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ANCIENT -無代譚-  作者: 美朱太
未開の少年たち
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30/40

6-4 1000のタンバリン

そうして現場と思われる場所に辿り着くと、そこには大量の人だかりが出来ていた。

掻き分けて進もうとすると、波が来たかの様に押し返される。

進もうにも進めない。そのもどかしさに風華は諦めようとする。

すると背後から声が響く。

 「風華!ここにいたのか!」

その声を聞いて振り向くと杏と勇がいた。

手を振ってくる勇の姿に思わず胸を撫で下ろす。

だが走ってきた勇は鬼気迫る表情。

もしかして…お漏らしでもしたのかと思った。

…そんな雰囲気ではないことを察して風華も神妙な面持ちに変わる。

 「聞いたか…?」

荒い息のまま話す勇は声が震えていた。

 「な…何も聞いてないよ!」

 「誰かが刺されたらしい…」

 「え…!?は…犯人は…」

 「お…落ち着いて聞けよ…犯人は…」

 「犯人は…?」

 「うん…」

風華は勇の表情に息を呑む。

勇の声もだいぶ震えている。

 「遥真だ…」

 「えっ!?」

遥真といったらあの背の高い変態だ。

あの女好きで…告白しても振られるイケメン。

だが遥真は案外優しくて…友達想いなところがある。人を刺すなんて考えられなかった。

 「今あの人混みの中で捕まってるらしい…」

 「えッ!?」

思わず声が大きくなってしまう。

遥真を囲う大衆の目は風華に向く。

その目はいじめられている人を見る様な…憐れみと嘲笑を感じる様な目だった。

正義の味方とは到底思えず…悪人とも見えない。それくらい中途半端に揺れる目をしていた。

 「ちょ!風華黙れ…!」

勇は慌てて風華の口を抑える。

杏も慌てて風華の小さな体を隠す。

風華も状況を察したのかコクコクと頷いて、勇は口を抑えていた手を離す。

 「…ちょっとすみませんね…」

風華の浴衣の襟を掴んで引っ張る勇。

後ろ向きということで風華は、自転車のペダルを反対に動かすようにして足を動かす。

杏もマイケルジャクソンの様に後ろ歩きを繰り出す。杏はダンスも上手いし何かと器用だ。

そして人だかりが見えない所に着くと勇は足を止める。本当に祭りに来ていた人全員があの人だかりにいる様で、ここには誰もいない。

 「遥真を助けなきゃじゃないの!?」

 「どうやって助けるっていうんだ?」

 「そ…!それは…勇が考えなきゃダメだよ」

その言葉に勇は目を丸くする。

だがすぐに霊愛を彷彿とさせるドヤ顔を見せる。

 「…大丈夫だ!俺は遥真を信用してる!」

 「だって…仲間だろ?」

 「面倒くさいだけでしょ!」

 「ていうか!遥真が犯人だなんて言ったのはどこの誰なのさ!俺がポコポコにする!」

風華は人見知りで仕方がない。

こんなイキってポコポコとか言っているが…実際にはペコペコするだけだろう。

いや…まず近づくことすらできないだろう。

 「誰!誰なの!」

相当ぷんぷんな様だ。風華もちょっと煽りはするが中々に友達想いで良い子なんだろう。

友人として嬉しく感じる。成長を感じる。

 「颯だよ」

 「…颯さんが嘘つくわけない!やっぱり遥真は悪い人だったのかも…」

前言撤回だ。酷すぎる。

社会的地位の高い人にペコペコする一番ダメなタイプの人間だ。しかも風華はビジュが神だから誰にでも気に入られそうだ。

 「まぁいいや…颯が言うにはな…?」


----

この数十分前…

何者かによって連れ去られた舞を探すために、遥真と颯は一時的に停戦を結んだ。

遥真は公園から見て左側、颯は公園から見て右側に向かうことなった。

左側はとにかく人の数が多い。

そこで人力展望台の高身長遥真の出番だ。

遥真なら大抵の人よりは大きいので簡単に見つけられる。ただ問題があるとすれば…舞がちっちゃすぎて見えない隠れてしまっていることだ。

確か身長は150cmを超えたくらい…体重は50kgを優に超えてるのに…。

身長"は"小学6年生。

…よりはちょっと小さいから全く見えない。


 「はぁいないな…」

可能性がありそうだった舞の大好きなチョコバナナや、ふわふわなかき氷の屋台にも行ったがいなかった。舞は甘いものが好きなのだ。

ベンチの下もトイレの中も"山崎まさよし"もびっくりなほどにいろんな所を探した颯。

ついに諦めた颯は公園へと向かう…。

その道中…

 「ガハァ!」

鈍い声と共にマダムの甲高い叫び声が響く。

それに釣られて颯もその現場に向かう。

数秒でついたと言うのにバーゲンセールの様に人だかりが出来ていた。

 「どうしたんですか…?」

若い美人な母親に声をかける。

 「刺されて目を覚さないみたいです…」

 「え…」

刺されたと言う事は血溜まりができている事。

だがそのグロさよりも衝撃を求めてしまうのは人が人だからなのだろう。

皆、前へ前へとムカデの様に進んでいく。

その中で身長の高い黒い半袖の人物が目に入った。いや見ようとしなくても見えてしまうくらいには身長が高かった。ムカデに立ち向かう様にその人混みを逆流して走ってくる男。

