11-5 蘇生
「行かせてもらうぞ…ッ!霊愛ッ!」
シュンッ!
有楽の足が一瞬宙に浮いた瞬間…
霊愛の眼前から有楽の姿は消える。
有楽の匂いはサボン系の匂いがする…。だからこそ…一瞬にして背後に有楽が来たことが分かる。
「フワァッ!」
女の子の声のような男ボイスを出してしまう霊愛。だがしかしbut但是ちょっと男子。
流石の霊愛も成長しているのか…
霊愛は持ち前の光蓮で有楽の夕幻を受け切る。しかも有楽は後ろから殴りかかってきていた!前までの霊愛は背後からの攻撃…いや前からの攻撃ですら受ける事はできなかっただろう。
霊愛の圧倒的な成長に…密かに草むらに隠れていた勇と風華は感動を覚える。
「うわ!あちょ…ッ!」
夕幻は相当に重いんだろう…光蓮に貼り付けられていた金箔は、ポロポロと雪のように地面に落ちていく。
た…確か金箔は自然には無害だって書いてあったから大丈夫だと思う!
「少し…ほんノ少し…」
「めっちゃくちゃ少し…」
「いやもっとほんっノちょっと!強くなったノだな!…」
「そ!そんなに言われたら傷つくだろッ!」
火事場の馬鹿力とはこの事だろう。まさかのそのまさか!あんなに筋肉隆々な有楽を吹き飛ばしたのだ!…また少し勇と風華は感動する。
流石の有楽も驚いた顔をするが…すぐに体勢を戻して地面に着地する。体操選手のようにスチャっと綺麗に…。
安定した所に着地できた有楽は笑みを浮かべる。そんなに嬉しかったのかな…。
「…霊愛…お前手が震えてるノだな…」
「…こ…殺されそうだったからな」
「霊愛…お前には覚悟も気合いも足らないノだ」
「だから霊愛…お前は俺には勝てないノだ」
「俺は…お前に勝つ…ッ!」
しゅんっ!
あまりにも軽い移動音。一般人にすらその動いている軌道が見えるくらいだ。おそらく100m15秒くらい。これでも本人は本気だ。
キンッ!
金属音が山の木々たちに響き渡る。
小鳥たちは飛び散り、小動物は足跡を残して走り去る。
夕幻と光蓮がぶつかると…光蓮は少し凹み小さな火花が飛び散る。
そして徐々に押す側が押される側に変わっていってしまう霊愛。有楽は眉を尖らせる。
「…思い出せ…霊愛ッ!」
「お前の父は人間に不意打ちで殺された…」
「そしてお前の母は…人間に拷問の末に殺された…」
「…ッ!有楽…お前は優しいんだなッ!」
「人間に…恨みがあるはずなのに…ッ!四界大戦を防ぐ事に…ッ!」
「尽力するとはな…ッ!」
「当たり前だ…ッ!」
「俺は…お前と紅恋が…また傷つくところなんて見たくないノだッ!」
バギッッ!
有楽の二の腕が膨れ上がり血管が浮き出る。
「うぐッ!?」
霊愛のほっそいほっそい体など…霊愛の光蓮ごと夕幻によって吹き飛ばされる。
幸いにも…後ろに木があったから霊愛はそれ以上吹き飛ばされる事はなかったものの…木が背中に当たった衝撃で口から血が吹き出す。
「…はぁはぁ」
「なぁ…霊愛…お前はなんであんな人間と一緒にいるノだ?」
「元を辿れば…霊愛…お前の家族を殺した奴と同種族なノだぞ?」
霊愛の口からは血が流れている。
だが霊愛はその言葉に少し口角を上げる。
自分のことをもっともっと話したがる小学生の様な…そんな無邪気な表情をしていた。
「確かにアイツらはバカで弱くて…まぁバカで…いっつもふざけてて…」
「さらにバカで…良いのは顔だけまぁやっぱりバカで…」
草むらに隠れている勇と風華は怒る。それはそれはぶちおこぷんぷん。でも2人とも普段がインキャすぎて起こり慣れていないのか、顔が歪んでいるというか怒りと笑顔を往復している。
「でも…アイツらと居ると昔に戻ったみたいに…楽しいんだよ」
「もちろん俺は元々がかなりのクールだから笑うことは少ないがな…」
「…こんな楽しいと思ったのは…」
「有楽と姉さんと一緒にいた時以来かな…」
「…そんなに楽しいのか」
草むらに顔を埋めて涙を隠している勇と風華。
こんな純粋な子たちが今の日本にいるとは…日本の未来について頭の良さそうな人は暗いとばかり言うが…個人で見てしまえば目の前は明るいばかりだと思う。
「まぁでもあの短髪の方はなんか最近妙に色気付いてるし…」
「あのボブの男については…普通に男としてまぁ絶対にモテるわけないし…」
「普通にキショいところの方が多いけどな」
あまりの怒りに勇は草むらから出ようとする。
でも…なぜか出られない!…風華に止められているわけじゃない!…ただただ今出たら気まずくなるから…自分の理性が止めてしまっただけだった。なんて磨き上げられた理性なんだ。
「そんな変な奴らと仲良くなれたノだな…」
「俺も紅恋もまともなノに…」
「姉さんはともかく…お前はアイツらに負けないくらいには変だけど…」
「そ…そうなノか?」
「うん…」
「あー!忘れてた…まだ戦闘中なノだった」
勇と風華以外和やかな雰囲気になっていたものの…すぐに戦闘の準備に入る天使たち2人。
中国拳法のプロの様なポーズで光蓮を構えている霊愛。そしてプロ野球選手がバットを構えている様な綺麗なフォームで夕幻を握る有楽。
