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ANCIENT -無代譚-  作者: 美朱太
天地獄のはぐれ者
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39/40

7-6 Over Drive

岩に波打つ音だけがこの6人が対峙する砂浜にただ流れる。おとひめの様だ。

人っこ一人いない…。潮風を全身に浴びるほどこの場所は拾い。

 「フールはあの個性のない男と戦うにゃ」

 「OK〜」

 「言われてんぞ風華」

 「勇のことでしょッ!?」

 「お…俺個性ないのか…」

 「個性ないにゃ」

 「オルルはあのちっちゃな男女にゃ!」

 「言われてるよ遥真」

 「よし…ッ!」

最大限の女声を出す遥真。風華で忘れていたが男が女声を出すのはかなりきついことを思い出した。

 「違うにゃ!アンタはデカブツにゃ!」

 「アンタは私が倒すんだにゃ!」

 「殺しちゃダメにゃよ」

 「分かった…」


 ビュンッッ!


翔と虎之助は一瞬にして目の前から消える。

 「おげッ!」

 「おぐッ!」

情けない声が後ろから響き…遥真は思わず振り返る。

翔は勇を空中へと連れ去り、虎之助は風華を水中に連れ去っていった。

カラスが光ってる物を取るみたいに連れ去られてしまった。

 「勇ッ!風華ッ!」

 「アンタの相手は…」

 「私にゃっ!」

モカは四つん這いの状態で足に力を入れる。

鋭い爪は太陽に当たって光り…モカの鋭い眼光が遥真の瞳を捉える。

その目つきに遥真の額からは汗が流れる。

 「行くにゃっ!」

そんな言葉と共にモカの姿が視界から消える。

だがあの良くあるビュンッ!ってのは聞こえない…。それほど早かったのだろうか!

遥真は全神経を目に集中させ…辺りを見渡す。

すると視界の下の方に紺色のビキニと…お尻が見える。

 「な…何してんだ?」

 「み…見るにゃぁ…!」

 「転んじゃったのにゃぁ…!」

 「…」

遥真は静かに顔を赤らめる。

このちょっと抜けてるところが…なかなかに遥真にブッ刺さるんだろう。BOY-KENには同意見だ。

ぬかるんだ砂に足と手を取られたモカ。

触手…という言葉が思い浮かんでしまう。

遥真の足は自ずとモカの元へ進んでしまう…。

その表情はいやらしいとかではなく真剣な顔をしていた。

 「く…来るにゃ…!」

 「ちょいと失礼〜」

 「な…何するにゃか!?」

まさに「くっころ」な展開。

だが遥真はモカの体に触ることはなかった。


 ぬちゃぬちゃ…


いやらしい音が響くが…実際にやっているのはモカのハマった手や足の砂を掻き分けているだけ。

遥真は真顔で…モカは驚いた顔をする。

 「あ…!あんたバカにゃね!」

 「私のことを助けたら切り刻むにゃよ!」

 「そんな事できるならやってみにゃ〜」

モカの顔の前でめちゃくちゃ煽る遥真。恐れ知らずは最強かもしれない。

その姿にモカは複雑そうな目をし…恥ずかしいからか真っ赤に染まった頬を膨れさせる。ヒロイン適正アップ!!

