12-3硝子の少年
「…半径5mって難しいな」
「あと寿命吸い取るって一瞬にして吸い取るのかな…」
幸いにも寿苦の見た目が怖いからか、周りの人たちは寿苦を避けて歩いている。
内心ほっとしてしまうと共に…
この状態の寿苦なら倒せそうじゃね?って思ってしまう。
抑えきれない内なる厨二心…!
「…いや!いかん!」
「例え倒せたとしても…傍から見たら小学生ボコボコにしてるヤバい奴になってしまう…!」
「…流石にモカちゃん待つか」
ピコンっ…
何か大事な連絡かッ!?
…とLINUを開いてみると…
そこには一枚の写真が載せられていた。
それはモカの下からのアングルの顔写真。
おそらく走ってるときに間違って撮って送ってしまったのだろうが…めちゃくちゃにビジュが良い。
下からのアングルは誰でもブサイクっていう、ブサイクの言い訳を破壊してしまっている。
「…ほ…保存しておくか…」
「…い!いや!間違えて送っただけのやつを保存するなんて…!俺にはできないゾッ!」
ちゃんと保存した。連打しちゃったから…多分写真フォルダ開いたらモカの顔でいっぱいになってる。
「ねぇお兄ちゃん」
「お兄ちゃん今忙しいんだから話しかけるんじゃないゾ」
「…ねぇお兄ちゃん」
うるさい少年ボイスだ。
ちらっとスマホをずらして下を見てみると…そこには赤い瞳の少年がいた。肌も青い。
…この少年ボイスの正体は寿苦だったのだ!
その事に気づいた遥真は「シェー!」のポーズをしてしまい、そのあげた足で寿苦を蹴り飛ばす。驚きと防御を一緒にやるなんて…天才!
吹き飛ばされガラスの壁にぶつかった寿苦は、平然と笑いながらまた遥真に歩み寄ってくる。
その表情からは感情が感じ取れなかった。
「へぇ〜…僕の能力知ってるんだ」
「あ…モカってお姉さん僕のタイプかも…」
「お兄さんの能力は四聖獣を体に宿す能力なんだね〜強そ〜」
遥真の目から目線を外さずただ笑いながら話している寿苦。なかなかに奇妙だ…。
「…!なんでそれを…」
「ん〜?今記憶共有の能力を作ったんだよ〜」
「けッ!ガキの冗談に付き合ってる暇は無いんだゾ」
「お前のタイプのモカちゃんが来るまで大人しく座ってるんだな」
「ふ〜ん…一昨日お漏らししたんだね…しかも大便…」
「…ッ!?」
「…お…!?お兄さんッ!?何してるのッ!?」
ありのまま今起こったことを説明するぜ。
大便お漏らし暴露をされた後…人間には見えない…いやあの動体視力の王様のハエ様さえも見えないほどのスピードで、寿苦の靴をペロペロし出したんだ。
誇張したペロペロじゃなくて、マジでベロを出して靴を舐めている。
周りの人の注目はかなり集まっている。
だって身長190cmの大男が小学生くらいの男の子の靴を舐めているんだもん。一階の変なゆるキャラみたいな奴ですら見に来てる。
「お兄さん!この靴新品ッ!」
「汚くなるッ!」
「れろ…れろれろ…」
意訳すると「この紐の付け根の部分美味しい。…でもこの先端の部分は土臭い。」って言ってるんだろう。表情で分かってしまう。
「ていうかお兄さん!そんな近づいてるなら寿命吸ってやるからなッ!」
紫の手のような物が寿苦の背後から出てくる。
その迫力満点の禍々しいオーラに、スマホを向けていた人たちはそちらにスマホを向け出す。
「ふむふむ…常時寿命を吸い取ってる訳ではないと…メモメモ…」
「あとその手に触れたらまずそうだと…メモメモだゾ…」
「冷静ぶってんなッ!」
未だに寿苦の足にしがみついている遥真。
そんな遥真に天誅を加えるが如く…降り注いでくる紫色のオーラのお手手…ッ!
「…そんなの振り回したら危ないゾッ!」
バンッ!