その人物は紛れもなく遥真だった。

体をぶつけながら人混みの中を走り抜けてくる。

 「おい遥…!」

声をかけようと手を伸ばす。

…がその手はすぐに耳元を塞ぐ事になる。

 「キャー!」

張り裂けそうなほどの女性の叫び声。

甲高いと言うより耳掻きで耳の中をぐるぐると弄り回された様な痛みが走る。

 「血っ!血っ!アイツが犯人よっ!」

 「え…?」

その女性の声に言葉に言葉を失う。

あの人物はどこからどう見ても数分前に別れた遥真だ。真紅に染まった半袖。

その指を指された人物を見た男子中学生や男子高校生は明らかにテンションが上がる。

 「俺ら捕まえてヒーローになろうぜ!」

 「マジやべぇ!ハハっ!」

ヒーローだの口にしている男子高校生。

テーマだけは一丁前なヒーロー漫画に影響されているのだろう。あんなのただの戦闘狂を美化する作品でしかない。

誰かを守りたいだなんて…いきすぎた正義感の寄せ集めの作品だ。

まぁそんな事は良いとして…。


 「あれ?なんでこんなに人が集まってんだ?」

 「え?」

この馬鹿げている中途半端な声とアホそうな雰囲気は遥舞でしかない。

放火魔は現場に戻ってくると言う。

だが遥真がやった事は傷害だ。

なぜ戻ってきたのだろうか。帰巣本能でもあるのだろうか?

どちらにしてもここへ戻って来る事でどうなるのかは大体予想がついた…。

 「あ!アイツが人殺しだッ!」

 「ぶっ飛ばそうぜッ!」

 「俺らが正義だッ!ぶっ殺すッ!」

 「あ?え?なんだ?」

なぜか理解していないフリをする遥真。

その間に男子高校生7人は遥真の巨大を囲む。

浦島太郎の亀が遥真。いじめっ子が高校生だ。

顔に陰を作りながら遥真に近づく高校生。



…それからの光景は想像を絶するものだった。

頬が腫れ…唇が切れ…スラムに来たのかと思った。

いきすぎた正義感がこれほどまで人の狂気を増幅させるのか…。群衆は世界平和が叶ったかの様に笑顔で、心が一致している様に見えた。


だがその間の遥真は不思議なほど反抗しなかった。なすがまま…されるままに殴られ、蹴られを数分間繰り返された。

 「はぁ…はぁ…」

 「もうこれで動かねぇだろ!」

 「へっ…へっ…!」

柱にロープで括り付けられた遥真。

口からは血を流して、服には真っ赤な血がついていた。

 「ぐ…ぐふッ…」

 「何が…あったか…分かんねぇけど…」

 「…はぁ…はぁ」

 「許さねぇからな…」

あれほどまでの暴力を振るわれて…まだ意識のある遥真。

目の前では高校生たちの顔が歪んでいる。

自分でやったクセにその凄惨さに驚いたのだろう?

