15-2 さくらんぼ
「はっ…!」
「前髪変じゃないかなぁ…」
舞はもう遊園地に着いていた。
今現在スマホの時刻は9時15分。…まさかの45分前到着していた。
周りには入園していく家族連れやカップルがいて…なんだかドキドキしてしまう。
舞は付いていないスマホの画面から自分の前髪を整えている。まぁ今日のビジュはよろしいことで…
今日の舞は普段とは違ってちょっと大人っぽい。…って言うかボーイッシュって言うんだろうか。
灰色の半袖の服を着ている。胸の辺りに知らん白い色の英語が書かれている。
そしてズボンはレディースのハーフパンツを履いている。
…肩からはカバンを下げている。
髪型は気合い入っているのかボブの髪の毛をツインテールにしている。か…可愛い。
このボーイッシュさが、女の子の舞の可愛すぎる顔面が余計に可愛くなっている。
「え…えへ…」
自ら指で口角を上げて笑みを作る舞。
その綺麗な表情に、誰もが思わず振り返ってしまい…舞は恥ずかしさからまたスマホを見る。
今回は前髪を整えたい訳じゃない。
昨日の夜にした風華とのLINUを確認したいのだ。大してメッセージなんてしていない。
『うんっ!』とか『大丈夫っ!』とか…そんな一言だけだけど、見てるだけでまた笑みが溢れる。…そんな舞を見る者多数。そりゃ可愛いんだもの見てしまうだろう。
「は…早く来ないかなぁ…」
「恥ずかちぃよぉ…」
この子は一応高校生だ。
なのになんでこんなロリ娘感が出せるんだろう…
なぜこんなに舞の状況がはっきりと分かるのかと言うと…
実は勇も遊園地に来ているからだ。
正確には来ているというより…もうすでに入園している。
サングラスにチョビ髭という…今にも昔にもない様なアニメのような変装をしながら…
もちろん入園の前もこの格好だったから…周りの人にはめちゃくちゃ見られた。
…だがその人々の視線は分散されていた。
おんなじ様な変態がおんなじくらいの時間帯に入園したからだ。遊園地側からしたら最悪だ。だが…勇からしたらそれは嬉しいことだった。
あちらも何故か舞を見ていて…こっちにも気づいている様だ。
入園ゲートから金剛力士像の様に堂々たる立ち振る舞いで舞を見ている変態二人。
流石に従業員も近づけない様だ。
あれから15分くらい…つまり9時30分…
まだ30分も前だと言うのに…何やら舞がいる方が騒がしくなっていく。
…何やら入園ゲート付近の女子どももキャーキャー言ってて…その黄色い声援を浴びせられている人が誰だか分からない勇は置いてけぼりだ。
でも舞はどうでもいい様で…スマホを見ていた。
「…風華くんもう着いたって言ってたけど…」
「見当たらないなぁ…」
舞はキョロキョロと辺りを見てみる。
それは必然的にその騒がしい方も覗くということで…舞はその黄色い声援を浴びせられている人を見てしまう。
「わ…わぁ…!あの人かっこいい…」
「でもオロオロしてて可愛い…」
あの舞ですら声を漏らしてしまうほどの…
その男のビジュアルはというと…L'Arc〜en〜Cielの全盛期hydeレベル。しかも髪型は後ろ髪長めのセンターパートだから尚更hydeを彷彿とさせる。
その美人とさえも言えそうな男の子は色んな女の人に話しかけられているが…かなりキョドっている。…舞の目からでも分かった…多分自分とおんなじで陰キャなんだろうと…
そのあまりのキョドり方を見た女の人は…変な笑みを浮かべながら去って行っていた。
そしてその男はちょくちょくスマホを見ながら、舞の元へと近づいてきている。
舞はプイ…っとその人から視線を外す。
スマホを見ていると…トントンと肩を叩かれる。
「あ…あのぉ…」
情けない男の声が耳元付近で放たれる。
その声は…正直言ってしまうと優しさに溢れていて、心を許して仕舞えば永遠にその人に付き従ってしまいそうなほど…優しい声だ。
舞は精一杯のプク顔をその人物に見せつける。
…こんなの威嚇にもならないほど可愛らしい。
「わ…!私!きょ…!今日デートなのでっ!」
「絶対に!ぜっーたいに!ナンパしないでくなさいっ!」
「風華くんの方が絶対に可愛いし…」
「かっこういいんだもん…!」
