13-1 セロリ
誰からも連絡が来ず…遊ぶ相手もいない。
こんな休日は久しぶりだと、この美少女の山下舞は枕に顔を埋める。
「はぁ〜暇だな〜」
「誰からも連絡来ないし〜」
水泳選手のように足をバタバタさせる舞。
相当暇なのだろうか…まだ起き抜けの髪型でスマホをぽちぽちとしている。普段は見せないボサボサの髪型で風華が見たら多分キュン死する。それくらいにはプライベート舞が見えていて…かわゆす。
多分女に興味ない人が見ても照れてしまう。
舞は訳もなくオンスタグラムを開く。
もちろん舞のオンスタはフォローされまくってるが…知らない人からフォローされるのは怖いので…あんまり通すことはない。
でも毎日オンスタのフォロー申請欄を見るのには理由があった。
「風華くんからオンスタフォロー来てないなぁ…」
「は…ッ!いけないいけない!」
「風華くんはえっちなんだもん!」
「嫌いなんだもん…!」
頬を膨らませながら足をまたバタバタしだす。
ちなみに舞の部屋2階だ。その下の1階には舞の弟がいる。
…階段からどんどんと音が聞こえてくる。
舞は慌ててベットから勉強机に向かう。
…だがその途中舞の部屋の扉が開く。
「あ…」
「姉ちゃん…」
「最近うっさすぎるんだけど…ッ!」
「…え…えへ?」
「あざといフリしても俺には通じないよ…ッ!」
「その風華?って人には通じるかも知れないけどね」
「っダメダメ〜!忘れて忘れて!」
「風華くんのことは忘れてっ!」
「…忘れろって言われても…」
「夏休み中ほとんどその人の名前出してるじゃん…」
「え…?え?舞そんなに言ってるぅ?」
「思い出してごらん…」
「…思い出してみるね!」
夏休み初日…あの日は女子会をして…恋バナをした。…もちろん風華の名前も出ることとなる。
夏休み二日目…勉強中にオンスタに勇のストーリーが流れてきた。…そこには風華が写っていて、美味しそうにお寿司を食べていた。
確かボソボソと風華の名前を呟いてしまっていた。
夏休み三日目…テレビを見てる時に風華に似てる人がいて…もちろんポロッと声が出てしまった。
…それ以降も1日に数回は言ってしまっていると思う。ちなみに現在8月6日。
「あうぅ…確かに言い過ぎてたかも…」
「絶対にママとパパに言っちゃダメだよ?」
「光葵っ!」
光葵とは舞の弟の名前だ。妹ではないので間違えないよう気をつけてもらいたい。
目も見れないくらい長い髪の毛で…いわゆる不潔と言われるような人物だが…。
流石山下家の家系。
顔面偏差値でいったら90点近い。
最近の悩みは…姉である舞がよく抱き付いてくることだ。
…これは最近ではなくて生まれたときからずっとそうだった…。外にいてもずっと抱き付いてくるのは…やめてもらいたい。
ちなみに舞とは二歳離れてるから…今年は確か高校入試だ。
「母さんも父さんも…絶対に知ってるよ?」
「…昨日父さんが言ってたよ?」
「その風華って人の家に乗り込むって」
「まぁお酒に酔ってたから嘘だとは思うけど」
「それってお酒に酔って出た本音じゃん!」
「まぁでも母さんは喜んでたよ?」
「舞ちゃんに結婚相手良かった〜って言ってた」
「ママ大好き!パパ大嫌い!」
ほとんど4歳みたいな事を言って頬を膨らます。…光葵はそんな姉の姿を見てこんな風にならないように心に決める。
未だに舞は父と母と手を繋いで出掛けている。
「まぁ…その風華って人とうまくいくと良いね…」
「光葵ぁっ!」
トコトコと助走をつけて光葵に抱き付いた舞。
結構重…!と思ってしまうと同時に足に力を入れる。
しかし…
ドンガラガッシャンッ!
…あまりの舞の重さに光葵は倒れてしまう。
それも舞の部屋の机やメイク道具起きを道連れにして…
光葵は舞に怒られる…と覚悟を決める。
「…光葵っ!」
「は…はい…」
「光葵は自慢の弟だよ〜!」
「で…でも机とか…」
「光葵が良い子だからねぇねが直してあげるから気にしないで!」
「…姉ちゃん」
舞は光葵の体に頬をすりすりさせる。
甘えん坊の子猫のような顔をしているが…光葵は嬉しいなんて気持ちは微塵もなかった。
ただ風華の身を案じることしかできない。
…こんな二つの意味で重い人…普通の人間じゃ耐え切れる訳がないもん。
ピコンっ
LINUの通知でスマホが目を覚ます。
舞はすぐに光葵から離れてそのスマホに飛びつく。
舞はワクワクしていた。
夏休み初日に宿題を終わらせた舞は、この通りに大変に暇なのだ。だから遊び相手がほしいのだ。それすら可愛い。
高2の夏休みなのだから受験勉強をしろ!と言われるかもしれないが…舞ちゃんは頭が良いのだ。もうこの時点で志望校A判定をもらっている。
スマホを覗くと…そこには舞の予想の楽しい遊びとは反対の言葉が書かれていた。
「颯くんが…?」
一方その頃…霊愛たち御一行はというと…
「おい!霊愛!絶対甲羅投げるなよ!」
「うるせぇ…!俺が一位になってやる」
風華のアパートに住み着いていた。
そして風華んちにあるレースゲームをやっている。…寿苦と会って…次は紅恋だ!
