7-8 ラヴコネクション
突然嘘の様に波が鎮まり雷も止まった。
平坦な海にはカモメが数匹叫び声を上げるだけだ。
海熊の体の中心は白い光が灯り…辺りの海水はみるみる間に消えていく…。
それはとても良いことだとは思えなかった。
海の表面付近を泳いでいた魚達は地面に打ち付けられ粉砕され…深海にいた魚達も呼吸ができずに暴れも虚しく息を引き取る…。
全ての海水は海熊に集約される。
それと同時に海熊の体は徐々に縮んでいく。まるで幻覚を見ているかの様な光景だ。
その頃水の無くなった地面スレスレを飛んでいる遥真がいた。勇は尻が地面に当たっているからそこそこ尻に熱を帯びてそうだ。
「酷すぎるにゃ…」
「こりゃ見てられないゾ…」
「お!おいッ!アイツを見てみろ!」
下から聞こえる勇の叫び声。
言われるがまま海熊に自然を向けると、遥真とモカは目を丸くして顔を合わせる。
「な!なんだどんどん小さくなってくゾ?」
「まさか逃げたとかか!?」
「よっしゃ!不戦勝!」
喜ぶ遥真と勇をよそにモカは暗い顔をしている。
「まずいにゃ…」
「え?何がだ?」
「自然の力が海熊の体に集まって行ってるんだにゃ…!」
「な…なんだ?自然の力って…」
「風力とか…水力とかってあるにゃん?」
モカはスチャッ!とメガネを掛ける。ビキニにメガネ…なんだかいやらしい雰囲気だ。至って真剣なモカがなおさら…。
「発電とかで使われるやつだろ?」
流石遥真は勉強だけはできる。
おばかちゃんな勇は発電って言われてもわからなそうだ。阿呆な顔で2人を見上げることしかできない。
「自然光とかその力を能力者界隈では自然の力って言ってるんだにゃ」
「自然エネルギーって事か?」
「うん!そう覚えてくれればいいにゃ!」
「それが集まるとどうなるんだ?」
「普段は自然の力は分散されてるから人間の体調には影響がないんにゃけど」
「それが集まったら人間の体調に影響が出るんだにゃ」
「ほら!偏頭痛とかがその代表例だにゃ!」
「なるほど!モカ先生!何カップなんですか!」
「え〜とにゃぁ…」
「って!バカ教えないにゃっ!」
くだらない話が終わった時…海熊の体の縮小と終わり…その光は十字に分散されて消える。
「やはりこの姿は醜いものダナ…」
「だが人の言葉を話しやすいのは私の評価値スル…」
「さて…1000年振りに暴れるとしようカナ…」
小さくなった海熊は…
はっきり言ってかなりのイケメンだった。
水色の腰まで伸びている無造作に唸る髪の毛が揺れる。
前髪が乱れるとキリッとした青い瞳が現れ、頭に巻かれたプリンセスの様な髪飾りが輝く。
しかも細マッチョ。普通ならダサく見える金色のズボンが際立ってカッコ良い。マイケルジャクソンくらいしか似合わないと思っていたのに…。
「さぁ…地獄を始めヨウ…」
海熊が両手を斜め上に広げると、水色の髪の毛が浮かび上がる。
静かに胸の前で手を合わせて、海熊は嫌な笑みを浮かべた。
「黒域蒼會…ッ!」
ピキンッ…!
