12-1 バンザイ
日曜日にちいかわの映画を見てきたよ。
一方その頃…穂部実庵町にいる遥真はというと…
「…うーんあの娘は彼氏持ちか〜?」
ショッピングモールの通路に仁王立ちの遥真。
遥真は鷹の様な鋭い眼光で髪の長い美人系の女の子を見ている。しかもくっきりと体のラインがわかる…だが色気よりも可愛さが目立つ服装をしている女の子。
そこに…あるイケメンとも言えないようなファッションだけをしている男が、イケメンの手の振り方をしながら近寄っている。
坊主にしてみたら中の下くらいだ。
「よッ!」
「あ!やっほ〜」
そんな男と腕を組みながら歩いていく女の子。
かれこれこれで5人目くらいだ。
ちなみに遥真は女の子に触れた事は数少ない。小学校の頃同級生の女の子に「腕相撲をしよ!」と誘われて容赦なくぶっ倒した。しかもその子がクラスのマドンナだったこともあって…えげつないほどのバッシングを喰らった事を思い出した。全く嫌な思い出だ…
高校生になってからは…もう本当に一回も触った事がないのかもしれない…。BEGIN並みにあの頃が「恋しくて」。
「はぁ…なんて悲しいんだろ…」
「勇も風華も誘ったけど…まだ未読だし…」
「なんか可愛い子みんな彼氏いんなぁ…」
「風華も最近舞と…うまくはいってはないものの…話せるようになったし」
「勇は…勇は…なんか杏と仲悪くなったな」
「まぁでも相手すらいない俺よりはマシか…」
「…女の子の裸すら見た事ないのになァ…画面越しには見た事あるけど…」
「部活も大会で負けて終わった最近ほぼ無いし…」
「退屈だぜぇ…全くよ…」
あまりにも悲しい独り言を…ここ1時間くらい続けている遥真。カップルは身長も高くて邪魔な遥真を笑っている。…様に見えるだけで実際にはイチャイチャにしか興味がないんだろう。それはそれでまた悲しい。
「ちょっと…あんた邪魔なんだけど…」
威勢の良さそうな女の声が聞こえてきて…遥真はイライラしているのもあって少し眉を顰めながら振り返る。
「うわ…名前なんだっけ…」
「…あ…苦手な男…」
「あの猫!猫!猫!」
「猫のコスプレしてた女ッ!」
大きな声でそんな事を叫んでいる遥真。
流石に誤解が生まれてしまうと…その女は慌てながら遥真の口を抑えようと飛び跳ねる。
「違うにゃ!違うにゃ!」
…さっきまで普通の黒髪ロングの女の子だった。ちょっと制服なのは疑問なのだが。
それなのにいつの間にか猫のしっぽが生えて猫耳…猫のヒゲまで生えている女の子。
その姿を見て遥真はハッとする。
「あ!綺奈粉モカだっけ?」
「教えたにゃっけ…?」
「風華から聞いたゾッ!」
「あっ!私猫のコスプレじゃにゃいからっ!」
「こういう能力なんだにゃ!」
「全く…声が大きいゾ…」
「あ…!」
周りの目は声の大きなモカの元へ向く。
モカはいかにも清純派の女の子で…およそこんな大きな声が出ると思わなかったんだろう。驚きの表情でモカを見ている。
…恥ずかしくなったモカは顔を赤める。こんな可愛い子の照れてる表情なんてなかなか見れるもんじゃない。カップルは慌ててスマホを取り出す。
