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ANCIENT   作者: 美朱太
天地獄のはぐれ者
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67/95

13-2 again

 「んで…紅恋(ぐれん)はどこにいるんだっけ」

 「…これ笑伝様の間違いかな?」

 「…?」

 「普通の住宅街に居るみたいなんだが…」

 「え?」

笑伝が送ったきたマップアプリのURLを開くと…ここからそう遠くない場所が映し出される。

多分一駅くらい先の場所が映されている。

どこか見たことがある所で…勇は眉を顰める。

 「…ストリートビュー開いてくれ」

 「?あぁ分かった」

霊愛は二回ほどスマホの画面をタッチする。

するとそこにはご立派な和風な家が映し出されていた。風華はスマホを覗き込むが…きょとんとしている。

…だが勇は目を見開きその画面を見つめる。

 「…知ってるの?」

 「…風華….霊愛急ぐぞ…」

 「ここは颯の家だ…ッ!」

 「え…?」

勇は難しい表情のまま口を濯ぎ、風華はその後ろにちょこちょことついていく。

霊愛はその颯の事を全く知らないが…

その初めて見た勇の表情で事の重大さを知る。

 「よ…よし!お前らも覚悟が決まったようだな…」

 「い…言っておくが…紅恋はかなり強いぞ」

 「…」

外出の準備をしていた勇と風華だが…

その言葉を聞いた瞬間に動きが鈍る。

…全く相変わらず変わらないなぁ…と思ってしまうが、今までならすぐ固まるのに成長したなぁ…とも思う。

数秒で終わる準備を数分掛かりで終わらせ、玄関の前で「ふんすッ!」と息を吐く2人。

緊張からくる腹痛でトイレに行っていた霊愛も出てきてその2人と肩を組む。

 「…なんか霊愛さん陽キャみたい」

 「…なんか大学生デビューみたいでキッツイよなぁ…分かる分かる!」

 「そうだけどそこまで行ってないよ!?」

 「…」

霊愛は静かに2人の肩から手を離し、その代わりに玄関のドアノブに手を掛ける。

やっぱり結構恥ずかしかったようだ。

フォローを入れとくと大学生デビューの中ではかなり群を抜いてのイケメンだ。

最近の髪型だけ…とかファッションだけイケメンなだけのなんちゃってイケメンではないのは確かだ。

 「…よし行くか」

 「うん!」

ガチャ…と扉を開くその前に…

プルプルル…と勇のスマホが音を鳴らす。

こんな時に誰だ…?と少し雰囲気が壊れたなぁっと電話の画面を見てみるが…

 「舞…?」

 『あ!もしもし勇くん』

 『はぁ…はぁ…』

電話をしながら走っているようで…かなり息が荒い。風華も背伸びをして聞き耳を立てる。

 『実はね…サッカー部の人から連絡があったんだけどね…』

 『颯くんが最近部活に来てないらしいの…っ!』

 「なんだって…?」

 『颯くん部活休んだ事ないらしいんだけど…』

 『…もう2週間くらい休んでるらしいんだよっ』

 「舞…ッ!とりあえずそこから動くな」

 『え?』


 ピンポーン


…インターホンが鳴った。

この家のインターホンが鳴った訳ではない。

明らかに舞の方から聞こえた。

勇…そして風華の額からは冷や汗がこぼれ落ちる。

 「舞ッ!今すぐにそこから逃げろッ!」

 「舞さん!」

 『ふ…風華くんもいるのっ!?』

 「舞さん今行くから少し離れた所に…ッ!」

 『うん…分かっ…!』

 『え?』

スマホの向こうから扉の開く音が聞こえる。

そしてガツッと何かを落とす音が…続くようにして聞こえる。

 『キャァッ!』

舞の悲鳴が少し遠くから聞こえる…。

…勇と風華の顔が青ざめて…風華に至っては瞼が素早くピクピクと動き出す。唇もそれに続いてゆっくりと動き出す。