海熊の背景がガラスの様に割れた気がした。
…いやそう言うよりも背景が、海熊の体の前の深海を煮詰めた様な青黒い球体に吸い込まれている様な…。
その謎の球体は空へとぷかぷかと上昇する。
「…っ!?」
突然モカは地面に蹲る。
どうやら嗚咽もしている様だった。
「どうしたッ!?」
「あ…頭がおかしくなりそうにゃ…!」
「よ…よく…立っていられるにゃね…」
「え?別に大丈夫だよな?勇?」
遥真が振り返ると勇は近場の岩に背中を預けていた。もう既に死んでいる様な状態で嗚咽を繰り返し虚な目をしていた。
その謎の球体は内部で暴れ回っているのか、球体は凸凹となり今にも張り裂けそうな状態になっている。
「脳みそが溶かされてるみたいにゃ…」
モカの尻尾はヘニョヘニョになって動かなくなる。猫耳もすっかりと萎れてしまった。
撫でたい…と思う気持ちを抑えて遥真はモカを勇の隣に寝ころばせる。
「あの…青黒い玉にゃ…」
「あそこから自然の力が放出されてるんだにゃ…」
「よ…良く分かんないけど…」
「俺がやるしか無いんだな…!」
「悪いにゃぁ…」
「頼んだ…遥真…!」
「よ…よしッ!」
遥真は地面を蹴り上げて一瞬にして海熊へと近づく。そして空中に浮いている海熊に合わせるように遥真も浮き上がる。
「うっす…」
「あ…うッス…」
アパートで別の階の人に会った時の会釈くらい自然で記憶にも残らない会釈。
遥真は普通に通り過ぎようとするが…慌ててやることを思い出す。
「はッ!」
「そ!その!危険なおたまたましまいなさい!」
「お!お前能力者だったノカ?」
「そ!そうだ!」
「お前は一体何者なんだ?」
その質問に海熊はドヤ顔になっている。
よほど言いたいことがあるのか体はワクワクしている。
「私は何度も文明の破壊を見てきた者…」
「そして一度世界を崩壊させたこともアル…」
「…」
「…で!結局誰だ!?」
「あ…ハイ」
「水中惑星の泡冠星からやってきたオーシアです!」
「みんなからは海熊と呼ばれていマス!」
「約2万年前に産まれまシタ!」
「ふむふむ」
初めての就活で緊張している大学生とか高校生みたい。海熊は深く礼をしている。
面接官になった様な気分で遥真は優越感に浸ってしまう。
「えぇっと…まず泡冠星からこの地球に来た理由を聞かせてもらってもいいかな?」
「ハイッ!」
「太古の四界大戦の時に送られてきまシタ!」
「って!俺はこんなコントをしに来た訳じゃないのダッ!」
「お前…俺の必殺技"面接緊張腹痛大作戦"を破るとは…!」
「なかなか強そうだな…お前!」
海熊はボケ倒す遥真を黙って見つめる。
「い…行ってもいいノカ?」
「こ!こいッ!」
シュンッ…!
一瞬にして目の前から海熊が消える。
いや消えたと言うより粒子状になって分かれた様に見えた。
「うごぉッ!?」
腹部に走る痛みに遥真は血が吹き出す。
遥真の腹の辺りには拳を突き刺す海熊がいて…その笑顔は記憶に残りそうな顔だ。
「フンッ!」
さらにそこへ加わった膝蹴り。
意識が飛びそうになるが気合いだけでなんとか堪える…。全身に染み渡る痛みに踠く事しかできない…。犬掻きみたいになっている。
「ブ…ブフォッ…ぶ…無様…!」
「こちとら痛み感じてるんじゃい!」
「ふッ…その痛みは本当にあるノカ?」
「あ…あれ?なんか…もう痛くないぞ?」
「は…ッ!」
「まさか能力説明サイト[青龍の強点]その1に書かれていたやつ!まさかここで使えるとは!」
「私の前のこの自然球がある限りお前は無敵…そう言う事ダゾ?」
その言葉に遥真は思わず嫌なニヤけ方をする。
目は笑ってないのに口角が上がって真っ白な前歯が全部見える。こいつが主人公サイドだと言われても信用できない。
「やーい!殴っても効かね〜ぞ〜!」
「そウカ…」
海熊の目の前からあの自然球と言っていた青黒い球体が消える。だが遥真はあっかんべーをしているから気づくはずがない。
ドギバギッニョイ!
普通に遥真はボコボコにされて血を流す。
目も頬も腫れてしまっている。…痛そうだが全く同情ができないのは流石としか言えない。
「にゃ…にゃんかアプデ入ってたんじゃ…」
----
能力説明サイト [四聖獣の適正の相手!]
飛行能力もあって海熊には最適正です!
…ですが今のところ勝率が0%となります!君の力で0%を破壊してしまおう!
ちなみに30戦0勝です!勝てると思って海熊とは戦わない様にしましょう!
