9-2 I'll be
風華の考えを聞いた勇は満足気な顔をし、部屋を後にする。
そしてホテル入り口の自動ドアが開くと、少し奥で天使のような笑みで手を振る玲那が見える。勇と風華の二人にとっては本当の天使だ。
二人は表情を整えるとその手めがけて駆け寄る。
「や…やっと来た…」
遥真は女子3人の端っこで縮こまっていたが、二人の姿を見てパーっと笑顔になるが…二人の様子がいつもと違っていた。
普段クールぶっていて笑顔を見せない勇が…不気味なほどの笑顔を見せている…。インターネットが流行っていない時代なら都市伝説になっているほど恐ろしさのある笑みだ。
それと違って風華はいつもニコニコしていて今もニコニコしているから何も変わらない。
だが髪型が俗にいう「くるりんぱ」の髪をしていて…前々から練習してただろ!と言いたくなるほど綺麗に編んである。走り方も心なしか女の子走りだ。
男の表情なんかでは無く…恋をする乙女のような表情を見せる風華は誰でも見惚れるほどかわいい…。
「勇がキャラ変してるんだけどっ!?」
「あわぁ…風華くんが風華ちゃんになってる…!?」
しばらくして勇たちと合流すると、勇は普段絶対にしないセンター分けをしている。走って乱れた髪をかきあげると…やっぱりイケメンの勇の顔がよく見える。眉毛がキリッとしていて一重だが目の形がまだはっきりとしていてイケメンだ。周りが強すぎるだけで…。
風華は手提げバックから取り出した櫛とスマホを取り出して、スマホをインカメにして前髪を整える。まるでデートで彼氏を待っている女子高生のような立ち振る舞いだ。
すれ違う人には女子4人に見えている事だろう。
頭がおかしくなったのか…?と勇と風華の首根っこを掴んで女子の視界外に連れていく。
「な…何があったんだ!」
「何って…杏たちが怒ってるから機嫌を取るための作戦だけど?」
さも当然そうな顔をする勇。風華も大きく頷いている。
「な…なんでキャラ変する必要があるんだ?」
「ふっふっふっ…」
「俺が舞の機嫌を取って…風華が杏の機嫌を取るんだよ」
「杏って風華のこと女の子として扱ってる節あるじゃん?」
「だから杏の機嫌を取るためにガッツリ女の子になったんだよ」
「きゃはっ!」
可愛すぎる顔をしている風華。こんなの思わず抱きしめたくなってしまうほどの顔面している。えくぼの破壊力がすごすぎる…。
「え?じゃあ勇はなんなんだ?」
「そりゃ…颯の真似よ」
「に…似ても似つかない…」
「わ…分かってる…自分でも思ってた…」
センター分けなど大まかな部分が似ているが、流石に綺麗とも言えそうなあの顔面には到底近づく事はできない。颯に憧れた一般人からは脱却することができない。
「あ…そうか」
暴走状態の二人を納得させる方法が思いつかず…元の場所に戻させる。
今日の目的地は山の中間部の村でやっている華香祭りだ。テレビで取り上げられてからは都会の祭りにも引けを取らないほどの集客数がある。
7〜9月の間は毎週日曜日にやっていて、旅行客は必ずここにくると言われている。
現在勇たちは海の見える山の歩道を歩いている。車道ではビュンビュンと車が走っている。
「舞…今日はどこいく?」
「舞のためならどこにでも行けるゼッ!」
「…勇くんいつもの方がかっこいいよ?」
「あ…はい」
勇気を出してクサイ語尾をつけたものの…舞に一蹴されてしまう。精一杯のイケボを出したのに!
冷静な舞と真剣な自分…客観的に見てると恥ずかしさが沸々と湧き出す。
冷静さを取り戻した勇は髪型を戻そうとするが…鏡や水なんてないからこの固められた髪はない。今日はセンター分け確定だ。
あまり効果のない舞…それとは対照に杏には効果抜群だった。
「杏優しいから大好き!」
「あ…あんたぁ!」
「可愛いのねぇ…」
「杏も可愛いよぉ…?」
あざとく首を傾げる風華。
男だとは分かっているものの…その圧倒的な感情の制圧力は、理性というなの城門も軽く突破してしまう。
杏は風華の小さな手を繋ぐ。
「あ〜もう!風華の好きなものなんでも買ってあげる!」
「最近金欠って言ってたじゃ〜ん?」
杏に負けじと玲那ももう一方の風華の手を掴み歩幅を合わせ始める。
自分のことに必死で…その少し後ろで表情を暗くする舞には気づいていないようだった。
勇は完全に力尽き集団の後ろをトボトボと歩いていて、舞は隣に誰もいないことを確認する。
「風華くんなんて大嫌いだもん…!」
「まぁなんとなく気持ちも分かるゾ」
「ひゃぁっ!?」
いつの間にか遥真が隣にいて変な声をあげてしまう舞。エロムービーではない。
「俺は影が薄いのか…?」
「違うよ!考え事してて気づかなかったんだよ!」
「もしかして…愛おしい愛おしい風華く〜んの事でちゅか〜?」
遥真は本当に人を煽るのが上手い。
特徴を掴むのが上手いのか…性格が悪いって言うのか…。
「遥真くんっ!」
「え?なんでちゅか〜?」
「お!落とすよ!?」
この美少女…こんな可愛いのに恐ろしい子っ!