 「霊愛さん…天道を開いてください…!」

 「で…でもお金の問題が…」

 「…そんなの俺が出します…」

 「わ…分かった…」

 「天創道臨…開ッ!」


 モワワワワァァン…


ピンク色の煙の中に白い道ができる。

風華は我先にとその天道の中へ入っていく。

…ちなみに天道はエレベーター的な物ではなく…エスカレーター的な物だから…歩けば早く着ける。

勇も風華の後を追って走っていく。

…霊愛も予算を計算しながらも走って入る。

 「霊愛さん…ッ!」

 「霊愛さんのお姉さんの紅恋さんはどんな能力なんですか?」

風華は少し後ろを走る霊愛の顔を見ながら尋ねる。

 「…人間に寄生することができる能力だ」

 「寄生された人間は自我だけは持ってるが…」

 「体は思い通りに動かされるんだ」

 「だが!姉の能力は無闇に使える訳じゃない…」

 「人の恋愛感情…その大きさによって能力の出力が変わるんだ…」

 「…これで確定だな」

 「…うん」

 「全く…颯のやつ強がりやがって…」

 「急ぐぞ風華…」

 「うん…」


舞が目が覚めると…そこは暗い場所だった。

目を擦ってみようにも…なぜか手が動かない。

いや正確に言うなら手首は動かせる…だが何か手錠のようなもので縛られているようで…手を顔に持ってくることができない。

 「…ん」

 「もう起きたのか…」

聞き覚えのある声。…だがその舞の想像する声の主はこんな口調なんかじゃない。

もっと柔らかく…温かみのある声だった。

 「颯くん…颯くん…なの?」

 「この男の名前は颯か…」

 「…あなた…誰?」

 「お前ら人間を憎む者…とだけ言っておこうか…」

 「…もしかしてあなた人じゃないの?」

パチッという音と共に部屋に電気がつく。

…目の前には颯がいた。

だが普段の颯とは思えないほど…顔色が悪く右腕だけ不自然に太くなっていた。長さもわかりやすく長い…。

 「…よく分かったな…小娘」

 「…驚かないのか?」

 「…颯くんは…すごくかっこよくて…いい人なの…」

 「…颯くんに変なことしたら私が絶対に許さないからっ!」

 「ふっ…人間は愚かだな…」

 「自分の置かれている状況をさえも分からないとは…」

よく見ると舞の腕や脚は手錠によって壁に固く縛られている。もう少しきつく縛って仕舞えば、血管が圧縮されてしまうほどだ。

 「私はいつでもお前を殺せる事を忘れる事を忘れるなよ…?小娘?」

 「…っ!」

舞は力いっぱいに手足を動かしてみるが…

あの舞の力でもその手錠は壊れることはない。

目の前では眠そうにタバコを吸う颯に扮した人物。…一目でわかるほど余裕そうだ。

 「私なんてすぐに殺せばいいじゃんっ!」

 「ふぅ〜」

 「やっぱり人間の考えていることは分からないねぇ…」

 「私の能力は恋愛感情が大きければ大きいほど力が増すんだ」

 「それが正でも負でも等しく上がるんだよ」

 「…でもなんで私を生かす意味が…?」

 「体は私が乗っ取っていても…五感は本人の物だ…」

舞は何かを察したように目を丸くする。

その表情を見た…その人物は嫌な笑みを浮かべる。普段の颯なら見せないその不気味な表情に舞は背筋が凍るような感覚を覚える。

 「人間の割には察しがいいな…小娘」

 「お前を愛している風華がお前を助けにくる…それを見たこの颯という人物は…どんな反応を示すかな?」

 「私が見た限り…この男の心はそんなに素晴らしい心をしていない」

 「…颯くんはいい人だもん…!私は信じてるからっ!」

 「ふっ…やっぱりお前は何も分かっていないようだな…」

 「人は本当の感情を人にはぶつけられない」

 「所詮はそいつのために取り繕った感情だ…」

