8-3 over
大浴場についているともう既に遥真と颯は一足先に入っているようだった。
別に後ろ姿を見ている訳ではないが、遥真の汚なさそうな字で「女風呂覗き見計画書」が洗面台にポツリと置かれていたのだ。
だが現実は漫画のように女風呂と男風呂が内部で繋がっている訳でもないのでダメだったようだ。まず一階と二階に別れてるので物理的に無理だ。
そして風呂場に入っていく2人。
勇は股間を隠さずにデカくも小さくもない中途半端な股間を堂々と見せつけている。
風華は自分の顔と下半身とのアンバランスさに気づいているのか、恥ずかしがりながら仕上がっているブツを隠しながら歩く。
扉のすぐ左には「この浴場は温泉の成分がふんだんに入った湯です」と書かれている木の看板があり、疲労に効くと書かれたかけ湯をかけるとお風呂へ向かう。
「恥ずかしい…」
ほんまもんの痴女か疑う声や、女風呂に入ってしまったかと勘違いする人もいて…
だがその声も風華がお風呂に入ろうとタオルを取ると、皆敬服し揃いも揃いって不揃いで捨てられてそうなキノコを隠す。
風華が長い髪をお団子にして風呂に浸かると顔だけが見えるようになって…皆風華の可愛い顔を見ている。
「恥ずかしがるとおっさんどもは余計に可愛いと思っちゃうからもっと堂々とだな…」
「いいじゃん!勇は良くも悪くと高校生のブツで…」
「関係ないだろッ!?」
「と…とりあえず風華には男らしさが足りないんだよ!」
「…勇も男らしくない股間してるのに…」
ジーっと勇の股間を見つめてくる風華。
本当に純粋そうな目をしている。
「男らしさって一体どんな事だろう」
ミスチルの"over"みたいに尋ねる風華。
「そりゃ…戦う時に見せるあの雰囲気だよ」
「わ!分かんないよ!」
勇の今後タメにならない退屈な恋愛アドバイスを、いつも通りに右から左に聞き流す。
するとサウナ部屋が勢い良く開き夏の似合う男2人が現れて、スタスタと水風呂に入っていく。
「きょ…今日は引き分けだね…」
「や…やるじゃないか…」
茹で上がった二人の真っ赤な体は、水風呂の効能にぎっしりと搾り取られて人間の肌に戻っていく…。
「やるんじゃ無かったね…」
「それな…」
おそらくサウナ初体験だったんだろう。
整うことはせずに普通に風華たちの入った温かい風呂に入ってくる。
颯のイケメンフェイスが風華の美少女フェイスに近づく。
「なんの話してるの?二人とも」
「べ…!別になんでもないけど!?」
「風華ってツンデレヒロインの枠じゃないでしょ!?」
「違うけど!」
助けを求める風華。しばらくこの困惑顔を眺めていたいが…長年の友人として重い腰を上げなきゃ好感度が下がってしまう。
仕方なく勇は好感度を上げる。じゃなくって重い腰を上げる。
「俺が風華には恋愛のアドバイスをしてあげてたんだよ」
なぜか風華に睨みつけられた気がしたが気のせいだと思う。
「えぇ〜!?風華って好きな人いるんだね」
「そ…そりゃ俺も男ですし…彼女ほしくなるもんね…!」
風華は口を尖らせながら眉を顰める。
颯は全てを見透かすような微笑みを作りながら風華の肩を揉む。まるで媚を売る平社員だ。
甘い匂いとイケメンフェイスに頭が狂いそうな風華は、顔を背けて横目で颯の顔を見る。
颯は一切視線を外さずにいて…その瞳は少し暗いようにも見えた。
「風華の好きな人当ててあげようか?」
「わ…!分からないでしょ!?」
「う〜んどうかな?風華わかりやすいしね」
顎に手を置いて不敵な笑みを見せる颯。
何を考えているのかが分からない…どこを見ているのかも見当がつかない。
そして数秒もしないうちに颯は淡々と言葉を発する。
「多分君のタイプは優しくされたら惚れるタイプだよね?」
「うぅ…まぁ…そうかも…」
「君と話してて優しい子…」
「もうこれで3択に絞れたよね?」
「玲那に…杏に…」
「そして舞…」
「舞」の名前を聞いた瞬間、風華の体は背後にきゅうりを置かれた猫のようにビクッとする。あまりにも分かりやすすぎて勇も遥真も笑ってしまう。
