみたいで…お化け屋敷の所には姿がない。
だが…ただ一人…変態ではなくって杏がお化け屋敷のチケット売り場付近に立っていた。
確か颯が舞たちに渡したのは乗り物とかこういうお化け屋敷には行き放題乗り放題のフリーパスだった。…だが勇たちは普通のチケット…乗り物とかこういう所は普通に金を払わなきゃならない。学生には辛すぎる…
早く行かないかなぁ…とトイレの近くで横歩きステップを踏む。
…だが一向に杏はチケットを買う様子はなく…ちょっぴり…いや勘違いかも知れないけど、本当にちょっぴりとこっちを見ている気もする。
しかもひょいひょい…と手招きをしている気もする。…いや勘違いかもしれない。
「…」
なんだか…手招きの勢いが早くなっている様な気もして、恐怖のあまり勘違いの心なんて簡単に打ち砕かれる。
トコトコと歩幅せまく、されど普通の歩幅と同じ様なスピードで杏の元に近づく。これであれば…勘違いでもすぐ方向展開して逃げれる。
…そして杏の隣にたどり着いた勇はチロチロと杏を見る。
杏はキョドる勇の耳に顔を近づける。
「…なんかさペアだと500円安くなるみたいなんだよ」
「"勇みたいに!"別の人にうつつ抜かす訳には行かないから待ってたの」
「ま…待ってた…?」
「ほら行くよ」
杏に半袖の袖を掴まれて…お化け屋敷に連れて行かれる勇。…その手にはいつの間にか買ってあったお化け屋敷のチケットがあった。
…まさか杏…!奢ってくれたのか…!
流石杏…喧嘩していても気が利く…
勇は感謝のウルウル目で杏を見つめる。ドライアイですら涙目になるほどのウルウル目。
「…家に帰ったら750円お願いね」
「あ…うん…」
これは確実にお小遣い前借りするしかない。
今現在勇の財布の中はもう本当に寂しい。
入園料で2000円…変装代で100円均一ショップで揃えたサングラスに付け髭…そしてカツラ…500円くらい。…あと入園直後にここで買った飲み物500円。…遊園地のドリンクは高すぎる!…まぁそしてこのお化け屋敷代。
…5000-3750=1250…
そしてそれにプラス帰りの電車代片道450円。
勇は杏に悟られない様に…袖を持たれていない方の手で腕を震えさせる。これに何か意味はない。無意識にピンチはチャンスだと思っていて…武者震いが起こっている事にしたい。
くだらない事を考えていると…とうとうお化け屋敷に辿り着いてしまう。そりゃ歩いてれば目的地に着くのも当たり前だが…
「…」
「…」
お化け屋敷に入ったものの…
二人の間に会話はなく、ただ淡々とお化け屋敷の中を進んでいく。…お化け役の人もちょっと遠慮がちに驚かしてきている。
杏は一切驚くこともせずに…ただ道を進む。
勇はちょっと怖いから杏の袖を掴む。
そしてお化け屋敷に入ってから3分…
もうこのままだと750円が無駄になってしまう…と何か杏との共通の話題を探す。
最近のテレビの話題…最近の政治の話題…最近の芸能人の不祥事…もうセンスが無さすぎて40〜50代くらいの話題しか出てこない。
「…舞ちゃむと風華上手く行きそうだよ」
…気まずい雰囲気を打ち消すために、自分から話題…っていうか言葉を発してくれるのは優しい。…まぁでも声のトーンが怖い。
「ウチらもう帰ってもいいかもね」
「え…」
「ど〜せ変なことにならないだろうしさ」
「…」
「あ…杏ってそんなに俺のこと嫌いなの…?」
「え…」
暗い中でも勇が複雑そうな顔をしているのがわかる。…腕も少し震えていて、怒っていそうだ。
「…俺これでも結構楽しいと思ってたんだけどな」
「で…でも…ジェットコースターも…今のお化け屋敷も全然楽しそうじゃ無かったじゃん…!」
「むしろつまんなそうだし…!」
「そ!それは…!」
「杏がずっと怒ってるから…!」
「ウ…!ウチのせいなのっ!?」
「い…いやそういう訳じゃないけど…」
「う〜ら〜め〜し〜や〜!」
ビブラート強めの女の人の声…
勇はその声のする方を見ると青ざめた顔と真っ白い服を着たいかにもない幽霊がいる。
…だが勇には恐怖心なんて一切無かった。
「今喧嘩中!」
…まさか杏と声が揃ってしまって目線を逸らす。お化け役の人はその気迫に退場する。…なんか上に行った気がするが…気のせいだと信じたい。
完全に迷惑客だが、まだ高校生の二人には目の前のことしか目に入らない。
「…だいたい勇ってさなんでそんななの?」
「そ…そんなって….?」
「そんなはそんな…!」
「意味が分からない…」
「…つまりそんなの意味は!」
「勇は超鈍感なんだよっ!」
「ウチも結構楽しいんだよっ!今日っ!」