その音と共に寿苦の鳩尾付近に強烈な痛みが走り…体が宙に浮かぶ感覚を覚える。
視線を下げてみると…腹の辺りに肩を入れ込んでいる遥真がいて、吹き抜けのニ階から一階に落とされているんだと理解する。しかも自分自身の体を使って…
「そんなんッ!想定済みさッ!」
寿苦は咄嗟に背後の紫の手で先ほどぶつかったガラスの壁を掴む。流石に想定外だったのか…遥真は寿苦の足を掴みながら驚いた顔をしている。
そして男らしくない悪あがき。ジタバタと足を動かして体をクネクネと動かしている。
「流石人間…ドが付くほどのバカだな…ッ!」
遥真のいる下を見て唾を垂らそうと口をモゴモゴとさせている寿苦。だが遥真はそんな事どうでも良さそうな顔をしていた。…いやまぁどうでも良くはないだろうが。
「バカァッ!」
「上ッ!上ッ!」
「ふッ!バカな人間には僕を騙すことなんて出来ないッ!」
「さっさと落ちてッ!」
パリンッ!
すごい鮮やかな壊れる音がショッピングモールに響く。人が誰も喋っていなかったこともあって余計に響いた。
そしてその後の男2人の情けない叫び声も…。
「うぎゃぁぁッ!」
「だから言っただろぉぉッ!」
背中に走った痛みと…あとこれはガラスの破片が複数箇所に刺さっているのか、体から暑い液体が少量溢れて出てきてしまっている。
だがどうすることもできずに…静かに遥真は目を閉じる。
…遥真が目を開けると…そこはなんも変わってなかった。こういう時はいつの間にか病院に…とかがあるんだろうが本当になんも変わってない。
多分気絶してからものの30秒ほどで起きてしまったんだろう。タフってのも時にはマイナスに変わってしまうなぁ。
「あっ!ここに居たにゃか2人ともっ!」
モカのにゃんにゃんボイスだ。このにゃんにゃんボイスの「おはようにゃ!」「おやすみにゃ!」ってセリフが発売されるだけで、この日本の経済は全盛期の8倍行く事に違いない。
でも…なんか引っかかるところがある。
「よしよし…寿苦くん痛かったにゃね…」
…絶対におかしい。
遥真はまた血が噴き出ないようにゆっくりと体を起こすと…その目の前の景色は思わず目を背けたくなる様な景色が広がっていた。
「モカお姉ちゃん…!また遥真お兄ちゃんがいじめてきたよッ!」
モカに膝枕してもらっている寿苦。多分下から見たらモカも胸がある様に見えるだろうから…あまりにも寿苦のポジションが羨ましい…。
「遥真は本当にクズにゃからね」
「私と仲が良い寿苦くんに嫉妬しちゃってるんだにゃよ」
尻尾をフリフリとさせながら寿苦のお世話をするモカ。…お母さんみを感じられて…キチンと両親のいる遥真でもイラつき始める。
ていうか…こんな美人に甘やかされているガキを見るんだからそりゃイラつくに決まっている。
「…!モカちゃんッ!騙されるなッ!」
「…なんだにゃ?」
凍てつく視線が遥真の心臓を貫通する。
さっきまで見せてくれていた笑った顔の可愛い顔なんかじゃなかった。本当にゴミを見ている様な…死んだゴキブリを捨てている時の様な顔をしていた。
でも寿苦を見るモカの顔は綺麗だった。
「…モカお姉ちゃん…抱きついてもいい?」
「うんいいにゃよ」
抱きつくということはモカの胸や身体の感触を全身に受けれるということ…
何故だか知れないが…それだけは絶対嫌だった。
別に特別モカと仲が良いって訳じゃないし…仲良かったとしても別に止める理由なんてない。
だがしかし…無性に腹が立ってしまったのだ。
「…憑依ッ!青龍…ッ!」
青い色のオーラが遥真の右腕にまとわりつく。
その姿を見て寿苦は…怖がるでも驚くでもなく、なぜか満足そうに嫌な笑みを見せていた。
「おい…寿苦…ッ!」
「しばかれたくなかったら…」
「モカちゃんから離れろ…ッ」
「あぁ〜!モカお姉ちゃんッ!怖い〜」
「寿苦くん…大丈夫だよ…モカお姉さんが守ってあげるにゃからね」
ナチュラルにモカの胸に顔を埋める寿苦。
…寿苦は多分見た目とは違って小学生ではないんだろう。エロガキ…。昨日こういう種類のそっち系の漫画を見てしまったから…尚更イライラが募る。
「モカちゃん…ッ!」
「俺のイライラがパンクしそうだゾッ!」
「げへへ〜」
「いい子いい子にゃ…」
「お…俺もモカちゃんに…い…良い子良い子されたい…!なんて言えないゾ…ッ!」