颯の声のトーンは徐々に上がっていき、風華の顔は徐々に下がっていき…最終的には上目遣いになってしまっている。
その後も颯は淡々と自分から見た風華を語り出す。どれもこれも風華の胸に刺さる図星な言葉で…。
「俺の考えから行くと…君の好きな人は…」
「舞でしょ?」
「え…えと…その…」
「大当たりです…」
「やっぱりね…」
「ていうか君は分かり易すぎるんだよ」
「う!嘘つかないでよ!」
プックラとした頬で颯を睨みつける風華。
だが遥真も勇も風華の後ろで腕を組み頷くのみ、金剛力士像の擬人化だと勘違いする人もいるだろうが人間だ。
「舞を前にすると明らかに顔赤くなってるゾ」
「いつも茹ダコみたい」
「自転車のタイヤについてるライトみたい」
風華は本当に気づいていなかったみたいだ。
だが一度解けてしまった紐をもう一度結び直すのは簡単じゃない。スルスルと本音が漏れ出る。
知らなかった事実に徐々に頬を膨らませぶくぶくと沈んでいく風華。このままでは本当にタコさんになっちゃう。
勇は慌てて風華の脇を掴んで抑える。こいつは脇毛すら生えていた形跡がない。
「ハッ!」
「俺の好きな人は舞さんだけど…どうしたの?」
「まぁ君には関係ないけど…」
「俺今日の夜、舞に告白するんだよね」
「…え?」
「舞も多分OKしてくれると思うよ?」
「最近俺に良く話しかけてくれるし…良く俺の目を見てくれるし…良く俺に触ってくれるし…」
「前告白した時とは違う感覚を覚えてるんだ」
「…」
「はっきり言うと君はそんな事してもらった事ないでしょ?多分すれ違っただけで喜ぶタイプだろうしね」
「…」
「君は勝てないと思ったらすぐに身を引くタイプだろう?」
「だから早く身を引いてもらおうと思ってね」
「これは俺の優しささ…舞のことを早めに諦めてもらおうってね」
「じゃあお先に上がるよ…」
ザブンッ!
颯は音を立ててお湯から上がる。肩にタオルを掛けて、大きなキノコをぶら下げながら脱衣所へ向かう。
風華はただ目を大きく開いたままその颯の背中を見ることしかできない。
その視線に気付いたのか颯が振り返る。
「君がきっぱり諦めれるような言っておくね」
「今日の21時…フリースペースの屋上で…俺は舞に告白する」
「そして舞の口唇をこの俺の口で奪う…」
その衝撃的な言葉に驚き風華の口は開くだけ…
颯が脱衣所の扉を開こうと手をかけると肩を掴まれる。その手は力強く痛みさえ感じた。
「怒っても仕方ないだろう?勇」
その手の正体は勇でその瞳には激しい怒りが燃え上がっていた。
「恋愛には勝敗がつくのは必至なんだからさ」
「そんな事自分のことじゃないからどうでもいいけどな…」
「俺はお前の風華のことを何も知らないクセに…勝手に決めつけるその態度が嫌なんだよ」
「風華は勉強も運動もダメダメでメンタルも弱い…諦める事の方が多いけどな」
「本当に大事なことや人を簡単に諦めるようなチンケな奴じゃないんだよ…」
「まぁ今はこんなボロボロに泣いてるけどさ」
勇の横顔は少し微笑んでいるように見えた。
その優しい笑みに…少し心が安らかになった気がした。そんな効能はこの湯にはなかったはずだ。
「風華はクソがつくほど真面目で…バカがつくほど優しくて…」
「そして優しい負けず嫌いなんだよ」
「だからこいつは…カッコいいんだよ」
勇の言葉に颯は俯いて少し微笑む。
くだらないヒーローアニメでも見ている日曜日の午後のような微笑み方をしている。
「ふふっ…」
その不敵な笑みが笑い声が大浴場を支配する。
子時にはもう高校生のコテコテの青春ドラマに、おじさんや若い兄ちゃん…そしてまだ幼い子供までもが見入っていた。みんな湯から出ていて萎れた股間は露わになっている。
「前に舞に怒られた時みたいだなぁ…」
「あの体育の時…なんか懐かしいなぁ」
「また君は他人に守られてるけど…それでいいの?」
颯の問いかけを勇は返すことが出来ない…。
なぜなら風華をいつも守っているという自覚があったからで…厳しい指摘は風華にそのまま突き刺さる。
ザバッ…!
