14-7 明日晴れるかな
そうして颯の元に辿り着いた風華は肩で息をする。その隣には…なぜかいや何かを察したのであろう舞がいる。
舞は髪の毛を濡れても…いや濡れてるからかなんか可愛さがアップしている。
「…舞」
「もう話したい事は全部話せたからさ…」
「はいこれ…」
雨に濡れないように手で覆いながら2枚の紙を取り出し、舞の目に映るようにして差し出す。
その紙には…某有名遊園地のペアチケット…と書かれていた。
「えと…これは…?」
「…舞が行きたい人と行きなよ」
「でもこれもう期限が過ぎちゃいそうでさ…明日しか行ける日がないんだよね…」
「だから今日…俺が帰った後にその人を誘ってほしい…」
「う…うん…」
おそらく…これは颯が舞を誘おうとして貰った物なのだろう。…相当考え込んだ様で…少しシワができてしまっている。
舞はそれを大切そうにそれをバックの中へ入れる。…颯は嬉しそうにその姿を見届けると、次は風華の肩を叩く。
「…?」
「ちょっとこっちこっち…」
風華は颯に引き連れられて舞から少し離れた場所に移動する。ここはいつぞやの人工的に作られた林だ。
「今日の20時くらいにここに行って」
「?」
世界的先生マップが開かれている颯のスマホには、とある美容室が映し出されていた。
風華にはそこがどこかわからずきょとんとしている。
「風華髪の毛切りたいんだろ?」
「俺の行きつけの所だから…」
「きっと良い感じに風華の髪を切ってくれるよ」
「で…でも…なんで俺に…」
「ほら…舞との初デートだろ?」
「ま!ま!ま…!舞さんが俺を誘ってくれるなんて…!」
「これは確定だから!」
「ほら舞も風華の方見てモジモジしてるだろ?」
颯の言う通り舞は風華を見ながらモジモジしている。と言うより何か妄想をしているのか少し顔が火照っているような気もする。
「舞との初デートは一番カッコいい状態で行くんだぞ」
「う…うん!」
「あと…舞はめちゃくちゃ食べるから…」
「食費を多めに持って行った方がいいよ」
「…存じております…」
二人が舞の方を見てみると…
舞はきょとんとあざとい顔でその見てくる二人を見ている。赤ちゃんなのかも知れない。
そんな純粋無垢な舞を見て二人は苦笑する。
「じゃあ…俺はもう行こうかな…」
「…もう行っちゃうの?」
「これ以上いたら…ここにずっと残りたくなっちゃいそうなんだよ」
「そっか…」
「じゃあさ!じゃあさ!」
「LINU…LINU!LINU交換しようよ!」
「…」
「だ…ダメかな…?」
風華は首を傾げて颯に問いかける。
颯はしばらく黙ったまま…風華の顔と遠くの舞の顔を見比べている。
「いいよ」
「やった…!」
風華の無邪気すぎる笑みを見ると…
颯は急いでポケットからスマホを取り出す。
そして一通りの作業をすると、LINUを開く。
「はいこれ」
LINUのQRを風華に見せ…風華は喜びながら自分のスマホを取り出してそのQRを読み込む。
颯のアイコンは子猫のアイコンのようだ。
ピコンッ!
LINUの通知音…こんな時に誰か?と思ってみるが…行方颯の名前の隣な緑色の丸に1と書かれている。
「…?」
颯は楽しそうにしながら純粋そうな風華のことを見ている。
風華は颯とのトークルームを開き、その内容を見てみると…
「…!?」
「ま…舞さんのLINU!?」
「どうせまだ交換できてないでしょ?」
「二人とも恥ずかしがっちゃって…ウジウジズルズル交換できないまま…」
「それじゃあデートの時とか連絡できなくて大変でしょ?」
「だから俺が…ってね」
「…!」
風華は下唇を前に出しながら変な顔をする。変な顔と言っても多分これは泣きそうな顔なのだと瞬時に察する。
「…嬉しくないのか?」
「う…うれじぃ!」
「でも…颯さんがやざじずぎでぇ…」
「全く…みったくないぞ」
風華は可愛すぎるビジュなのだが…めちゃくちゃ鼻水たらったらで涙でぐちゃぐちゃで可愛い。
そんな風華の顔を颯はハンカチで吹く。
「じゃあ…俺そろそろ行くから…」
「風華…舞…風邪引くなよ?」
「うん…!」
そうして…この紅恋によって引き寄せられた事件は幕を閉じた。
あの後…皆悲しみに伏したと言う。
その夜…颯が寝る前に白い光によって目が覚める。こんな夜だから悲しみに伏せたいのに…
颯は目を擦りながらゆっくりと目を開く。
そこには金髪のイケメンと…広く言えば赤髪の綺麗な女の人がいた。
その女には見覚えのあった颯は体中に鳥肌が駆け巡っていく。
「…!あの時の…!」
それは紛れもなく霊愛と紅恋だった。
