↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ANCIENT   作者: 美朱太
天地獄のはぐれ者
PR
65/95

12-4 人にやさしく

 「…でどうするんだ?まだ戦う気あるのか?」

 「にゃっ!?倒さないのにゃっ!?」

 「逆になんで倒す必要があるんだ…?」

 「…寿苦はその…とにかく悪い奴なんにゃ!」

 「どんなふうに?」

 「コイツは人殺しなんにゃ!悪い奴なんにゃ!」

 「本当?」

状況を呑み込めずにキョドっている寿苦をしっかりと見つめている遥真。

寿苦の肩は少し震えていた。まぁ言って無かったが寿苦は上半身裸だから普通に寒いのかも知れない。

 「嘘だッ!モカお姉ちゃんは嘘を言っているんだッ!」

 「私嘘は言わないにゃっ!信じるにゃ!」

 「う〜む…」

遥真は腕を組んで目を瞑る。この間に寿苦は逃げようとしたんだろう、ちょっと体を動かすがモカに睨まれていて簡単に諦めていた。

そして答えが出た遥真は目を開け小さく頷く。

 「まぁどちらにしろ…」

 「俺ガラスの破片が刺さって痛いから病院行かなきゃだし…」

 「あとは若い2人に…」

後ろを振り向いてロックスターの様な後ろ姿を見せる遥真。そんな遥真の腕を掴んでまた振り向かせるモカ。モカは目が大きいしきれい。

 「なんでそんな事言っちゃうにゃっ!?」

 「俺嘘は言わないにゃ〜信じるにゃ〜な〜んつって〜」

 「むにゃっ…!」

 「んじゃそういう事で…」

 「そ…そんなに痛いんにゃか?」

 「…オホホ…」

 「えいにゃ…」

モカは尖った爪でガラスの破片が刺さっているであろう場所を浅く突く。

だが遥真の表情はピクリとも動かない。

…顔より下がプルプルと震えているのは…これは遥真の正常な状態なのかもしれない。

 「なんか楽しいにゃ!」

 「もっとやっていいにゃか?」

モカは笑顔のまま両手の尖った爪を遥真の体に近づけていく。しかもちゃんとガラスの破片がある場所をピンポイントに狙っている。

モカの爪が近づくにつれて…遥真の顔はどんどんと真っ青になっていく。

寿苦は仲間を見つけたニワトリの様に喜んでいる。

 「冗談です…」

 「にゃ〜んだ」

 「…もう一回だけやっちゃダメにゃか?」

 「ダメに決まってんだろッ!」

あまりの痛みに本性が出てしまった遥真。

こういう時にブチギレるのは本当に怖い人の特徴だ。こういう時にも本当に優しい人はピクピクと怒りを我慢してしまう。

 「冗談に決まってるにゃ!本気にするにゃ!」

ただそれを上回るモカの怒りの鋭い目。

あんなに大きな遥真は完全に萎縮してしまっている。

 「も…モカちゃんが一回やったから…」

 「…ふん!せっかく楽しかったのにゃぁ…」

前なんかでみたことがある。

猫のおもちゃのもぐら叩きみたいなやつで…多分モカも猫ちゃんだから遥真に刺さったガラスの破片を押すことに楽しさを感じてしまったんだろう。遥真は可哀想だが…モカにゃんが喜んでいるんだからおもちゃになるべきだ。

