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ANCIENT -無代譚-  作者: 美朱太
未開の少年たち
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27/40

6-1 フラジャイル

回れ回れメリーゴーランド

ヴォアとの戦いが終わってから数日。

未だに失恋ショックで寝込んでいた遥真は。ある真っ白な部屋で目を覚ます…。

どこかで見覚えがあったが…忘れた。

 「しっろ…目が痛すぎ…」

窓の外にある雪を見ると目が痛くなる事があるのと一緒の現象が起こる。しかもそれに加え久々に明るいうちに目を覚ましたこともあってさらに痛い。

細い目をさらに細めて目を擦る。

そしてまた開いて擦り…開いて擦り…。

徐々に目が慣れてから辺りを見渡す。

 「なんだここ?」

豆腐の中に入ったのかと思うほど白い。

いや豆腐はちょっと黄ばんでるのだが…。でもイメージ的にそれくらいに白い。

 「俺…ショックで死んだのか?」

 「も…もしかして…昨日病院で食べた豆腐ハンバーグか…?」

 「味薄すぎてバカにしたから豆腐の中に…?」

遥真と同じことを考えてしまっていた。最悪。

…ならこちらはメレンゲの中に入り込んだに変えようか。

 「よいしょ…」

遥真は図々しくその場に座る。体育座りだ。

図体がでかい人が体育座りをすると面白いのは全国共通だと思う。

すると中性的なイケボが響き渡る。

 「流石…勇と風華の友人だけあるな…」

 「ちょっとすごいバカだな…」

 「あいつらに比べたら俺はまだ良い方だ!」

 「ていうかどこいんだ!?早く出てこい!」

 「あそうだったそうだった忘れてた」

 「よいしょ」

しばらく時間が流れた。

すると周りの白い部分が消えある一人の男が空に浮かんでいる。ちょっと売れてる舞台俳優の様だ。

その男の手には何かぶら下がっている…おそらく懐中電灯であろう。たまにあるバカみたいにデカい懐中電灯だ。それを手にかけている。

 「誰だ?有名人か…?」

遥真はズボンの中からサイン用色紙を出す。スッと音を立てずに…。

 「お前と会うのは初めてだったな…」

男は地面に着地する。

そして被っていたフードを取り一礼をする。雰囲気だけでわかるかなりの厨二病なんだろう。イケメンな厨二病。全てを打ち消す能力だ。

続いて目を閉じてドヤ顔を作り上げる。

この間わずか5秒。かなり高速で動いていた。

 「私は神の使いの見習いの霊愛だ…」

 「お前の友人である勇や風華は私と面識がある」

 「あまり舐めるなよ?」

霊愛は閉じていた目を開く。やっぱり大きくて綺麗な目をしている。

目の前の遥真は爆発しそうなほど口に空気を溜めている。お腹が痛いのか腹を抱えている遥真がそこにはいた。

 「ど…!どうしたッ!?」

 「か…神の…神の使いぃッ!?」

 「ぶふッ!びひゃひゃっひゃっ!」

霊愛の心配をよそに爆笑する遥真。

コロコロと床を文字通り笑い転げている。

その姿を見た霊愛は頭に血管を浮かべる。

 「し…しばく!」

金箔で包まれてそうな黄金の杖を取り出す。


 ツン…ツン…


転がり続ける遥真を杖で突きながら追いかける。素人中華料理人の様だ。

 「いちっ!いちっ!」

 「お前も!勇も!風華も!神を舐めすぎだ!」

 「ぶふふッ!たんまたんまー!」


しばらくすると遥真も笑いは収まる。

あの後2,3回同じ様な事をしたら黙っておこう。霊愛も杖で突き疲れた様だ。

 「ぶふッ…!」

霊愛の顔を見てまた吹き出す遥真。

おそらく霊愛のマヂの顔を見て込み上げてくるものがあったのだろう。こういうのは感動系でしか使わないか…。

 「お!お前ぇ!」

霊愛はしまった杖をまた取り出す。

そして笑う遥真の尻を狙う。遥真は笑い転がる準備を始める。

 「霊体止めちょくり〜」

酔っ払いの親戚のおじさんの様な声。

声だけ聞こえてくる。

 「すみません神様…」

 「神様ぁ…?またそっち系の人か?」


 トコ…トコ…


亀の様に遅く歩いてくる音が聞こえる。

そして徐々にその姿を表す。大御所の登場シーンの様だ。

…だが現れたのは歯抜けの老人…笑伝だ。

無い髪の毛を散髪する人がいるが、笑伝もその様だ。ちょっと髪の毛を失ってる。

今後はまあ現れることのない髪の毛だ。供養するべきだろう。