ここから落とされたら海に激突してしまう。
「じょ…冗談です…!」
「ま…まぁ間違ってはないけど…」
「やっぱり?」
「でも愛しの風華くんじゃないし…!愛しくないもん!」
「まぁまぁ…なんでも相談聞きますよ?」
「…ふんっ!遥真くん変態だからいいもん!どうせまた私の胸触るんでしょ!」
「じゃあいっか」
端的な返事に舞は驚きの表情を見せる。
スタスタと勇の元へ向かう遥真…。
舞は早足で遥真に追いつき手を握る。
「じょ…冗談ですぅ…聞いてくださぁい…」
遥真は2回頷くと舞の横を歩く。
助けが来ると思っていた勇は…またも一人で歩くことになる。
「もう最近いろんなことにイライラしちゃう…」
「更年期なんじゃないの?」
「やめてよ!まだもちもちの10代だよっ!」
「もう最近色んな事にイライラしちゃうの…」
「更年期なんじゃない?」
「辞めてよ!まだモチモチの10代だよ!」
「まぁ高校生の恋愛なんてそんなもんでしょ」
「まだ人生経験がそんなに無いからね」
「えぇ…?本当ぉ?」
「本当ぅ本当ぅ」
「じゃあ良かったぁっ!」
満足そうな笑みを浮かべている舞。
だが次第に舞の表情はまた暗くなる。情緒不安定な舞でも可愛いのだ。
「私独占欲が強すぎるのかも知れない…」
「いやそうでしょ!」
「違うもんっ!」
「どっちなのよ…」
「だって風華くんが悪いんだもんっ」
「いつも優しくしてくれるのに…最近は話しかけてくれないし…!連絡先も交換しようともしないし!」
「私に興味が無いなら良いんだけどねっ?…良くないけど」
徐々にボソボソとしてほとんど何も聞こえないくらい小さくなる舞の声。それとともに顔も下がってきている。
「それって全部風華から行動起こしてもらおうとしてないか?」
「そ…そうだけど…!仕方ないじゃん!」
「私誘い方分からないんだもんっ!」
「舞は颯とかいろんな男子から誘われてるから誘い文句くらいは分かるでしょ?」
「あいつはそれすら無いからねぇ…」
「…そっかぁ」
舞は目に涙を浮かべているが、どこか嬉しそうな表情を浮かべているのが分かる。
もちろん遥真は彼女がいたことがないが、一丁前に人を誘う才能だけはあるからこれくらいは良く分かる。
「でも私自身ないもん…」
「大丈夫だゾ」
「嘘じゃない…?」
「舞が一番風華の優しさ分かってるだろ?」
不安そうな顔が一転して表情に華が咲く。
やっぱり可愛い子は笑っていた方が可愛い。もちろん暗い顔も可愛いと思う。
「遥真くんって優しいんだね!」
「いや…俺は風華に幸せになってほしいだけだゾ」
「だからこうして楽しそうにしてるだけで俺は嬉しいんだゾ…」
「は…!遥真くんモテそう!」
「そ…それ脈なしのやつ…」
「そうだけど…?」
気づかない内に遥真を突き刺してしまう舞。
FPSをやったら偶然キルできた相手の物資を漁らずに、ずっとその死骸を撃っている事だろう。
そして休憩を挟みながら15分ほどだ祭りに着く。時刻は12時ななりかけでベストタイミングにたどり着いた。
村全体が祭りの会場になっているようで、10人の家が屋台の役割を果たしているらしい。一種の文化祭のようなお祭りだ。
村全員の人口を合わせても100人にも到底待たないほどだからこそ!このような珍しい屋台の出し方ができるのだろう。
「うわぁ!いっぱい人がいるよぉ!」
相変わらずキャラに徹している風華。
昨日海水浴場に来ていた人たちもちらほら見えて、やっぱりこの祭りの知名度の高さが窺える。
「お腹減った?」
「う〜ん!大丈夫だよ!」
「そっか!じゃあお洋服でも見てこよっか!」
「うん!分かった!」
事情を知らない人から見たら仲の良い姉妹としか思っていないだろうが、事情を知る人からしたら気持ち悪いの領域に入っている。
「例えば風華くんでも気持ち悪い…」
「確かに…」
風華をジーっも祭りの入り方付近で眺める遥真と舞。風華の洗脳から醒めた玲那もその隣にいて、すっかりしわくちゃになった勇もいる。
みんは風華と杏を眺めている。
役者…と言えば聞こえは良いが、役に入り込みすぎて自分が飲み込まれてしまってる気がする。
ボーっと冷めた表情で風華を見つめる舞。
そんな舞に気づいた玲那は後ろから抱きつく。
「にゃ!?」
「結局昨日の夜は誘えなかったみたいですね〜」
「じ…実は昨日の夜は色々あって…」
「えっ!?何何!?もしかしてそれ以上のこと?」
「エッチだよ玲那ちゃん!私まだ高校生だもん!」