「あー!もう行くにゃよ!」
遥真の手を握って歩き出すモカ。
遥真は久しぶりの女の子の感触に涙を流す…そしてまた注目を集めてしまう。
モカの手は案外あったかい。これは彼氏が羨ましい。
そして人目のつかないショッピングモールの裏側に辿り着く。しかもここは外だし…。
焦りか恥ずかしさから汗が額から流れてる。
それすら綺麗に見えてしまうんだから恐ろしいくらいだ。
「あんたも寿苦を倒すためにここに来たにゃ?」
「今日も一日暑いようです〜」
「な…何言ってるんにゃ?」
「ジェネレーションギャップか…」
ちなみにさっきのは作詞作曲:岡平健治
19の「『ガソリン』」って曲だ。1999年発売だから…遥真の世代にカスってすらいない。遥真の産まれた時には19は解散している。
「あ…あんた何歳にゃ?」
「今年17歳だけど?」
「私今年で18にゃ!一個先輩にゃっ!」
「ま…マジかよ…」
「敬うんだにゃ…っ!」
少し怒りながらプイッと言い捨てるモカ。
そんなモカの顔と体を見比べる様にジロジロと見ている遥真。相当な異変に気付いた様で声が出ていない。
「…俺より一歳歳上で…そんなコスプレしてんのか…」
「あ…あんたにゃねぇ…っ!」
モカの爪にオレンジ色太陽が反射する。
それが自然と目眩しとなってしまって…遥真は思わず少し顔を引き目を瞑る。イケナイ太陽。
そして…何か豚肉を切る様な音とともに…顔面に走る激しい痛み。
多分…モカのにゃんにゃんの爪で顔面をスライスされてしまったのだろう。綺麗な爪をしているんだなぁ…と思っていたが、こんな凶器になるとは思えない。
「あ…やっちゃったにゃ…」
「…うぐふふぅ」
体を縮めて涙を流す遥真。
涙と鼻水と血液が流れている。可哀想。
「泣くなにゃ…!」
「あぅ…で…でもそんないじめてくるあんたも悪いにゃよ…!」
人を泣かせた場合は大体自分の非を認めてしまえば、丸く収まりはしないものの角ばった感じで収まるもの…。でも流石に気の強いモカにゃんはなかなかに譲らない。
ていうか遥真みたいな巨体が縮こまって泣いてるのはなかなかに気色が悪い。
「ふ…普通に冗談じゃない痛さ…」
「…わ…悪かったにゃぁ」
「うぅ…どうしたらいいにゃぁ…」
「ヒク…ごめんにゃぁ…」
モカもちっちゃく肩をピクピクとさせる。
これは女の子…いや子供がよく泣く前にやってしまう奴だ。いわゆる涙の助走。
チラ…っとそんな姿を見た遥真は…少しクスッと笑ってしまう。
「…な…泣いてないにゃ…っ!?」
「ま…まさか泣いちゃうとは…ぶふッ!」
「ひ…ひ…ひどいにゃぁぁっ!」
ズバズバズババァンッ!
また顔面を切り刻まれてしまう遥真。
多分…モカの爪が包丁だったら遥真の顔面はみじん切りになってしまってるだろう。
遥真は静かに目を閉じる。BAD遠藤…
いくつか時間が過ぎたのだろう。
遥真は見覚えのないピンクの天井で目が覚める。ピンク一色ではなく…茶色の太めの線が…均一に並べられている。ここはも…もしかしてL○VEホテル!?