笑伝は歯の抜けた口で笑顔を作る。

それに対して遥真は引き攣った笑顔を作る。

 「あ…あんたが神様…?」

 「お前!信じてないな!?不敬だぞ!」

 「歯抜けで不潔だがこの人は神様だ!」

 「説得してくれるのはありがたいが…お主が一番ワシをバカにしてるじょ…?」

少し悲しそうな声を出す笑伝。

 「ちなみに勇くんや風華ちゃんに能力を授けたのはワシじゃ」

 「あ…やっぱ本当に能力持ってるんだあいつら」

 「そうじゃ」

 「あの子らに聞いたら本当じゃと分かるはずじゃ」

 「は…はい…」

本当の神様だと知ると萎縮してしまう。

この見た目だから理解を拒もうとしている。

天使と悪魔の様だ。神様の前でこんなこと言ったら不敬だろうか…。

 「無駄話をしている暇はないんじゃでな…」

 「単刀直入に申す」

 「お主にもあの子らの様な能力を授ける」

 「あの少女を守ろうとする精神力…そして体の強靭さ…」

 「その人間力は他の能力者にも無い強さじゃ」

 「それに…あの子ら二人…全く討伐しないのじゃ」

 「もうそろ1ヶ月じゃというのに…討伐数がヴォアの一匹だけなのじゃよ」

笑伝は半分諦めた様な乾いた笑い混じりの声を出す。霊愛も大きく頷く。

相当痛手なんだろうなぁ…と感じ取れる雰囲気だ。

 「あ…あと地球外生命体もなかなかの戦力を持っているようじゃで…心許ないのじゃよ」

 「お主も頼まれてくれぬか?」

笑伝は頭を下げる。

 「神様!頭を上げてください!」

 「霊愛…!お主も頭を下げるのじゃ!」

神様に言われる通りに霊愛も頭を下げる。

明らかに自分より年上の二人が頭を下げている。嬉しいという気持ちは不思議と湧かなかった。

なぜなら霊愛と笑伝の頭頂部の差が激しかったからだ。禿げしかったと言った方がいいかもしれない。

 「ま…まぁ頭を上げてくれ」

 「ちょっと可哀想になってくるゾ…」

 「?何がじゃ?」

 「まぁ…それは良いとして…能力って自分で選べるのか?」

 「普段ならさせないが…緊急を要する」

 「仕方ない…一つだけ選んでもいいじょ…」


 ガバッ…!


笑伝は上の服を脱ぐ。それも首元からビラッと捲って服を脱ぐ。

カレーのついた白い服の様に汚い乳首。人間のおじいちゃんがよくつけてる湿布の様なもの。

シワシワな体は鶏皮の様だ。

笑伝は頬を染めて遥真を見つめる。

その一流女優の様な体勢に吐き気がやってくる。顔と体があまりにも悪すぎる…。

体は自然に動いてしまう…。

両手を地面につけ… 頭を下げる。

完璧な土下座だ。あまりにも早すぎる。

 「許してください…ランダムで良いので…」

 「なんじゃ?ワシの体を弄らなくて良いのか?」

 「遠慮させてください…」

 「風華ちゃんは進んで弄ってくれたのに…」

 「風華…お前も堕ちたもんだな」

今ごろ風華はくしゃみをしているだろう。

風華のくしゃみは可愛いけど大きい。

 「え…えと?まだ?」

 「ほれワシの体に手を突っ込むのじゃ」

 「手を突っ込むのは変わらないのか…」

笑伝の体の中は宇宙空間の様に広がっていた。

そしてたまに当たる乳首がキモい。死にかけのセミが動き出した様なキモさだ。

 「なんじゃろな〜なんじゃろな〜」

笑伝は下手くそな歌声を響かせる。

カラオケでは78点くらいだ。

 「よしこれだ!」

ある一つの木の板を取り出す。

 「おぉ!これはッッ!」

 「これは…!?」

 「SSSランクじゃ!」

 「えっぐ〜霊愛鐘鳴らすんじゃ!」

 「えぇ…はい」


 チャリンチャリン


商店街の新井式廻轉抽籤器…通称ガラポンで大当たりを引いたかの様な鐘の音。

笑伝は笑いも起きないような下手くそな舞を踊る。

 「中国四聖獣を体に宿す能力…!」

 「こりゃ強いじょ…!」

 「世界変わりますよ!神様!」

盛り上がる笑伝と霊愛。

ついていけない遥真はずっと見ている。

学校の行事でノリに遅れた気分だ。

 「え…えと四聖獣って…?」

 「詳しい事は脳に送られてる説明書をよく読めば分かるじょ」

 「あとあの子らの様に身体能力の向上の能力もつけちょいたから」

 「あざす…」

身体能力向上の木の板は取っていない。

つまり…それは(ガリレオが流れる)

…服の中に手を入れなくても能力が取れるという事…!服の中に手を入れるのは笑伝の性癖なのだ!