 「…ダメなのかにゃ?」

自分の可愛さを分かっている人にしかできない上目遣いをしてしまうモカ。でも多分モカは普通に天然でこれをやってのけてしまっている事だろう。

 「…ダメ」

 「ケチにゃねっ!ふんっ!」

頬を膨らませてそっぽを向くモカにゃん。

でも体は遥真の方に近づいて来ていた。

…なんというか…これが可愛いっていうんだろうなぁって思ってしまう。

そして遥真の横にピッタリとくっつくとまた目を合わせてくれる。

 「ほら肩貸すにゃから…病院行こうにゃ」

 「え…いいのか?」

 「…早くしないと私1人で帰るにゃよ?」

 「…じゃあお邪魔して…」

遥真はモカの肩に手を回す。

見た目で分かっていたが、モカの体はかなり細い。舞が大根だとしたら…モカはニンジンだろうか…。

こんな事を思っている事を舞に知られたら多分煮込まれて殺されてしまうが…

モカは本当に細いなかにもちゃんと筋肉らしいものもあって…いわゆるスポーティー系の女の子なんだって分かる。

 「…変なことしたら殺すにゃからね」

 「さ!流石に分かってるゾッ!」

 「…」

 「…」

なかなかに気まずい空気が流れている。

あとモカ本人には言いづらいが…身長差がありすぎて逆に歩きづらくなってしまっている。

でもモカは一生懸命に歩いてくれているから…その健気さだけは高評価!

…普通にモカ汗かいてるのにいい匂いしかしないのが謎だ。柔軟剤の匂いとはまた違ういい匂い。多分モカ本人から出ている匂いなんだろうなぁ。

 「…あんたは純粋で良く笑う子が好きなのかにゃ?」

 「…まぁ一応そういう設定だけど」

 「ふにゃ〜ん…」

 「…」

 「…」

また…またたびじゃ無かったふたたびの沈黙。

…さっきはモカにゃんが話し出したんだからモカにゃんが話を広げるべきだったと思う。

まぁでもモカにゃんは多分…一匹狼…?一匹猫タイプの子だから、友達と話すことも少ないんだろう。

ふとモカを見てみると…また顰めっ面をしている。一個言っておきたいのは別にお尻も胸も触っていない。肩に手をかけているだけでモカの体のどこにも触れていない。

こんな顔をされる道理なんてないはずだ。

 「…」

 「こっち見るにゃ」

心配で見ていたのになんて辛辣なんだろう。

遥真はため息をつきながら真ん前を向く。これならモカに怒られる事なんてないはずだ。

…でも視界の下の方でずっとモカの顔がこちらを見ている気がする。


これはもしかしてだけど…もしかしてだけど…

モカも女の子だから好きな人を見ちゃってるんじゃないのー!

なんて芸能人の丸パクリの歌とダンスを脳内の2人の遥真がやっている。AIの映像の様にヌルヌル動く姿に…若干キショみを感じる。

ちょっと下を向くと…モカはちゃんと見てきているんだもん。こりゃモカにゃんも恋してるのかも知らないにゃ。

 「…遥真にゃん!」

…モカに初めて名前を呼ばれた気がする。

振り返ってモカを見てみると尻尾がフリフリと暴れていて…猫耳も可愛くペコペコしている。

心なしかモカの頬もピンクになっている様に見えるし…これはマジで…。

 「ず…ずっと言いたかったことがあるにゃっ!どうか笑わずに聞いて欲しいにゃ!」

こんなん恋愛リアリティショー所謂"愛ティ"で何回も聞いたセリフだ。大体あーいうの台本があるっぽいけど…そーゆーの指摘する大人は多分人生うまく行ってないと思う。

遥真の胸の鼓動はどんどん早くなってしまう。五人囃子の太鼓の音くらいには早い。

モカのガチ綺麗寄りの可愛い顔の無自覚天然あざとさマックス上目遣いのせいもあるだろうが…。

 「あの…あのにゃ…」

 「今日ずっと…」

 「鼻毛が出ているにゃっ!」

 「うんうん…俺も同じ気持ち…ってえ?」

遥真の頭では「遥真好きにゃ!結婚して!抱いてほしいにゃ!んちゅんちゅ!いやぁ〜んにゃ〜」ってな事が言われていると思っていた。

その願望を一発で壊す様な"鼻毛"という非現実的で一番現実的な言葉。

この一言で一気に現実に引き戻される。

 「…え?」

 「お願いだから抜いてほしいにゃ…」

 「…そ…そんな大量な束見たことがないにゃ…っ!お願いにゃ!」

…遥真はポケットティッシュを取り出すと、鼻に手を突っ込む。その鼻毛の剛毛さに…遥真自身ですら驚きを隠せない。

ちなみにモカは鼻毛が全くない様に見える。ニキビもシミも体にはそういう欠点になりうる箇所もない。ホクロすらどこを探してもない。

本当に神様が産みたくて産んだのがモカなんだと思う。あまりにも欠点が見当たらない。


 ブチブチブチブチャァッ!