もちろん行ったことのない遥真の妄想だ。
でも…なぜか天井が揺れている…部屋が揺れているんじゃなくって天井が揺れている。
「ん?」
「あ…起きたにゃか?」
天井が離れていき…ふわっとその天井にカーテンの様に紺色の布が掛かる。
そして遥真の頬は…天井の代わりにピンクになる。
気付いてしまったのだ…
あのピンクの天井はモカのおパンティだってことに…。
事情はよくわからないが、公園によくあるベンチの下に遥真は押し込まれていたのだろう。
あの茶色の線は木の板だ。
「…あ…どうもありがとう…」
「わ…っ!悪かったにゃね…」
申し訳なさそうに腕を組んでいるモカ。
また新たに気付いたのだが…多分モカは見せたいから見せているわけではなく…天然でやったのだろう。さらに遥真の頬はピンクになる。
この子は生粋の…本当に生粋の天然なんだろう。多分体育館で集まる時間とかには、普通に地面におパンティをつけるタイプだろう。スカートを挟まないんだ。
しかもこの子は絶対にパンツの上に体操着履かないタイプだ。う…羨ましい。
「あ…あの…モカちゃん?モカさん…?」
「どっちでもいいにゃ」
「ならモカちゃん…ってどこの高校の人なんだ?」
「その制服どっかで見た事ある気がするんだけど…」
「私立誠進学園にゃ」
「…あの俺んとこの隣の名門学校か!」
「あんたもこの近くに住んでるにゃかっ!?」
「…西穂波高校だゾ」
「にゃっ!?あそこの学校はやっぱり楽しそうにゃね!」
「一回文化祭に遊びに行ったにゃけど…」
「すごいユニークな発想だったりにゃ…もう本当に楽しそうな学校だったにゃ!」
私立誠進学園の偏差値は75くらい。全国的に見てもかなりのトップレベルの高校。それに対して遥真たちの通う高校は50〜53くらい。地方の高校じゃ進学校と呼ばれるくらいだが…都内だと中の中。
普通ならバカにしても…怒る気すら起こらないくらいの偏差値の差があるが…目の前のモカは目を輝かせている。
「モカちゃん…あんためっちゃいい人なんだな…」
「…?何がにゃ?」
「はっ…!我を忘れてたにゃ…」
あんなにテンションが上がっていたモカは…すぐに消えていってしまった。また腕を組んでツンっと遥真を睨みつけている。
一度でいいから写真に収めておきたかった。
でも…こんな美人な顔してるのにピンクなおパンティっていうのを知っているのはかなりのご褒美だ。
「…とりあえずお腹が減ったにゃからご飯食べようにゃ」
「ま…マジかッ!」
思わぬ顔面美人中身美少女とのデートイベントに、思わず声が大きくなってしまう。
先に進んでいるモカは軽蔑する様な目で遥真を見ている。…ピンクのおパンティ。
こんな美人さんどんな美味しいイタリアンや…フランス料理…おしゃれな料理を食べるのかな?多分お嬢様だろうし…!
…と期待してみたが…目の前にあるのは大きな白色の丼に入っている麺や肉などの集合体。
いわゆるラーメンだった。
しかも…チェーン店ではなく個人店の様で…外見はかなりくたびれていた。
どうせ味も美味しくないのだろう。
そんな悲しい期待を込めて…麺を啜る。
「ズルル…ッ!」
「…ッ!?」
何かがおかしい…。
こんな見た目が普通のラーメンなのに味が美味しすぎる…!
綺麗な子と食べているから美味しい…!なんてのもあると思うが、単純に味が美味しすぎる。
一発で止まると思っていたら箸が吸い込まれる様に丼で麺を掴み…口に入ってくる。
この手作りの餃子も…うまい。
モチモチではなくてパリパリ…なかの餡は肉とキャベツ…そしてしいたけが入ってるようで、噛むたびに肉汁とキャベツの甘み…しいたけの旨みが口に広がる。シンプルながら最高の味わい。醤油をつけなくてもご飯を食べれるほどだ。
ちなみにこれはサービスで貰った。モカはかなりの常連客の様だ。
あとモカから少し貰った生姜エビチャーハン。
こういうのは小さなエビが複数個あるだけ…
なんてのじゃなくって大きなエビがゴロゴロと入っていて、米の量もなかなかに多い。
エビと焦がしネギの油が混じっているのか、口に入れるだけで旨みが広がる。卵にも味が移ってて…うまい。生姜の旨みが米やエビ…ネギ、卵を邪魔しない程度に香っている。
「…う…うまい…!」
「そうにゃ!美味しいにゃろ?」