 「バカにゃん…!」

 「バカはいいゾ〜?」

 「真面目に生きなくても怒られないんだゾ〜」

 「それはただ呆れられてるだけにゃ!おバカにゃね」

 「まぁ〜それでもいいんだよ」

 「よしこれで出られるはずだゾ」

いつの間にか手足が自由になったモカ。

モカは慌てて乾いた砂の所にぴょいと飛び乗る。小学生の頃やっていた白線移りの様に。

 「こ…!これで心置きなくアンタを切り刻めるにゃね!」

 「覚悟しろにゃ!」

鋭い爪を光らせ遥真を睨む。

 「いやいや!そんなことより…!」

 「そんにゃことより?」

 「爪に砂が入ってると思うから取った方がいいゾ?」

 「ほら君名前はわかんないけど可愛いんだし…」

 「そういうところも気を遣った方がモテないゾ?」

 「ふんっ!モテることにゃんて興味ないにゃ!」

その言葉を聞いて真面目な顔をしていた遥真は笑みが溢れる。蕩ける様な笑みだ。

 「…君彼氏いないのか!?」

 「当たり前にゃ!私は彼氏を作る気もないにゃ!」

 「マジか…」

 「もし付き合うとしたら…私より強い奴だにゃね!」

 「例えば?」

 「う〜ん考えた事にゃいけど…私の体に傷つけた人とかにゃね」

その言葉に遥真は残念そうな顔をする。わかりやすい。

 「えぇ!?マジかぁ…俺付き合えないじゃん…」

 「アンタバカにゃけど私には勝てないって分かってるにゃね」

 「こんな可愛い子殴れないもんなぁ…」

 「か…!簡単に可愛いにゃんて言うにゃぁっ!」

モカの鋭い爪が遥真の顔面を襲う。

最後に見えたモカの顔はベタ塗りした赤い絵の具の様に真っ赤だった。

モカのそんな愛らしい姿を見た遥真は満足そうに眠る。クールなJKがプリクラを撮ってたら萌えるだろう。完全にその気持ちを味わった。

その少し前の話…虎之助に水中に連れて行かれた風華はと言うと…

 「だだだだッ!」

 「だじゅげで!」

見た目通り泳げない風華は腕と足をバタバタさせね水面が暴れ回っている。

戦うどころではない風華に虎之助はただぷかぷかと水の中から顔を出す。

 「うぅ…じんじゃぶぅぅ!」

 「…」

 「だじゅげで!だじゅげで!」

 「…あ〜!もう見てられないよ…!」

虎之助は水中に潜り風華の元へと泳ぎ出す。

早い…魚たちが道を開けている様に見える。

そうして風華の足元まで行くと、水面に浮き上がり風華を背負う。風華のいい匂いが虎之助の鼻の中に充満する。

 「もう大丈夫だよ…無視してごめん…」

虎之助が呟くと頬に柔らかい感触と可愛らしい息遣い…。な…なぜか虎之助の顔は赤くなる。

 「むぅ…好きになっちゃうもん…」

その甘く可愛らしい口調と…低めの女の子の声…。それに惚れないものはいないはず。顔も可愛いし。

虎之助は顔を真っ赤にして全身の力が抜けていく…。

 「ちょッ!?冗談なんだけど!?」

 「ねぇ!起きてください!ねぇねぇ!」

 「俺泳げないよ!?」

 「バブバブバブ!にゃんにゃんにゃん!」

必死に可愛い声を出して起こそうとするが…虎之助は白目を向いたまま沈んでいくのみ…。むしろ悪化している様にも見える。

風華は考えるのをやめた…。


そして空中に連れ去られた勇は翔と激戦を繰り広げていた!…訳がなかった。

飛べない勇は翼で飛んでいる足に黒縄を巻きつけて…なんとか空から落ちずにいた。

片足に体重がかかっている翔の飛行は不安定で、初めて滑空をしたツバメの様に右往左往する。その度に翔の下で勇は円を書くように揺れていた。

 「ちょ!危ないんだけど?」

 「高度下げてくれぇぇ…!」

 「ま…!マヂでマヂで危ないって!」


 ビュゥゥ…


そよ風が吹いた。たんぽぽが揺れるくらいの。

だが翔たちは大変そうで…LUNA SEAのROSIERくらいに揺れて揺れている。

 「ちょぉぉぉッ!とッ!」

 「許して許して許して!」

勇は泣き喚く…。これが男子高校生なんて信じられない。保育園の児童くらいだ。

 「くッ…黒縄…!手を貸してくれ…」

 「疾怒の舞を使うぞ…!威力5分の1で!狙うわあの男子高校生らしい股間だッ!」

疾怒の舞…こんな厨二病真っ盛りの技名をつけたのは、高校二年生の勝俣勇くんだ。

昨晩…たまたま見た動画の字幕に「疾風怒濤」ってのがあって勇の頭に稲妻が落ちたのだ。ナポレオンもこんな感じで革命をしたのだろう。

もちろん黒縄も厨二病なので喜んでその技名を了承した。話してはないのでわからないが…。

 「行けッ!」


 ビュンッ!


勇が手を前に出すと同時に放たれた黒縄ッ!

ヴォアとの戦いで使用した技を「疾怒の舞」と言っていることがはっきりとした。…まぁ早いし強いし合ってるっちゃ合ってる。


 ゴォォンッ!