----
サイトをそっと閉じた。
目にしたくない現実を見たくないなら…目を背けてしまえばいいのだ…。
それにしてもそのうちこのサイトには[みんなのクリア能力!]とか出るのだろうか?あの役に立たない[みんクリ]。
ちなみにこの適正の相手のサイトはSSSランクの能力にしか表示されないらしい。無論勇の黒縄は論外だ。
この適正の相手も1人しか載ってない。神様界隈は忙しいんだろう。
「え…えっと話し合いで解決がお互いいいんじゃないでしょうかね…」
「私にメリットがないではなイカ」
「いやでも!」
「次はなんだ?まさか協力し…」
チュドンッ!
海熊の腹部に突然痛みが走る。
血は出ないが痛い…。そして目の前には走って逃げようとしている遥真が映る。
…多分不意打ちして逃げたのだろう。
「私に攻撃を当てたのは…確か8人目カ…」
「褒美をくれてやロウ…」
「創海堕波…ッ」
ゴゴゴゴ…ッ
地面が揺れ…うめき声の様な音が突如反響する。元々は海中…周りに壁があるはずがない…。
遥真は走りながら辺りを見渡す。
「な…なんなんだあれ…」
100m以上もある真っ黒な壁がそこにはあった…。
…いやそれは壁でなかった。
「もしかしてあれ全部…海の水なのか?」
その壁の様な水は渦を巻きながら迫ってきている。魚の死骸を飲み込みながら…。
中で小さな竜巻でも怒っているのかと思うほどだった。
「飲み込メ…ッ!」
「ギャァァッ!」
叫びながら走り続ける遥真。
走馬灯が脳みそを駆けて行く…。
…彼女と海辺を走ったり。彼女と水を掛け合ったり…。彼女と…。
走馬灯ではなくて妄想だと知った遥真は悲しくて立ち止まる。悲しくてやりきれない…。
そしてその海の壁は遥真を飲み込む。
水槽の中に水を入れる様にゆっくりと着実に遥真を簡単に飲み込んだ…。
「フッハッハッハ!」
「自然の怒りを知…」
「ウグフッ…!?」
海熊の腹部に穴が開くほどの痛み…!
目を顰めながらその腹部を見ると…
平然とした顔で腹を殴る遥真がいた…。
「祭りで見た玄武のタブ残しといて良かったぜ…ッ!」
「グゥッ!纏う能力を変えたノカ…」
「だが…!仲間を見捨てたのダナ…?」
「お前の嫌う人間の唯一の良いところはよ…」
「人を信じれる事だぜ…?」
そのちょいと前、勇とモカは…
「ニャー!!水はダメにゃぁ!」
「ちょ!足早!」
謎の青黒い球体が消えたことによって、普通に立ち上がれる様になった2人。
目が覚めた瞬間には波が迫ってきていて、今は絶賛波と死の追いかけっこをしてる最中だ。
モカは猫らしく四足歩行で走り、フリフリと黒い尻尾を揺らして走っている。
同タイミングで走り出したはずなのに、勇とはもう十馬身差くらいついている。勇は必死にモカのケツを追いかけることしか考えられない。
「つ…冷て…ッ!」
振り返れば奴がいた。
波はもう数mのところまできている。早めに到着した足元の水に足が取られそうだった…。
そろそろ覚悟を決める時間が来たのかもしれない…。
だが暗闇の方が光は見えやすいとはよく言ったもので…目の前に希望の光が見えてくる。
「あ!あの岩…!」
それはゴツゴツと聳え立つ岩二つで、奇跡的にそれは並列に並んでいた。
その目の前の岩を見た瞬間…勇は覚悟を決めた!
「…ッ!猫娘!ちょっとスピード落とせぇッ!」
「にゃぁ!?」
モカはゆっくりと後ろを振り返る。
「ば…!化け物にゃぁっ!!?」
死にそうな男の本気の顔…。
それは常軌を逸した速さで…あんなに大差がついていたモカなど容易く超える。足の回転が自転車くらい早かった。
目的な岩まであと…50mと少し…。
そこで勇はスピードを緩めて必死で走るモカを見る…。
「猫娘ッ!俺のことを引っ張ってくれッ!」
「どうゆうことにゃっ!?」
「説明する時間はないッ!」
「猫娘も絶対に助かる…!信じてくれッ!」
戸惑うモカだが…後ろに迫る波を見るや否や勇の腹部辺りを強く抱きしめる。
それを見た勇は前の二つの岩に黒縄を括り付けモカに目配せをする…。
モカは女の子らしい力で一歩ずつ下がって行く…。もうすでに波はモカの足元に浅く当たっている…。
「にやぁんっ!まだにゃかぁっ!?」
「良しッ!離してくれッ!」
ビュンッ!