「俺は…何のために生きていたんだろうな…」
「…?」
「俺は…紅恋と霊愛…お前の為に生きているつもりだったノだ」
「だが…紅恋は人間への復讐のために動いていて…」
「霊愛…お前にはまた新しい楽しみが生まれている…」
「…本当に俺は何だったノだろうな…」
霊愛ですら見たことのない有楽の悲しみの顔。
その表情に少し胸が重くなる気がした。
「…お前はお前なりに…四界大戦を止めようとしてるんだろ…?」
「…ふッ…霊愛…お前みたいな奴がついている笑伝が少し正しい様に思えてきてしまう」
「俺なんて何にも分かってない…」
「だから有楽…自分で自分を責めることはない…」
「的なこと言えたらよかったけど…」
「とりあえず!お前には生きてる意味はある!」
「…」
「なぁ…霊愛」
「…?なんだ?」
「俺は霊愛…お前を殺す…」
「だから…俺を殺してくれ…」
「は?」
「…じゃあ…行くぞ…ッ!」
「えッ!?」
シュンッ!
未だ動揺し続ける霊愛。
それに構わずに有楽は霊愛に迫ってくる。
死が近づいている時だけ自分の潜在能力が解放されてしまうもので…近づく有楽がコマ送りになって見える。
その目は悲しそうな目なんてしていなくて…ただ殺気に満ち溢れる目をしていた。
あんな中国拳法家の様なポーズをしていた霊愛には、そんな素早い攻撃なんて止めれる訳がない。
徐々に迫る死の恐怖に冷や汗が額から出る。
「あび…ッ!」
有楽の夕幻が霊愛の顎先に迫り来るッ!
ビュン…ッ!
その直前風をぶっちぎる音が山に響く。
車道すらないのにバイクが走り出しているかの様だった。
「拘羅ッ!」
黒色の新幹線のぞみの様なスピードで、勇の視界の隅の草むらからある一本の線が出てくる。
何かその捻れた一本の黒い線に見覚えがあった。
その黒い線は霊愛の元ではなく…素早く近寄ってくる有楽の元へと伸びていた。
「…ッ!?」
突如有楽の姿がくっきりと見える様になる。
腹にはおじさんの腹巻きの様な黒色の縄が巻かれているのが見える。急にコスプレでもしてるのか…?だと思うが…
ガサゴソ…と音を立ててある男が出てくる。
手首の辺りから黒い縄を出してくる奴。
こんな変な奴、霊愛の知る限り1人しかいなかった。
「勇…隠れてたのか…」
「ふ…ふぅ…間に合った間に合った…」
「手出し無用って言っただろッ!」
「…俺馬鹿だから分かんねぇけどよ〜」
完璧なモノマネ。声を震えさせている。
ちなみに風華はスマホのライト機能で勇を背後から照らしている。擬似スポットライト。
「…なんで2人が戦ってるんだ?」
「え?」
「だって2人ともその四界大戦ってのを止めようとしてる訳なのに…」
「…なんか2人が戦ってるし…」
「…あと!霊愛ッ!」
突然霊愛を指を差す勇。
あまりにも突然のことで霊愛は、名探偵に指差された人くらいに動揺している。胸を押さえて有楽と勇をキョロキョロと…目が泳いでいる。
「いや前々から気になってたけど…」
「お前って言うのはあんまりよくないぞ」
「あ…はい」
マジトーンでマジなアドバイス。
「有楽…?は霊愛!ってめっちゃ言ってるし…」
「お…俺…恋愛マスターだから分かるけど…名前をいっぱい呼ぶのは好意の表れらしいぞ?」
「それにさ!せっかく名前っていいもんがあるのに…上の名前だけとか…お前…とか言うのもったいないだろ?」
「流石GTK!ぐれ〜とてぃ〜ちゃ〜かつまた〜!」
勇は藤沢とおる先生の『GTO』にめちゃくちゃハマっている。その続編も…その前の純愛組も愛読している。
勇は永遠と風華に『GTO』の話をしている。興奮気味で支離滅裂な言葉で…風華に永遠と話している。しかもタチが悪いのが…これを通話ではなくメッセージで送ってくる。この前なんてトイレにトイレに行っている間に通知が20件くらい溜まってたらしい…。
「あの…そのそれはすみません…」
「まぁとにかく…俺は詳しい事なんて知る必要もないし…知る気なんてないけど…」
「そんなに仲良かったんなら…争う必要なんてないんじゃない?」
「その四界大戦になったなら…」
「俺が止めてやるし…」
まさかの小声。流石に自分の実力をわきまえてるんだと思う。良くて下っ端くらいの実力だもの。
…その姿を見て有楽と霊愛を目を合わせる。
そして沸々と込み上げてくる様に…2人は目にシワを寄せて笑顔を作る。
「ブフッ…!いや無理だろ…!」
「な…なんかクサイセリフ言う奴なノだな」
「いや前まではもっと普通の奴だったんだぞ?今は影響され過ぎちゃってるけど…!」
「見た目通りって感じの奴だったノだな!」
指を差されて爆笑されている勇。
なんかスポットライトが揺れてると思ったら…風華も笑っている。しかも堪えながら笑っているから余計に揺れている。
まっこと腹立たしい…。
「いらいら!」
「まぁ何が正しいか分からないけど…」
「2人が戦う意味が無いって言うか…」
「…あれ?」
いつの間にか山奥に1人きりになった勇。
霊愛も有楽も…そして親友のはずだった風華も…いつの間にかいなくなってる。今までの人生全部嘘だったのか…?