その姿を見て何故か怖くなった颯は、すぐにの人混みの中から逃げ出た。

自分のいきすぎた正義感が暴走しそうになった…。このままだと遥真と同じ目に遭ってしまう。そんな恐怖心に包まれた…。

----


 「確かに…それだけ聞くと遥真は怪しいね…」

 「でもおかしいよ!」

今まで黙っていた杏が額に汗を流して叫ぶ。

 「遥真が人を刺すなんて思えないよ!」

 「俺もそう思ってるけど…」

 「ちょっと待って!」

 「勇覚えてるか分からないけど!俺遥真に抱きつかれてたよね!?後ろから!」

 「抱きつかれてたけど…?」

 「刺したのが刃物だとしたら抱きつかれた時に硬いものが当たるはずでしょ!?」

 「でも何も硬いものは当たらなかったんだよ!」

 「つまり遥真は刃物持ってなかったんじゃないの!?てことは遥真は犯人じゃないんじゃないの!?」

 「確かに遥真の家はここから遠いよ…!家に帰って戻ってくるなら…まだここにないからはずだよ…」

 「でもみんな見てるって言ってんだよなぁ…」

三人は静かな祭りの中心で考える。

どれだけ違うと否定しようとも…遥真の顔を見たと証言する人が複数人いる。それが嘘であろうと覆せす事はできない。良くも悪くもこの世は多数派が絶対だ。

しばらくするとパトカーのサイレンの音が鳴り…救急車のサイレン音が入れ乱れる。

辺りはさらに激しくなっている。


だが勇と風華は見逃していた。

今まで自分たちが何と戦って何に苦しめられて来たのか…!これはなんでも妖怪のせいにしまう人間と同じ現象なのだろうか?いや違う。

 「…!もしかして!この犯人は多分…ヴォアとかフロルとか見たいなやつじゃないのか!?」

 「忘れてた…!ヴォア以外の奴で霞んでたけど…地球外生命体は悪い奴らなんだった!」

 「じゃあ真犯人が…遥真に変身して罪を擦りつけたって事?」

 「そうだと信じたい」

 「とりあえず風華は杏と一緒に玲那と颯を連れて…舞とかと一緒にいてあげてくれ」

 「もし仮に他の人が襲われたら大変だ」

 「分かった…」

 「勇は?」

 「俺は黒縄で遥真を一旦助けてくる…」

 「頑張ってねッ!」

やっぱり風華はいい子だ。

ほとんど遥真に泣かれた様なものなのに遥真のことを第一に心配している。撫でたら猫みたいに目を瞑って恥ずかしがりそう。


勇は人混みに走り出し、風華と杏はその逆に走り出す。

 「玲那さん颯さんどこー!」

名前を叫びながら街を走る風華。

本当に人っ子一人居なくなっている。

そして祭りの会場の端っこにたどり着くと、二つの影を発見し足を止める。

 「みんな!良かったぁ!」

 「颯から事情は聞いたよ…まさか遥真がね…」

 「正直捕まるなら…痴漢とかだと思ってた…」

 「そ!それは分かるけど!」

 「とりあえず二人ともついて来て!」

 「よ!よく分かんないけど!風華が言うなら分かった!」

風華は期待の眼差しで颯の事を見る。

身長差がある事によって必然的に上目遣いになる。ウルウルな瞳が颯の眼に突き刺さる。

 「俺は行かない…」

 「え!?」

 「一人で居たら危ないよ!?」

一歩颯に体を近づける風華。

 「別に風華には関係ないだろ!」

颯は風華の体を押し倒し、風華は尻餅をつく。

手首をつくと風華は苦痛の顔を浮かべる。

 「俺は遥真が逃げてるのを見たんだ」

 「あんな犯罪者と一緒に居られるか!」

その言葉に風華は颯を睨みつける。

大きな目をコーヒー豆の様に出来るだけ搾り睨みつける。普段の甘い瞳とは真逆で怖そうな目になっている。

颯はその顔を見て一瞬顔を歪めるが、すぐにイケメンフェイスに戻り風華を睨む。

 「なんだよ!」

 「…ッ!なんでもないよ!」

 「颯さんはお家に帰って寝てなよ!」

 「…一つ言っとくけどな風華」

 「何ッ!」

 「その正義感なんて…ゴミにしかならないぞ」

 「あんな暴力が今度はお前に振り翳されるだけだ…」

 「上手くやるさ…」

 「…バカだな」

颯は走ってどこかへ祭りの会場から出て行く。

その姿を見届けると舞がいる公園へと向かう三人。

 「遥真は犯人じゃないの!?」

 「多分!多分!」

 「じゃあさ!じゃあさ!それを警察に言ったら解放されるんじゃないの!?」

 「絶対解放されないね…」

 「じゃあ…!どうすればいいの!?」

 「大丈夫…!勇がどうにかしてくれる!」

そして公園にたどり着くと舞がベンチに座っている。三人に気がつくと舞は手を振って呼び寄せる。

舞は悲しそうな顔を浮かべていた。

 「聞いたよ…!」

 「遥真くんが…お尻触って捕まったって…」

 「違うよ!」

 「え!違うの…?」

 「それは舞さんの印象でしょ!?」

 「そ…そうだけど…捕まったって聞いたもん」

 「と!とりあえずそれは誤解だから!」

舞や玲那におそらくな事情を説明する。

それを聞くと舞と玲那は怒った様な表情を浮かべる。

 「風華くん…遥真くんを助けてあげて…!」

 「そうだよ!それが本当だとしたら遥真が可哀想だよ!」

 「助けに行きたいのは山々なんだけどね」

 「私たちは大丈夫だよ!風華くんは…」

 「ううん…舞さんにもしもの事があったら俺は嫌だから行かない…!」

 「遥真は勇が絶対に助けてくれる」

 「大丈夫だよ舞さん…一人にしないから!」

風華は笑顔を作って舞を見つめる。

舞はただただその風華の笑みを見つめる。

ちょっと口も空いて目も大きく開いている。

 「舞だけじゃなく私たちも守ってよ?」

 「も!もちろん!」

6-5で一応第1章は終わります。

次の投稿は月曜日です。

第1章が終わったらちょっと休んで別の話を書きたいです。自分なりの神武天皇と欠史八代の解釈を面白おかしく書きたいと思ってます。恋愛要素もあるよ。

別にこの話に飽きた訳ではないのです…!

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