 「感情は本音を薄い皮で包んでいる弱い弱いものだよ…」

 「…私は信じてるから」

 「ふはははっ!ふははっ!はははっ!」

腹を抱えて笑っている目の前の人物。

明らかに人を馬鹿にしていないとこんな高く感情の薄い笑い声なんて出せない。

 「お前に信じられることが一番こいつの胸を傷つけているのが分からないのか?」

 「こいつを本当に信じるのなら…大人しく突き放すことだなっ!ふはははっ!」

 「そんな…酷いこと…!」

 「人はこれを優しさと呼んでいるのか…」

 「こんなのただゆっくりと人を殺しているのとなんら変わらないというのに…」

 「…っ!」


あれから数分が経った。

目の前の人物は舞に何をするでもなく…

ただしっとりとタバコを吸っていた。

だが急に目の前の人物は立ち上がる。…そして楽しんでいるのか少し口角が上がる。

そして目を瞑ってこめかみに手を当てる目の前の人物。

 「…お前の王子様がやってきたようだな!」

 「風華くんが…っ!?」

 「ふっ…そのようだ」

 「それともう1人…髪の短めな男と…」

 「あのシルエットは…」

 「ふっ…霊愛か…」

 「…やはりアイツも人間の味方をするか」

…その声は少し寂しいような…

そんな弱さを感じ取れる声で呟いていた。


 モワワワワァァン…!


舞の視線の隅の窓にピンク色の煙が現れる。


…そして次の瞬間ッ!


 パリィィィンッ!


その窓ガラスが音を立てて割れ…そこからは風華や勇が部屋へと飛び込んでくる。

そしてもう1人の男が部屋に着地すると、そのピンク色の煙は空へと消えていく。

窓ガラスが割れた事で、部屋中はガラスの破片まみれだった。一歩足を出せば刺さってしまうほどだ。

 「…はぁ…はぁ」

 「舞さん…怪我はない…?」

そんな事を尋ねてくる風華…。

だがそんな風華の手には無数のガラスの破片が刺さっていて、顔にはガラスが擦ったのか数本の赤い線ができていた。

 「やっぱり颯という人物を操ってるたのだな…」

 「ねぇさん…」

 「ふっ…霊愛…少しは大きくなったな…」

 「…!風華くん…!私に近づいちゃダメ!」

 「その人は…ッ!」


 ビュンッ!


視界いっぱいが無表情の颯の顔に覆われる。

そして腹部に走る強烈な痛み…。

舞は血と共に唾が吐き出てしまう。

…霊愛一行が反応できないほどのスピード。

腹を殴られた舞は息を荒くして瞼が震えだす。

 「…ッ!」

 「ほらほら…」

 「そこの女みたいな男」

 「このままじゃ私がコイツを殺してしまうぞ?」

紅恋の片手には数本の手術用のナイフが握られていて…何も持っていない手で舞の輪郭をなぞる。

 「紅恋ッ!それ以上…舞さんに近づくなッ!」

 「…まぁ待て…私の願いを聞いてくれたら…その願い聞いてやってもいいぞ…?」

 「…願い…?」

 「私の目の前でこの女に口づけをしろ」

 「…え?」

 「幸いにもこいつは今意識が朦朧としている…」

 「別に一瞬の口づけなどどうせ覚えてはいまい」

 「…霊愛さん…勇」

後ろで黒縄を出す勇と、光蓮を握る霊愛を見る。その表情は頼もしいを表情にしたように…安心できるような顔だった。

 「…それで…舞さんから離れてくれるなら…」

紅蓮は満足そうにして舞から数mだけ離れたところでタバコを吸う。…タバコは吸っているが…ジッと舞と風華を見ている。

 「…舞さんごめん」

舞が薄れる視線で見た景色は…

徐々に近づいてくる風華の綺麗な顔…。

だが今からファーストキッスをする人ではなさそうな苦悶の表情を浮かべていた。

舞は…少し期待もしながら目を閉じる。

次の投稿は金曜日です

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