「へ…?」
杏の思わぬ告白に、思わず素っ頓狂な声が漏れ出てしまう勇。…変装していて良かったとつくづく思う。
…今変装を解いたら暗闇でも分かるほど顔が真っ赤なのだもん。
だが杏の言葉は止まることはない。
「…で!でも今日楽しいのはあれだから!」
「旧友と会って案外楽しいなぁ…的な?」
「だから勘違いしちゃダメだからね」
「あ…うん…」
そこからは一言も会話が無くなってしまった。
杏はなんかフンス!と鼻息を荒くして早足で歩いているし…勇に至っては杏の言葉の裏を探す。
こんな裏を読む性格になってしまって…全くちょっと大人になるというのは怖い。裏を読むのは石の後ろに虫がいるかいないか…それだけでよかったのに…
そしてついにお化け屋敷から出る。
その直前…杏の足に何かしがみついてるのが見えて勇の足が止まる。
杏も力があるといっても…流石に勇の力には勝てずに、ずずず…と地面をスライドする程度に収まる。
次第に違和感に気づいた杏も足を止める。
「…」
「…」
二人はその杏の杏についた何かを見つめる。
なんだか触れて良いのか触れちゃダメなのか分からず…二人は黙ってそれを見たり互いの目を見たりする。
多分普通のものでは無いと、杏もお化け屋敷から出る事はない。杏は禁止されているスマホを取り出して…ライトを点ける。
「…誰?…ていうかキツネ?」
「いつから付いてたんだ…」
「…」
喋れないのか…キツネは二人の顔を交互に見る。…多分言葉も理解できてないんだろう。
キツネはかなり可愛い顔をしている。下半身は藁で隠されている。
勇は優しそうな顔をしながらそのキツネに顔を近づける。優しそうとは言ってるが詐欺師みたいな顔をしている。
「…そこから離れ…」
「妾に触るな小童ッ!…こんッ!」
あまりにも高く響く声に勇は腰を抜かす。
キツネが喋った事にもビビったが、その声の高さの方がビビった。
「妾はあの稲荷国炎王の末裔こんッ…!」
「炎尾じゃこんッ!」
「あ…こんっ!にちは〜」
「こ!小娘!妾を馬鹿にしてるこんかッ!?」
「馬鹿にしてるって…妾って…女性が自分を遜る言い方だろ?」
「え…勇…良くそんな事知ってるね…」
「あ…」
勇も普通にスマホを出して調べていた。
「妾ってカッコいいと思ってたんだこん…」
「ていうか名前炎尾…?」
「そうだこん…!これは本名だこん…!」
「名前は格好いいな…」
「俺もそれに改名しようかな…」
「勝俣炎尾…ダサ…」
男の格好良さは女には分かるわけがない…!
…だが自分でもちょっと勝俣炎尾はダサいと思ってしまった。ミドルネームをつけるべきだ。
「きゃー!」
「大丈夫?」
後ろから気色の悪いカップルの声が聞こえる。…正直憧れるが、気持ち悪いとは思う。
もう後続のペアが来たのだと…勇と杏は慌てながらお化け屋敷から出ていく。
そして幾らかの時間…走った。杏はキツネが足についていたからちょっと重そうだった。
少し離れたベンチに辿り着くと…二人は肩で息をする。キツネは呑気に水筒を飲んでいる。
「炎尾って名前なのに水飲めるんだ」
「…?これ油揚げスムージーだこん」
「…うげぇ」
「これ飲むこんか?」
「いや…いいや…」
「…んで俺たちになんの様なの?」
「妾が用があるのはお前でしかないこん」
「え?」
「妾はお前を殺す様に命令された」
「こんッ…!」
キツネは急に杏の足から離れ…勇の元へ向かってくるッ!
それは…うさぎよりも遅く!亀よりはちょっと早いくらいの速度!
シュッ!ではなくてテクテク。
「黒縄…」
ビュンッ…!
…勇は黒縄を放って狐を捕まえる。
あまりにも容易くって…拍子抜けすぎる。
命令されたって事は、このキツネの上には上司がいるって事だ。…なんでこんなのが選ばれたのだろう。
「…どうするこの子」
杏は拘束されて動かないキツネの顔を覗く。
…正直キツネがずるい。変装はしているがちゃんと美人オーラが出ているから…ずるい。
「とりあえず…舞と風華見つけたら解除する」
「しばらくはこの状態で…」
キツネはジタバタと足を動かしてるが、小さい身体では何も出来るわけがなくって…
勇たちの背中を見送ることしかできない。
そうして舞たちを見つけた勇一行。
多分…舞も風華もお化け屋敷入ったら1時間は引きずるとは思うが…今現在、普通に飲食店コーナーに並んでいた。
舞の手にはチュロスが握られていて…勇は察した。多分コイツらお化け屋敷に入ってすらないと…
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