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ANCIENT -無代譚-  作者: 美朱太
未開の少年たち
7/10

1-6 変な奴

語り終えた杏は泣くでも笑うでもなかった。

ただ忘れていた嘆きを思い出した様な…

口を閉じようにも閉じれないみたいだ。

寂しそうな肩を撫でることが出来たら良いが…

それは出来ずに勇の拳は震えるだけ。

出来ることならなんでもしてあげたい。

大抵何もできないのが事実なんだろう。

行き場の無い怒りが全身に駆ける。


…次の瞬間!

鈍い音と共に真っ赤な鮮血が拳を伝う。

アスファルトの地面は平気な顔で眺める。

ただ悔しかった。

表面でしか物事を知らない自分に…

本物の杏のことが好きだと思っていた。

だが実際には3分の1も分かっていない現実。


そんな勇を見て杏は優しい笑みを浮かべた。

血に濡れた勇の拳をハンカチで包み込む。

 「…先、家に帰っててよ」

 「勇は…?」

 「ちょっとコンビニに行って飲み物買ってくるから」

すぐさま適当な笑顔を浮かべる。

笑顔に裏があることは簡単に読み取れてしまっているのだろう。決して作り笑いを作るのが下手なのではないと思う。

ただ怒りが他の感情を追い越してしまっただけ。何も落ち度はないはずだ。


 「…死んじゃダメ…死んじゃダメだよ…」

ハンカチの上から拳を強く握られる。

涙が出てくるほど痛い…。血がぶしゃぶしゃと出てきそうだ。

…だがこの痛みは底が知れていた。

杏が今まで味わってきた心の痛みに比べたらどうって事はない。自然とそう感じてしまった。

杏の弱々しい指を一本一本解く。

決して痛いからではない…。

赤色のハンカチを退けると出来るだけ微笑む。

 「分かってるよ…」

 「…行かないで」

 「ごめん…」

 「…それは出来ない」

 「だけどこれは約束するよ」

 「絶対に死なない…!」


決意の籠った言葉に杏は、上唇を噛みながら頷くことしか出来ない。

それほどまでに勇の瞳は優しかった。

だがそれ以上に奥底から恨みの炎が湧き上がっていた。一目見ただけで分かるほどに。

あんな瞳は見たことがなかった。


杏の肩に静かに手を置く。

安心させるためだったのかもしれない。無意識にやってしまっていた事だ。

 「信じてるから」

 「あぁ…ずっと信じていてくれ」


杏の手から手を離すと立ち上がる。

どこに行けばいいのか自分でも分からない。

ただ足だけが身勝手にどこかへ進んでいた。

フラフラになりながらも着実に…。

 「怖かったらそのジャンパー被ってなよ、」

 「それお気に入りだからさ…帰ってきたら返してもらうけどね」

有名漫画と似た様なセリフを添えていく。


一定のリズムで刻まれていく足音。

徐々に遠ざかって行ってるのが分かる。

当たり前だがその背中はどんどん小さくなっていく。

だが例え小さくてもその漢の背中は追えなかった。いや追おうにも追えなかったと言った方が正しいのかも知れない。

その背中に両手を合わせて願うことしか出来ない。

 「神様…勇を助けてあげてください…」

願いが口から溢れ出てしまった。

誰にも聞かれてない…。なんせここは事故現場なのだから人はいないのは予想できてた。

だが空は繋がっているはず…。

そう思わせるのは一瞬だけ空が光ったから。

寝てもいないのに夢みたいな…

でも実際に目の前で起きてしまったんだから仕方がないだろう。

少しくらい希望を持たせてほしいが故の錯覚なのかも知れない…。



勇は焦っていた。そりゃ物凄く。

いや焦っていると言うよりは…過去の自分を憎んだと言うか…過去の自分のイキりが原因と言うか…。

あのイキりはあの場面では仕方がないことだろう。