およそ鼻毛を抜くときとは思えない様な音を、鼻の穴の中から出してしまっている遥真。

抜けた鼻毛を見た遥真は驚きを隠せていない。

 「…な…なんじゃごりゃぁッ!」

ほぼ藤原某の低めな声で抜けた鼻毛を見ている。…それもそのはず…いや!こんなリアクションじゃ足りないくらいの毛があるんだから。

習字道具を忘れた生徒にはこの毛だけを渡したら習字を始めてしまうだろう。

それくらいの剛毛でしっかりとした毛が鼻の中に入っていたのだ。

 「い…いる?猫じゃらしに見えない事もないけど」

 「い…いる訳ないにゃぁぁっ!」

そこまで絶叫しなくても良いのに…とほぼ凶器の鼻毛をティッシュに包ませる。

落ち着きを取り戻したモカはまた遥真の方に近づいてきてくれる。最新のAIみたいに従順だがちゃんと今でもドン引きしている。さっきより若干距離が離れているもん。

 「こ…今度から遊ぶときはケアしにゃさいにゃ」

お母さんの様な事をにゃんにゃん言葉で言ってくる。なかなかに性癖破壊をしてくるなぁっと少し感心してしまう。

 「にゃぁーっ!」

 「み…耳元で叫んだら鼓膜破れるゾ!」

 「寿苦のこと完全に忘れてたにゃっ!」

 「あ…あれ?許したんじゃないの?」

 「あ!あんたのせいで忘れてただけなのにゃっ!」

 「今すぐに戻るにゃ!」

 「お…俺を置いてか…?」

来た道と遥真の瞳を見比べるモカ。

遥真はキラキラと輝く目をしていて、少年の様に無垢な瞳に早替わりしていた。

モカは困り果てている様でアワアワしている。仕事が分からない新入社員の様だ。

 「…そ!…そんな目で見るにゃぁ…!」

 「まぁ冗談冗談」

 「早く寿苦の方に行って来なさい」

スルッと…モカの肩から腕を離し、1人でゆっくりと歩いていく遥真。

その後ろ姿を見たモカは一つ息を落としてその背中を追いかけ、遥真の腕の中にスルッと入っていく。

 「…え?」

 「私あんたの事少し分かったにゃ」

 「…?」

 「あんたはとっても強がりにゃ!」

 「だから素直になれないんにゃね!」

 「モカちゃん…」

満面の笑みを見せつけてくれるモカ。

遥真も笑いたいが…笑えない理由があった。

体が痛すぎるからだ。

さっきのスルッとモカの肩から腕を外したのも…歩きづらくて逆に痛くなっていたからだ。

ちょっとカッコつけて理由をつけようとしたら…モカの勝手な解釈で"強がり男"にされてしまって…尚更言いづらくなってしまった。

…少しどころか大きく勘違いされてしまっているが…今はモカのこの笑顔を独り占めできるって考えたら、まぁこの痛みも悪くないとは思える。

まぁでも…入院するハメにはなりそうだけど。


一方その頃全力でその場から逃げていた寿苦はというと…

 「はい!逮捕!逮捕!」

 「やめてやめて〜!」

 「…こいつが寿苦か…」

 「なんか子供みたいだね!」

一足遅くショッピングモールに着いていた霊愛たち3人に普通に捕まっていた。

霊愛に腕を鷲掴みにされて足をジタバタすることしかできない寿苦。なんだか面白い。

 「てか寿苦って何をして追われるハメになったんだ…?」

 「う〜ん…確か…」

特定堕落者リストの紙を取り出し、難しい表情をしながらそれを見つめる霊愛。ちらっと覗いてみるが…名前以外はほとんど何が書いてあるのかが読めない。おそらく神界の言葉だが…勉強ができない霊愛もあんまり読めないんだろう。

