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ANCIENT   作者: 美朱太
天地獄のはぐれ者
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10-2 今夜はブギーバック

 「…ん?」

埃の匂いがする畳の上で目が覚める。

祖母の家に来たような安心感と…ほのかに軽く木の匂いが鼻を充満する。別に不快ではない。

周りには杏と颯が安らかに眠っている。杏も颯も苦しそうな表情をしていない。

…どうやら体調が戻ったようだ。

 「颯…杏大丈夫か?」

 「ん…ここはどこだ…」

杏より先に颯が起き上がり目を擦る。

 「颯…この部屋は危険だ…一旦出るぞ」

 「え…杏は…?」

 「大丈夫…」

颯の隣にいた杏の体を2,3回揺すって部屋の外へと逃げる。

すると…


 ブンブンッ!


スズメバチが部屋に入って来たかのような風を切りまくる音が部屋に充満する。

同じ家に住んでいるからわかる。これはもう少しで杏が起こる合図だ。

今ごろ中では杏が足や腕を振り回している事だろう。寝ながらブレイクダンスの大会に行ったら好成績を収めそうなほど暴れる。

この前…杏を起こしに行った時この大回転蹴りをおもっきし顔面に喰らった。普通に蹴り飛ばされて…母親にこっぴどく怒られた。

杏が暴れたなんて説明しても…「あんな可愛い子が寝相悪い訳ない!」とここでも一蹴された。

やっぱり顔面が良いこと得しかないんだ!