およそ股間から鳴るような音とは思えない音が響き渡る。「あれ?もう年末?」と期待してもまだ夏真っ盛り。

そして勇は自分の失態に気づいてしまうのだ。

翔が飛べなくなったら…一緒に落ちてしまう事を…。

 「おぎょぉぉッ!」

股間っていうか玉を揺らされた痛み。子供を産む時は鼻からスイカを出すくらいと言うが…お玉を揺らされた時は鼻で十分までスイカを育てるくらいだ。どちらが痛いかは性別による。

翔は体勢を崩して飛ぶ事もままならず…風に流され緩やかに地面へと落ちていく。

 「な…何してるにゃ?」

…この冷ややかな声は猫娘(クゥニャン)ことモカだ。

そして眼前には金髪でセンター分けのバチくそなイケメンフェイス翔だ。離れようにも離れられない。

…なぜなら黒縄が翔と勇に絡まっているからだ。多分空中を彷徨っている最中に絡まったんだろう。

勇も翔も諦めて…静かに眠る。


 「ぜぇ…ぜぇ…」

そのタイミングで水中から風華が現れる。

漫画の中のいじめを受けたのか…髪の毛がビチョ濡れで…背中には虎之助を背負っている。

肩で息をしていてとても疲れていそうだ。

 「あ…!あんた虎之助を倒したのかにゃ!?」

 「ぶ…ぶりっ子したら倒れちゃった…」

 「虎之助は女の子と話したら照れて倒れちゃうんだから辞めてにゃ!」

 「ていうか遥真は?」

 「コイツなら私が倒したにゃ一発で倒したにゃ」

 「ふ…不意打ちだゾ…!」

墓から出てきたゾンビの様に、倒れている遥真は手を伸ばす…。その手がどこに伸びているか風華は見てしまったのだ…。


 プリンっ…


 「きゃっ…!」

あんな怖い口調と暴力的な性格からは考えられないほどの可愛い声がモカから漏れ出る。

それとそのはず…遥真に普通にケツを触られたのだから…。誰でも怒る。

その後の光景は見るに耐えなかった。

顔面をモカの爪で切り刻まれた遥真。もう顔面で「井」×5くらいの傷がついている。

でもモカのケツを触ったのだからこれくらい安いものだと思う。

遥真は静かに地面に倒れている。…暑そう。

 「ていうか…なんで俺たちが襲われなきゃいけないんですか?」

 「あ…あんたたち本当に知らないにゃか?」

風華は大きく頷く。他二人も頷こうと思っても…寝転んだり絡まったりして頷けないが心が一つだけ。

 「俺たちはただ…天国の変態おじさんからもらっただけなんですよ?」

 「そ…それ誰にゃ?」

 「神様ですよ?」

 「…時代が時代だったらあんたにゃら死んでるにゃね」

 「地球外生命体って言うのを追い出せ!って言われて…まぁ今のところ完璧にその仕事をこなしてるんです!」

 「天国と地球の関係…アンタたち知らないにゃか?」

 「知らないですよ?」

モカは風華の真剣な眼差しを見て一度頷く。

 「まずは天国〜!」

 「ってなんにゃ!?」

 「ま…また別の能力者ですか?」

風華は呆れた様に笑っている。

 「違うにゃっ!今度こそ海熊にゃん!」

 「う…海熊?」

 「話は後にゃっ!」

 「敵じゃないんだったら手伝ってにゃっ!」

 「わ!分かりました!」

 「フールとオルル起きて!」

 「ほら勇も遥真も行くよッ!」

 「はッ!」

奇跡的に四人は同時に目を覚ます。

 「フールはオルルとビーチにいる人たちをできるだけ遠くに連れて行ってあげてにゃ!」

 「ぼ…僕もそっちなの?」

 「そうにゃ!」

 「は…は〜い」

翔と虎之助は勢いよく走り出す。

まぁその後に虎之助は泳いで翔は飛んでいったのだが。

 「なんか嫌な予感がする…」

 「俺もいってくるね…!」

風華も飛び立っていく。

そしてこの場に残ったのはモカと勇、遥真の3人。男女3人…何も起きない。

 「さっ!3人にゃか!?」

 「え?十分じゃないのか?」

 「海熊って白熊の海版で…捕獲する訳じゃないの?」

 「全然違うにゃよ!」

 「海熊は三つ目の超巨大な人型の化物にゃよ!」

 「ど…どんくらいの大きさなんだ?」

 「…図書館の本棚くらいにゃね」

 「ちょっと大きいだけジャン!」

 「猫娘は大袈裟だな…胸はあんまりなのに…」

二人は大笑いする。

その姿を見たモカは頬を膨らませる。

あ…あんまりにもヒロイン適正が高すぎないか!?