目の前で好きな女の子が泣いているのに、「あぁそうですか」なんて言えるわけがない。

勇気を出してみてカッコつけてしまったが…

慣れないことはしない方がいいと学んだ。

自分の首を絞めてしまっていることに後々気づいてしまうから。

ていうかまず見た目すら知らないのに良く受けたな…。と改めて感じてしまう。ネット恋愛をしてる人みたいな気分だ。

そりゃ表面上だけみたら良い風に見えるが…。

実際は何にもできないただの男子高校生だ。

最近流行りのAIに解決策を聞いても妄想だと軽く嘲笑されるだけ。腹が立つ。なんか最近精度が悪い気もするし尚更。

…まず前例がない事をAIに質問するのが悪いと言われたら返す言葉もない。


 「それにしても()ちぃ…」

今更になって打ち付けた拳がまた痛む。

ジャンパーを貸す代わりにハンカチを借りれば良かった…とまた過去の自分を憎む。

人類誰しも痛みに打ち勝つことは出来ない。

だから…と言ったらおかしいが、近くのコンビニのトイレへと駆け込む。

実は尿意があった状態で杏を追いかけていた。

拳を打ちつけたことによって膀胱が揺れて、尿意を我慢しすぎた痛みと拳の痛みが同時に来た。また一つ後悔が増えた。

それに傷口から菌が入ってきたら悪いし…。

 「ふ…ふぅギリ耐えか?」


流石に何も買わずに出るのは良くないな…と床を拭きながら気付く。

絆創膏やカップラーメン、水や栄養ドリンクを購入する。

カップラーメンにお湯を入れ、コンビニの裏に座り込む。

とりあえず一息ついて今買った栄養ドリンクでも飲んで落ち着こう…。

 「ゴクゴク…」

味はあまり好みではない…。

だけど栄養が詰まってるからこそのこの味。

飲み干すための納得させる素材なり。

たまたま今日を振り返ることがあってもきっとこの時間は忘れてしまっていることだろう。


これからどうなるのか…分かりゃしない。

だが思うところは一つだけだ…。

 「風華…杏…」

 「絶対に仇を討ってやるからな…」

眠気覚ましに両頬を力いっぱい叩く。

力いっぱいと言っても…後に残らない程度。

力加減を間違えて頬がヒリヒリする。

時期に治ると括って背中の力だけで立ち上がる。

また途方もない夜の再開だ。


 勇気を出して足を一歩踏み出す。


 「んぬッ…!?」

夜だというのに背後から眩しい光。

デカい車でも後ろに来たのか…?

轢かれちゃまずい…とゆっくりと振り返りながら横にズレる。

だがその光はチカチカして痛いと思うほどで目を閉じる。

真っ暗闇の中コツコツと嫌な感じのブーツの足音が聞こえる。その足音は近くで止まった様な気がした。


そして徐々に光が弱まっていく。

恐る恐るゆっくりと目を開く。

 「だ…誰…」

目の前にいたのは金髪、長髪のアップバング。

青く透き通った瞳は西洋人を感じさせる。

なぜかムカつくがかなりのイケメンだ。

前髪が目に掛かるのか首を振ってその髪を払う。…がその度に目に掛かる前髪の量は増えている。

おそらくと言うか確実にバカなことは確定した。


現在懐中電灯の光が下から当たってるもんだから、ナチュラルホラーに仕立て上がっている。

 「ほい」

 「眩しッ!!」

突然両目にその懐中電灯の光を当てられる。

 「私は神の使い…」

 「ちょ!やめろ!なんで自己紹介してんだ!」

バカではないみたいだ…。本当にどうしようもないほどのおバカだ。

懐中電灯を直接目に当てるとは確実に良い子ではない。昔風華にやって先生にありえないほど怒られた。怖くて泣いたし…。

しかも物語の御法度の見えない状態での自己紹介。

イケメンの左手に持つ懐中電灯を取り上げる。

流石に目が痛すぎる。あと話が全く進まない。

 「あ!泥棒は犯罪だ!地獄に堕ちるぞ!」

 「…」

初対面だが…コイツは頭がおかしいのか?