とりあえず…この動きをできるほど杏の体調は良くなったようだ。

 「…とりあえず脱出の方法を考えなきゃだね」

 「あのギャルっぽい女の声も気になるからな…」

外は真っ暗だというのに、何故か通路や部屋は少し明るかった。明るい部屋で通気性の良い布を被ったような…そんくらいの視界だ。

電気もついてないのに…なんて思うが気になっても確認しちゃダメな気がする。

 「…あ!杏!なんかあったら叫ぶんだぞ!」

 「き…聞こえてるわけないか…ウンウン…」

部屋の外で叫ぶ勇。これは心配してるのもあるが怖いから気を紛らわせよう…って考えている面の方が大きかった。

通路はお化けが一人や二人普通に歩いてそうなくらいな雰囲気…。はちゃめちゃわちゃに怖い。

ホテルを出る前にトイレを済ませておけば良かった。…あの高い女の声も腹立つし…あれもこれも颯のせいだ。

…だが隣にいる颯も怖がっている。あんなにイキってたのにこんなんじゃ責める気にもならない。


心の中だけの他責思考で、自分の恐怖心を少し薄れさせながら障子の壁を伝う。

いくらかズボッ!と大きな音を立てて破ってしまった。これも颯のせいなんだ。弁償は颯の家にお願いしたい。

気が動転しそうになりながら玄関の前に立つ。

 「…ッ!?」

 「…!」

背中をゆっくりと撫でられた時のような寒気。

颯と勇は歯がガチガチになりながら顔を合わせる。

 「な…なんか通った…?」

 「…」

だがそんな寒気もすぐに消える事になる。

なぜならお股には温もりが参戦してくれたからだ。見事に中和してくれている。

…これも颯のせいなのかもしれない。

今回ばかりは許せずに颯を睨みつける。

 「…なんだか暖かいね」

クリスマスのイケメン彼氏みたいな事を言っている颯。…颯もお股の辺りに小さな琵琶湖ができていた。

やっぱり他責思考は良くないのかもしれない。

 「この歳でお漏らしするのは…」

 「俺らくらいか…」

この瞬間だけは恐怖心より羞恥心が勝る。

玄関も相変わらず古びていて、隅の方には蜘蛛の巣や顔のようなシミがある。…もうお漏らし'sには怖いもん無しだ。

 「外の声全く聞こえないな…」

 「風華と舞が駆け落ちしたんじゃない?」

 「あ…あいつにそんな度胸あるはずない…」

 「…そうだよね〜」

案外颯は失恋した事を気にしてない様だ。

流石モテる男…グチグチ言わずに次のステップへ走っている。是非とも見習いたいものだ。


勇は玄関の扉に手を掛ける。もちろんドアノブとか引き戸タイプじゃなくて横に開くタイプの扉だ。

 「やっぱ…開かないよなぁ…」

予想通り開かない。鍵もかかっていないのに…ホラー映画によくあるこの光景。

颯も平然を装っているが足は震えている。仲間だ。

心霊現象とか科学的に証明されていないもの。幽霊なんて見間違えの類いなんだろうが…こういう系のやつは本当に説明できないから困る。とりあえず震える事で対策する。


改めて玄関から家の中を見てみる。

玄関の両手には部屋があり、おそらく右手に見える部屋で目が覚めたんだろう。障子に無数の風穴が開いている。

左手に見える部屋は…なんとなく関係なさそうだ。

…そして最後玄関をまっすぐ行った所にある2階へと続く階段。禍々しいオーラを放っている…ように見える。

とりあえず一旦部屋に戻る。杏の目が覚めたのか気になったのもあるし…この濡れた琵琶湖をどうしようかと考えるためだ。

 「ここ…どこ?」

部屋に戻ると内股座りの杏が辺りを見渡す。嬉しさと共にこの濡れたズボンを履き続けなければいけない現実に肩を落とす。

不思議な事に心臓が捻られたようにうねりをあげている。理由なんて分からない。

だが自然と体は杏の元へ近づいていく…。

昨日なら気まずくって…こんな近くには寄れなかった。これも心霊現象で片付けれるのだろうか。

確かに心臓は早くタンバリンを打っていた。

 「杏ッ!」

 「ほへっ!?」

颯もいる…そして杏にもフラれているのに…思わずその杏の後ろから抱きしめる。

本当は嫌われたくない…だが杏の息遣いを耳元に感じるたびに抱きしめる力が強くなる。

杏は痛がる様子もなく…勇の震える手を優しく撫でる。微熱混じりの手のひらはいつもより冷たかった。


しばらくこうしていたかった…

だが後ろからの煽るような視線が痛すぎる。

しかも昨日フラれたのにクリスマスのキツイ彼氏みたいな抱きしめ方をしている…なかなかにキツイ。

 「わ…悪い!」

 「きゅ…!急にビックリした!」

 「ごめん…!」

畳に頭と両手両膝を付けて全力謝罪。

 「キモかったよな…」

 「えっそんなことないよ!むしろ…!」

 「むしろ…?」

何を言おうとしたのか分からない。

杏は顔を赤くすると自分で自分の美しい顔を撫でる。なんと可愛らしい。舞がやりそうなあざといムーブ。