 「嘘にゃ」

 「アンタらがビビって逃げない様に本当の事を言わなかったにゃが…」

 「普通に上半身だけで山くらいデカいにゃよ」

 「燃えるじゃねぇか…!」

 「俺らがビビって逃げる?笑わせんなッ…!」

その圧の無いイキリゼリフにモカは呆れる。

なぜなら上半身だけイキって下半身は今にも逃げそうなのだから。

しかも顔の上半分は泣きそうになっていて、下半分はドヤ顔をしている。案外二人は器用なのかも知れない。

3人は岩を打つ波が激しくなるのを目の当たりにする…。


一方その頃ビーチは向かった翔たちは…

 「な…!何が起こってんだ!?」

 「津波かッ!?」

 「み!皆さん落ち着いて避難してください!」

あからさまに波が激しくなったことで、慌て出した人々の案内の活動をしていた。

颯と舞は海の家にいたが…慌ただしい外へと急いで出ていく。

 「…!海が荒れてる…」

 「舞!俺たちも急いで逃げようッ!」

 「で…でも!風華くんたちがいないの…!」

 「先に逃げたんでしょ!」

 「私…!探してくるっ!」

颯の手を振り払って舞は荒れる海の方へと走り出す。颯はその背中を追うことはできなかった…。

 「風華く〜んっ!」

舞はただ一人…ぬかるんだ砂浜を歩く。

黒く染まった雲…強くなった風が頬に当たると冷たい…。温める術も無く両手を交差させて肩を抑える。

 「…マー!…パーっ!」

遠く離れた場所で誰かが泣く声が聞こえる。

荒れる波の音で何を言っているのかが分からなかったが…近づくとその声ははっきりと聞こえる様になる。

 「ママー!パパー!」

 「うわぁぁんっ!」

どうやら保育園児くらいの少年と少女がいた。

少年は少女を抱きしめている。おそらく兄妹なんだろう。

その姿を見た舞は歩くスピードを上げて二人に駆け寄る。

海から離れている場所にいるはずなのに…くるぶし辺りまで水がやってきている。

 「二人とも危ないよっ!」

 「で…でも…でもね…!」

安心からか少年からも涙が溢れる。…妹を安心させる為に泣くのを我慢していたんだろう…その分涙が多く溢れてきている。

兄妹は泣きながら舞に抱きつく。

 「大丈夫だよ…」

だが事態は刻一刻と悪化して行っていた。

先程まで奥の方まではっきりと見えていた水平線は、紺色の空に早変わりする。

そして海面からは何か突起な様なものが徐々に姿を表していた。

舞は額からは冷や汗が流れ出る。

 「2人ともお姉ちゃんと逃げようね…」

 「うん…分かったぁ…」

兄妹の背中を押して安心させる舞。

舞はその後ろを歩こうとするとある違和感に顔を歪める。

 「痛…っ!」

 「お姉ちゃん!どうしたの?」

 「2人とも…足元に気をつけて走ってっ!」

 「でもお姉ちゃん…!」

 「いいから走ってっ!」

声を荒げる舞に兄妹は砂を蹴って走り出す。

舞に言われた通りに足元を気にして…たまに舞の姿を見るために振り向いて…。

 「はぁ…はぁ…痛いよぉ…」

ぬかるんだ砂に足を取られた舞。

おそらく砂の中に何か尖ったものがあったんだろう。それが舞の足を傷つける。

舞は半ば諦めながら足元の砂を掘る。

 「太り過ぎちゃったのかなぁ…」

 「はぁ…はぁ…」

 「寒い…寒いよぉ…」

孤独と風の寒さから…全身が小刻みに揺れる。

意識も徐々に遠くなっていく…だが舞は完全に諦めきる事はできなかった…。

 「ぐすっ…」

大粒の涙が地面に落ちるが…舞の太ももまできていた水面に消えていく…。

 「はぁ…はぁ…もうちょっとだぁ…」

 「逃げ切れたかなぁ…みんな…」


 ザバァァァンッ!


舞の身長の3倍ほどある荒波が舞に迫る。

ビーチに刺さっていたパラソルや海の家の木片がその波には混ざっていた。…おそらく飲み込まれたら即死だろう。

 「ぐすん…」

 「誰か…助けてぇ…」

 「死にたくないよぉ…」

 「風華くん…助けて…」

次の投稿は金曜日19時です

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