って時なのに…紅恋が見つからずにずっとこれなのだ。かれこれ2週間くらい経つが…一回も勇も帰ってない。
「げへへッ!ブッコロしてやるぜぇッ!」
「ヒャッハァッーッ!」
どうやら霊愛はハンドルを握ると性格が変わるタイプらしい。実際には霊愛はコントローラーを握っているだけで…キャラがハンドルを握っているから間接的に握っているのだが…
風華はそんな霊愛と勇の食べた食器を洗っている。もちろん一つ結びにエプロンだ。
ボブになったことによって結んだ短い髪がぴょこっとしてる。
「…むぅ…そろそろ出ていってくれない?」
「…よし出ていくか」
「そうだな…流石に風華にも迷惑をかけられないしな…」
ゲームの電源を落としてコントローラーを置いた2人。あんなに楽しそうだったのは嘘のように顔面がスン…っと真顔になっている。
そして玄関に向かって2人は歩き出す。
「じゃあ…また連絡するわ」
「風華勉強しておけよ」
「あー!嘘嘘だよッ!」
「もっと一緒にいようよ!」
勇の足に擦り付いて上目遣いの風華。
もうこんな事をするのも2週間くらいだ。
多分風華はこうやってお泊まり会するのも初めてなんだろう。だからこうしていつも止めてくれる。
「…仕方ない」
「やったぁ!」
無理やり帰れば…?と言われてもこんな可愛い笑顔を見せられたらずっと居たくなるだろう。
だからこれは合意の上でのお泊まりだ。
「ていうか…お前んち結構広いんだな」
「あ…霊愛またお前って言った」
「う…!うるさい!お前って言わないとキャラ被るだろ!」
「…それもそうだな」
「…で家賃いくらくらいなんだ?」
「…?やちん?」
「…収入源はどこなんだ?」
「しゅ〜にゅ〜げん?」
あざとく顔を傾ける風華。
でもその表情は無知な少女のようにも見えた。…無知な少年の間違えだった。
「…もしかして!家賃も電気代も…!全部払ってないんじゃないか!?あと学費も!」
「いやそれなら追い出されたり電気止められたりするだろ」
「学校にも入れないだろうし」
暴走気味の霊愛に冷静勇のツッコミ。
「じゃあなんで…」
「分からないけど…誰かが払ってくれてるんですよね〜」
「お前…まさかパパ活…」
「違いますッ!」
「あとなぜか毎月50万くらい口座に入ってる…」
「お前それ絶対怪しい金だぞ」
「ちゃんと分かってますよ!」
「だ…だから…そのお金は食費とか急な出費とかに使ってるだけで〜あとは使ってないです…!」
「うわぁ…後で倍額請求されるぞ…」
「そ…そうですかね…」
勇は風華に感心してしまう。
なぜなら勇の口座に毎月50万振り込まれてるなら…全額ゲームや課金に使ってしまうからだ。…この中に交際費が入ってない事については触れてはいけない。
「…で今の貯金はどれくらいなの?」
「う〜ん分からないけど…」
「俺が小学生くらいの時から貯めてるから…」
「ふ…風華…!」
「…ッ!?どうしたの勇!」
「それ以上言うな…!俺が犯罪者になってしまう…ッ!」
「…勇って最近最低だよね…」
「俺だって必死にキャラ立ちさせようと頑張ってるんだよッ!」
「それで選んだのが最低キャラなの…」
「…霊愛がクール系ナルシストボケ」
「風華が可愛い系の男の子…」
「遥真がノンデリ系の高身長」
「インテリ系みたいに言うんだね…」
「俺に空いてるキャラが最低キャラしかないんだよ!」
「もっと勇に似合うキャラあるでしょ!?」
「ほら…」
「ほら…クズキャラとか?」
「何が違うんだ…?」
「ごめん…勇には何もなかった…」
何気に一番勇に刺さる言葉を放った風華。
多分風華は本当に反省しているようだが…そこじゃないんだよなぁと思ってしまう。
「…って!?霊愛さんそっちはダメですよ!」
霊愛は普通に風華の寝室に入っていく。
一番のノンデリを発見してしまったのかもしれない。
…普通に気になっていた勇は霊愛の後に続く。
「ダメだよー!」
風華はアワアワ慌てているが…特に何もない寝室だ。ゴミ箱を見てみるが…何も入っていない。
でもベッドの横に置かれている棚には少し気になる物が置かれていた。
「あ!それ身ちゃダメ!」
もちろんそんな風華の声なんて無視して…その気になるものの写真フレームを手に取る。
…その写真フレームの中には家族写真が入っていた。おそらくこの小さな赤ん坊が…今の風華なんだろう。かなりの可愛さだ。
そしてその赤ん坊風華を抱っこしている小学生くらいの少年は…誰だ?