意味不明な言動が目立つし、意味不明な登場もするし…。残念イケメンとはコイツのことだろう。

 「…でお前誰なんだ?」

 「はぁ…」

…全く腹の立つため息だ。

 「私は神の使い…」

 「霊愛だ」

 「かぁ…神の使いだぁ…?」

流石に面白すぎる…。

頭のおかしなナルシスト…初めてみた。

コイツが目の前にいるのに声が震えてしまう。

 「な!何を笑っているのだ!」

 「そ…!そ…!そっち系の人ね…」

 「ブハッ!」

ついに吹き出してしまう。

シリアスな展開が台無しだ!コイツのせいで!

 「な!誰がそっち系の人だ!」

 「何ッ!?心が読めるのか!?」

 「バッチリ口に出てたぞッ!」

 「私は本当に神の使いだが心までは読めん!」

 「て…てか名前は?」

 「さ…さっき言ったぞ…」

 「精米か」

 「霊愛だ」

 「そっかいい名前だね」

 「うんありがと」

展開が進まなすぎて困る…。

全部コイツのせいだなこりゃ。

 「ほれこいつを見てみろ」

しばらくすると地面に空気が集まる。

そして徐々に霊愛(れいあい)と名乗る青年は両足が地面から離れる。

間違いない…空に浮かんでいる。

ありえない話だが実際に現実で起きている。

物理的な上から目線…。

それにドヤ顔がついてきて尚のこと腹が立つ。

 「ふっ…どうだ?」

もう耐えきれない…!


 -シュッッ!-


小さな物体の残像が通り過ぎる。

なんだ!?早くも敵の襲撃なのか!?