まだ熱でもあるのだろうか…。勇はひょいと額に手を当ててみる。…がほとんど熱はない。

気づいたら杏は少し上目遣いで見ている。

 「むしろ嬉しかったよ?」

あかん。本当にあかん。

普段と違いあまりにもあざとく可愛らしい。

どこでこんな可愛いムーブを覚えたんだろう。舞はただ素直にあざとく…玲那は煽りの可愛さ…もしかして杏は自主練してたのかもしれない。

しかと弱った姿を見た後だから尚更愛しくさせる。

このままどこにもいけないまま彷徨う心を飲み込むと静かに額から手を離す。

顔が近いもんだから理性が働かない。

 「あれ〜?な〜んか勇さん琵琶湖ありまっせ〜」

 「えっ!?どこどこ〜?」

すっかり元気になった杏は辺りを見渡す。

そして颯の指差す勇の股間を直視する。

確かにそこは濡れていた。しかも全体的にではなく何かを垂らしたかの様に…中心から円形に広がる濡れ方。

 「…俺琵琶湖掘ってたんだよ」

 「勇ってだいだらぼっちなのっ!?」

だいだらぼっち…是非とも登場させたいくらいの実績とネームバリューを持っている。


勇は負けじと颯の足元を指差す。

 「あッ!そこにはもしかして諏訪湖かなッ!?」

まんま綺麗な諏訪湖が出来上がっている。多分ここについてからも残った体の水分が溢れ出たんだろう。

 「…お…俺実は…諏訪姫だったんだよね」

 「えっ!?イミフ!」

 「あ…はい…」

なんでもツッコんでもらえると思ったら大間違いだ。


こんな綺麗な湖は昔のホラーコメディ映画で見た事がある。その映画は確か幽霊と戦う物語で…ラストシーンでそのシーンは出て来た。

最後の最後ラスボスの幽霊に苦戦した主人公は、自分が流した血で幽霊を集めてラスボスと戦うってやつだった。幽霊は水辺に集まりやすいなんて馬鹿げた噂から着想を得たのだろう。

今思えばかなり面白かったが…子供の頃は怖かったからラストシーンのふざけたシーンしか覚えてない。


 「水辺に幽霊って集まるって言うよね」

 「うんうん…」

 「…あ…あれ…もしかして杏も怖いのか?」

杏は親戚の集まりに来た甥っ子の様によそよそしく勇の隣に陣取る。少し指先が触れると尋常なく震えているのが分かる。

 「だってさっき倒れてた時…甲高い女の人の声聞こえたもんっ!」

 「お化けなんてな〜いさ!って思ってたのに…実際にいちゃうじゃん!」

 「しかもさ…」


 ブォンッ!


 「きゃっ!」

 「なんだ…!?」

突然部屋が暗くなる。いや…通路も暗くなっていることから家全体が暗くなっている事が分かる。そしてそれと同時に右腕に感じる胸の感触。怖さよりもスケベさが勝ってしまう。

…だがそんな勇に絶望を知らせるかの様に…襖近くに立つ颯の背後には真っ赤な光が宿る。

颯もそれに気づいている様だ。

 「風薫る…寂しげな夜…梅雨炎(つゆほむら)」

 「アァ…」

不気味な呻き声…暗すぎる部屋だから、その火の玉が動き出したのかすぐに分かる。


 ズバァンッ!


 「黒縄…ッ!」


 ビュンッ!


焦げた匂いがする…。だが勇の手元には颯がいる。すんでのところで黒縄が間に合った様だ。

あの刀に当たっていたらどうなっていたんだろう。

普通なら切れないような襖が簡単に切られ…なぜか切られた面から火が噴き出している。

そして火がついた事により…腕に抱きつく杏や、イケメンフェイスが勿体無いほど大きな口を開く颯が見えて…

そしてその原因を作った人物?の姿がはっきりと見える。

 「夏の宵…花火に光…燃え盛ル…」

やっぱり予想通り人間ではないようだ。…しかも普通の人が想像するような幽霊ではない。

甲冑を着ていて…人間のような体は見えず黒いモヤが甲冑を着ているようで…目は鋭く真っ赤に光っている。

おそらく…颯が言っていた「突然焼け死んだ武士の霊」。あまりにも特徴が合いすぎている。

呼吸をするたびに灰のようなものが口元からでている。そしてこの襖が燃える原因は…その武士の持つ刀だろう。

鉄で出来た刀にコーティングされるように火が燃え盛っている。


 「アハハァッ!」

久しぶりに聞いた女の甲高い笑い声。

学校みたいに部屋ごとにスピーカーがあるわけではない。それなのに自分を納得させるために探す。…まぁ結局ないが。

その声はやはり全員に聞こえるようで…杏も颯も…そしてその武士も辺りを見渡す。

 「みんな楽しそうな顔してるネ〜!」

 「じゃあ私からのとっておきのサプライズ…!あげチャ〜ウ!」

体が自然と身構える。

黒縄は颯を離して…颯は杏の後ろへと隠れる。

決して人のことを言えないが…全く男らしくない。

次の投稿は水曜日19時です

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