なんて思っていたが…目の前には歩いている2人が見える。その後ろをキョロ充の様について行ってる風華。
流石人見知りと言うべきか…話に入ってはいけない様だ。
「ちょっと!ちょっと!ちょっと待ち〜や〜!」
そして勇は風華たちに合流して…なぜか回転寿司に来た4人。もちろん勇も風華も…有楽も金を持っている訳がない。つまりは霊愛の奢りでしかない。
机に並んだ寿司にテンションの上がる有楽。
「寿司って美味いノだろ?」
「うん!美味しいですよ!」
すっかり気に入られた風華は、有楽の隣にちょこんと座っている。有楽は本当の妹を愛でる様にして、優しそうな瞳で風華を見ている。
この綱渡りな敬語がクセになるのだろう。
「あむあむ…」
「ていうか有楽…」
「あの団子屋の8700円は払ったのか?」
「後払い制度らしいノだ」
「…ほへぇ」
ナチュラル嘘つきな有楽。
「…なぁ霊愛」
勇は霊愛の隣に座っているので…
霊愛の横っ腹を人差し指で突く。
「あのハゲ神様から捕まえるか殺すか命令されたんだろ?」
「それ破っちゃっていいのかよ?」
霊愛は何も答えようとしない。
…でも有楽は机に身を乗り出して勇に顔を近づけてくる。
「あ〜人間安心するノだな」
「ヌ?」
「腹一杯になったらすぐ天界に行って…」
「出頭しようと思ってるノだ」
「え?まじ?」
「多分数百年は出てこれないから…こうして霊愛にお寿司を奢って貰ってるノだよ」
財布を弄って寂しそうな表情をする霊愛。
ちょっと見えてしまったのだが…財布の中には1万円くらいしか入ってなかった。
使わせてしまったなぁ…と少し反省。
「数百年も出てこれないのに…そんな呑気な事ばっか言えるのか…」
「もう慣れてしまったからなぁ…」
ピコン…!
バックの中に入っていた霊愛、風華…勇のスマホが音を鳴らす。多分LINUが来たんだろう。あのLINUグループから…
「あ…」
「寿苦の事忘れてた…」
「寿苦…懐かしい名前だな…」
「あ…もしかして寿苦も脱走したノか?」
「そうそう」
「ていうか場所は分かったのか?」
「中華街…餃子町2人前…?」
「な…なんだこれ?」
「あ違った」
「東京都…穂部実庵町…」
「どこかで聞いた事がある様な…」
あごに手を置いて天を見上げる風華。
それを見て勇は爆笑している。流石テストだと風華より5点高い男。頭がいいみたいだ。
「どこかって…!そりゃ俺らの住んでる所だろ!」
「あははそっか!」
「…あれ?まずくない?」
「このエンガワ美味しいノだけど…」
呑気に寿司をぱくぱくと食べている有楽。風華と勇が頼んだ分の皿まで食べている。
だが徐々に慌ただしくなってくる他3人。
「いやそっちの話じゃない!」
「早く帰んなきゃダメでしょ!?」
「新幹線調べて!」
「俺はそんな金ない!」
「は!霊愛!」
「あ俺も金ないぞ」
「間に合わない…ッ!?」
「…そうだ!天道使えば!?」
「あ…あれ1km500円くらいなんだよ!」
「そんなタクシーみたいなシステム…」
「天界に行くのは無料なんだけどなぁ…」
「ど…どうしよ…」
「とりあえず!そこに向かうぞッ!」
霊愛の声で3人は立ち上がる。
「あ…金」
「…!仕方ないッ!」
バンッ!
財布を開いて一万円札を机に置く霊愛。
その目は覚悟が決まっていて…この1日で数万円を散々した男の目はキリッとしていたし…ちょっと涙が出ていた。
「急ぐぞッ!」
ちなみに有楽はこの後1万5000円の食事をして…食い逃げをしようとしたが、結局皿洗いをして事なきを得た。のは全くの嘘で…1万円だけ払ってその場で天道に逃げた。
物語が進みすぎてびっくり!
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