 「イツァァッ!」

 「な!何しやがる!」

自分で投げた小石だった。

運が良かったのか運が悪いのか…。

霊愛の大事な部分に命中してしまう。こりゃ一個潰れたな…。神の使いに玉があるのか分からんが。

あんなドヤ顔が一瞬にして歪み、今じゃコンクリートの地面に内股座りをしている。女の子みたいに…。


次第に痛みが引いてきたのか、歪んだ顔から澄んだイケメンフェイスに戻る。

そしてすぐに被害者面の勇を睨みつける。

 「何をするッ!」

 「俺は急いでるんだ」

 「お前が神の使いか初めてのお使いだかなんだか知らないけど!」

 「悪いな!」

霊愛に背を向けてまた未知の道に歩き出そうとする。…と後ろから「ふっ」と笑う声が聞こえる。腹立たしいズラ。

 「力がない奴が闇雲に言っても死体が増えるだけだ」

 「ましてやお前のような怒りに身を包んだ人間が行くのなら尚更な…」

思わず足を止めて振り返る。

何も話していないのに何か知っているような口ぶり…。誰でも足を止めてしまうだろう。

しかもあの空中浮遊を目の前で見てしまった…。導き出される答えはただ一つ。

 「お前普通の人じゃないな」

 「神の使いだと何回も言っているだろ!」

 「あそっか…」

 「じゃあなんで神の使いが来たんだよ」

 「や…やっとそれを聞いてくれたか…」

 「私はVORを倒しにやってきた」

 「な…なんだ!?化粧水メーカーかなんかか?」

 「お前が狙っている奴の名前だ」

 「これを見てみろ」

霊愛の左手首には水色の宝石が埋め込まれている。その宝石は霊愛が何か口にすると青く光る。何言っていたのかはわからないからもちろんカットだ。

20世紀の人々が思い浮かべていた21世紀の用だ。

 「身長2m35cm…体重269kg…?」

 「ここにはVORの全てが載っている身長体重…生まれた星や年…」

 「お前はVORの姿を見た事が無いだろう」

 「これがVORの姿だ」

映し出されたVORの姿は予想以上にグロい。

深緑の肌と筋肉が人智を軽く超えている。

短い髪の毛はアメコミのとあるヒーローを感じさせる。

 「VOR通称ヴォア…」

 「こいつは十数年前に宇宙から送り込まれてき罪人たちの生き残りだ」

 「つ…罪人(つみんちゅ)なのか…」

 「あぁ罪人だ」

霊愛の出身は沖縄なのかもしれない。

 「ほとんどの罪人が海に落ち、空中で爆散し小型宇宙船から出ることも無く死んだ」

 「ヴォアが乗った小型宇宙船は火山に墜落した」

 「…どうせすぐ死ぬ…そう考えて日本に応援部隊を派遣しなかったのが間違えだった」

 「今から8年前その火山が噴火し…」

 「小型宇宙船も同時に出てきてしまった」

 「それでそれで?」

なんだかSFの話を聞いてるようでワクワクしてしまう。これが現代に至るまでの厄災となっているのに…他人事すぎる気もするが…。

 「ヴォアはもともと盗みの罪でこの地に送られてきた」

 「アイツの家は貧乏でガリガリでひょろひょろだったから食い物を盗んでいたそうだ」

 「う!嘘つけ!映像で見ただけだけどアイツ頭おかしいくらいムキムキででかいぞ!」

 「…だから来た当初に対処すれば良かったと言ったのだ」

 「アイツの現在の姿はマグマのエネルギーを体に溜め込んだ姿…」

 「昔のアイツとは訳が違うのだ」

先ほどまでの話を聞いていると…

勝ち目が無いように思ってしまっていた。

だが今は状況が変わった…。

神の使いとかいう強そうすぎる助っ人がいる。

頭は大変弱そうだが…

 「じゃ…じゃあそのヴォアって奴のこと任せたぞ」

 「私に任せていいのか…?」

 「えだってお前は神の使いなんだろ?」

 「てことはめちゃくちゃ強いってことだろ?」

 「ふっ…そんなことないぜ」

言っている事とは裏腹に絵に描いたようなドヤ顔。コイツは多分ドヤ顔してしまうのがクセになってんだ。

 「私は一切戦闘したことがないぞ?」

 「は!?」

 「ありがたいことに天界は平和でね…」

 「全く戦闘する機会がないのだよ」

 「お前が送られてきた理由は…?」

 「戦闘訓練の実習をサボったから罰として…」

 「その訓練は戦闘には入らないのか…?」

 「ふっ…」

またドヤ顔。そろそろ引っ叩きたい。

 「戦闘経験に入れたとしてもミジンコレベルだ」

 「基礎すらまだ覚えきれてないぞ」

 「む…無能…」

 「無能とはなんだ!神の使いだぞ!」

 「まぁこの戦い負けたら神の使いから堕ちて神の使いのさらに見習いに落ちるけど…」

 「き…期待させやがって…」

拳を強く握りしめる。期待させた分その怒りは強い。


ていうか…これ終わった?

物語こんな微妙なところで終わった?

勝ち確ムードから負けムードに堕ちるのが流石に早すぎる。普通の物語なら負けそう…から僅かな道筋から勝ちを導き出すもんだろう。

勝ち筋すらみつかりゃしない


今すぐにでもこの握りしめた拳を霊愛にぶつけてやりたい…。だがぶつけられない理由があった。

 「…」

霊愛も同じ様に汗をダラダラ掻いている。

ドヤ顔なのはずっと変わらないが…。

流石に殴ることはできない。コイツももう引くに引けないのだろう。三人集まれば文殊の知恵。二人集まっても凡人の群れ。だが僅かな可能性を潰すわけにはいかない。

 「どうする…?」

 「ど…どうしよ…」

 「ちょっと!あんたたち!何時だと思ってんの!」

 「ひゃっ!ひゃぁッ!」

近所のアパートのおばちゃんに怒られた。

ただの白髪混じりのおばちゃんに怒られただけで脱兎の如く逃げ出す。

こんなので果たしてヴォアに勝てるのだろうか…。非常に心配だ。

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