「でも言えないから…!こうやって威嚇する事しかできないゾ…!」
「な…なんてじれったい…ッ!」
「…お兄さん」
「僕の能力のこと忘れたの?」
「え?」
「さっきは記憶共有能力をだったけど…」
「今は幻覚を見せているって気づかないの?」
モカの胸に抱かれながら爆笑している寿苦。
…完全にしてやられた。
どこからが幻覚だったんだろう。
もしかして…軽いデートをしていた時から幻覚を…?それだったら悲しい。
夢で好きな子と話してて…目覚めた時の様な喪失感がある。
「…ど…どこからが幻覚なんだッ!」
「僕とお兄さんが落ちたタイミングでもう発動したんだよ」
「よ…良かったぁ…」
「な…何が良かったのさ!」
「いやだってよ?」
「モカちゃんと俺デート的な事してたんだゾ?」
「それが現実なだけで良かったゾ…!」
「あ…お兄さん言い忘れてたけど…」
「お兄さんが話してる事は全部現実でも話してるからね」
「え…?」
「それじゃあ能力…解除…っと」
「辞めッ!」
遥真が手を伸ばすと同時…寿苦の指パッチンの音と共に白いモヤが目の前にかかる。
霧が深い朝の様な視界…
「…痛ぇ」
どうやら現実に戻って来れたようだ。
体の節々が痛すぎる。筋肉痛の中で運動している時くらい痛い。
でもガラスの破片が刺さったような痛みはない…。どうやらあのガラスの壁が割れたってのも幻覚だったみたいだ。
薄目で目を開けて上半身を起き上がらせて…辺りを見渡す。…どうかモカが近くにいないことを願う。
視界の少し先には顰めっ面で遥真を睨んでいるモカが腕を組んでいた。
「あ…あのモカちゃん…」
「…なんだにゃ?」
寿苦の言っていた事はどうやら本当のようだ。
幻覚前までのあの楽しそうな表情は見せていない。…正直に言ってしまうとかなり辛い。
本当に気がない中で一緒に居たという現実を突きつけれている気がしてしまう。
欲を言えば妄想という嘘の中で溺れていたかった。そっちの方が断然幸せなんだから。
「…私あんたとデートしてるつもりにゃいからにゃん」
「はいそれは存じております…」
「あんたがその気なら一緒に町中華行く話も全部無しにするにゃから…っ!」
「…はいそれも覚悟しております」
多分この数時間でモカに恋してしまっていたんだろう。体の痛みが胸の痛みへと変換されている気がする。…涙は出ないのに痛い。
モカの鋭い視線が遥真の大きいだけで薄いガラスを簡単に割る。こんなに粉々に打ち砕かれたのは…初めてのことだった。
直そうとしてもきっと完全に治ることはないだろう。
「ぐふッ!ぶふふッ!お兄さん悲しそう〜」
「完全に失恋しちゃったね〜!」
「もう立ち直れないんじゃない?死んじゃった方がいいんじゃない?」
「…確かにその方がいいかも知れないな…」
「にゃ!にゃんでにゃんっ!?」
「お姉さんは本当に男の心がわかってないね〜」
「男はそんなちっちゃな恋でも死にたくなるくらいに本気になるんだよ〜」
「…?」
寿苦も日本語を話しているはずなのに…モカはずっと頭の中でハテナマークが出ているように、周りをキョロキョロとしている。
「…にゃって…デートって手とか…腕を組んだりするものでしょにゃ?」
「…私この男の手握った事にゃいもん」
「あと町中華の話はにゃしって…」
「よく考えたらにゃ…せっかくの服が汚れちゃうかも知れにゃいから…」
「…え?」
「あんたが…なんでそんなに悲しんでるのか分からにゃいけど…」
「…その…私のこと好きにゃのか?」
少し口に空気を含んで遥真を見つめるモカ。身長的に必然的に上目遣いになってしまう。
遥真目線で見る…モカの顔が近くにある。美人なのに表情が可愛い。はちゃめちゃわちゃに可愛い。やっぱり…胸がドキドキしてしまう。
この言葉が遥真をやる気にさせる嘘なのかも知れない。…でも嘘だとしてもこの船に乗る選択肢しか遥真には残されていなかった。
「…俺のタイプは純粋で良く笑う子だ」
「私と真逆にゃね!」
「やっぱり寿苦の勘違いにゃったか!」
「ま…まぁいいか」
「あ…あれ?僕の作戦効かなかった…?」
「後さ…寿苦…」
「な…!なんだよッ!」
「多分…戦闘系に使える能力作り出せないんだろ?」
「ば…バレた…?」
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