ちなみに…モカは帽子をかぶって尻尾を服の中に隠している。…もう女優とかモデルとかの休日にしか見えない。
「ここはなんでも美味しいにゃ!」
「エビチリも麻婆豆腐も担々麺美味しいにゃよ!」
「…またここにこようかな」
「1人で来るなんてダメにゃ!」
「へ?」
「1人じゃ食べたいものいっぱい食べたくても食べれないにゃろ?」
「だからまた私と一緒に来ようにゃ!」
「私も行きたいにゃん!」
あまりにも自然な第二回目のデートのお誘い。
多分モカはめっちゃモテるからこんなデートイベントなんて軽くこなしてるんだろう。キープなんて何人もいるんだろうなぁ…実際は本命もいるし…なんて思って…また悲しくなる。
「…」
「なんにゃ?嫌なのにゃか?」
ぷくぅ…と頬を膨らませて睨むモカ。
『ヒロイン適正が高すぎる!』って感じのラノベがあったら多分この子がヒロインだ。
「あ…あの男たちと行けばいいじゃん」
「あの金髪のイケメンとか…あの髪長い男とか…」
「…フールとオルルの事かにゃ?」
「うん…多分その人たち」
「あの2人とは基本的にプライベートで遊ぶ事は無いにゃ」
「え?どっちかと付き合ってる訳じゃないのか?もしくは両方と…」
「…っ!私はそんな不純な女じゃないにゃ!」
「バカっ!」
「…な…なんだ」
「ふんっ!」
「ていうか中華料理好きなんだな」
「…好きにゃ!」
なかなかにモカの扱いに慣れてきた遥真。
多分モカは自分のことをしゃべる事が好きなんだろう。こういうところは純粋な女の子なんだ。おパンティはピンクで、普通にパンツを床に付けるタイプだけど…。
「いっぱい美味しそうな町中華に行くにゃけど…!やっぱりここが一番なのにゃ!」
嬉しそうなタオルを巻いたおじいちゃん店長がその言葉を聞いて微笑んでる。
「あっ!そうにゃ!もっと別の県の町中華も食べに行こうにゃ!」
「一緒に?」
「そうにゃけど?」
「2人きりで?」
「そうにゃけど…?」
やっぱりこの子、デート行った事ないのかも。
普通に2人きりで遊びに誘ってくるし…。これは天然のもので…男遊びをしたいなんて気持ちは微塵も感じ取れない。そんくらいの笑顔だ。
「…いつかは本物の中国料理食べてみたいにゃ!」
「本場の中国料理は中華料理とは味が違うってよく言われてるにゃけど…!私はそっちも好きなのにゃ!一回食べたにゃん!」
「その場合はお泊まりだろ?」
「そうにゃけど…?」
普通にお泊まりデートも誘ってくる。
多分この子ならおんなじ部屋に泊まっても文句は言わないんだろうなぁ。
懐かれた…?っていうか友人になれた嬉しさと共に、気がないんだろうなぁ…って分かってしまうその笑顔に…だんだん苛立ちが勝ってきてしまう。
「…もっと好きな子と行けばいいのに」
「…なんでにゃ?」
「あんたメチャクチャに綺麗なんだから…そんな普通に男と遊び行こうとすると…」
「まぁなんというか…変な事されちゃうかも知れないゾ?」
「…あッ!俺はもちろんなんもする気なんてないからな!」
「俺はこうッ!って決めた人としか…」
「あんた…意外に真面目なんにゃね」
「…女なんて遊び道具としか思ってない様な面してるにゃのに…」
「誹謗中傷だゾッ!」
「まぁでも分かったにゃ気をつけるにゃ…!」
「…うんうん…だから友達の女の子と…」
「次はどこの町中華に行くにゃ?」
「私はにゃ…」
「え?」
「?」
「なんで男の俺と…?」
遥真の胸はドキドキしてしまう…!
「まさかこの俺がッ!?」ってなことを思ってしまっているんだろう。ていうかこんなに女子に近づかれたことのない遥真は匂いを嗅がない様にするだけで精一杯だ!
「あんたは男として見えないにゃもんっ!」
満面の笑みで…遥真の期待なんて簡単に打ち砕いてしまう…。
そして…また生姜エビチャーハンを食べ始めるモカ。…遥真もラーメンと餃子を食べ進める。
あまりにも悲しい…美味しいが味は感じられなかった。
ちなみに合計3500円。キチンと割り勘した。
次の投稿は水曜日です。
明日からお盆休みだから6連休ですわ!バンザイ!
「勇者、第二志望」 「ヒロイン適性が高すぎる!」「世界初めてみました。」題名は思いついても設定が思いつかない…
年齢の設定間違えてました。