だが…その紅恋はあの時のように堂々としておらず、シュン…と下を向いたままだった。
霊愛はそんな紅恋の背中を押し出す。
「…!」
綺麗な顔をしている紅恋…だが困ったようにして眉を真ん中に集めている。
そんな顔を見た颯は…思わず笑みがこぼれてしまう。
「な…なんだ…」
「姉ちゃん…」
「…す…すみません…」
「…俺の…いや人間界を狂わせた天使が…」
「こんなにキョドキョドしてるとはね…」
「えと…そのことについて…私は謝りに来たんだ…」
紅恋は多分…人間に対して密かな尊敬とどこかに分からない部分があるんだろう。やっぱりどこかぎこちない。
ちらっと見えたが…紅恋のスマホには[新社会人必見!使いやすい敬語変換!]と書かれているサイトが開かれていた。
あんなに人間に対して残虐非道の限りを尽くした紅恋でも、慣れないこととなるとこんな姿になるとは…まるで人間みたいで、さらに面白く思えてしまう。
「ぷふ…」
「…な!なんですか!」
「いや…別に…」
こんな美人秘書みたいな見た目しているのに…このぎこちない敬語…外国人が拙い日本語話してるみたいで可愛ささえ感じる。
そんな紅恋は股の辺りに手を当てて頭を下げる。…頭頂部あたりはほんのりと茶色みがかっている髪色をしている。
「わ…!私は天使にあるまじき…とんでもない事を人間界でしでかしてしまいました…」
「…な!なので笑伝様からの命令で…」
「お前…ではなくて…颯さま…?あなた様の願いを一つ叶えろと…」
「…え?」
「もちろんそれだけじゃこの人間界…そしてあなた様の人生に与えた害は消す事はできないと分かっております…」
「このような事でしか贖罪ができない私を御許しください」
言葉使いはだいぶ堅苦しくなっているが…
言いたいことは全部自分の思考から出た誠の事なんだろう。…要は颯の願いを叶えるから許してほしいとのこと…。
「…それってどんな事でも叶えられるのか?」
「あぁ…じゃなくってもちろんです」
「例えば…大量のお金を手に入れたり…」
「能力を手に入れたり…」
「…その他には…いや思いつく限りのことはなんでもできます…!」
「私に何か一つ命じて下さい…」
頭を下げる紅恋の隣でウンウンと頷く霊愛。
昔なんか流行ってた後方彼氏ヅラみたいな感じだけど、実際はただの姉弟だ。
颯は色々な事を考える。
…まだ想像でしかないが、あの辛そうな仕事をしなくてもお金が手に入れば…この先安泰と言えるだろう。
…能力が手に入れば、勇や風華みたいに誰かを救って…誰かに頼られるような存在になれるかも知れない。
まだ想像の域を出ないが、そんな願いを一つ言って仕舞えば…この先今より幸せになれることは間違えが無いだろう。
颯はそんな新しい日常を考えるだけで…変なニヤケ面になってしまう。
「…よし…」
「決まったか…間違えた…」
「決まりましたか?」
「あぁ…」
颯は一つ息を置く…
その時間が妙に長く思えてしまう。
そして今までで一番綺麗な笑みを見せ…ついに口を開く。
「一つ願うなら…」
「明日晴れて欲しいなぁ…」
その言葉に霊愛と紅恋は目を丸くする。
「そ…そんな簡単な事でいいのか…!?」
思わず言葉遣いが荒くなってしまう紅恋。
「もっといろんな…いろんな事ができるんだぞ!」
「…それでも!」
「新しい日常も…いろんな事も…」
「全部自分の手で手に入れられるけど…」
「明日の天気は人間には決められない…」
「だから願いは…それだ」
「承知致しました…」
「…」
「…」
「…」
結構近い距離に3人がいると言うのに沈黙が長く続いている。
颯はチラチラと窓の外を見ていて…霊愛と紅恋は仲良くきょとんと首を傾げる。
「…まだ出て行かないの?」
「え…?」
「あ…もう終わったんじゃないの?」
「終わったけど…」
「ちょっと今日早く寝たいから…」
「あ…うん…」
「じゃ…じゃあ」
「はい…はーい」
「んじゃ…そう言う事で〜」
知人との電話を切る時くらい雑な終わり方。
霊愛と紅恋は天道を開いて…その中に入る。
トコトコ…と足音は鳴っていないものの…天道の中を早足で歩く二人。いや二天使。
「私には人間というものがさっぱり分からない…」
「…やっぱり人間というのは複雑怪奇だ」
「私はそうは思わないな…」
「人間は一番単純だと思うがな…」
「そ…そうか…?」
「何かをしたいから…何かをする…」
「誰かが好きだから…誰かを助ける…」
「さっきの男の場合も…同じだ」
「…人間とは…面白いもんだな…霊愛…」
「私もよく思ってるよ…」
次の投稿は日曜日です。
あとこの章も終わります