波が2人を飲み込む直前…!
モカは腕を離すと勇は黒縄を岩から離すと、目にも止まらぬ速さで勇は飛び立つ!
そしてモカの体に黒縄を巻くとモカも勇について行く様に飛び上がる。
「にゃぁぁっ!死ぬにゃぁ!」
「ウワァァッ!」
もうすでに2人がいたところは水に飲まれている…。あと数秒遅れていたらと考えると…ゾッとしてしまう。
安堵に包まれたのも束の間…。
すぐに目の前に別の脅威が現れる。
「か…壁ェ…!?」
徐々に迫り来る壁の恐怖…。
どうにか抵抗しようとアニメのように空中水泳をやってみたり…毛伸びの様な体勢をするが…壁はどんどん迫ってくる!
「…ひぃぃっ!?」
恐怖心に思わず目を閉じてしまう。
…だが急に体が軽くなる。
死んでしまったのかも知れない。死んでもう幽霊になったのかも知れない。
ゆっくりと目を開くと…
視界の端に黒くパタパタと動く翼が見える。
この翼に掴まれていたことがある勇は、すぐに翔の翼だと気が付き胸を撫で下ろす。
「セ〜フ…!」
「た…助かった…」
「遅いっ!」
すっかり能力が解けたモカは怒っている。
さっきまであんな弱々しい姿を見せてたのに…今じゃすっかり目を細めて怒っている。
でもお腹を黒縄で巻かれてプラプラと揺れているから…なんとなく可愛さもある。
「ひやっ!冷たい!」ら
また満たされた水に足がついたモカは可愛らしい声を出しちゃう。翔は揶揄ってやりたい…とも思うが後が怖すぎる。
翔はおとなしくプカプカと山の上へと向かう。
「はぁ…能力使っちゃったからかな…」
翔に脇を掴まれている勇がうとうとしている。
「めっちゃ眠たくなってきたな…」
「あ!今寝たらダメだよ!」
「いやぁ…無理ぃ…」
ビシュッン…!
勇が寝たことによって解かれた黒縄。
黒縄に支えられていたモカもスーッと…地面に落ちて行く。あまりにも綺麗に落ちる。
「ばかぁぁっ!」
その声で飛び起きた勇は急いで黒縄を出す!
だがそんなの間に合うわけもなく…
「風華!危ない!」
「えッ!?」
風華が振り向く頃には…モカのお尻はもう目と鼻の先まで迫ってきている。
圧倒的に眼福…。ではなく絶望!
ドンッ!
激しい音を立ててモカと風華はぶつかる。
「いててて…」
「助かったぁ…」
風華はモカの下敷きになって地面に頭を打ったが、幸い死ぬほどではなく風華は起き上がる。
体を起き上がらせようとする風華。だがその衝撃の映像に体が固まってしまう。
「え…?」
その声にモカは視線を落とす。
「へっ!変態っ!!」
パチンッ!
頬に痛みが走って風華は頬が手形に真っ赤になる。あまりにも綺麗な手形。印鑑かと思った。
そして風華は気づく…囲んでいる群衆の中に舞がいることを…。
モカは風華に馬乗りになって風華が鼻血を出して倒れている。
それだけならまだ助かる。だがモカは水着…しかもビキニ。風華も水着で上半身裸…。
色々とOUTな状態なのだ。
「…」
舞は不自然に笑顔を見せている。
口角はちゃんと上がっているが目が笑ってない。笑っていないどころか感情がない。
怒りのオーラが出過ぎていて…舞の周りには誰1人として人がいなくなる。
モカも舞の怒りのオーラにそそくさとその場から立ち去って行く。
「風華ドンマイ…」
次は月曜日どす