 「それと…」

この一言で先ほどのふざけた空気とは一変する。重々しい空気が換気の様に流れこむ。

 「お主は風華ちゃんに異変が思った事を知っておるか?」

 「え?いや知らないけど…」

 「ならあの子の過去のことを知っているか?」

 「本人からはそれとなくとしか聞いてないけど…そこそこ知ってるゾ」

 「あの子の能力は元々はワシら天国側が持っていた能力じゃないのじゃ」

 「ど…どこが持ってたんだ?」

 「地獄が持っていた能力じゃ」

 「それゆえにその破壊力は抜群…あの能力は強いがゆえに危険すぎるのじゃ…」

 「それをワシの不手際で…あの子のような心に影のある子に授けてしまった」

移動しながら話していた笑伝はピタリと止まる。それとともに空気が歪む。

 「それで…じゃ」

 「もしあの子の能力がまた暴走してしまった時…」

 「ワシが責任を持ってあの子を止める…」

 「じゃがそれが叶わぬ時は…」

 「お主の手で風華ちゃんを止めてやってくれ…」

 「例え…殺してでも…」

その言葉を聞いた遥真は震え出す。

「殺す」という言葉の凶器性に震えた訳ではなかった。怒りが先にやってきていた。

笑伝は辛いかをする。…遥真はその顔を睨みつける。

 「お前ッ!神様を睨みつけるとは何事かッ!」

霊愛は杖を遥真の眼前に向ける。

先端恐怖症は涙確定だろう。

だが遥真の表情はピクりとも動かない。

 「殺すことでしか止めることができないなら…親友なんて名乗れやしないゾ…」

 「相変わらず人は綺麗事だらけだな…!」

 「風華なんて俺が殺さずに守ってやる」

 「アイツは俺と勇で確定で止められる」

 「殺すことでしか止めれない神様の力なんて…借りる訳が無いゾッ!」

遥真は霊愛と笑伝を睨みつける。

霊愛の頭には血管か浮かび上がる。

笑伝は表情が変わらないまま片手で霊愛を抑える。その手を離したら凶暴な犬のように襲いかかってくることだろう。


静寂が3分間ほど続いた。

流石に言いすぎたと悩んでいたところ…笑伝は満面の笑みを作りあげた。

普通の人なら可愛い笑顔だ。

 「ヨシッ!お主らに任せる!」

 「えッ!?良いのですか!?神様」

 「あぁ良い!お主らに風華ちゃんのこと任せたぞッ!」

 「ふん!任せとけ!」

 「うむ!良い返事じゃ!」

 「あ…あと…風華ちゃんに伝えておいて欲しいのじゃが…」

 「なんだ?」

また重いことを言う雰囲気を醸し出す笑伝。

 「たまには会いにきて欲しいのじゃ…」

 「ずっと風華ちゃんのことを思い浮かべて寝ている…大好きじゃと伝えておいてほしい」

 「あ…はい」

 「もうそろそろ約束の1ヶ月後じゃからな」

 「風華ちゃんに会いたいのじゃ」

恋する男子高校生みたいな事を言う笑伝。

見た目は高校すら行ったことのなさそうな老人なのに…。

遥真は腕を組み頷く。

 「じゃあそろそろ帰るわ」

 「うむ…じゃあ気をつけるんじゃぞ」

 「んー!」

 「ふんッ…」

 「勇と風華によろし…!」

霊愛の声は途切れた。おそらくかなりのツンデレなのだろう。やっぱりモテそうだ。

戻る直前に見えたのは笑伝の歯抜け笑顔。


 シュン…ッ!


遥真が消えた後…

笑伝は表情を真顔に戻す。

 「…人というのは愚かじゃのぉ」

 「能力の暴走を殺さずして止めるなどと…バカな事を言いおって…」

 「やはり…神様もそうお考えでしたか…」

 「ならば…殺しに…?」

 「ふッ…」

 「お主も出来ぬ事を申すでない…」

 「な!私にも出来ます!」

 「強がらぬで良いじょ〜」

笑伝は満面の笑みを浮かべ霊愛を見つめる。

霊愛は少し顔を背ける。

 「じゃがワシら神は人よりも愚かなのかもしれないの…」

 「え…?」

 「人の生を扱う者なれば殺さずの道を探るべきじゃった…」

 「最善の手を打つだけじゃ…何も為せぬ…」

 「そうワシらは気づくべきじゃったの…」

 「その言葉重く受け止めます…」

 「ワシも操らに気付かされた身じゃ」

 「お主にも強く言えたもんじゃないがな!」

 「ガッハッハッ!」

笑伝は大きく口を開いて豪快に笑う。

霊愛はそれに釣られて小さく微笑む。

 「神様!人間界の斎藤様のお宅でご子息が生まれたそうです!」

慌ただしく入ってくる女の神の使い。

 「う〜む容姿6性格2才能2」

 「さ…最近ずっとそれじゃないですか…?」

 「ほ…ほへ〜そうじゃったか?」

神様業界の裏事情が見えてしまった。

最近同じようなものが増えているのはこの笑伝の職務怠慢のせいだろう…。

次の投稿は10日だわさ。

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