…何故か目の前の男の顔は赤くなっていく。
そして…その人物の顔をまぢまぢと見た舞も…おんなじ様に徐々に顔が赤くなって行く。
それはなぜか…
それは目の前の男の人が…その風華だと分かってしまったのだから…。
気づかなかった舞ちゃんがドアホちゃん…なんて事はない。だって…あまりにも昨日の容姿が風華とは違っているんだもん。
「わふわふっ!風華くん…!?」
「か!か!髪の毛切ったんだぁ…!」
風華は相当恥ずかしいのか、ずっと髪の毛や顔の至る所を触っていて…なんだかいつもの風華だって分かる。良い意味で情けないというか…
「…昨日切ったばっかだから」
「セットとかに時間掛かっちゃって…ごめんね」
一応言っておくが、まだ集合の25分くらい前だ。歴戦のカップルなら普通は、こんくらいの時間はまだ準備中だ。
でもこの純粋無垢カップル…とまではいかないこの二人にしたら遅刻=死だ。
「わ…わぁ…」
「に…似合わないよね…」
「センターパートってイケメンしかやっちゃダメだし…」
「そ!そんな事ないし!」
「あと…!」
「あと…?」
舞はちょんちょんの自分の指と指をくっつけて…またまたあざと可愛いポーズをとっている。
「今日の風華くんは可愛いよりかっこいいの方が強い…かも…」
「…!」
な〜んてイチャイチャをしてるんだろう。
しかも入園ゲート前でこんなイチャイチャをしてるなんて…二人はここを改札前だと思ってるのだろうか…
周りの視線に気がついた風華と舞は1mくらいの距離をとってゲートに向かって歩き出す。
…ようやく風華の顔を見れた勇は…正直に言って嫉妬してしまった。
…だって本当にイケメンだったんだもん。
そりゃ霊愛とかより男らしくかっこいい!なんて事はないけど…風華には風華のイケメンさがある。見た目の可愛さ4割格好良さ6割って感じだ。
二人は颯からもらったチケットを従業員に見せて入園した。二人はまず入るのに緊張していたが…案外すんなり行けたことで胸を撫で下ろす。
勇と…もう一人の変態はその二人の後ろを隠れながら近づいて行く。
「舞さん…?」
「わぁ…」
「わぁ…」
入園してからずっと口を開けて声を漏らしている舞。…中央ら辺にある遊具など見向きもせずに、ずら〜っと並んでいる飲食店の看板を見ている。
今にも涎が垂れそうな舞の表情に思わずハンカチを出してしまう風華。
舞は口が開いていることに気づき…思わず口を閉じて頬を膨らます。…フグみたいで可愛い。
「舞さんお腹減ったの?」
「ううんっ!減ってないよっ!」
「舞!朝いっぱい食べたもん…っ」
「本当…?」
「ご飯三杯食べたもん…!」
多分デートだから…今日はご飯三杯って言ってもかなり減らした方なのだろう。
そのご飯を食べている時間をメイクや、服装のチェック…髪型などに時間をかけたんだと思う。
…舞の元々の顔面が強いことから、メイクはかなり薄くても綺麗だ。
「普通の高校生みたいにとりあえず覚えたメイクやろう!」って感じじゃなくて…多分お母さんと一緒にやった感じだろう。仲良しで可愛い。
「せっかく風華くんと二人っきりで遊ぶんだから…」
「食べるんじゃなくっていっぱい遊びたいから…お腹減っても我慢する…!」
「…ふふ」
「だから今日はいっぱい遊ぼうね!」
「うん…」
「じゃあ最初はジェットコースターねっ!」
「え…わ…分かった…」
外見の通り、風華は絶叫系は苦手だ。
舞も苦手そうな顔をしているが…こんなにワクワク顔を見せているんだから多分真逆で、絶叫系が大好きなんだろう。
顔に似合わず結構なお方だこと…
勇と…もう一人の変態はそれを見て動き出す。
正直に言って仕舞えば…ジェットコースターなんて大っ嫌いな勇の足取りは遅い。…だがもう一人の変態の足取りはかなり軽い。物理的にも軽くてスキップしている。
そうしてジェットコースターの順番待ちの列に並ぶ。…悲しくももう一人の変態とは前後の関係になってしまった…。
ちなみに舞と風華は3人くらい前の方にいる。
「…20分くらい待つのか」
「ちょっとスマホゲームでもやってようかな」
「おっひょっひょっひょっ」