「…見ちゃダメ!」
手元にあった写真フレームごとその写真は風華に撮られる。
別にいやらしい写真でも…変な物でもなかったのに…。風華くらいむっつりすけべなら舞の水着くらい写真に撮って飾ってるのかと思った。
「…一つだけ聞いて良いか?」
「…な…何?」
「風華を抱っこしてる人って誰だ?」
「…」
少し複雑そうな顔をして写真を見る風華。
…まずい事を聞いてしまったのだ…と瞬時に察して「あ…!」と口を開く。
だがそれよりも先に風華の口が開く。
「俺のお兄ちゃんだよ」
「あ…あれ?風華って兄弟いないって…」
「…うん嘘ついてた」
「…嘘」
勇はショックを受けた。
それは親友であるはずの風華に嘘をつかれていたからなんかではない。もっと…悲しい理由だ。
だって風華は純粋な子だから嘘を吐かないと思っていたのだもの。でも今こうして嘘を吐かれてしまっている。いや嘘を吐かれていた。
…こんな嘘のつき方もあるのかと勇はメモ帳に書き残す。
「…怒らないの?」
「え?なんで」
「…だってずっと勇に嘘ついてた訳だし」
「…じゃあ言うけどさ」
「うん…」
風華は少し俯いて両手を丸める。
その姿は先生に叱られる前の生徒のようで…
「…あのプリンクランクの19巻を探してただろ?」
プリンクランクとは全30巻の漫画だ。
ちなみに風華の家には漫画がいっぱいある。
「うん…うちから突然無くなっちゃって…」
「あ…あれ盗んだの俺だ」
「え?」
「で!でもトントンだろ!」
「風華も嘘をついてて…俺も嘘をついてたんだから!そ!それで怒るのは違うだろ!?」
「いや…違うよ!」
「だって…嘘のレベルが違うじゃん…!」
「え?」
「…俺の嘘は多分数年経っても消えないくらいの嘘で…勇の嘘は数日経たなくても忘れちゃうくらいの嘘じゃん!」
「…じゃあもう一つとっておきの嘘がある」
「…実はサムスクリーンの3巻から12巻風華んちからパクったの俺…」
サムスクリーンとは全21巻の漫画。
この漫画はちょっとエロい要素があるバトル漫画なのだが…エロい要素がなんて気にならないほど面白い。ふざけて買ったのだが…あまりにも面白くて全部揃えたみたいだ。
「え!?」
「これは衝撃一緒なんじゃないか?」
「そ…それは数週間かも…」
「ほれ!見たか!」
「いや…俺それに気づいてなかったし…なんで俺そんなパクられてるんだろっていう衝撃が…」
「く…クソ…!」
「…じゃあ!」
「もう良いよッ!」
「怒ってくれた方が…嘘をついた罪の意識が軽くなるから…怒って…?」
風華は勇に向かって頭を下げる。
長い髪の毛もくたびれてるようで…少し寂しそうに見える。
「まぁ風華にも色んな事情があるんだろ…?」
「今度またなんかあったらお兄さんについて教えてくれよ」
「…ゆ…勇ぅ…!本当に性格イケメン!性格完璧!性格至上主義なら最強にモテ男!」
風華は勇に抱きつく。
引き離そうとするがコアラのように張り付いていて…引き剥がすことはできない。
「…そ…それ暗に俺の顔DISってない?」
「勇の顔はイケメンだよ!安心して!」
「…それなら良かった…」
「イチャイチャしてるところ悪いが…」
「紅恋が見つかったみたいだ」
「え!?」
…こんなクールぶってる霊愛だが…
どうやら風華が本当に男か疑っていたようで…風華の下着が入っている収納が荒らされている。下着泥棒が入ったのかと思った。
そんな風華の無数の下着の上に立っている霊愛。なんか合成写真みたいに違和感がある。
あと…風華は本当に女装癖があるのか…女物の下着もチラホラと見つかっている。
風華は慌ててその下着たちを片付ける。
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