 「なるほど…」

霊愛は解読できたの満足気に笑う。

急に勉強ができる様になったわけではなくて、霊愛はスマホを使って日本語に翻訳した様だ。

…最新のスマホはすごい。

神の言語ですらスマホを通すだけで翻訳されてしまう。

 「なんだったんだ?」

 「笑伝様のパンツを盗んだらしい」

 「…しかもお気に入りの花柄のパンツ…勝負下着らしいぞ」

 「…どうする?」

 「まぁそりゃ…」

霊愛はパッと手を離す。まぁそりゃ突然寿苦は地面に尻餅を着いて…目の前の3人を見る。

寿苦は悪魔を見ている様な目をしている。

 「ぼ!僕に何をするんだッ!?」

 「…」

ソーっと霊愛の手が寿苦に近づいて来る。

あまりの恐怖に思わず目を瞑ってしまう。

 「…全然逃げて良いぞ」

スリスリと頭を撫でられて…その霊愛の手のあったかさにちょびっと涙が出てしまう。

 「寿苦は昔から親がいないからこうして盗みで生計を立ててたらしいんだよ」

 「まぁそれはみんな見て見ぬフリしてたんだけど…笑伝様の私物を取ったから…まぁ流石に捕まっちゃたんだよな」

 「…寒いよね?服着なよ」

SOZOで出した服を寿苦に差し出す風華。

その温かさそうな服に…寿苦は思わず飛びついてすぐに着替える。

あまりの優しさに目がうるうるし出した寿苦…期待の眼差しでまだ何も優しさをくれていない勇を見る。

 「…あ俺は何もできないぞ」

やっぱり。

 「…」

 「た…確か霊愛さんでしたよね…?」

 「うんそうだけど?」

 「ぼ!僕盗み辞めて霊愛さんみたいな天使になれる様に頑張りますッ!」

 「…?どうした霊愛?」

勇が横を見てみると…涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃな霊愛がいた。

 「だってさ…だってさ…目の前でこう…俺に憧れてくれる奴がいるってさ…」

 「やっぱさ…やっぱ…感動しちゃうじゃんかよぉ…!」

霊愛は案外涙脆い奴なのかも知れない。

多分動物と人間の友情の話でも泣くと思う。…いやあれは誰でも泣くか…。

 「げ…元気で暮らすんだぞ!たまにはこっちに帰って来るんだぞッ!」

頑なに上京認めなかった父が娘を見送る時か!っとツッコミたかったが…そんな空気ではないので口の中で反発させてそれを飲み込むに止める。

 「じゃあね〜霊愛さん〜!」

 「おうッ!元気でな〜!って!えぇッ!?」

元気よく手を振り走っていく寿苦のその手には霊愛のダサダサ財布が逃げられていた。

追いかけることも出来た…でもそれより裏切られた悲しみの方が大きいんだろう…地面に膝を落として手を伸ばすことしかできない霊愛。

失恋直後の様な感情なんだろうなぁ…。


ヒラヒラと霊愛の手から離れ落ちてきた紙を見ている風華。

 「う〜ん次は紅恋…って天使かぁ…」


 「…はぁ部活疲れたなぁ」

サッカーのユニフォームが入ったバックを背負ってため息をつくイケメン。すなわち颯。

 「…明日も練習…明後日も練習…」

 「来週は大会か…」

 「…舞は何してるんだろうなぁ」

 「風華と…遊んでるのかなぁ…」

 「なんで俺じゃなくって風華なんて…」

 「…!いけないいけない…」

悲しい独り言を呟きながら街灯のない通路を歩く。人通りも少なくて車は数分に一回通るか通らないかだ。

窓の空いている家からはほのかに今日の夕食と思われるハンバーグの匂いがする。

 「…アナタそんなにその娘が好きだったの?」

 「…ッ!?誰だ!」

慌てて声がした方向に振り返るが…そこには誰もいない。居た形跡もない。

 「はぁ…」

多分心の悪魔が出てしまったんだろう。

そう納得できない理由で心を鎮めて…また歩き出そうと前を見る。

 「…それなら奪っちゃえば良いんじゃないの?」

 「…ッ!?」

次の投稿は月曜日です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。