気色悪い笑い声を上げながらスマホを取り出す勇。そのあまりに気持ち悪い笑い声に、もう一人の変態は眉を顰める。
その眉と身長と雰囲気から…そのもう一人の変態は女性だということに気づく。しかもかなりキレイめな人だと…まさかの勇のどタイプ。
これは杏から乗り換えてやるしかないな〜って思ってみても…話しかけることすらできず、杏とのちょっとの思い出も忘れることができない。
…どうせキレイな人を見る人生なんだろうなぁと半ば悟った勇は、今度はゲームに集中しようと目に力を入れる。
「…」
…すると、勇の脇をツンツンと突かれる。
啄木鳥でもいるのかと思ったら…そこには細い指があって…その先にはその変態がいた。
まさか…こっから始まる恋愛物語がッ!?…と思ってしまい思わず上がってしまう。
「…勇何してるの」
…聞き覚えがあって…今一番聞きたくない声。
ちょっとその声のトーンは下がっていて…怖い。
サングラスの上から見えたその目は…紛れもなく杏でしかなかった。
…この格好でいる事が恥ずかしくて…顔が真っ赤になるとともに…
なんでか杏もおんなじ服装をしていることに疑問を持つ。
…多分気持ちもおんなじものだろうと分かりながら…勇は杏に問いかける。
「…杏はなんでここに」
「…勇と一緒」
「あの二人がちょっと心配でね…」
まっすぐに初々しい二人を見ている杏。
その目は強い母親の様な目をしていて…すっごいキレイな目をしている。
でも次第に杏の目はふにふにに変わって行く…それもそのはずで二人があまりにも愛らしいからだろう。
「…やっぱ髪の毛切っても風華って可愛いなぁ」
「笑った顔が特に可愛いなぁ〜」
「あでも今日の舞めちゃくちゃ可愛いなぁ…」
しみじみと二人の可愛さに見惚れる杏。
勇はそんな杏の表情を複雑そうな顔をしながら見ている。
「…何?」
怒っている声を出して勇をサングラス越しに睨む杏。良かった…サングラスがあって…と心の中で安堵してしまう。
「杏…この前なんか言ってきたじゃん?」
「…?」
「自分から告白してこようとしたクセに別の女とキスしたクッソ男がいたんだよ〜って」
杏に似ても似つかない声真似をする勇。
杏は怒った表情をして勇に顔を近づける。
「俺…よく考えたんだけど…」
「あ…杏がなんで怒ったか分かってなくて…」
「いやなんとなく分かってるんだけど」
「…」
いつまでもグダグダと言っている勇に、杏は面倒臭そうな顔をしながら手をヒラヒラとする。…どうやらまた怒らせた…というよりもう呆れさせてしまったのかも知れない。
しばらくの沈黙が二人を包む。
辺りの幸せな声が耳に入ってきて…もう本当に耳が痛すぎる。これは物理的にだ。
帰ったら耳鼻科へ直行。
「…ほら列進んでるよ」
「あ…はい…」
遂に勇たち…いやまぁ風華たちの順番が来て、順番に乗り込む。風華と舞は前から二列目で隣り合わせ…そしてその三列後ろに勇と杏がまさかの隣り合わせで座ることになる。
「…」
「…」
あまりにも静か…こうゆう時はもっと何か話すべきだろうが、ジェットコースターで舌噛んで死んでしまったら困るから…喋らない事にしよう。
そしてジェットコースターは進み出す。
勇は隣の杏への恐怖と、ジェットコースターの恐怖でもうすでに白目を剥いている。
ガタン…ゴトン…
そんなレールの音が13階段を登っている感覚がして…足が震え出す。
その振動は前の方からも加えられている様で…ジェットコースターは上に登りながらも、横にも揺れ出していて…自分で自分の首を絞めている。
「…」
それからのことは…もう思い出したくもない。
目を瞑っていても風の音が耳に入ってくる。まさに無幻地獄であって勇はちょっとちびった。
フラフラな状態でジェットコースターから出た勇は、スタスタと歩いて行く杏について行く。
どうやら次はお化け屋敷に向かっている様だ。
…前の反応から見るに、舞も風華もお化け系統は苦手だと思うが…
もちろん勇もお化けは嫌いだから風華を脳内で愚痴りながらお化け屋敷に向かう。
「…そ…その前にトイレ行こうかな」
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