「じゃあ何があったの?」
「…や!やっぱりダメ!」
「えっ!?何があったのよ〜!」
「玲那お姉ちゃん気になるよ〜?」
「…こ…これは秘密にしなきゃダメなの!」
やっぱり舞は優しいがすぎる。
普通の女子高生なら「〇〇に告られた!たは〜」的な事も言うだろうに、颯のことまで考えている。
「えっ!?何何!?遥真分かる?」
「お!俺も全く知らないゾ!」
「俺は分かる」
「え!何!」
「…でも教えられない」
「えぇ〜!ひどぉい!」
「そうだゾ!ひどぉいゾ!」
玲那は可愛いから許すが遥真は許せない。
だがここで話すわけにはいかない。そう颯のためにも…
勇は舞の首根っこを掴んで人気のない場所へ連れて行く。重たいが重くない気がする。流石は舞にゃんだ。
ちなみに玲那と遥真は騒いでいて気づいていない。
「ぜ…絶対風華くん今日機嫌悪いよね!?」
「ま…まぁ昨日の夜の場面見ちゃったからな」
「見ちゃったって…なんで怒ってるの?」
「…怒るだろってッ!」
少し口調を荒げて叫ぶと舞はピクッとする。
怖い先生に怒られた生徒のように、少し上目遣い気味に勇を見上げる。…少し風華がズルイと思ってしまった。
多分勇と舞でタイマンしたら一撃で伸される。もちろん無能力者でこんな弱々そうな表情を浮かべている舞が勝つ。「ふえぇ…」って普通に言ってそう。
「舞にとってはあれが普通だったのか!?」
「あ…あれって告白のこと…?」
「た…確かにいっぱいされるかも知れないけど…みんな丁寧に断ってるよ?」
「それのことじゃない!」
「キスの方だ!」
舞はキョトン顔が強まり眉を顰める。
思考を巡らせるようにキョロキョロしている。
「…私キスしてない!」
「嘘つくなよ!風華がキスしてるの見たって言ってたぞ!」
「本当だよ!私はちゃんと拒否して…」
「あ…あれ…?風華くんその前に行っちゃってたかも…」
「…あれ?じゃ…じゃあ…風華の勘違いってこと?」
「多分…?」
「ははは…なら良かった…!」
何も言うことが思いつかない。乾いた笑いしか出ずにその場を立ち去ろうとする。もちろんその後が怖いから…。
…嫌な予感は当たってしまうもの。
何者かに肩をグッと掴まれる。力が強い…。
その手の主は誰か分かっていた…。
恐る恐る振り返るとニコニコな笑みを見せている舞がいる。こんな笑顔が可愛い子を近距離で見れる幸せと…その瞳の奥の怒りが見えてしまった後悔。
「勇くん分かるよね?」
「…わ…わかります」
「こ…殺さないでください…」
「命だけは助けてください…」
「私そんな危ない子じゃないよ!」
「え…じゃあなんだ?臓器売れとか?」
「私可愛い可愛い女の子だよ!」
「…ふ…風華くんをここに呼んでほしいのっ!」
可愛らしく語尾を上げて話す舞。
言っていることと表情はかなりレベルの高い乙女だ。
勇も本来なら風華を呼ぶことなんて容易い。
…それは昨日までの話で一つの壁にぶち当たる。
「あ…杏…」
「え?杏ちゃんがどうしたの?」
「い…いや…なんでも…」
今はどう考えても杏は風華の側にいる。
ドがつくほど心配性な杏が風華を手放す訳がない。杏に一度事情を説明しないと風華を渡してもらえない。
普段なら絶対に喜んで乗ってくれる話。自分の娘の結婚式くらい喜びそうだし。
…だが今は話すことすらままならない。
こんな舞の笑顔を見て断れる訳がなく静かに首を縦に振りまくることしかできない。
「お!お願いね!信じてるからねっ!」
「ずっと待ってるからねっ!」
「も…もし!来なかったら分かってるよねっ?」
「ひゃ…ひゃい…」
舞は勇の後ろ姿に何度も頭を下げる。圧をかけてきているようにしか感じられない。
勇は人で溢れる場所へ出る。
「湿気すごいから黒縄は使えないか…」
「自分の足で探すしか無いのか」
数分探しても見つからない。
「あいつチビすぎるだろ…」
もちろん後ろ姿が似ている女の人もいたが…身長は風華より高いし服装も風華より可愛い。
諦めよう!と思っても舞の怒った顔を想像すると自然に足が前に進む。
愚痴を言いながらも奥へ…奥へと進んでいくと何やら騒ぐ声が聞こえてくる。
「華狢が脱走したらしいえ」
「恐ろしいねぇ…」
聞き馴染みのない名前に興味が湧きそれに釣られるように足が進んでいく。人の好奇心は恐怖心すらも超えれるんだ!
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