お湯が揺れ茫然とする風華の顔を覆う。
こんな大きな波を立てれるのはこの中では巨漢の遥真だけだ。
凛々しい顔をして颯の顔を指差す。…「意義あり!」と文字が出てきそうだった。
「俺と勇はコイツと仲が良いなんてもんじゃないんだよなぁ…」
いつもの馬鹿げた声ではなく、信念の籠った声だ。だが声に芯がちゃんとあるので大浴場に響いている。
「まっ…切ろうと思ったら簡単に切れちゃうけどさ…」
「また数秒後にはまた糸で繋がる仲なんだよ」
「そのさ…まだ言うことは纏まってないけどさ…」
「まだコイツはウブなうえに純粋なベイビーだからイジめないであげてほしいんだよ」
「風華も颯も親友だから喧嘩してんのは見てられないんだよ」
「はぁ…みんな風華風華って…」
「それにムカいちゃう自分が嫌いだ…!」
ドンッ!
勢いよく閉められた脱衣所の扉の音が響く。
颯は振り返ることがせずに着替えるとすぐに脱衣所から出て行く。髪の毛も乾かさずに…水も滴る良い男という言葉が似合う。
勇の股間に視線が集まっている事に気づくと、すぐに風華が入る湯に浸かる。風華がすぐに近づいてくれたのか救いだ。
流石に遥真も恥ずかしくなって同じ湯に入ってくる。
辺りの人たちは見窄らしい股間を隠して、湯に入ったりサウナに入ったり…各々の事をしだす。
遥真も勇もやっと一息が吐けると目を瞑る。
ザバ…
波が立つ…こんなちっちゃい波を立てるのは…風華しかおらず…目を瞑っても迫ってくるのがわかる。
薄目を開くと肩を揺らしながら両手を広げている風華がいて…流石に身の危険を感じてしまう。
「遥真ぁ…勇ぅ…」
「大好き…」
「え?」
風華の涙声が耳元で響き…それに続いて小さな体が肌にくっつく。しかも遥真の肌もついているようだ。
どうやら遥真と勇の両方に抱きついている見たいで…これはどうやらまずい。
普通に顔面だけで見るとおんにゃの子の風華。それに容赦なく抱きつかれている二人。危険信号が送られている…。別の扉を開いてしまいそうになっている。理性…理性…
「ダメなの…?」
その抵抗虚しく…いつもより弱々しい風華の甘えたい言葉と上目遣いは破壊力抜群だ。
遥真は新たな扉を開く事を決意する。
風華は遥真の膝の上に座ってほっぺすりすりを開始する。
「勇もする…?」
「…遠慮しとく」
「もし舞さんがキスされてるのを見て泣いちゃったら慰めてね?」
「そ…そんな風にしてか?」
「これが一番落ち着くの…」
決して風華をそう言う目で見ているわけではない。そう断じて風華を女として見ていない。
だが色っぽい声と赤くなった頬が絶妙にマッチしてどくどくと心臓が早まって行く。
ザバッ…!
「俺先に上がる…!」
なぜか少し大きくなっているように見える勇の股間が脱衣所へと向かう。
それに続いて遥真も続いて行く…。
取り残された風華は髪を洗おうと立ち上がり、シャワーがある洗い場まで向かう。
その綺麗に靡く髪と美人な横顔に…また女なのか勘違いしてしまうが…
安心してほしいマグナムは揺れている。
次の投稿は月曜日19時です
親に20万貸して今月お金がないです。うわーん




